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2018.01.02

[書評] アフター・ビットコイン(中島真志)

 書名『アフター・ビットコイン(中島真志)』(参照)の含みは、「ビットコインのブームの後に起きること」ということであり、さらにそれは暗示的にではあるが、ある誘導している関心があると言ってもいいだろう。ビットコインの終焉である。ゆえに、その後に何が起きるのか、と。2017年に入りバブルの状態を見せた後、現状、バブル崩壊の兆しも伺えるビットコインが本当にバブル崩壊となり、事実上通貨としては使えないという状態にまでなってしまうのだろうか。しかし、本書は、バブルへの懸念に一般的な言及はしているもの、注意深く予断は避けている。では、「ビットコイン後」とは何か。何が起きるというのか。

 本書の明確な基調としては、ブームとしてのビットコイン現象(その呼称は本書にはないが)はしだいに人々の関心が引き(加えて採掘などの原理的な限界もある)、その後には、ビットコインよりもその基本技術である「ブロックチェーン技術」が注目されるようになる、ということだ。
 そのため、前半では、ビットコインとは何かという点と、その中核技術としてのブロックチェーン技術に焦点を当てつつ、その最初の成功例ではあるが一例であるビットコインの問題点や暗部に言及している。後半ではブロックチェーン技術が各国ベースの仮想通貨が生み出していくだろうという中期ビジョンと関連して、金融革命(この呼称も本書にはないが)とも言える送金決済の未来について触れている。
 盛りだくさんの内容を簡素によくまとめているが、基調および視点は違うとは言え、先行して出された同じく新潮社『中央銀行が終わる日(岩村充)』(参照)と内容的に重なる部分はある。技術論的な部分(たとえばその匿名性の限界)や貨幣についての哲学的な考察については、岩村の書籍のほうが詳しい。他方、中島の本書について言えば、むしろメインとなるのは、ブロックチェーンを応用した決済システムの展望であり、それに焦点を充てて新書的な小冊とするかそこを発展させてもよかったようにも思う。ただし、金融面に偏った専門的な書籍となってしまう懸念はあるだろう。
 やや批判的な指摘に聞こえるかもしれないが、本書については、そうした書籍と内容の全体についての評価より、各部で示されているディテールが面白い。日本銀行に関連する言及では著者は日銀マンでもありその内情を知っている点で興味深い。また、私のような一般読者にしてみると、言い方は品がないが、ビットコインへの悪口とでもいうダークな部分の列挙は面白い。
 本書の帯にもその部分は強調されている。「たった1%のユーザーが、ビットコインの9割を保有」や「通貨として使っているのは、全ユーザーの2%」、「全取引の94%が中国元で、ドル・ユーロはごく僅か」。ぎょっとするような事実である。
 もっとも、これらの事実は事実ではあるが、ものの見方にすぎない可能性はある。利用者や保有者がいかにも偏在しているかに見えるのは、ウォレットを使う手前、仲介業者がまとめているだけで、ネットで話題を稼ぐプロブロガーなどはもともと少数派という以前にそもそもこうした統計でカウントされていないかもしれない。また、本書は2017年9月の脱稿なので、基本その年の前半までの状況だが、後半には大きな変化(登録制を挟む取引所の状況)などもある。今後も変化するだろう。
 気になるのは、ビットコインと事実上関連の深い中国マネーの動向だが、ビットコイン採掘所が中国にあっても、他のクラウドセンター同様他国が管理している部分は大きいだろう。にも関わらず、中国元がビットコイン化される状態は事実上のフライトキャピタルである。ゆえに中国政府が規制に乗り出した経緯がある。
 細かい点では本書の主張へのカウンター議論はいろいろあるだろうが、大筋において、ビットコインの実態像は本書がよく描き出している。個人的には、創始者のナカモト・サトシについてそのゴシップ的な興味より、その保有の現状が事実上のビットコイン維持に機能しているところが、彼の、自由通貨の主張と矛盾している点が面白くもあり、怖いなと思える点でもあった。
 話が前後するようだが、本書はビットコインの仕組み、特にブロックチェーン技術についても説明している。図解を含めてできるだけやさしく解説しているが、私の印象に過ぎないものの、一般読者にはこれでも理解しづらいのではないだろうか。公開鍵暗号についてはあえて解説が含まれていないし、ハッシュ関数についてもごく簡単な解説しかない(なぜ「ハッシュ」なのかという次元の話もない)。ナンスとブロック形成についても理解しづらいのではないだろうか。このため、ビットコインの特性とも言える「プルーフ・オブ・ワーク」についても同様の状態になる。
 本書は、ブロックチェーン技術に中心を置いているので、ビットコインの採掘(マイニング)に関わる「プルーフ・オブ・ワーク」の説明が薄くなるのはしかたがない面もあるだろう。いずれにせよビットコインの技術面については他書にあたったほうがよいとも思う。が、率直なところ、これならわかりやすいとうい書籍は思いつかない。公開鍵暗号やハッシュ関数の説明だけでも、どうすれば簡単になるのか、検討もつかない。逆にいえば、この分野の技術に関心を持ち続けて人にとってみると、ブロックチェーンを支える技術には独自性はなく、ビットコインについても、採掘や上限の仕組みが面白いアイデアだなと思うくらいだろう。経済学的に見れば、経済学の素人って怖いものなしに危ないもの作るなあという感想もあるようには思える。
 本書を読んで、個人的にだが、ここをもっと描いてほしいなと思ったのは、エストニアのデジタル通貨の状況や展望である。すでに『未来型国家エストニアの挑戦』(参照)に、エストニア自身の側からのそのビットネーションとも言える姿は描かれているが、本書のような批評的な視点で捉えたときにどのようになるのかは気になる。余談だが、エストニアは人口規模で沖縄県とほぼ同じなので、沖縄を特区としてビットネーション化すれば事実上の独立的な状態への足がかりになるような夢もある。


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