それは何のニュースだったのだろう?
昨年の大晦日にあたる12月31日の午後0時55分頃、横須賀市小川町2丁目の立体駐車場「サイカヤパーキング」で、ワゴン車が5階から下の道路に転落した。17時の神奈川県新聞の速報の時点では、50代男性と40代女性、70代女性の3人が死亡し、10代とみられる男性2人が重傷を負っていた(参照)。速報としては、安全であるはずの駐車場で3人もの死者を出したことがニュースの価値だったとは言える。しかし速報以降でこのニュースをとらえ直すと、いったいそれは何のニュースだったのだろうか気になった。例えば、この立体駐車場の欠陥だったのか、運転手のミスなのか(ミスでこれだけの事故が起こりえるのか)、あるいは、死者もあるなか10代の子供が生き延びたことに焦点を当てることもできる。どうだったか?
19時時点のNHK報道を振り返ってみたい。「立体駐車場から車転落 40~80代男女3人死亡 2人大けが」(参照)より。
31日午後1時前、横須賀市小川町にある立体駐車場、「サイカヤパーキング」の5階から車が転落したという通報が消防や警察にありました。警察によりますと、転落した乗用車には5人の家族が乗っていて、このうち、東京・世田谷区に住む廼島和彦さん(56)と妻の晶子さん(46)、和彦さんの母親で別の場所に住む、弘子さん(81)の3人が、病院へ運ばれましたが死亡しました。このほか、廼島さんの10代の息子2人も大けがをして病院で手当てを受けているということです。
この事故で道路を歩いていた人などにけがはありませんでした。
警察によりますと、乗用車はバックをして、高さ60センチある鉄製の転落防止用柵を倒しながら乗り越えたあと、フェンスごと地面に転落したと見られています。
警察は乗用車が勢いがついた状態で柵やフェンスに突っ込んだと見て、事故の詳しい原因を調べています。
現場は京浜急行の横須賀中央駅から800メートルほど離れた、市役所などが建ち並ぶ市の中心部にある立体駐車場です。
立体駐車場5階の柵 外側に大きくゆがむ
NHKのヘリコプターから撮影した映像では、事故現場の立体駐車場は5階に設置された柵が外側に向かって大きくゆがんでいる様子が確認できます。また、駐車場の下の道路には屋根が潰れた状態の車があり、周囲にはものが散乱していて、救急隊員とみられる人たちが作業にあたっている様子も写っています。「車から小さい男の子を救出」
事故を目撃した男性は、「雷が落ちたようなすごい音がして、見たら5階のフェンスが落ちて、すぐに車が落ちてきた。中で男の子が痛い痛いと言っていたので、人が集まってきて、その子を出してあげた。アメリカ兵も集まり、ひっくり返った車体を持ち上げて、中にいた人を出した」と話していました。また、救助にあたった男性は、「アメリカ兵が来てくれて全部で10人ぐらいで車体をひっくり返してようやく助け出した。小さい男の子を車から出したときに、お父さんとお母さん、お兄ちゃんが中にいると言っていた」と話していました。
立体駐車場の事故 過去にも
車が立体駐車場のフェンスを突き破って転落する事故は、これまでも繰り返し起きています。平成26年12月には、東京・府中市にある卸売市場の立体駐車場で乗用車が3階の屋上部分から地上に転落し、運転していた67歳の女性が死亡しました。車を後ろ向きに駐車しようとしたところ、フェンスを突き破って転落したと見られています。平成22年には大阪・八尾市で乗用車がデパートの立体駐車場の4階から転落し、乗っていた男性2人が死亡しました。乗用車は駐車場の車止めを乗り越え、さらに高さ1.3メートルの鉄製のさくを突き破って転落しました。
平成18年には山口県下関市の商業施設の立体駐車場でらせん状の通路から乗用車が転落し、乗っていた60代から70代の男女4人全員が死亡しました。通路には高さ2メートルのフェンスがありましたが、車はこれを突き破って転落しました。
いくつか興味深い点が指摘されている。まず重要なのは、この時点では原因は不明であったということだ。
二点目は、子供の救助に最初に関わったのが米兵かどうかはこの時点でのNHKニュースからはわからないが、救出の要となったのは米兵を含めた10人ほどだったということは言えそうだということ。
三点目は、立体駐車場からの転落事故はこれまでも繰り返されていて、安全対策に構造的な欠陥がありそうに思えることだ。
さて、続報はどうか。NHKでは1日4時で「立体駐車場から車転落 運転操作誤ったか」という報道で「警察は車を止めようとした際に操作を誤ったことが事故の原因ではないかと見て、誰が運転していたのかなどさらに詳しく調べています」としている。2日には目立った報道はなし。3日には神奈川新聞「立体駐車場入庫直後に車転落か 横須賀市の家族5人死傷事故」(参照)で警察による「駐車する際にアクセルとブレーキを踏み間違えた可能性」について言及しているが、基本的に新しい情報とも言えない。原因は不明である。
第一点目の原因解明が重要なのは、第三点目の構造的な問題に関連するためだ。その意味で、報道機関がこの点(立体駐車場の安全性と規制)をどのように今後追っていくのか、市民の側から関心を持ち続ける必要がある。
さて、今回の事件で奇妙に思えたのは、二点目の米兵による救助活動である。単純になぜその現場に米兵がまとまっていたのか。普通の連想では、横須賀には米軍基地があるからだろう、ということになるが、あくまで連想でしかない。横田にも米軍基地があるが福生駅前に米兵が目立つというわけでもない。沖縄の基地近い街でもそう米兵が多いという印象はなかった。今回それだけ米兵が多いならおそらく事故現場は米軍基地のかなり近隣であったに違いない。気になって調べてみたらそうだった。
現場は地図では横須賀基地まで250メートルくらいに見える。この程度の距離であれば、現場付近に米兵がたむろっていたのも自然だし、米兵が救助に駆けつけたと考えてもよいように思える。
この点について毎日新聞の報道「家族3人死亡、2人重傷 神奈川の立体駐車場」(参照)ではもう少し詳細を伺わせる証言がある。
現場にいた男性によると、事故直後に通行人5、6人が車両を起こそうとしたが動かず、駆け付けた米兵が手伝って十数人で車を起こし、ドアの隙間(すきま)から1人ずつ救助したという。男性は「今までに聞いたことのない、表現できないような大きな音がした。若い男性は体をけいれんさせ、高齢の女性は『痛い、痛い』とうなっていた。そのうちに消防が来た」と話した。
この証言が事実なら、事故直後通行人5、6人が車両を起こそうとしたが動かないという状態のあと、十人近い米兵が駆けつけて車体を力づくで起こし、彼らが主体になって救助にあたったことになる。
私の疑問は、後からまとまった米兵が駆けつけたというなら、その前に誰かが目先の米軍基地に援助を求めたということはないだろうか?ということだ。
ここで奇妙なことに気がつく。その疑問を持つ報道は、ざっと調べたところ見当たらないことだ。
地方紙として比較的詳しい報道している神奈川新聞の1日の報道「ワゴン車転落3人死亡 駐車場5階から帰省一家」(参照)では、米兵について、「駆け付けた周辺住民や米海軍横須賀基地の関係者らが車体を起こし」とした言及はあるが、NHK報道あった10人規模の救助についての言及はあいまいになっている。また、現場については、「現場は京急線横須賀中央駅から約500メートル離れた市街地の一角。立体駐車場は地上8階建てで、地下2階と屋上にも駐車スペースがある」として次のように、近隣の横須賀基地を含めない地図を掲載している(実は敷地の端が含まれているが名称の記載はない)。神奈川新聞の視点としては、「京急線横須賀中央駅から約500メートル離れた市街地の一角」が重要だとしたのだろう。
私の疑問点は今後の報道で明らかになるだろうか。わからない。ありがちなツッコミが入りそうだが、そもそもそんな疑問はあまり意味はないのかもしれない。
それでも、救助の主役を担ったのが横須賀基地の米兵であったことには変わりない。そうであれば、誰かが彼らの救助に感謝の意を示すことになる。(さて、要らない懸念だろうが、もし感謝を彼らが受け取ることがないなら、日本の一市民として小さく感謝の意を小さなブログで述べておきたい。)
追記(2017/1/16)
米兵を含めて感謝があった。
本日、昨年の大晦日に発生した自動車転落事故で、救助活動を行った米海兵隊員4名と米海軍兵2名は、一緒に救助活動を行った日本人男性(実際には3名)と共に、横須賀市より感謝状を授与されるという栄誉にあずかりました。 https://t.co/DIgZWTvzO3
— 在日米海軍司令部 (@CNFJ) 2017年1月16日
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