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2018.01.09

[書評] アイ・アム・レジェンド(リチャード・マシスン)

 昨年の晩秋ころだったろうか、まだ冬ではなかったと思うが、積読山が何かの偶然で崩れたおりに、『アイ・アム・レジェンド(リチャード・マシスン)』(参照)がぽろっと出てきた。読もうと思って購入したものの、随分長いこと積読状態になっていて、たまに思い出すときには見つからず、そのうちほとんど忘れてしまった。同タイトルの映画が出たときに購入したのか、パンデミック騒ぎのときか、改変ウイルスの医療利用関係だったか、何か関連する話題で買ったはずだが、その動機も思い出せない。文庫本の奥付を見ると2007年の11月出版。その12月の3版である。10年ほど前になる。当時は映画の関連で売れたのだろう。ところで、その映画については別途記事を起こすことにしたい。

 言うまでもないと言いたいところだが、本書はSFの古典中の古典と言ってもよく、SFファンならすでに既読ではあるだろう。そのあたり未読の自分を恥じるものがあったが、他方、私のような初読者には、本書の訳者によって記された巻末の、著者に関連する書誌的な解説と主要な映画化の経緯の説明が役立つ。
原作が書かれたのは1954年。本書が日本で最初に訳されたのは、1958年(余談だが私が生まれる前年)で、訳者は田中小実昌であった。そのおりの邦題は『吸血鬼』である。その後、1971年に『地球最後の男/人類SOS』と改題され、さらに1977年に『地球最後の男』となり、長くその書名で、日本で知られていたが、2007年、映画名に合わせて現在のものとなり、新訳となった。
 シチュエーションはシンプルと言えばシンプルである。人間を「吸血鬼」に変える感染症のパンデミックによって、「吸血鬼」は多数夜間跋扈するものの、健常な人類が死に絶えたかに見えるなか、主人公のネルヴィルがあたかもただ一人生き残り、彼らと戦いつつサバイバルを空しく試み続ける。なお、「吸血鬼」という呼称はない。むしろ描写はゾンビであり、本書がむしろ『ウォーキング・デッド』など現在に至るゾンビ作品ブームの原点になっている。
 物語はこうした状況での生存の空しさや意義への問いかけ、状況把握の努力、状況変化への対応などで展開していく。執筆時の1950年代の米国文化は背景にうかがえるが、それゆえにこの小説が古びるという印象はまるでない。
 さてこの本の読書なのだが、率直なところ、遅々として進まなかった。少し読んでは、中断した。読み終えるまでにけっこう日を要した。単純な話、面白いのかというと、個人的には微妙な印象もある。つまらないわけではないし、人にもよるのだろうが、物語が読者の興味をつかんでぐいぐいと引っ張っていくようには思えない。むしろこれはカミュ『ペスト』のような純文学なのだろうかという疑問もわいてくる。しかし、純文学っぽい仕立てというわけでもない。
 しいていうと、これもごく個人的な印象に過ぎないのだが、パズルを解いているような感触があった。いろいろと難問が関連して次々として発生する。一つ一つ謎は解けていくが、何か根本的な解法にいたらない。その間、読者が推測するこの物語の全貌のような印象がぼんやりと生まれては消えていく。なかでも大きな難問というかエピソードは、もう一人の健常な生存者かに見えるルーシーの登場だが、その扱いもすぐに入り組んだパズルであるよう感じられる。
 かくして結果というか、エンディングだが、ここでは当然スポイラーは記さないが、価値観の大逆転がある。見事といえば見事な仕上がりだった。このパズルをこう解くのかという微妙な解放感や主題の提示がある。しかし、優れたパズルが示す爽快感のようなものは私には少ない。ある種、バッドエンドということもあるが、この物語はやはりパズル性よりも、ある延々と続くヤスパース的限界状況の叙述性にこそこの作品の価値はあるからだろう。
 暗喩性は強い。私たちの少なからずは、学校や社会のなかで孤立する。あたかもゾンビに囲まれて、「ああいうふうに自分は生きることができない」という孤絶感のなかでサヴァイブしている。
 いろいろと読者に問いかけることの多い作品であることは確かで、一面ではそれは繰り返される映画化もある。読者が抱えている生の感触によってこの物語の暗喩の強さは変わるだろう。


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