都議選は数字上は革命的な結果になりそうだが
今回の都議会選挙の目玉は、知事支援の小池新党とも言える「都民ファーストの会」(以降、都民ファースト)という新しい地域政党の出現だろう。そこで、この党について3つの問いから考えてみたいと思っていた。と、過去形で書くのは、当初この記事はポリタスへ記事としたかったのだが、状況の見極めと、自分の考えをまとめるのに間に合わず、今日の選挙日を迎えた。
とりあえず、その3点だが。
① 都民ファーストは勝つのか?
② 都民ファーストとは何か?
③ 都民ファーストが勝つことで何が起きるのか?
都民ファーストは勝つのか?
まず、「勝つ」を定義しておかなくてはならない。基本的は、議会において同党の主張が優位を保てる過半数を超える状態にもっていけることだ。都議会定数が127なので、同党とその連携政党でその過半数を超える64名の当選が、ゆえに「勝つ」ということになる。
前提となるのは、都民ファーストの立候補者は50人と同党推薦の無所属候補11人を加えると都民ファースト系の61人の候補者である。この全員が当選しても、単独ではわずかに64人に届かない。残りは、小池都知事の支援の公明党が当たることになる。
都民ファーストは表向き自民党と対立しているので、この局面では自民党との連携は現状ではとりあえず含めないでよいだろう。
まとめると、都民ファースト系61人の立候補者と公明党の23人の候補者、計84人から、64人の当選者があればよいことになる。
公明党候補数23は前回から変わらず、また同党は組織票が強く、都議選では30年近く落選者を出していないこと、また都民ファーストと協調していることから、23人が当選する可能性は高い。あるいは中選挙区で2人候補者を立てたところで弱いほうが仮に負けても21人は当選するだろう。これを換算すると、都民ファーストが「勝つ」ためには同党系で43人の当選が必要になる。可能だろうか?
当初のこの記事の原型を書いている時点(6月29日だった)の報道では可能だと見られている。それどこから、43人をかなり上回ると見られている。6月28日付け時事通信『小池氏勢力過半数の勢い=自民、逆風で苦戦-都議選終盤情勢』によれば、「公明党など知事の支持勢力を合わせて都議会定数127の過半数の64議席を確保する勢いだ」であり、また「15カ所の2人区では、公認と推薦の2人を擁立した選挙区で議席を独占する所が出そうだ」ともある。
実現するなら、ほとんど革命的な事態になることは、改選前議席と比べてもわかるだろう。改選前議席(欠員1)は、自民57、公明22、共産17、民進7、都民ファースト6、生活者ネット3、維新1、無所属13である。
世論調査に基づく、時事通信報道をむやみに疑うというものではないが、そこまでの地滑り的な大勝利についてはあまり実感はなかったので、当初原稿の時点で、少し票読みをしてみた。
まず、前回どおりの都議会選の傾向が続くと仮定し、具体的に3つの仮定を置いて、なるべくその仮定に従って推定してみた。仮定は、①組織票は、公明党、自民党、共産党、民進党の順に強いとする、②都民ファーストについては現職でであれば強いとし、③当落線にある場合は勢いはあるとしても基本的に組織力のない無所属候補の集まり、と見た。これらのことから、中選挙区的な地域の2候補は共倒れと想定した。
これだけの仮定からできるだけ主観を排して各選挙区ごと想定して集計すると、自民53、公明23、民進20、共産15、都民10、東京3、無所2、維新1となり、前回と比べ民進が延びるほかはあまり大きな変化はないことになった。
当然、これはメディアの予想とだいぶ違うし、自分でも仮定が間違っているように思えたので、今度は別の仮定をしてみた。仮定は、①当落線では都民ファーストが取る、②都民ファーストに食われる票は、民進党、自民党、共産党の順としてみた(公明党は食われない)。③都民ファースト推薦者である都民ファースト系の無所属は都民ファーストと同じ扱いにした。つまり、都民ファーストが最大限優勢になる仮定である。
すると、この推定で自分でも驚いたのだが、都民47、都民系6、自民40、公明23、共産9、民進2となった。これもまた仮定ではあるし、先の推定と違い過ぎるのだが、これに近いことが起こりそうには思えた。
こうしたことが起こるとすれば、ほとんど革命的な事態とも言えるし、他方、かつても自公の多数で知事を支えていたという構造で見るなら、かつての自民党が都民ファーストに入れ代わるというくらいの差しかないとも言える。
都民ファーストが最大限優勢になる仮定をし、また民進党がほぼ都議で壊滅しそうな推定をしたのは、すでに少なからぬ民進党員が都民ファーストに逃げ出していて、それだけで民進党の組織力は低下し、また反自民という構造の受け皿が都民ファーストに取られるだろうからである。共産党についても、壊滅とまではいないもの惨敗としたのは、この仮定、つまり都民ファーストの対応で予想されるのは、対自民党では対立の構図を打ち出せても、対都民ファーストでは対立の構図が打ち出せない、ということもあるだろうからである。共産が延びるためには明確に都民ファーストを攻撃すべきだった。
あと、実はこれを書いているのは私自身投票を済ませたあとだが、投票所で候補者に「都民ファースト」と書いてあるだけでなにか新しい訴求力があるものだと感じられた。
都民ファーストとは何か?
いずれにせよ、都民ファーストが都議選で、数の上では革命的な勝利をおさめる可能性がかなり高いのだが、振り返って、そもそも「都民ファースト」とは何かだが、4月時点の綱領案(参照)を見ると、冒頭はかなりシュールな代物である。その後別の正式綱領があるのかもしれないが、「宇宙から夜の地球を見た時、世界は大きな闇と、偏在する灯りの塊に見える。その灯りの塊の最も大きなものが、東京を中心とした輝きである」というものだ。具体的に近いものではこうある。
「東京大改革」とは、首都東京を、将来にわたって、経済・福祉・環境などあらゆる分野で持続可能な社会となりえるよう、新しい東京へと再構築すること。東京の魅力ある資産を磨き直し、国際競争力を向上させること。都民一人ひとりが活躍できる、安心できる社会にステージアップすることである。そのための大原則を「都民ファースト」「情報公開」「賢い支出(ワイズスペンディング)」とする。私たちが自らの名に「都民ファースト」を冠するのは、都政の第一目的は、都民の利益を最大化すること以外にないと考えるからである。一部の人間、集団の利益のために都政があってはならない。
私たちは、旧来の勢力に囚われている都政を解き放ち、躊躇なく東京を活性化し、行政力の強化を行う。区部のさらなる発展を図り、多摩・島嶼振興を積極的に推進することで、東京2020オリンピック・パラリンピック後も輝き続ける首都東京を創造していく。
抽象的な表現である、個々の都民が公平の活躍し安心できる社会、という修辞を除くと、基本線で、成長路線を取るのか、福祉優先路線を取るのか、の双方があいまいになっていて、ちょうど、築地市場の豊洲移転の問題と同じように双方をあいまいに肯定していることと同構造になっている。
ごく簡単に言えば、東京都の成長戦略のためには、成長を引っ張る部分を整理しなければならない。簡単な例では空き家問題などは、公権力を強めて整理しなければならない。他方、福祉優先であれば、特に深刻化する高齢者増加にどう対応するかが最大の課題になる。東京は人口減少はないものの、生産に関わらない高齢者が増加し、しかも貧困ラインで孤立した高齢者が増えていく。子育て部分の福祉は成長戦略とは矛盾しないものの、高齢者問題の対応は相反する部分があり、これらの相反は、東京といっても都市部と、非都市部の大きな差ともなっていく。
綱領については、今回の都議選でまとめられたホームページホームページ(参照)では、基本政策の7番で「健康・長寿を誇る都市、東京へ」また6番で「命を守る、頼れる東京」ともあるが、やはり基本的に、成長と福祉のどちらも取りたいとして、相反する部分が政策として練り込まれていないように受け取れる。
まとめると、都民ファーストには、実際にはどのような都政を導くかという理念はないようだし、おそらく期待できない。典型的なポピュリズム政党であろう。
また、都議選に関連した都民ファーストのホームページの主題は、従来の都議の非効率性である。つまり、当面の敵は自民党である(実際には共闘の公明党を含むはずなのだが)。
実際のところ、皮肉なことなのだが、これまでの都政は都議が非効率であるがゆえに、医療体制などの整備で顕著だが、その官僚機構が自律的に機能してきた面がある。
こうした点をまとめると、都議会の非効率性の指摘はもっともだとしても、結果的には合理的な行政はなされてきたし、そもそも、こうした側面の専門性において、都議会議員の知識は十分にないだろう。
都民ファーストが勝つことで何が起きるのか?
首長を支える与党議会という構図自体は変わらない。また、この構図で重要な位置を持ってきた公明党の存在意義も変わらない。
では、何が変わるのかというと、かつて公明党が組んでいた自民党が都民ファーストに変わったということで、その都民ファーストにかつての民進党員が逃げ出しているように、かつての民進党・民主党に近い政策が実施され、他方、利権的な構造にあったかつての自民党のような傾向は弱まるだろう。
また、実際的な案件では、直接的な自民党の利害の関連がなければ、自民党と都民ファーストとの差違は目立たないだろう。
結局、どうなのか?
都民ファースト主導の都議会および都政はどうなるかだが、すでに築地市場の豊洲移転で明らかなように、相反する政治課題に責任を持って挑むというより、ポピュリズム的な空気の流れで、あたかも生産性の低い企業の意味のない長会議のようなものが続いていく反面、実務の官僚機構はそのまま温存されるのではないだろうか。
本当はどうしたらよかったの?
東京は多くのリスクを抱えているので、そのリスク・シナリオのなかで都がどう対応するか、そうしたリスク・シナリオをメディアが各党派に投げかけて、政策の妥当性を検討すればよかっただろう。そうした過程で、本当に都政に問われるものが見えてきただろうから。その面では、メディアもまたポピュリズムに流されてしまった。
開票の詳細は深夜にもつれ込むだろうが、この記事の24時間後には結果は出ている。そのあたりを見て、またいろいろ考え直してみたいという意味もあって、この記事はこれでブログに記しておきたい。
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- 歴史が忘れていくもの(2018.07.07)
- 「3Dプリンターわいせつデータをメール頒布」逮捕、雑感(2014.07.15)
- 三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言をめぐって(2018.02.13)
- 2018年、名護市長選で思ったこと(2018.02.05)
- カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと(2018.01.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
都民の意識が変わるきっかけになるだけでも、いいと思う。で、より、区議会が重要になってほし。
投稿: | 2017.07.02 18:23