都立高校が塾を導入する
都立高校に進学塾TOMASの個別指導塾を導入するというニュースを見かけた。公立校のなかに民間企業の進学塾が入る。個別指導とはいえ、指針がそこに集約されれば、結局、公立校で学ぶことが塾で学ぶことと同じになると言っていいかもしれない。
理由は、都立高では進学指導が十分に行えないから進学塾に外注するということだ。だったら、そもそも公立校って要らないんじゃないかとちょっと飛躍したことを思い、少し考え、そうかもしれないとも思った。
正確に言えば、すべての都立高に進学塾の個別指導が導入されるわけではない。最初は実験的に2校だけ。だが、この動向はたぶんもう止まらないだろう。というのは、すでに私立高校ではこの動向が大きくなっているからだ。その意味で、現下の高校教育を知っている人にしてみると、このニュースは、まあ、つまり、そうなるよねとしか思えない。すでに実質導入しているに近い公立校もある。
私はこの分野にある程度は詳しい。4人子供がいて4人、高校に進学させたからだ。3人は大学進学も終えた。このブログも長く、お料理レシピやおふざけのようなものも書いてきたが、その間、子供の進学で知ったことは直接的には書いてこなかった。関連する部分は自著のほうに書いたが、それでも子供の受験をテーマにはほとんど書いていない。末子の大学受験が終われば、そうした体験記や子供との学習についても書籍のような形態で書いてみたいとは思っている。
そういうわけで、さすがに4人も子供を高校に通わせると、現代の高校の問題の一端は見えてくる。今回の動向に関連する部分についていえば、公立高校は事実上大学進学指導ができてない。そして私立校についていえば、進学校とそれ以外ではまったく異なる情景がある。その話は別途書きたいとも思うが、概ね、GMARCHをターゲットに進学を狙う高校と日東駒専をターゲットに進学を狙う高校、そして就職技能校を斡旋する高校に分かれるかと思う。言い方はよくないが、それぞれで納入品質の管理が行われている。
今回の動向だが、私は東洋経済の「都立高にも個別指導塾、まずは中堅2校に導入へ」という記事で知った。一つのソースではおぼつかないし、該当記事は間接的な内容で直接参照がないので、他のニュースを当たってみた。が、いわゆるニュース・ソースではこの話題は見つからなかった。人々の関心をひかない話題なのかもしれない。そうしてソース確認を探していると、意外というほどでもないが株価のニュースで見かけた。11日にTOMASの親会社のリソー教育が、東京都教育委員会から進学アシスト校事業にかかる業務を受託すると発表というネタで株価が反発していたのだ。
そのあたりから直接ソースはないかとTOMASと東京都教育委員会のホームページを見たがやはりわからなかった。どこかに掲載されているのだろうか。他方、株価情報との関連だから、リソー教育のサイトを見たら「当社子会社の株式会社スクールTOMASと東京都教育委員会との業務委託契約締結に関するお知らせ」が見つかった。
1.業務委託契約締結の背景と目的
昨今、高大接続改革やグローバル化など学校を取り巻く環境が複雑化・多様化する中、東京都教育委員会は「都立高校改革推進計画」を基に、東京都立高等学校における教育内容の充実や教育環境整備を進めており、当社子会社である株式会社スクールTOMASと「進学アシスト校」事業に係る業務を受託することとなりました。
具体的には東京都教育委員会が指定する東京都立高等学校の生徒を対象として、大学進学に向けた学力伸長ならびに進学実績の向上を図ることを目的としてスクールTOMASを導入し、大学受験のための学習指導をおこないます。
これでニュースの裏は取れた。
このニュースの意味だが、公立校には進学指導の限界が来ているということだ。露骨に言うと、大半の公立高校ではGMARCH以上の進学指導はできない。このため、東京都としては、「進学指導特別推進校及び進学指導推進校」をすでに推進し、これらの一部の高校では進学指導ができるように対応はしている。
これにまつわるいろいろな問題があるが、背景にあるのは、都立高の定員割れからわかるように、公立校離れが進行していることだ。これも露骨に言うのだが、公立校に進学したら、難関大学へ進学は相対的に難しいという現実がある。中位層ではGMARCHも難しいかもしれない。他方、就職技能への進学という点では、斡旋の弱い公立校に魅力はない。さらに、今後一層私学の助成が進めば、公立校が安価というメリットもなくなる。なんらかの対応をしなければ、公立校そのものが大規模に淘汰されてしまうかもしれない。それも一つの政策としてはありうるかもしれないが。
今回公立高校に民間の塾のノウハウを導入する「努力」は、公立校のあり方としては、別の問題を産みやすい。二極化である。有名校進学の指導が強化されれば、相対的にその以外に影響が出る。成績の中間層からそれ以下の高校への対処は薄くなる。そこまた私学が掬う構造にもなっている。しかも、私学は中高一貫が多く、結局のところ、小学校時代ずばぬけて優れた子供なければ、私学の中高一貫校に入れたほうが、大学進学の可能性が広がることになるからだ。
これがさらに悪循環となるのは当然だろう。全般的な傾向としてだが、成績が中位以上の小学生が私立中学に移っていけば、それ以下が公立中学に残されることになる。
こうして見てもわかるが、この面において、格差が拡大される仕組みは、公的に対応できそうにもない。あるいは、今回のニュースは、その対応かもしれない。民間塾の導入はこの中位層に入るからだ。中位層の私学に大半の公立校が追いつくための政策かもしれない。
以上の問題は、外観から見た制度的な部分だが、この他に、実際に各高校で行われている授業レベルの実態は、個人的には呆然とするものがある。これは何か機会があれば。
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