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2017.01.31

トランプ米大統領提起のシリア安全地帯、雑感

 トランプ大統領による、7か国(イラン、イラク、シリア、イエメン、リビア、ソマリア、スーダン)からの90日間限定の入国禁止措置大統領令で大混乱が起きている。あまりに異常な権力濫用であることは、米司法省サリー・イェイツ長官代理が大統領令に従わないよう同省に通知したことでもわかる。
 なぜこのような事態になったのかだが、1つには単純に公約を実現したということだ。これが一番目の解になる。続く疑問は、これを実行すれば混乱するのがわかりきったなかでなぜやったかだ。1つにはトランプ大統領がバカだからというのがその一番目の解になる。トランプ自身はテロリストを準備させないためだととか言っているが、単純な話、国家機構を新政権が掌握できていなかったためだろう。ただし、企業経営の場合、大組織を掌握しきれない新トップがあえて強権を振るってリストラをすることがあるが、そうした手法を真似たのかもしれない。
 いずれにせよ、この大統領令がバカげているのは、現状、混乱話題の枠組みは信教の自由や人権問題になりがちだが、合理的に考えてテロ対策にほとんど寄与しないことだ。これらの禁止措置国が過去にテロを起こした事例は少ない。テロはホーム・グロウンが多い。また、7か国にはサウジアラビアやエジプト、トルコなども含まれていない。ところで、なぜこの7か国なのかというと、実はオバマ政権の奇妙な置き土産でもあった(参照)というのがアイロニカルである。
 この大統領令だが、実際上の焦点は、テロよりも、120日凍結される難民受け入れのほうだろう。単純にいえば、欧州連合(EU)が作成した難民フェンスと同機能のものを米国に作ろうとしている。さらに言えば、直接的にはシリア難民受け入れの排除だろう。
 興味深いのは、現在のトランプ馬鹿騒ぎをシリア問題に焦点を当ててみると、それなりに明確な筋書きが見えてきていることだ。簡単に言えば、シリア内乱の敗戦処理である。
 ただし、この筋は西側報道からはわかりにくい。
 日本語の報道がないわけではない。NHK「トランプ大統領 シリアに難民の安全地帯を」(参照)より。


アメリカのトランプ大統領は29日、中東で同盟関係にあるサウジアラビアのサルマン国王、そして、UAE=アラブ首長国連邦のアブダビ首長国のムハンマド皇太子とそれぞれ電話で会談しました。

ホワイトハウスによりますと、このうち、サウジアラビアのサルマン国王との会談では、イスラム過激派によるテロへの対策で協力を強化することで一致したということです。

そのうえで、トランプ大統領は、内戦が続くシリアとイエメンの国内に難民が避難できる「安全地帯」を設けることに協力を求め、サルマン国王も支持する考えを示したとしています。

シリアに「安全地帯」を設けるという案について、オバマ前大統領は実現は困難だとしていましたが、トランプ大統領は繰り返し意欲を示す一方で、アメリカ軍がどのような役割を担うのかなど、具体的な方法については明らかにしていません。

さらに、両首脳は、サウジアラビアと対立するイランについて、核開発や中東を不安定化させる行動への警戒を強めていくことで一致しました。

一方、サウジアラビアとUAEは、トランプ大統領が大統領令によって入国を一時停止した国には入っておらず、今回の会談でこの措置をめぐって意見が交わされたかどうかは明らかにしていません。


 NHKを責めるわけではないが、わかりやすそうでわかりにくい報道である。
 まず、なぜこれがニュースなのか、というと、シリア内戦に米国大統領が関与したということだが、より重要な背景構造は、シリア内戦が実際にはサウジとイランの代理戦争であるということだ(参照)。つまり、トランプ大統領はその一方に事実上終戦への道を飲ませたことになる。
 この筋で見れば、他方のイランに誰がどう妥協を飲ませたかが重要になる。NHK報道にはその文脈はない。
 日経報道を見るとその文脈が多少見える。「トランプ氏「シリアに安全地帯を」 避難民居住」(参照)より。

【ワシントン=川合智之】トランプ米大統領は29日、サウジアラビアのサルマン国王と電話で協議し、テロとの戦いで協力を強化することが重要だとの認識で一致した。トランプ氏はシリアやイエメンで避難民が住む「安全地帯」を創設することを提案、サルマン氏は計画を支援する考えを示した。イラン核合意の厳格な実行が重要だということでも合意した。

 トランプ氏はアラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国のムハンマド皇太子とも電話協議し、安全地帯への支援を取りつけた。安全地帯は過激派組織「イスラム国」(IS)などを排除して避難民の安全を確保する地域。オバマ前政権は軍事勢力を排除するために「大軍が必要になる」と懐疑的だった。

 イラン核合意では、トランプ氏は合意の破棄を公約していたが、イランの核開発を強く懸念するサウジ側に配慮した可能性がある。


 日経報道では、サウジが求めるイラン核合意をトランプ大統領が公約を曲げてまで配慮したというのである。
 そうだろうか。これに関連する産経報道も面白い。産経「イラン核合意撤回に孤立リスク サウジとの電話会談でトランプ氏判断か」(参照)より。

 一方、米国の重要同盟国であるサウジは、イランに核開発の余地を残しているとして、核合意には懐疑的な立場をとってきた。電話会談で両首脳が、「合意の厳格な履行」が重要だとしたのは、イランの核開発に対する監視の目を強めるべきだとの意思表示にほかならない。

 なんとなく筋が通っているようでいて、よくわからない。
 基本線では、サウジは、オバマ前大統領が進めてきたイランの核合意に疑念を持っているわけだから、トランプ大統領の口約束でどうとなるものではないはずだ。
 陰謀論を語りたいわけではないが、これらの枠組みのもう一つの重要な要素は、当然ロシアなのである。
 さらに背景を見直してみる。
 今回トランプ大統領からサウジに提起されたかに見えるシリア難民の安全地帯構想だが、オバマ前米政権は実質的には反対の立場だった。理由は大きく2つあり、1つはシリアに米軍の関与を必要とすること、2つめはロシアと対立を深めることだった。1点目については、今回のトランプ大統領のサウジ電話会談ですでに懸念する声もある。
 問題のキーはロシア側から見るほうがわかりやすい。ロシア・トゥデイ「Lavrov: Syria ‘safe zones’ possible if Damascus agrees」(参照)を読むと、表題からもわかるように、アサド政権の承認があればロシアは安全地帯を支援するというのである。実際のところは、ロシアがアサド政権を支えているのだから、米国がアサド政権を認めればいいということだ。つまり米国がシリア内戦関与での敗戦処理を行う手順が示されたのである。
 以下は推測。おそらく、トランプ政権はロシアチャネルでアサド政権の承認を認め、その上で米国がサウジをまるめ、ロシアがイランを黙らせる、プラス、ロシアがメンツをかけた疑惑の核合意を米国が飲め、ということなのだろう。
 ここでもう一言付け加えるべきかためらうが、これでシリアに安全地帯ができたら、私たち西側諸国もロシアのプーチン大統領と同じく、シリアでの虐殺についての隠れた加害者となるのだろう。

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2017.01.13

レックス・ティラーソン次期国務長官がもたらしうる暗い世界

 さて、このブログ記事にどういうタイトルを付けるべきなのか、少し考えてみたのだがまとまらない。表題だけで読んだ気になる人の関心を引きたくはないし、かと言って、読む人には伝えたい。何を伝えたいのか? トランプ次期米大統領が国務長官に使命するレックス・ティラーソン氏がもたらしうる危機と言っていいだろうか。あるいは、その危機はすでにオバマ政権時代に必然的にレールが敷かれていたと言っていいのだろうか。
 レックス・ティラーソン氏って、誰? 11日に公聴会があったが、すでに書いたようにトランプ次期米大統領が使命する国務長官である。日本で言ったら外務大臣である。ようするに米国の外交をこの人が担うようになるし、世界の動向に大きな影響をもたらすことになる。
 どういう人かというと、エクソン・モービルCEOだった人である。現下における報道としてはWSJ「ティラーソン氏公聴会 5つの重要ポイント」(参考)が詳しい。
 重要なのは、2011年にロシア国営石油会社ロスネフチと事業歴史的合意を結び、ロシア国内および北極圏の原油・天然ガス開発ビジネスに道を開こうとしたが、2014年の対露制裁でこの頓挫したことだ。簡単に言えば、オバマ政権が潰した。これがトランプ政権で恐らく復活に近い方向に進むことになるだろう。
 陰謀論みたいな話をしたいわけではないので誤読しないでほしいのだが、トランプ政権とロシア・エネルギー・ビジネスの関連は昨年の春頃からある。トランプ氏はこの時点で外交政策顧問としてエネルギー業界コンサルタントのカーター・ペイジ氏を採用しているが、彼もコンサル以前には米投資銀行メリルリンチ社員としてロシアでエネルギー分野で働いていた。いずれにせよ、トランプ政権が見え出すころから、ロシア・エネルギー・ビジネスの影が付きまとっていたことは事実である。
 この動向が、ロシア・エネルギー・ビジネスに関わる一派の問題に限定されないというのがやっかいな問題になる。
 一番の前提は、北極圏のエネルギーがどうやら膨大であることがわかってきていることだ(参考)。二番目には、地球温暖化で北極海航路が開けることだ。
 この二点のメリットを一番受けやすいのは、実はこの航路からみてもわかるが日本であり、日本の対露外交に関連している。同時に、この航路は米国にも影響する。さらにこの航路は北方領土に関連しているし、この軍事的な意味合いも影響を受ける。
 メリットは同時にデメリットの可能性でもあり、まさにティラーソン氏が基軸となっていたロスネフチとエクソンモービルによる提携は北極海からメキシコ湾までカバーするもので日本のエネルギー戦略に不利になりえるものだった(参考)。
 こうした文脈で見ると、あたかも米国が今後北極圏のエネルギーに依存するかのような印象を与えるかもしれないが、実は米国自身がサウジアラビアやロシアに匹敵するエネルギー産出国に変わる(参考)。
 では米国は自国のエネルギーで十分なのではないかということになるが、現在世界のグローバル資本は、エネルギーがコモディティであることの基盤の上に、まさに全世界の資本主義活動の上澄みを吸い取ることで成り立っているので、米国としては、こうした動向(北極圏エネルギーの重視)を取るしかないということがある。
 話が込み入ってきたが、波及が2つある。1つ目はわかりやすい地球温暖化の話で、いわゆるリベラル派のガーディアン紙(参考)や朝日新聞など(参考)がこうした基調に飛びつきやすい。
 問題はむしろ、相対的にこれまで世界の原油を支えてきた中近東なかでもサウジアラビアへの米国関与が弱体することだ。この地域の秩序がさらに崩壊する。これがオバマ政権下ですでに進行していたことだった。
 オバマ政権は、実質イランとサウジアラビアの代理戦争であるシリア内戦に無関心だった。関与については、ドローンによる殺戮を強化するくらいだった。映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』は英国映画だが、この主題が問われるのはオバマさんでしょう。
 いずれにせよ、この動向がさらに進展していくだろうし、むしろ現在のシリア情勢がロシアの関与によってもっとも悲惨な形で「安定化」させられていくように、ロシアによる地域秩序の分担が起こるかもしれない。
 そのメルクマールは12日にポーランドに派遣された米軍の動向だろう。NHK「米軍 ポーランドに新たな部隊派遣」(参考)より。


この部隊は、ロシアによるクリミアの併合を受けてポーランドなど東ヨーロッパの軍事的な抑止力を強めようと、アメリカが新たに派遣したおよそ3500人の陸軍の地上部隊で、兵士や装甲車のほか戦車80台余り先週から随時ポーランド軍の基地に到着しています。

12日、西部ジャガンにあるポーランドの陸軍基地ではアメリカ軍とポーランド軍双方の兵士が参加して歓迎の式典が開かれ、ポーランド軍のミカ司令官は「今後、合同訓練を通してどんな任務にも対応できる力をつけるとともに、兵士の絆を深めることができると確信している」と述べ、アメリカ軍との活動に期待を示しました。

アメリカ軍地上部隊は、来月、ポーランドからバルト3国やルーマニア、ブルガリアなどにも移動して、合同訓練を行うことになっています。

これとは別にポーランドとバルト諸国には、ことし春までにNATO=北大西洋条約機構が合わせて4000人規模の多国籍部隊を配備する予定で、ロシアに隣接する地域で軍備が増強されることにロシア側がさらに反発を強める可能性もあります。


 皮肉なことにオバマ政権の最後に実現したのだが、起点は約3年前になろうとする2014年2月のクリミア危機にあった。対応に3年かかった。
 当然ながら、これはロシアを大きく刺激することになるが、実質的には、ロシアの暴走というよりNATO強化による西側の暴走(特に民兵組織)の抑止になるだろう。
 今回の米軍派遣は、9か月ごとの巡回だとして固定化であるこを修辞的に避けているが、トランプ政権の外交手腕はまずこのあたりで大きな方向性が見えてくるだろう。
 恐らくは、とても暗いものになるだろう。


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2017.01.05

OPLAN 5029?

 韓国政治が麻痺していくなかで同国の安全保障がどのようになっていくか、さらに言えば朝鮮有事の懸念は、隣国の日本にとっても意味があるし、また軍事同盟国である米国を介しての関連もある。ごく簡単に言えば、韓国内政が混乱していけば朝鮮有事の懸念が高まる。
 その場合、韓国側の憂慮としては国境を接していることもあり、北朝鮮からの地上軍や近・中距離ミサイルの攻撃、生物・化学兵器攻撃を受ける可能性がある。米国の懸念について言えば核弾頭であろうが、北朝鮮が米国を核弾頭の範囲に収めるにはまだ時間がかかる。また、日本については核兵器による威嚇はあるだろうが、そもそも日本を攻撃するメリットがあるとも思えない。すると北朝鮮の核兵器については、それが実質的な脅威となるというよりも実行されること自体の国際秩序の問題であるとも言える。そこでその秩序と北朝鮮レジームの価値を計ると、そのレジームは米国主導の国際秩序としては廃棄されるべきものとなるだろう。
 さて、どうなるものかと見て行くと年が明けて、今日動きがあった。二年前倒しの韓国軍特殊任務旅団の設立についての韓国国防省の発表である。読売新聞「韓国「正恩氏攻撃旅団」創設へ…有事に平壌侵入」(参照)より。


同省が大統領代行の黄教安ファンギョアン首相に行った今年の業務計画で明らかにした。特殊任務旅団は、北朝鮮が核ミサイルを発射する兆候がみられた時などに平壌に侵入し、作戦指揮を執る正恩氏らを攻撃し、指揮系統をマヒさせる。朝鮮半島有事の対応をめぐっては、北朝鮮の核兵器やミサイル基地を探知して先制攻撃する「キル・チェーン」と韓国型ミサイル防衛システム(KAMD)も20年代初期に完成させる予定で、同省は「能力を拡充する」とした。

 明確に書かれていないが、先制攻撃であり、いわゆる「斬首作戦」である。東亜日報「金正恩掃討特殊部隊、2年操り上げて今年創設」(参照)が詳しい。

韓国軍当局が今年創設する特殊任務旅団(特任旅団)は、有事の際、北朝鮮の戦争指揮部を掃討する作戦を担うことになる。核兵器発射命令権者である金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長など核心指揮部を掃討して戦争遂行能力を麻痺させることが主な内容だ。

軍関係者は4日、「昨年9月、北朝鮮の5回目の核実験直後に発表した大量反撃報復(KMPR)の一環」と明らかにした。KMPRは、北朝鮮の韓国侵略や核攻撃の兆候がある時、精密誘導兵器や最精鋭特殊部隊で金委員長など核心指揮部を先制攻撃する概念だ。

軍は、陸軍特殊戦司令部や海軍の特殊戦旅団(UDT/SEAL)、空軍の戦闘管制チーム(CCT)など各軍特殊部隊を改編し、特任旅団を編成するという。当初、軍は特任旅団を2019年に創設する計画だった。しかし、北朝鮮の核・ミサイルの脅威が日増しに高度化し、創設時期を操り上げることを決めた。


 当然懸念されることだが、「北朝鮮の韓国侵略や核攻撃の兆候がある時」の判断がどのようになされるかは報道からは判然としたない。
 また米軍との関わりはこれらの報道からはわからない。聯合ニュース「軍が特殊任務旅団新設へ 有事に金正恩氏を攻撃=韓国」(参照)は少し言及がある。ただしこれは、斬首作戦との直接的な関連ではない。

 このほか、米新政権発足初期の対北朝鮮政策と韓米同盟に関わる懸案をめぐり韓米間の調整が必要だとの見方も示した。米国とは高官レベルの交流、国防・安保機関との人的ネットワークを強化しながら在韓米軍駐留経費負担(思いやり予算)、韓米連合軍司令官(在韓米軍司令官兼務)から韓国軍への有事作戦統制権の移管など懸案を安定的に管理する計画を示した。

 また、日本とは互恵的な軍事協力を進めながら情報協力を拡大し、中国とは米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の在韓米軍配備に対する韓国側の立場について説明しながら意思疎通を図るとした。


 全体的に見るなら、特殊任務旅団の繰り上げは対北朝鮮と韓国国内への、安全保障上のメッセージというだけにとどまっていて、具体的な段階とは見えない。
 今日のこのニュースで気になったのは「OPLAN 5029」(参照)との関連である。
 朝鮮有事について米軍は、北朝鮮からの先制攻撃に備えるOPLAN 5027と、偶発用のOPLAN 5029がある。OPLAN 5029についての比較的最新の動向については、参照リンク先にあるので関心がある人は読むといいだろう。
 それでどうなのか。米軍のOPLAN 5029は韓国軍の特殊任務旅団と関連があるだろうが、その関連がよくわからない。基本的に、朝鮮有事では米軍による韓国軍への有事作戦統制権が重要になるが、これが現状ぐだぐだになっているせいだ。当初は、2015年に移管が予定されていたが延期され、2020年代半ばまで延長されることなっている。
 論理的に考えるなら、特殊任務旅団の活動は大枠で米軍の有事作戦統制権の下に置かれるはずだが、報道を追う限りは判然としない。
 そうしたなか、今日のCNN「Preparing for the worst / How to escape from Kim Jong Un」(参照)も興味深かった。表題は、「最悪の事態に備える。金正恩からの逃げ方」である。朝鮮有事の際、米軍家族が韓国を脱出して沖縄に非難する訓練をレポートしている。
 まさに掲載されている動画や写真を見るとまさに朝鮮有事を連想させるとともに、アイロニカルにではあるが演習に楽しむ子供の姿も微笑ましい。個人的な印象でいえば、朝鮮有事のとき、米軍家族はこうして沖縄にペットと一緒に救出されるのだろうが、軍家族以外の被害は悲惨なものになる。軍家族のペットが一般市民より軍としては優先的に救出されるのかもしれない。
 なお、同記事は抄訳が「在韓米軍、沖縄へ家族脱出の避難訓練 北朝鮮の侵攻に備え」(参照)にあるが、かなり削られているし、原文には写真・図もあるので一見しておくとよいだろう。

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2017.01.04

2017年の世界情勢はどうなるのか以前にモスルはどうなっているのか?

 振り返って思うのだが、昨年は世界情勢の読みを大きく外したと思えることが2つあった。1つは英国のEU離脱であり、もう1つはトランプ大統領の登場である。私だけが外したわけでもないが、その反省点が明確にならないなら、2017年の世界情勢はどうなるのかと問うてもあまり意味はないんじゃないか、という気が年末年始、もわもわとしていた。
 もわもわとした思いからは「ポピュリズム」というキーワードが浮かびやすい。「愚民化」と言ってもいいかもしれない。もうちょっと気取って、「ポスト真実」とか言う人もいるだろう。でもどれも言葉の遊びである。そういう視点では全然ダメだろう。
 ではどういう視点ならいいのか、というとき、ぼんやりを思ったのは、「見えないもの」ということだった。「そこに確実にあるのに見えないもの」。
 EU離脱もトランプ大統領もそこにあるのに見えなかった。それは偉そうなキーワードで俯瞰できたり、データによって導ける何かとは違っている。見えないのだ。なぜ見えないのだろう。見えなければわかるはずもないけど、そこにあることだけはわかる。
 そうした象徴として気になるのは、モスルの現状である。
 まず、国内報道は年末をもって消えた。
 国内報道の動向がわかりやすいのは昨年12月29日NHK「モスル奪還作戦 ISの抵抗激しく越年へ」(参照)である。


過激派組織IS=イスラミックステートからイラク北部の都市モスルを奪還する作戦をイラク軍が始めてから2か月余りがたちますが、IS側の激しい抵抗が続いていて、奪還は来年に持ち越される見通しです。

イラク軍やクルド人部隊は、アメリカ主導の有志連合の支援を受けて、ことし10月からISのイラク最大の拠点、モスルの奪還作戦を続けています。イラク軍は、周辺の町や村を次々に奪い返したうえで、作戦開始から2週間でモスル市の東部に攻め入り、市のほぼ4分の1を奪還しました。

これに対し、IS側は、住民を市街地にとどまらせて、いわゆる人間の盾にしたり、自爆による奇襲攻撃も多用したりと激しく抵抗しています。また、地元の住民の多くが戦闘の巻き添えとなっていますが、正確な死傷者の数は、わかっていません。

イラク軍は、ISの抵抗が続く中で住民の犠牲を最小限に抑えるため、市街地での作戦を慎重に進めていることから、当初の目標だった年内のモスル奪還はならず、来年に持ち越される見通しです。また、イラクのアバディ首相は今週、イラク全土からISを排除するには、今後3か月はかかるという見方を示していて、イラク政府は、来年もISとの間で厳しい戦いを強いられることとなります。


 つまり、当初計画は「年内」だった。そして現状では、今後3か月はかかるということに延びた。
 ではそのあたりでモスルは奪還されるのだろうか。12月29日時事「対ISで難局続く=モスル奪還、今年は果たせず-イラク」(参照)に興味深い指摘がある。

 ただ、有志連合司令官は25日、米メディアに対し、モスルとシリア北部ラッカの奪還に「2年は要するかもしれない」との見通しを示したという。アルアハラム政治戦略研究所(エジプト)のエマン・ラガブ研究員は、仮に制圧を宣言できても「軍の能力に問題があり、完全掌握は困難だ」と指摘した。

 2年かかるかもしれない。もしかするとモスル奪還は無理かもしれないという声がある。
 ここで私は、ああ、何かが見えていない、と思う。モスルでの戦闘は報道を通して見えているような気がしている。そしてそこに戦闘が存在していることも知っている。だが、何かが決定的に見えていない。
 でも何かが見え始める。もちろん、そのあたりで何かがイカレている。
 何が見えるのだろう。
 モスルが奪還されるということは、イラン民兵を含んだイラク政府の支配下にスンニ派の人々が置かれるこということであり、スンニ派の人々の構造的な危機が起こる可能性があるだろう。
 もう1つはモスル・ダムである。この問題は昨年3月に報道されていた。AFP「イラク最大のダムに決壊の恐れ、米が最大150万人に避難勧告」(参照)より。

【3月1日 AFP】在イラク米大使館は、同国最大のダム「モスルダム(Mosul Dam)」に突発的決壊の恐れがあるとして、下流域の住民に避難勧告を出した。この勧告で、ダム決壊による洪水の危険にさらされている最大約150万人の命を救う可能性もあるという。

 モスルダム決壊の可能性をめぐっては、この数か月間で懸念が高まっていた。同ダム決壊によって発生すると考えられる洪水で、イラク第2の都市モスル(Mosul)は壊滅状態となるほか、首都バグダッド(Baghdad)の大半も水没することが想定される。

 同国北部のモスルダムは、継続的に浸食を受ける不安定な地盤の上に建設されている。さらに、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が2014年に同ダムを一時的に制圧したことから必要な整備が実施されず、すでに欠陥を抱えた構造はさらに弱体化した。

 米大使館は、2月28日夜にウェブサイトに掲載した声明で「決壊が起きる可能性のある時期などについては、具体的な情報は得られていない」と述べた。ただ、その一方で「決壊が起きた場合に影響が及ぶ、最も危険な地域に住むイラク国民数十万人の命を救うための最も有効な手段が、迅速な避難によってもたらされることを強調しておきたい」とも付け加えている。

 米大使館によるダム決壊シナリオの概説によると、チグリス川(Tigris River)沿いで洪水波にさらされる危険が最も高い地域の住民50万~147万人は、避難しなければ生き残ることができない恐れがある。

 また、モスルとティクリート(Tikrit)の住民が安全な場所に避難するためには、川岸から5~6キロ離れる必要があり、さらに下流のサマラ(Samarra)では、上流で起きた洪水によって、より小規模のダムが決壊し、あふれた水が周辺に広がる可能性があるため、住民らは川岸から最大16キロ離れたところまで避難する必要があるという。バグダッドでは、国際空港を含む大部分が浸水する見通しだ。


 モスルダムは2014年一度ISに取られクルド自治区が取り戻した経緯もある。
 さて、今はどうなっているのか。国内報道はない。海外報道を見ると懸念されている(参照)。
 そもそもラッカ奪還とモスル奪還がどういう作戦で遂行されているのかもわからない。
 見えない。でも、ある日、見える日がくる。何が見えるかについて、私はうすうすと知っている。

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2017.01.03

それは何のニュースだったのだろう?

 昨年の大晦日にあたる12月31日の午後0時55分頃、横須賀市小川町2丁目の立体駐車場「サイカヤパーキング」で、ワゴン車が5階から下の道路に転落した。17時の神奈川県新聞の速報の時点では、50代男性と40代女性、70代女性の3人が死亡し、10代とみられる男性2人が重傷を負っていた(参照)。速報としては、安全であるはずの駐車場で3人もの死者を出したことがニュースの価値だったとは言える。しかし速報以降でこのニュースをとらえ直すと、いったいそれは何のニュースだったのだろうか気になった。例えば、この立体駐車場の欠陥だったのか、運転手のミスなのか(ミスでこれだけの事故が起こりえるのか)、あるいは、死者もあるなか10代の子供が生き延びたことに焦点を当てることもできる。どうだったか?
 19時時点のNHK報道を振り返ってみたい。「立体駐車場から車転落 40~80代男女3人死亡 2人大けが」(参照)より。

31日午後1時前、横須賀市小川町にある立体駐車場、「サイカヤパーキング」の5階から車が転落したという通報が消防や警察にありました。

警察によりますと、転落した乗用車には5人の家族が乗っていて、このうち、東京・世田谷区に住む廼島和彦さん(56)と妻の晶子さん(46)、和彦さんの母親で別の場所に住む、弘子さん(81)の3人が、病院へ運ばれましたが死亡しました。このほか、廼島さんの10代の息子2人も大けがをして病院で手当てを受けているということです。

この事故で道路を歩いていた人などにけがはありませんでした。

警察によりますと、乗用車はバックをして、高さ60センチある鉄製の転落防止用柵を倒しながら乗り越えたあと、フェンスごと地面に転落したと見られています。

警察は乗用車が勢いがついた状態で柵やフェンスに突っ込んだと見て、事故の詳しい原因を調べています。

現場は京浜急行の横須賀中央駅から800メートルほど離れた、市役所などが建ち並ぶ市の中心部にある立体駐車場です。

立体駐車場5階の柵 外側に大きくゆがむ
NHKのヘリコプターから撮影した映像では、事故現場の立体駐車場は5階に設置された柵が外側に向かって大きくゆがんでいる様子が確認できます。また、駐車場の下の道路には屋根が潰れた状態の車があり、周囲にはものが散乱していて、救急隊員とみられる人たちが作業にあたっている様子も写っています。

「車から小さい男の子を救出」
事故を目撃した男性は、「雷が落ちたようなすごい音がして、見たら5階のフェンスが落ちて、すぐに車が落ちてきた。中で男の子が痛い痛いと言っていたので、人が集まってきて、その子を出してあげた。アメリカ兵も集まり、ひっくり返った車体を持ち上げて、中にいた人を出した」と話していました。

また、救助にあたった男性は、「アメリカ兵が来てくれて全部で10人ぐらいで車体をひっくり返してようやく助け出した。小さい男の子を車から出したときに、お父さんとお母さん、お兄ちゃんが中にいると言っていた」と話していました。

立体駐車場の事故 過去にも
車が立体駐車場のフェンスを突き破って転落する事故は、これまでも繰り返し起きています。平成26年12月には、東京・府中市にある卸売市場の立体駐車場で乗用車が3階の屋上部分から地上に転落し、運転していた67歳の女性が死亡しました。車を後ろ向きに駐車しようとしたところ、フェンスを突き破って転落したと見られています。

平成22年には大阪・八尾市で乗用車がデパートの立体駐車場の4階から転落し、乗っていた男性2人が死亡しました。乗用車は駐車場の車止めを乗り越え、さらに高さ1.3メートルの鉄製のさくを突き破って転落しました。

平成18年には山口県下関市の商業施設の立体駐車場でらせん状の通路から乗用車が転落し、乗っていた60代から70代の男女4人全員が死亡しました。通路には高さ2メートルのフェンスがありましたが、車はこれを突き破って転落しました。


 いくつか興味深い点が指摘されている。まず重要なのは、この時点では原因は不明であったということだ。
 二点目は、子供の救助に最初に関わったのが米兵かどうかはこの時点でのNHKニュースからはわからないが、救出の要となったのは米兵を含めた10人ほどだったということは言えそうだということ。
 三点目は、立体駐車場からの転落事故はこれまでも繰り返されていて、安全対策に構造的な欠陥がありそうに思えることだ。
 さて、続報はどうか。NHKでは1日4時で「立体駐車場から車転落 運転操作誤ったか」という報道で「警察は車を止めようとした際に操作を誤ったことが事故の原因ではないかと見て、誰が運転していたのかなどさらに詳しく調べています」としている。2日には目立った報道はなし。3日には神奈川新聞「立体駐車場入庫直後に車転落か 横須賀市の家族5人死傷事故」(参照)で警察による「駐車する際にアクセルとブレーキを踏み間違えた可能性」について言及しているが、基本的に新しい情報とも言えない。原因は不明である。
 第一点目の原因解明が重要なのは、第三点目の構造的な問題に関連するためだ。その意味で、報道機関がこの点(立体駐車場の安全性と規制)をどのように今後追っていくのか、市民の側から関心を持ち続ける必要がある。
 さて、今回の事件で奇妙に思えたのは、二点目の米兵による救助活動である。単純になぜその現場に米兵がまとまっていたのか。普通の連想では、横須賀には米軍基地があるからだろう、ということになるが、あくまで連想でしかない。横田にも米軍基地があるが福生駅前に米兵が目立つというわけでもない。沖縄の基地近い街でもそう米兵が多いという印象はなかった。今回それだけ米兵が多いならおそらく事故現場は米軍基地のかなり近隣であったに違いない。気になって調べてみたらそうだった。

 現場は地図では横須賀基地まで250メートルくらいに見える。この程度の距離であれば、現場付近に米兵がたむろっていたのも自然だし、米兵が救助に駆けつけたと考えてもよいように思える。
 この点について毎日新聞の報道「家族3人死亡、2人重傷 神奈川の立体駐車場」(参照)ではもう少し詳細を伺わせる証言がある。


 現場にいた男性によると、事故直後に通行人5、6人が車両を起こそうとしたが動かず、駆け付けた米兵が手伝って十数人で車を起こし、ドアの隙間(すきま)から1人ずつ救助したという。男性は「今までに聞いたことのない、表現できないような大きな音がした。若い男性は体をけいれんさせ、高齢の女性は『痛い、痛い』とうなっていた。そのうちに消防が来た」と話した。

 この証言が事実なら、事故直後通行人5、6人が車両を起こそうとしたが動かないという状態のあと、十人近い米兵が駆けつけて車体を力づくで起こし、彼らが主体になって救助にあたったことになる。
 私の疑問は、後からまとまった米兵が駆けつけたというなら、その前に誰かが目先の米軍基地に援助を求めたということはないだろうか?ということだ。
 ここで奇妙なことに気がつく。その疑問を持つ報道は、ざっと調べたところ見当たらないことだ。
 地方紙として比較的詳しい報道している神奈川新聞の1日の報道「ワゴン車転落3人死亡 駐車場5階から帰省一家」(参照)では、米兵について、「駆け付けた周辺住民や米海軍横須賀基地の関係者らが車体を起こし」とした言及はあるが、NHK報道あった10人規模の救助についての言及はあいまいになっている。また、現場については、「現場は京急線横須賀中央駅から約500メートル離れた市街地の一角。立体駐車場は地上8階建てで、地下2階と屋上にも駐車スペースがある」として次のように、近隣の横須賀基地を含めない地図を掲載している(実は敷地の端が含まれているが名称の記載はない)。神奈川新聞の視点としては、「京急線横須賀中央駅から約500メートル離れた市街地の一角」が重要だとしたのだろう。

 私の疑問点は今後の報道で明らかになるだろうか。わからない。ありがちなツッコミが入りそうだが、そもそもそんな疑問はあまり意味はないのかもしれない。
 それでも、救助の主役を担ったのが横須賀基地の米兵であったことには変わりない。そうであれば、誰かが彼らの救助に感謝の意を示すことになる。(さて、要らない懸念だろうが、もし感謝を彼らが受け取ることがないなら、日本の一市民として小さく感謝の意を小さなブログで述べておきたい。)

追記(2017/1/16)
 米兵を含めて感謝があった。

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