[アニメ] A.I.C.O. Incarnation
3月2日に公開されたNetflixの『B:The Beginning』に続いて、一週間後に公開された『A.I.C.O. Incarnation』も見終えた。どちらもクオリティが高い。今後もこうしたオリジナル作品がNetflixで公開されていくのだろうと思う。そのことが日本のアニメ界にどのような影響をもたらすかについては、私にはまだわからないが、アニメの楽しみが増えていくことは間違いない。
この『A.I.C.O. Incarnation』だが、まず表面的には一癖のある作品と言えるだろう。同時に、過去の各種アニメの想像力の延長という面もある。が、基本的に異質な作品のために、視聴側が過去のアニメの累計としてついとらえがちになるのかもしれない。
話の仕立ては謎解きになっている。主人公の橘アイコはある大事故で家族を失い、病院に付属した学校に通学しているが、その学校の同クラスに、年度の終わり間際に神崎雄哉という少年が転校してくる。そこから「物語」は始まる。が、ボーイ・ミーツ・ガール系の話ではない。
大事故が特殊なものである。物語世界の設定は、最先端医療技術として人工生命体技術を国家の売りとしている2035年の日本である。その2年前、その技術推進のために作られた黒部峡谷の研究都市の、かなめともいる桐生生命工学研究所で人工生命体暴走事故「バースト」が発生した。渓谷一帯がダム決壊のように人工生命体「マター」の異常増殖によって汚染され、政府管理の危険地帯なる。マターは進化しつつ、黒部地域を超え、海域から世界へと汚染を広がる危機にある。研究所は汚染源の「プライマリーポイント」と呼ばれ、この危機を克服するために、神崎雄哉が橘アイコをその地点に連れて行くという。が、その理由は前半では明確にはされていない。危険地域に内に入るためには、潜入を専門とする「ダイバー」チームと行動を共にすることになる。プライマリーポイントに近づくまで、凶暴化したマターと戦闘を繰り広げることになる。映像的にはそのあたりもこの作品の面白いところでもある。
この設定は複雑と言えば複雑である。暗喩の構造も入り組んでいる。まず、マターは水源の決壊のイメージとしてダムの環境問題があるが、それよりも、福島原発事故の放射線汚染のイメージが重ねられている。また、マターの暴走は、がん細胞の増殖転移の暗喩からなり、プライマリーポイントはがん幹細胞に重なる。さらにこれに、人工生命や意識のハードプロブレムが関わる。というか、最終的には、この意識のハードプロブレムが浮上してくる。その意味では、この物語のテーマ性では、哲学的にこれをどう解くのかという興味につながる。なお、「アイコ」という名前も比喩であるとしか想定できないのもこの物語の異様さでもある。
以下、ネタバレを含む。
主人公でもあり、自身が、自分が橘アイコだと思っている本人の、その意識主体が人工生命体であり、本人ではなかった。むしろ、マターがアイコであったという意識の同一性の問題が、情感を含んだ劇としてどう解かれるのかということは興味深い。この劇性は、『新世紀エヴァンゲリオン』のテーマを継ぎ、かつ超えている(とはいっても作品の形式はかなり異なるが)。さらに訴求すればこの問題は、私がcakesに取り上げた手塚治虫『アポロの歌』にも関連している。
問題を問題として見るなら、もうひとりの私が「私」の運命を引き受けるということだ。制作側での暗喩的意図はないだろうが、イエスが人の罪を追って十字架に赴き復活するという神話構図をなぞってはいる。そのせいもあってか、奇妙な後味を無意識に残す。
それはなんだろうか。しばらくして私の無意識に浮かんできた構図は、この世界の人ではなくなった、父と娘の性愛を超えた疎外ということだった。
アイコの愛の物語が、母性的な包括性で世界を救済するかに見えて、実際に世界救済の代償となったのは、性愛が本源的に失われた父と娘のダイアードであった。もちろん、これはただの疑似ハッピーエンドの後日譚としてもよいにはよいのだが、世界の危機から回復された、なにも変わらないかに見える日常世界の代償として提示されていることは明瞭なので、その意味は大きい。「アイコ」という名前の日本国家の意味にも関連はする。
これはどういうことなのだろうか。
おそらく、人の個体が性の選択の結果であるということは、男である、または女であるということだが、それを性愛や家族的な愛情に流し込んでしまうのではなく、性のない心的な地点の、父と娘という特殊な友愛が許される世界の可能性だろう。「地下アイドル」とサポーターの関係にも近い。こうしたダイアードの、人類に対する意味は何かというと、意外にも人類史の最先端の問いかけなのかもしれない。
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