[書評] 最強の女(鹿島茂)
先日、成人の日で、たまたまツイッターで「二回目成人式」という洒落を見かけた。その人は40歳になったというわけである。それを見て私が思ったのは、「ああ、俺は三回目」ということだった。二十歳のときに出席した成人式からもう三倍も生きたのかあと落胆した。
もの心がついたのは4歳ころ。そこから20歳までの時間はけっこう長く思えたものだが、それ以降、人生の相対性理論というか、人生意識時間の進行がどんどん急速になる。実感としては先日ぽっと40歳になって、ああ自分も40歳かと嘆いていたのだった、なあ。いや、そんな話がしたいのではない。むしろ逆だろうか。
自分語りになるが、cakesの「黒田三郎」(参照)でも書いたが、私は十代のころ詩を書いていた。14歳くらいから書き始めただろうか。ノートに普通に書いていた。1970年代前半。まあ、ちょっと文学的な青年なら誰も詩を書くような時代でもあり、私もそうした凡庸な一例なのだが、雑誌に詩などを投稿するとよく掲載された。選者の詩人・山本太郎や詩人・吉野弘からも、常連さんとして覚えてもらえるくらいにはなった。選に落ちたときは、今月はさえなかったな、というふうに慰めてももらった。
そんなことも嬉しくて、また感性が爆発しているような思春期だったから、詩の文学にものめり込んだ。若いっていうのはすごいもので、もうめっちゃくっちゃにやたらめったら膨大な詩を読みまくった。フランス語もドイツ語もできないのに、エリュアールやリルケにも傾倒したりもした。というわけで、彼らの恋愛話なども好んで読んだし、そこに出て来る女、ガラやサロメについても知っていた。
全五章。出て来る「女」は5人。まず第1章はルイーズ・ド・ヴィルモラン……自分とっては、なによりもサン=テグジュペリ『星の王子さま』のバラだよ。そしてアンドレ・マルロー。そのあたりは知っていたのだが、彼女を含めた当時のサロン文化の話なども面白かった。『失われた時を求めて』の冒頭の子供の頃の思い出とか、なるほど母がサロンにいるわけか。
第2章は、リー・ミラー。彼女については、マン・レイとの関係でなんとなく知っていたが、マン・レイとなるとキキに関心がいく。とはいえ、描かれたリーの人生は興味深いものだった。著者鹿島が彼女を現代女性の雛形のように捉えているけど、確かにそんな感じがする。そうえば、オドレイ・トトゥの『ココ・アヴァン・シャネル』もまだ見てなかったな。
ルー・ザロメが第3章。いや、まいった。何が参ったかというと、十代のころはオナニストよろしくしていたわりに精神志向だったのか、ここで描かれた絶倫リルケ像はちょっと驚いた。考えてみたら、リルケ、そうだよなあ、というのと、このザロメも二十代半ばまで処女だったとはな。ああ、我ながら鹿島先生の本を読むときのお下劣満足感がたまりません。
第4章のマリ・ド・エレディアについては、ピエール・ルイスの恋人だったというくらいしか知らなかった。普通に読んで、恋多き女の一生というか、映像的で映画にでもなりそうな感じ。
そして、終章のガラ。ガラについてはけっこう知っていたつもりだったし、ここに書かれている出来事とかでびっくりというものでもなかったが、いやはや読んでて笑い転げたのはダリの描き方だった。ようするにダリというがガラの作品だったわけだ。しっかし、このダリ像の意地悪さは笑える。
さて、本書には「前口上」はあるが、雑誌連載のせいなのか、「あとがき」のようなものはない。なんだろうか。なんというのか、こうした「最強の女」について、総括というのでもないけれど、何かまとめみたいのが、最後にあってほしい感じがした。残尿感というか。
私はいつのまにか60歳にもなった。私は、自分の世代では36歳というと晩婚ではあったが、若い頃手酷い失恋をしたものの、あるいはそのせいか、恋多き人生でもなく、ゆえに多くの女性に出会って恋をするというものでもなかったが、それでも、本書の「最強の女」は、「これ、普通の女だよ」と思う。本書としては、特異な女を取り上げているのだけど、私の実感としては、どの女も本質的には最強なんじゃないだろうか。普通に生きているかに見える女も、本質は「最強の女」であると思う。
公平に言えば、女にとって男は不思議な生き物だろうが、男にとって女は謎極まる最強の生き物である。とてもいとしく、そしてその強さゆえに戦場のようにつらくもあり。
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コメント
男女関係で。
短期的には男がつよい。けれど
長期的には女性がつよい。のかな。
母より長生きできる気がしないです。
投稿: h | 2018.01.13 08:01