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2018.03.26

[書評] ストーリー式記憶法(山口真由)

 記憶術や記憶法の関連書籍を探しているときにたまたま、『誰でもできるストーリー式記憶法』(参照)という本を見つけて関心をもった。記憶術には物語法というのはあるが、本来関連の薄いアイテムをこじつけて物語にするという手法で、物語記憶自体を記憶法として正面から扱った本というのを知らなかったからだ。基本的に、記憶術や記憶法の書籍は、図式的に理解するか、あるいは視覚的に情報を圧縮するか、無理やり物語を作るか、あるいは語呂合わせや歌詞にする、というのが多い。

 表紙には若い女性の写真があり、その人が著者なのだろうと紹介文を見ると、一時期ネットでも話題になっていた人だった。名前と顔と著作が私には結びついていなかった。著名人らしい。たまたまこの本を読んでいるとき、のぞき込んだ人が、その人知ってるよ、勉強法ついての本読んだことがある、と言っていた。
 内容。ハウツー本としてよく編集されているが、基本、時系列に物語を深く理解して覚えるということに終始している。秘訣がないわけではないのだが、ようするに物語をよく理解するというのが基本。これに加えて、音読もよい、繰り返すとよい、対象を好きになるとよい、というコツがある。
 読んでいて、なんというのだろうか、「ああ、人類の神話の記憶ってこうやって伝承されてきたんだろうな」という、すごく原始的な人間頭脳の使い方を再考することになった。いや、それってほんと大切なんじゃないかというのがよくわかった。
 あれだ。ロシア人の女性に、二時間映画の内容を聞くと、こまかに二時間きっちり話をしてくれるというやつだ。ドストエフスキーもアンナ・スニートキナの口述筆記がなかったら、年取ってあんな饒舌な小説は書けなかったのではないか的な何かだ。
 本書は多分に著者の自伝的な要素がある。そもそもこの記憶法は彼女の体験から生まれたものだからだ。その話はとても興味深いのだが、これって、ようするに著者がすっごい生まれつき地頭がいいというだけのことじゃね、という疑問がわいてきた。ので、先ほどの「知ってる」といった人にそのあたり聞いてみた。つまり、著者の勉強法は役立ったかだろうか。
 ある程度は役立った、と言っていた。7回読む勉強法というのもやったという。が、4回で挫折したらしい。なるほど。まあ、普通そうだろう。本書の記憶法も役には立つだろうけど、「誰でもできる」ということは、多分ないだろう。
 皮肉な言い方に結果的になってしまうかもしれないが、生まれつき地頭のいい子供っていうのの、内面はどうなっているのだろう、ということを知る手記として、とても面白いのである。本書にはいろいろそうしたツボがある。なかでも、「人に教えてもらわない」「人に教えない」というのは、なるほどねと思った。自分の理解のスキームが強固なら、そこに他者の思考のスキームを混ぜないほうがよいだろうな。
 こうした、地頭ばつぐんの子供の調査としていうのを学問的にやった研究ってないのだろうか。天才の研究というのはあるが、普通に頭がいいという子供たちの特性とか。
 そういえば、さっきのロシア人女性の物語記憶力の話だが、日本人女性にもそういう人いる。というか、若いころちょっと付き合った女の子にそういう子がいた。どうでもいい。
 ほかにもいろいろ思ったことがある。
 そうだよねと膝を打った(昭和表現)のが、本の厚みで覚えるという話。著者は六法全書を厚みで覚えるというのだが、これは僕も経験ある。本を読んでいると、厚みでどのあたりにどんな内容があったか覚えているのだ。ページの段落の全体の形も記憶に残っている。そういえば、本にしおりを挟む代わりにページの数を覚えておくというのもある。いずれ、紙の本でないとできないし、そういう点で、紙の本もいいなと改めて思う。
 7回読書法とも関係するが、読んだ回数の記録を本に書き込んでおくというのもいい。
 ラインマーカーとか使わず、覚えたいところを書き出すというのもいいだろう。本を読むとき、メモ用紙とか挟んでおくかな。
 記憶のバグの話もためになった。最近、ぼけっと、人と民放クイズ番組を見る機会があるのだが、我ながらなんでこんなこと記憶しているんだという、記憶がひょいひょいと出てくる。わお、俺スゲーと言いたいところだが、けっこう記憶にバグもあるのに気が付いた。そういうもんだろう。
 本書ではOutlookの活用法の話もある。なんだか盛りだくさんな本だなと思うが、そういえば、自分も最近、似たようなことをしている。テキスト化できずに覚えておきたいことがあったら、写真にとってKeepに入れておく。ほかにも、暗記する例文の本のページとか写真で入れといて、電車とかでちょこっと見て覚えたりする。
 ってな感じで、この本を読んでいると、対比的に、自分はこうだなという、脳みその使い方に気が付く。という点でも、本書はとても啓発的だった。著者の他の本も読んでみよう。


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