[書評] 北朝鮮 核の資金源(古川勝久)
北朝鮮の工作員が日本に多数いるとか、彼らは国際的に活動しているとか、「まあ、そんなの常識として知っていますよ」と言いたくなるが、本書を読んでみると、なんというのだろう、うなだれてしまう。ある種、絶望感のようなものも感じる。ここまで実態はひどいのか。あえて「私たち」と言いたいのだけど、私たちはこの問題に実際は目をつぶっていたのだなと後悔する。
もちろん、国連による北朝鮮の制裁を、常任理事国である中国やロシアが率先して妨害してきたからだ。その妨害の手つきも本書に詳しく述べられている。著者は自慢げに語ることはないが、こうした妨害のなかでよくきちんと仕事ができたものだと驚く。
それにしてもひどい。まったく知らなかったわけではないが、北朝鮮はシリアのアサド政権による兵器製造開発にも深く関わっていた。北朝鮮はシリアの虐殺の「共犯者と言って差し支えない」と本書は語るが、事実はそれ以外を意味しない。これに北朝鮮が形成した中国でのネットワークが関与している。それでも中露両国は国連捜査の妨害をする。
本書を読んで、絶句したのは台湾の関与である。日本では、中国への嫌悪感や対抗意識から台湾を賞賛する空気のようなものがあるが、北朝鮮の暗躍には台湾が大きな拠点になっていた。本書では「台湾というブラックホール」と称しているが、中国と台湾の関係が微妙であることから国連としては、台湾はアンタッチャブルになる。そこに北朝鮮はまんまとつけこんで暗躍拠点としていた。似たような状況がマレーシアである。金正男暗殺事件でもマレーシアと北朝鮮の関係がうかがい知れたが、マレーシアには北朝鮮利権のようなものがありそうだ。
他国ばかりではない。日本社会のなかにも北朝鮮の暗躍ネットワークがあり、日本人もそれに関連している。単に「関連している」にとどまらないほどの指令拠点になっている。日本政府は何をしていたのだろうかと改めて疑問に思える。が、その一端として霞が関の鈍感さについても書かれている。それと明示はしてないものの、その他の日本での暗躍が察せされる部分もある。なにもかもがひどい。
本書を読みながら、これでもかこれでもかというほどの北朝鮮の暗躍の実態を知ると、まさに国連制裁が現実には機能していないことがわかるし、だからこそ、北朝鮮は国際社会から孤立しているとされながら、原爆やミサイル開発ができたこともわかる。
「おわりに」では、著者が国連活動で得た情報をもとに、日本国内での北朝鮮制裁漏れについて、首相官邸で安倍政権高官と対談する挿話がある。高官は事態を理解したものの、その後の対応が気になるところだ。
残念ながら、その後、安倍政権は、大阪市の学校法人森友学園による国の補助金不正受給事件や、政府の国家戦略特区制度を活用した学校法人による獣医学部新設計画をめぐる問題などへの対応に追われることとなった。山本議員が継続して働きかけてくれたが、官邸はそれどころではない様子だった――
モリカケ問題が重要だという人がいるのはわかるが、それで官邸のリソースが削がれていく状況を知ると、なんとかならないものかとしみじみ思う。
ここで本書の結語を引用したい気持ちなる。が、あえて避けたい。そこだけ読んで、本書に込められた悲願とでもいうものが矮小化されてはならない。450ページを超える大著。延々と続く迷路のような北朝鮮の暗躍を読み、へとへとになるこの読書の体験こそ、本書の価値であろう。安易な怒りや、安易なスローガンでまとめてはいけないものだ。下っ腹にいっぱつどすんとくらうくらい、この本を読んで落ち込まなければ、問題の重要性はたぶん伝わらない。
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