[書評] ポリアモリー 恋愛革命(デボラ・アナポール)
ポリアモリーについての、いわばマニュアル本らしい書籍として、訳書であるがデボラ・アナポール著『ポリアモリー 恋愛革命』(参照)を読んでみた。原著は1992年のようなので、四半世紀以上前の本になる。
そのうえで、ごく基本的な違和感の印象に触れてみたい。まず、同書が自己啓発書として書かれていることだ。ちょっと驚いたのだが、ウェイン・ダイアーの言葉も引かれている。ウェインは、私がいくつか著作を読んだ範囲ではポリアモリストではなく、一般的なスピリチュアル系の愛の宣教師的な位置にいる。なので、こうした引用あるいはインスピレーションであっても、誤解または誤読かとも思える。余談だが、深海菊絵の新書で引かれているジャン=リュック・ナンシーの言葉もオリジナルの文脈からそれているようにも思えたことを、思い出した。
だが、改めて誤解または誤読と言えるのかと再考すると、そうでもないのかもしれない。デボラについては、おそらく、人間の愛というのは、本来的にポリアモリーであるべきだし、進化的にそうなっていくものだという、ある信念も感じられる(一夫一婦制はなくなると考えているようでもある)。でれば、公平でオープンな愛の形をすべてポリアモリーの文脈においても問題はないともいえるのだろう。そこもまた、私には違和感のあるところではある。
本書は、潜在的なポリアモリストを鼓舞したいという意図があるからなのだろうが、ポリアモリーを強く肯定的に捉えているために、カミングアウトをむしろ積極的に奨励している。しかし、私のような読者からすれば、そううまくはいかないように思う。もちろん、そのこと(カミングアウトにともなう問題)も配慮もなされてはいるのだが、その配慮の解決点は、明るくすっきりしたポリアモリーの形のようなものが想定されている。私のような人間は、ポジティブ・シンキングでもそうだが、こうした明るさそのものがうまく受け止められない。
実践的な書籍という点では、ポリアモリストの嫉妬の問題について紙面を多く割いている。興味深くまた有益ではあるが、これも克服可能なものだという予定調和的な視点でまとめられている。たぶんではあるが、うまくいかないポリアモリーの愛には執着しないほうがいいということでもあるのだろう。
本書は総じて、ある種、宗教教義なり宗教書のような印象も与える。とはいえ、こういう本が、マイノリティのグループには必要なものなのだろうとも理解するので、そうした違和感からの批判はできない。
視点を変えるなら、ある種のスピリチュアル運動での自己実現というものを考えていくと、人生におけるさまざまな愛の経験は自分の霊性の深化かつ学びの機会としてとらえられるので、それぞれの学びの段階が終われば、次の愛の形に移るべきものだ、ともいえるだろうし、それが結果的にポリアモリーなのだともいえるのかもしれない。
それにしても、違和感は残る。具体的なケースで考えるなら、あなたが好きだと思う人が、「あなたを愛しています、ポリアモリストとして」と答えられたとき、どう受け止めるだろうか。そこで関係が成立するのは自分もポリアモリストだという場合だけだろうか。本書の考えにそうなら、ポリアモリーを受け入れられない人のとの愛の関係はそもそも難しいともいえるし、そのような愛を強いるべきではないともなるだろう。ある種のSM関係(それも愛の関係ではある)などもそういうふうに成り立ってるので、ポリアモリーも同じようなものではあるだろう。
以上、結果として本書を否定的に述べてしまったが、性的マイノリティとしての潜在的にポリアモリストである人にとっては、マニュアル的な価値があるだろうと理解はできる。ポリアモリストの人生に起きる、いろいろな悩みを解決してくれるだろうという点でも本書は良書である。一般的な読者にとっては、1つの性的マイノリティの主張としてよくまとまっているとも読めるだろう。
余談に類することだろうが、同訳書はすでに絶版で中古本にプレミア価格が付いているので注意されたい。それと、デボラは2015年に64歳で亡くなっているが、ネットでざっと見た印象では死もまた歓喜であると述べて安らかに死んだらしく、詳しくはわからないので言及すべきではないかもしれないが、病気というより意図的なタントラであったかもしれないとは思った。
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