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2017.04.11

トランプ政権のシリア空爆をどう見るか?

 トランプ政権によるシリア空爆をどう見るか? たぶん、こういう見方が出るんだろうなという見方が、ダイヤモンドオンラインに掲載されていたのをたまたま見かけた。軍事ジャーナリスト・田岡俊次による「米シリア攻撃の大義名分「化学兵器使用」は本当にあったか」(参照)である。その論点の1つは、「シリアが化学兵器を使ったとは思えない」ということで、その理由が「いくつか」示されている。
 問題提示としては、「アサド政権が化学兵器使用したのか?」として理解できる。だが、そうすると、「アサド政権なのか?」という疑問と「サリン等の神経ガスか?」という疑問が重なる。同議論では、後者についてはあまり触れず、前者については「旧ヌスラ戦線の「自作自演説」や、シリア軍の航空攻撃の際の「飛散説」の方が可能性は高いと思われる」としている。その上で同議論は、2003年のイラク攻撃と同様に国連安保理の決議もなく進めた軍事行動であり、背景にはトランプ大統領の困難な政局打開の意図があるだろうとしている。
 私の考えは重なる点もあるが少し異なる点もあるのでブログに書いておきたい。まず、今回の軍事行動がトランプ政権の政局打開だったとする説には与しない。むしろ、オバマ政権におけるレッドライン政策の本来の継続だったと見るほうが妥当だろう。オバマ米大統領は2012年8月の二期大統領選挙キャンペーンでシリアの化学兵器使用がレッドラインだと公約しておきながら、2013年8月にアサド政権による化学兵器使用の疑惑(サリンなど規定された化学兵器であるかは疑問だが数百人規模の死者が出たと見られる)が出た際、その9月のストックホルムでの記者会見で「レッドラインを設定したのは私ではなく国際社会だ」と責任回避した。端的に言えば嘘つきとしかいいようがないが、問題は西側を率いる軍事大国のオバマ政権がシリア問題に傍観を決め込むことでこの地域における大きなパワーの不在が自明となってしまったことだ。その結果シリアへのロシアとイランの介入が深まり、また2014年にはシリア北部ラッカを首都としカリフ制を宣言するイスラム国(IS)が誕生した(参照)。
 なお、トランプ政権の政局の行き詰まりで注視されるのは、トランプ政権内での右派勢力として懸念されていたスティーブン・バノン大統領上級顧問・首席戦略官が国家安全保障会議の閣僚級委員会常任メンバーから外されたことだ。いわゆるトランプ政権の右傾化が今回のシリア空爆に結びついたわけではない。むしろ、バノン顧問はアメリカ第一主義からシリア空爆に反対していた。こうした経緯からも、今回の空爆はトランプ政権内の主導というより、米国の軍事戦略の一貫性によると見てよいだろう。
 他方、2013年の化学兵器使用の疑惑をきっかけに、ロシアが主導してシリア内の化学兵器の廃棄を進めた。この結果について、化学兵器禁止機関はアサド政権の化学兵器はすべて廃棄されたとした。だが今回、トランプ政権のティラーソン国務長官は、廃棄の疑念ではなく、ロシアによる化学兵器管理を責めている(参照)。対してロシア側の説明としては、反政府勢力用の化学兵器貯蔵施設がシリア軍機に爆撃されて薬品が漏れたとのこと。合理的に考えればロシアの説明は整合的ではあるように思われるし、直接的にはアサド政権の関与とも見えない。だが、間接的な関与までは否定できない。また後で触れるBBC記事でもロシアは前もって化学兵器攻撃を知っていたとしている。
 いずれにせよ、シリア政府軍は1万人規模のロシア軍とイラン革命防衛隊と行動を共にしているので(参照)、国連体制としては、シリアへのロシア管理が甘かったということは確かであり、オバマ元米大統領が言い直したように国際社会が設定したレッドラインの管理もまたロシアの責務にあるとは言えるだろう。
 今回の問題は空爆の是非にも関わってくる。先のダイヤモンドオンライン記事では、次のような議論が展開されている。


 攻撃は米国の自衛行動ではなく、国連安全保障理事会の決議によるものでもないから「侵略行為」に当たると考えられる。トランプ大統領は、シリア空軍が4日に同国北西部、イドリブ県のハンシャイフン市に籠る反政府武装勢力「シャーム解放委員会」(元「ヌスラ戦線、アルカイダ所属)の部隊を攻撃した際、「恐ろしい化学兵器で罪のない市民を攻撃した」と述べた。だが仮にそうだったとしても米国が報復攻撃をする法的根拠はない。そもそもが本当にシリア軍が攻撃に化学兵器を使ったのか、疑問の余地が大きいのだ。

 議論は概ね正しい。まず、国連憲章42条に関わる「国連安全保障理事会の決議によるものでもない」は正しい。と同時にこの問題は、イラク戦争の是非とも関わってくる。また安保理決議を不要とする51条に関わる「米国の自衛行動ではなく」という点も表面的には正しいが、これについては国際的に禁止されている化学兵器の拡散は各国の自衛権に関わるものだとする議論もある。実際のところこれが当初のオバマ元米国大統領によるレッドライン論であった。
 その場合、化学兵器の拡散を阻止することと今回の空爆の関連性は問われることになる。簡単な話、米国が空爆すると化学兵器拡散が収まるのだろうか? この関連については、BBCが今回の空爆によってシリアの軍事作戦用航空機の20%が破壊されたと報道している(参照)。このことから逆に考えていくと、そもそもトランプ政権はシリアの空爆能力を削ぐことに関心があり、そのきっかけとしてオバマ政権が放置したレッドライン論を採用したと見てよいだろう。なお、今回の空爆では事前にロシアに通知されているので、シリア内にいるロシア兵の死者はない(参照)。
 今後の動向だが、一番気になるのは、狂犬・マティス米国防長官の指揮である。あるべきイラク戦争が再現されるかもしれない。あと、今回の空爆で蛇足的な印象を述べると、これって誰得?と考えると、どうにもサウジアラビアのように思えてならないのが奇妙である。
 

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