[書評] シェイクスピア(河合祥一郎)
こんな新書が出るだろうなと予想していたどんぴしゃりの新書が出ると、それはそれで驚く。予想には二通りある。世間受けしそうな話題や著者名だけで一定数掃けそうな書籍である。偏見ですみませんが、それらはほとんどと言っていいと思うけど、読む価値はない。なんというのか、ありがちな頷きを得るための読書というのはあるだろうし、ある種の不安に予想された安心を与えてくれる書籍というのもあるだろうが、ことさら読書の対象というものでもない。
というわけで、私の主張としては、本書は前著のパート2として理解している。書架に二冊並べておくといい。というか、およそ読書人であれば、書架に聖書とシェイクスピアは並べておきたい。古典的にはどちらも原典をと言いたいが、率直に言ってそれは、見え張りすぎ。どっちも青春を犠牲にしなければ読めるような代物ではないから、人生の合間に、「そうだな、オペラ『タイタス・アンドロニカス』の原作ってどういうのだっけ」と手にするくらいでいいだろう。作家日垣隆が「リファ本」と呼んでいたタイプの書籍である。というわけで、二冊を合本にしてくれるとありがたいし、予想がどんぴしゃりというわりに、別の出版社から出たのはなんでかなと疑問は残る。
前著では、各作品についていわゆるあらすじだけではなく、シェイクスピア原文の引用から英語としての妙味を解説してくれるところに特徴がある。特に名セリフの解説がいい。他方、本書の特徴はというと、こういうとおこがましいが、現代のシェイクスピア学を上手にまとめている点だ。私が英文学を学んだころの知識とずいぶん様変わりしているし、いろいろシェイクスピアの謎とされていた部分もあっさり解けている印象があった。というか、シェイクスピアって謎の人と思っていたが、けっこう史学的にわかってきているのだという感想を持った。
本書後半は、前著の作品あらすじとまさに一体になるもので、作品論がわかりやすい。当然話が被っているところもある。ハムレットの「生きるべきか死ぬべきか」についても、前著で「思春期の若者が自殺を考える台詞ではない」として解説を加えているが、本書では「キリスト教では自殺は禁じられているのだから」と踏み込んでいる。
あと些細なことだが、本書の参考文献を見ていたら、私の小学校時代の幼馴染の名前があった。二十歳のころ同窓会の幹事をしたとき、彼女はすでにシェイクスピア学を志していた。そして、シェイクスピアを理解するには、人間というのものを理解しなくてはと真剣に語っているのに惚れそうになった(当時僕には恋人がいた)。その後、数度彼女と偶然会って立ち話などしたこともある。それで終わり。あれから30年は経つ。僕はすっかり老けてしまったのですれ違ってもわからないだろう。
O, wonder!
How many goodly creatures are there here!
How beauteous mankind is! O brave new world,
That has such people in’t!
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