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2018.07.18

[アニメ] ReLIFE

 ドラマやアニメを見た後、自然に評価してしまうクセを持つ人は少なくない。良かったか悪かったか。星で点をつけたり、百点満点なら何点とか。私はそういう評価には微妙な違和感があるし、そういうふうに作品を評価する人にも違和感がある。それでも、『宇宙よりも遠い場所』を見たときは、これはアニメとして完璧な作品というものだろう、100点かな、と思った。と同時に、そのことがこの作品の唯一の欠点だともなぜか思えた。逆の傾向を言うなら『いぬやしき』は良い作品だったとは思ったが、評点をつけると微妙な数値になるだろう。だが、この作品の何かは『宇宙よりも遠い場所』より優れていたような印象があった。評点ではわからない魅力があった。
 作品というのは、評価や評点という形で心に残るものではない。見終えたあと、奇妙に心に残る部分が、自分にとっての重要性というものだ。そうした重要性ということでは、『ReLIFE』は見ている途中からそして見終えてから、心に大きく残った。感動ではあるのだけど感動とも違う何かだった。そして通して4回見た。繰り返し見ずにはいられなかった。なぜ私がこの作品を繰り返し見ているのか。繰り返し見ながら、わかった。それは「私は日代千鶴に恋をした」というような何かだった。
 作中の人物が好きになるということはある。恋愛のような感情を抱くこともある。そういうことなのだろうかという自分の心を確かめたくもあった。どういうことなのか。なんどか見て自分の心に沈んできた。私は作中人物に恋をしたわけでもない。その恋に似た感情で、むしろ、恋というものの感覚を思い出そうとしている。まさに、自分がReLIFEという作品の虚構に刷り込まれていた。
 アニメ『ReLIFE』は、一度見た印象では特殊なものはない。絵としてのキャラクター設定は、よくあるタイプのそれに見える。主人公の海崎新太はむしろ凡庸だ。声優はすばらしい。が、すばらしい声優の作品は数多くある。フィクションとしての人物設定や世界観の設定もそれほど特殊性はない。一錠のカプセルを飲んだだけで10歳若返って見えるというのも、異世界ものに比べて特殊というものでもない。簡単に人の記憶が操作できるという設定はありえないとは思いつつ、作品の瑕疵ではない。魅了された日代千鶴もそれほど特殊な印象はない。
 が、魅了のある一線を超えたなと気がついたのは、首にある小さなほくろである。意図的に付けてあり、しかし、作品上はそのほくろを参照するシーンはない。だが、とても気になってくる。フェティッシュな感覚というのは自分にはないと思っていたのだが、その小さな首のほくろからリアルな人間の身体の思いが惹起され、なんというのか恥ずかしい言い方だが、キスしたいとでもいうような衝動がわきおこる。
 物語世界の説明は省略してもよいかと思ったが、簡単にしておく。時代は2012年ごろだろうか。その少し前か。第二次安倍内閣がリフレ政策を打ち出す前の新卒が地獄的だった日本である。主人公・海崎新太は、院卒後新卒で入社したブラック企業を三か月で退社したものの、再就職もできず、28歳にもなってバイトで食いつなぐニート生活で沈んでいる。その彼の前にある晩、なぞの若い男が現れ、ニートの社会復帰実験「リライフ」への被験者の誘いを持ちかける。実験内容は、特殊なカプセル薬の服用で10歳見栄えを若返らせ、エスカレーター校の私学高校に三年生として通うことだ。よくある「ファウスト」タイプの設定である。結果、学園生活のありがちなドラマが展開する。物語の視点は28歳のおっさんのそれになるのも自然だ。このあたりの初期設定やキャラ設定で、だいたい作品は決まってしまうので、私も最初の数話は、ありがちと思い、ぼけーっと見ていた。
 ReLIFEは当初ネットの広告モデルのオンライン漫画として発表された。2013年からというのでけっこう古いタイプの作品のようだが、終了したのは今年の3月で、オンライン版からコミック化された単行本の最終巻もまだ出ていない。
 アニメは2013年の夏期物の13話で当然、物語としてのエンディングを含んでいない。アニメ以降は、オンライン漫画の集結にシンクロさせるように、Blu-ray / DVDメディアで完結編全4話『ReLIFE 完結編』が発表された。先月あたりだっただろうか、Amazonでも見られるようになった。Netflixやdアニメのほうには完結編はない。
 物語の進展で、意図的だろうと思うが、視聴者はヒロインである日代千鶴にある仕掛けを感じ取る。13話目ではそれがあえて中途半端に暴露され、完結編を予感させる。完結編はそのある種のどんでん返し的な世界のなかで、4話では足りない、やや舌足らずな物語として進む。
 完結編を見ながら、伏線回収が奇妙に心にひかっかる。これは完結編を見てから、全体を見直すしかないと思い、実際見直すと、見事な伏線である。ドラマ『アフェア 情事の行方』を連想させるように、他者の視点から別の物語を見るような幻惑感がある。あまりネタバレにならないようにと思うが、そこには、最初から日代千鶴の物語があった。
 恋というものがなんであるかという問題は開かれている。定義も正解はないが、ここでひとつ思うのは、恋は世界を相手の視点に変えてしまうという奇跡的な力を持っていることだ。そうした経験がないのなら、恋とは言えないんじゃないかというようなある特殊な感覚によって、世界そのものが変わってしまう。あの感覚が、この作品に上手に仕組まれていたことがわかる。
 かくして4度見した。繰り返し見ることで、日代千鶴の呪縛というものから離れたくもあった。それは私の恋ではない。私の恋であった失われた感覚の記憶に近いものかもしれないとしても。

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