朝鮮有事の可能性について
あまり国内での議論に目をとおしていないので突飛な意見になるかもしれないが、これまでのこのブログでの延長的な課題でもあるので、現下の朝鮮有事の可能性について印象程度の話だが触れておきたい。
端的に朝鮮有事はありうるかというと、まず、ないと断言できる要素はない。むしろ断言できないということが確実だろう。表面的な対立の構図は北朝鮮対米国である。ここで最終的な、軍事的な選択は排除されない。ではその場合、どのような有事となるのか。3つあるだろう。
1つめは、北朝鮮のミサイルや核兵器関連とみられる施設を奇襲空爆することである。10年前になるがシリアに対してイスラエルが実行した(参照)こともあり異常な作戦とも言えないが、現状の対北朝鮮となると規模は拡大するだろう。この議論については、3月24日付けのロイター「コラム:トランプ大統領、北朝鮮に「禁断のカード」切るか」(参照)にくわしい。
2つめは米軍が韓国に核兵器を持ち込み、朝鮮半島を核化することである。いわば、ミニ冷戦を朝鮮半島に展開することだ。この可能性は少ないが、後述するように別の旨味がある。
3つめは、斬首作戦である。トランプ米大統領によって金正恩は、オバマ元米国大統領にとってのウサマ・ビンラディンと同じである。これも先のロイターの記事にある。ロイターとしては、北朝鮮の防空網を破ってヘリで部隊を送り込むのは困難であり、さらに、金正恩は警護も厚いとしている。
日本の空気では戦争というと日本を巻き込んだ過去の戦争のイメージが強いため、当初から黙示録的な呪縛に陥りがちで、1点目の動向に魅惑されやすい。だが、現段階では2点目と3点目の動向のほうが強いことは、7日のNBC報道「Trump’s Options for North Korea Include Placing Nukes in South Korea」(参照)で明らかになっている。いわく、「including putting American nukes in South Korea or killing dictator Kim Jong-un(米国核の韓国導入や独裁者・金正恩殺害を含めて)」である。
私の考えでは、2点目の選択をもっとも嫌うのが中国なので、このオプションが中国に出された時点で中国は大きく譲歩し、結果、中国は暗黙裡に3点目の金正恩の斬首作戦に合意する可能性が高い。
この中国側の動向は、中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』の、とりあえず国際版(「とりあえず」としたのはけっこう斜め上の議論が多いため)といえる環球時報今日付け社説「社评:朝鲜会不会成为“下一个叙利亚”」(参照)の主旨から察せられる。同記事は9日付けの英訳もあり(参照)、英紙ガーディアン(参照)も取り上げている。なお、ここにガーディアンらしい見解はない。この点についていえば、西側リベラル報道はすでにこの問題について陥落しているに等しい。
では斬首作戦は実行されるか? 冒頭に戻るが、ないと断言できないということが確実である、としか言えない。ただ、オバマ元米国大統領が実施したウサマ・ビンラディンの暗殺のように斬首作戦は基本的に静かに遂行させるものだから、原子力空母カール・ビンソンを中心とする第1空母打撃群を動かすなど、現下のようなど派手な軍事パフォーマンスはデモンストレーションと見るべきであり、それに金正恩もよく応答している。この点ではあきらかに彼はコミュ障とは言えない。あとは中国がこの独裁者とのコミュニケーションに介入してくれればいいのだが、そこはうまく行っていないというか、中国としてもそこの主体性は取りたくない。文化的な点での話として中国人政治家は自分の弱みとなる可能性に触れたがらないのである。
目先の注目点は、15日の金日成主席生誕記念日とそれを目指した平壌の新都市「黎明通り」造成工事完成を祝って第6回目の核実験を行うかである。これが実施されたら、米国もここまで駒を進めた手前なんらかの手を動かさなければならない。その手がトランプ政権のなかでどのように練られているかだが、わからない。案外、規模の拡大を抑えた形での、オペラ作戦(参照)のような核施設への空爆もあるかもしれないなとは思う。
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