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2019.04.10

「就職氷河期世代」という言葉について

 10日の経済財政諮問会議で「就職氷河期世代」の就労支援が提言された。「就職氷河期」と言われる最初の年代層が50代になる前に雇用の安定化を図るというものだ。安定化と言われる実態は、中途採用の拡大を図る企業への助成制度の拡充らしい。期間は3年ほど。
 具体的な対応策については置くとして、問題提起自体には意義があるだろう。が、当然政府の問題意識の焦点は、この世代が高齢化していくときの国家負担を減らすことだろうと私は思った。提言は経済財政諮問会議の民間議員によるもので前日の9日にはニュースになっていて、NHKのニュースからもそうした意図が伺えた。9日「就職氷河期世代 3年程度の集中支援策の提言案」より。

政府は「就職氷河期」世代が不安定な就労環境のまま年金を受給する世代に入れば、生活保護世帯の増加などで大きな社会問題になりかねないと危機感を強めていて、提言を踏まえ夏の「骨太の方針」の決定に向けて検討を本格化させる方針です。

 関連のいくつかのニュースの中で気になったのは、「就職氷河期世代」という言葉である。NHKのニュースでは、この引用からもわかるように、「就職氷河期」にカッコを付け、それに世代という言葉を一般的に補っていた。「就職氷河期世代」という言葉にはしていない。しかし、全体的には、「就職氷河期世代」という言葉がすでに定着しているようだった。これはいつ頃から定着したのだろうか? 2008年のNIRAの報告書『若年雇用研究会報告書』では、次のように、言及されていた。

90年代はじめのバブル経済の崩壊は、就職氷河期世代とも呼ばれる大量の若年非正規雇用者を発生させることとなった。こうした状況は終身雇用、年功序列賃金に支えられてきた日本型雇用を揺るがせるとともに、社会保障制度から排除される大量の若年層を生んでいる。若年非正規雇用の増加は、就職氷河期だけに限った一時的な問題にはとどまらず、グローバル化による人件費削減圧力と技術革新による分業の中で生じつつある長期的かつ構造的な問題であるという視点からの接近も必要である。

 まず、「就職氷河期世代とも呼ばれる」として、「就職氷河期」の定義がないのはすでに織り込まれ、むしろ「とも呼ばれる」は「就職氷河期世代」として2008年に理解されている様子が伺える。
 そして、やはりというべきか、興味深いことに、「就職氷河期だけに限った一時的な問題にはとどまらず」として、暗に「就職氷河期」が特定の時期というより、平成時代全体の就労構造を示唆するキーワードとして浮上していることがわかる。むしろ、そのために、「就職氷河期」という言葉が曖昧であるほうが便利な様子としても理解できる。当時のNIRAとしては、構造的に、「グローバル化による人件費削減圧力と技術革新による分業の中で生じつつある長期的かつ構造的な問題であるという視点からの接近も必要である」とているが、おそらく、問題の核は、この時期にすでに「就職氷河期」について、金融政策上のミスより日本産業社会の構造として捉えられ、そして、これがこの10年間に、社会保障制度維持の問題にシフトしてきたように見える。
 この様子は10日の毎日新聞『フリーター半減目指す 政府、就職氷河期世代を支援』でわかりやすい。

 就職氷河期の初期世代は既に40代後半。50代になると正規採用が更に難しくなり、老後に生活保護受給者となる可能性が高まる。そうなれば少子高齢化で膨らむ社会保障費を更に圧迫する要因になる。ここ数年、人手不足で企業が採用意欲を高めていることもあり、政府は「就労を後押しする最後のチャンス」(内閣府幹部)と判断した。

 今回いくつか関連のニュースや論評を追っていて気がついたことがある。「就職氷河期世代」と呼ばれる言葉のコノテーションである。端的な例としては、9日のビジネスインサイドの『万人時代、中心は40代。家族が苦悩する「お金問題」』という記事だった。中高年の「ひきこもり」についてこう言及している。

なかでも中高年当事者の4分の1を占める一大勢力が、40~44歳の「ポスト団塊ジュニア」だ。彼らは「就職氷河期」の2000年前後に大学を卒業し、就活の失敗などを機にひきこもり状態となった人が多い。

 非常に興味深い言及なので、裏付けとなる統計が知りたいが、該当記事にはない。ただ、「就職氷河期世代」が「中高年のひきこもり」にアソシエイトされている文脈は読者に理解できるはずとして示されている。なお、同記事では就職氷河期の人たちを「2000年前後に大学を卒業」としていて間違いではないが、いわゆる「就職氷河期」の後期にあたる。というか、就職氷河期の無定義性が有効に文脈化されている例にもなっている。
 同記事は、しかし、「就職氷河期世代」が社会保障の問題となることの文脈的な移行を容易にしている。このような展開も興味深い。

だが、自治体のひきこもり支援策の対象者は、多くが「39歳未満」。40代の当事者が支援を受けられないままに年を重ねれば、親が死去したり要介護状態になったりした時、共倒れしてしまいかねない。

内閣府の調査によると、40歳〜64歳のひきこもり当事者の推計数は、部屋から出られない人から、趣味に関する用事の時だけ外出できる人までを含めた「広義のひきこもり」で推計61万3000人。2015年度にほぼ同じ条件で出した15~39歳の推計値は54万1000人で、合わせて100万人を超える当事者がいる計算だ。

中高年の当事者のうち25.5%が40~44歳だ。このうち33.3%が大学卒業と就職が重なる20代前半に、初めてひきこもりとなった。

 ここからは、実際には「ひきこもり」にアソシエイトされた「就職氷河期世代」の実態は見えてこない。とはいえ、誘導されている文脈を追うと、100万人の25%でその33%ということなので、記事では8万人くらいと想定されている。当然ながら、「就職氷河期世代」がイコール「ひきこもり」ではないので、今回の経済財政諮問会議の対象者の実態はよくわからない。
 他方、時事ではあっさりと数字を示している。「就職氷河期世代」の用語解説より。

この世代のうち35~44歳の非正規労働者や仕事がない人は計400万人前後に達し、相当数の人が正規雇用への転換を望んでいるとみられる。

 数値の出処や他世代との比較についても気になるので、また調べてみたい。
 あと、おそらく、この問題は、「就職氷河期世代」にかこつけられているが、社会保障というよりも、構造的には経団連の就活ルール廃止の動向の余波ではないかと私は疑問に思っている。

 

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