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2018.01.28

[映画] モアナと伝説の海

 見ようと思って見落としていた映画は何かなと候補を見ていて、『モアナと伝説の海』(参照)が気になった。これもなんとなく機会を逸して見ていなかったのだった。『アナ雪』のほうはかれこれ4、5回は見たというのに。

 『モアナ』はどうだったか。見終えて何より、ああ、これは非の打ち所がない作品だなと思った。ポリネシア世界をよく研究している。ハワイのダンスの動きやメンタリティもよく考慮されている。なにより美しい映画だった。水のきらめきや南方の植物のリアリティなど驚嘆すべき仕上がりである。主人公のモアナの肉体表現、肌の質感などもすばらしく、自然なエロスが十分に表現されていた。笑いもよい。マウイの滑稽さもよいが、ヴィランズとしてタマトアの話芸と歌は最高だった。肝心のプロットも悪くない。ひねりは効いているし、メッセージ性はある。
 が、奇妙なものだ、これだけ完成度が高い作品だとそれ自体が、微妙に欠点のようにも思えてくる。『アナ雪』のもっていた奇妙さ、ズレ、本当は何が言いたいんだろう?これ制作過程でなんか紆余曲折変わっていったんじゃないの感あるよな、といった奇妙な違和感が『モアナ』にはないように思えた。そのことは、ヒロインである「モアナ」の魅力を少し弱くしているようにも思えた。もちろん、モアナは優等生でも潔癖でもないし、ラプンツェルのようにくだくだ内省もする。ヴィジュアルのキャラクターはすばらしいが、その内面性の魅力は私にはむしろラプンツェルより弱く感じられた。こうした完成度の代償は、悪が悪として残る毎度のデズニーらしさを意図的抑えたことにもあるのかもしれないとも思えた。
 まあ、いい作品だけど、歌もよかったけど、なにがなんでももう一度見たいという強い情感は自分には残さない。もにょんというわけでもないけど、薄いかなと。
 で、一晩経った。自分だけかもしれなが、映像作品というのは、一晩寝ると感覚が変わる。夢とかで無意識がなんかやっているのだろう。で、今朝どうだったか。昨日の感覚と変わって、『モアナ』、いいんじゃね、という感じが濃くなっていた。
 プロットはひねりはあるものの、ドラマティックというほどではないし、『指輪物語』のパロディのようにも思えるし、ゆえにメッセージ性も深みもそれほどはないかなと思ったのだが、朝残る、一番のシーンは、マウイが死を意識してそれでも踊るところだった。モアナにほだされて死んでもいいかというところで、その意識の頂点でただ踊る、そういう精神というものがある。そしてその精神の純化は、「ほだされる」というアイロニカルなものではなく、モアナの愛なのであろう。
 この物語、モアナ自身が、なぜ私が海に選ばれたのかという自問があり、その答えは、それほどは明示的には打ち出されていないのではないか。しかし、一晩寝てみると、わかった。モアナは、マウイを愛することができるからだった。なぜモアナがマウイを愛せるかというと、マウイの原罪ともいえる、人間への愛に、人間が答えなくてはならない、その答えそのものの象徴だったからだろう。
 そして、マウイを愛せることが、テ・カァを愛せることであり、テ・フィティの心とはモアナ自身であるからだろう。そして、テ・フィティが蘇ることは、海の民の再生であり、マウイなるものを再びそのなかに循環させることでもあっただろう。そうしてみると、原罪は、マウイが人によって捨てられた悲しみにあるとしてもよいだろう。
 こうした原罪と愛と許しの関係は、キリスト教的でありながら、キリスト教とは違ったポリネシア的な神聖のダイナミズムだろう。意外に難しい作品かもしれないし、作品自体の難しさというより、ポリネシアの精神性それ自体の深淵でもあるだろう。
 ポリネシアに繰り出す船は、台湾を起点としていたらしい。それは一部は沖縄にたどり着き、沖縄から黒潮にのって日本列島にも来た。しかし、日本の王朝はおそらく、それとは別に、越から山東半島、済州島という経路でやってきたものではないかと思う。他方、日本人のミトコンドリアDNAに残るのはバイカル湖あたりからやってきたものだ。日本人という民族の多層性とその無意識的な精神性の多層性は、書き留められた歴史や権力の制度によって覆われている。しかし、私たち日本人の無意識の、内在的な多層性は生きている。
 その感覚は、自分にとってはモアナへの愛情や沖縄への愛情につながっている。

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