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2017.12.06

[書評] 日本の地下で何が起きているのか(鎌田浩毅)

 今年を振り返って何があっただろうかといろいろ思うなかで、熊本の地震はどうだっただろうというのがあった。すぐに何か勘違いしていることに気がついた。あれは2016年のこと、昨年のことだった。一年半くらい前になるし、何より今年の出来事ではない。なのに奇妙に心に引っかかったのは、あの地震がどことなく終わった感じがしないことだった。

 東北大震災の後もそうした、思いの引っかかりがあった。阪神大震災の後もあった。そしてもう少し何かが引っかかっている感じがして心を探ってみると、人の生きる時間と自然の時間の、埋めがたい差のような何かがある。人は生きてたかだか100年といったところだが、地球の歴史では100年はわずかなものだ。だが、そのわずかの人間の生の時間に、1万年単位の歴史が交差する。地震や火山爆発はそうした象徴のように思われたし、日本列島に生きることの意味を別のロングスパンで考えさせられた。
 思いのなかで自然に絵が浮かび上がる。絵というより、図像だろう。日本列島とその海域を区分するプレートの図である。そこに4つのプレートがあたかもせめぎ合っている。それはどうなるのだろうか。本書『日本の地下で何が起きているのか(鎌田浩毅)』(参照)にあっさりと書いてあった。

 結論から言うと、日本の地盤は一〇〇〇年ぶりの「大地変動の時代」に入ってしまい、これから地震や噴火の地殻変動は数十年というスパンで続くのである。つまり、東日本大震災が引き金となって不安定となった地盤が、その後に起きた数々の災害原因になっていることが、地球科学者共通の認識にある。(後略)

 熊本地震のような地震がこれからも日本列島で頻発する時代になったということだが、対して今年はその点では静かな年でもあった。そのあたりが冒頭で書いた奇妙な違和感の一つであり、他方、ではそうした頻発する地震の一つとして熊本地震はなんだったのだろうかと本書で見直すと、個人的には失念していたので、改めてぞっとすることが書いてあった。熊本地震のマグニチュードは7.3で、これは阪神・淡路大震災と同規模の直下型地震であったということだ。地震の大きさと被害は直接的には結びつかないということは、膨大な被害も出しうるということだ。
 すぐに連想されるが東京でも直下型の地震は起きうるし、本書では4つのタイプを上げている。東京に大規模地震が起きたらどうなるのかと当然不安になるが本書には、内閣府作成の被害予想図もあった。政府としては次の関東大震災とでもいう被害を一応想定している。まあ、シンゴジラではないけど、立川にバックアップの官庁もある。
 心のひっかかりに戻ると、南海トラフ地震がある。最近、南海トラフ地震の予想はつかないという報道があり、現在の科学をもってしてもわからない、ということから、わからないものを不安に思っても詮無いといった空気も感じられるが、本書を読むと、南海トラフ地震が具体的にいつ起こるかわからないものの、向こう30年では確率は70パーセントとされている。
 このあたりの説明から本書は科学書籍とは少し趣が変わってくる。科学者である著者の市民意識がそうさせることはわかる。典型的な部分を引用してみよう。ここでは30年後より20年後という枠組みの話で説かれている。
 


 私は京都大学で学生たちに「自分の年齢に二〇年を足してごらん」と言う。二〇歳前後の彼らは、四〇歳くらいで南海トラフ巨大地震に遭遇する。多くが社会で中堅として働いており、家族や子どもがいるかもしれない。そういう中で国家予算の数倍に当たる激甚災害が起き、半分近い人口が被災することをリアルに想像してもらうのである。
 その際に「手帳に二〇年先のスケジュールを記入する想像をしてほしい。二〇年手帳の二〇年目に、南海トラフ巨大地震発生と書き込んでみよう」と語りかける。さらに「その時に向けて、君たちは何をしたらこの日本を救えるか考えてほしい。そのため現在、何を勉強すべきかを逆算して考えてみよう。それが君たちのノーブリス・オブリージュ(高い地位に伴う道徳的義務)なのだよ」とも言う。(後略)

 
 著者はこの分野の専門家の社会的義務として、この20年後スケジュールを説くのだが、どうだろうか。
 著者は多くの人がこの20年後を理解すれば国が想定する八割の被害者を減らせるとしている。
 私はよくわからない。日本の市民がそういう20年後をスケジュール的に理解すべきなのかわからない。私はこの夏60歳になった。20年後があるなら、80歳になっている。生きていても呆けているのではないかとも思うが、その人生の最終で日本の大災害を見るのだろうか。
 本書は終章で野口晴哉についての言及が多くなる。私も野口晴哉に関心をもった人間の一人だが、率直にいえば、野口の言説はオカルトでしかない。水への伝言とたいして変わらないようなものだ。本書が、そうした考えに微妙に収斂していくように見えるのも、もにょんとした感じを残す。
 しかし、広く読まれるべき本ではあるだろうとも思う。

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