2017年の世界情勢はどうなるのか以前にモスルはどうなっているのか?
振り返って思うのだが、昨年は世界情勢の読みを大きく外したと思えることが2つあった。1つは英国のEU離脱であり、もう1つはトランプ大統領の登場である。私だけが外したわけでもないが、その反省点が明確にならないなら、2017年の世界情勢はどうなるのかと問うてもあまり意味はないんじゃないか、という気が年末年始、もわもわとしていた。
もわもわとした思いからは「ポピュリズム」というキーワードが浮かびやすい。「愚民化」と言ってもいいかもしれない。もうちょっと気取って、「ポスト真実」とか言う人もいるだろう。でもどれも言葉の遊びである。そういう視点では全然ダメだろう。
ではどういう視点ならいいのか、というとき、ぼんやりを思ったのは、「見えないもの」ということだった。「そこに確実にあるのに見えないもの」。
EU離脱もトランプ大統領もそこにあるのに見えなかった。それは偉そうなキーワードで俯瞰できたり、データによって導ける何かとは違っている。見えないのだ。なぜ見えないのだろう。見えなければわかるはずもないけど、そこにあることだけはわかる。
そうした象徴として気になるのは、モスルの現状である。
まず、国内報道は年末をもって消えた。
国内報道の動向がわかりやすいのは昨年12月29日NHK「モスル奪還作戦 ISの抵抗激しく越年へ」(参照)である。
過激派組織IS=イスラミックステートからイラク北部の都市モスルを奪還する作戦をイラク軍が始めてから2か月余りがたちますが、IS側の激しい抵抗が続いていて、奪還は来年に持ち越される見通しです。イラク軍やクルド人部隊は、アメリカ主導の有志連合の支援を受けて、ことし10月からISのイラク最大の拠点、モスルの奪還作戦を続けています。イラク軍は、周辺の町や村を次々に奪い返したうえで、作戦開始から2週間でモスル市の東部に攻め入り、市のほぼ4分の1を奪還しました。
これに対し、IS側は、住民を市街地にとどまらせて、いわゆる人間の盾にしたり、自爆による奇襲攻撃も多用したりと激しく抵抗しています。また、地元の住民の多くが戦闘の巻き添えとなっていますが、正確な死傷者の数は、わかっていません。
イラク軍は、ISの抵抗が続く中で住民の犠牲を最小限に抑えるため、市街地での作戦を慎重に進めていることから、当初の目標だった年内のモスル奪還はならず、来年に持ち越される見通しです。また、イラクのアバディ首相は今週、イラク全土からISを排除するには、今後3か月はかかるという見方を示していて、イラク政府は、来年もISとの間で厳しい戦いを強いられることとなります。
つまり、当初計画は「年内」だった。そして現状では、今後3か月はかかるということに延びた。
ではそのあたりでモスルは奪還されるのだろうか。12月29日時事「対ISで難局続く=モスル奪還、今年は果たせず-イラク」(参照)に興味深い指摘がある。
ただ、有志連合司令官は25日、米メディアに対し、モスルとシリア北部ラッカの奪還に「2年は要するかもしれない」との見通しを示したという。アルアハラム政治戦略研究所(エジプト)のエマン・ラガブ研究員は、仮に制圧を宣言できても「軍の能力に問題があり、完全掌握は困難だ」と指摘した。
2年かかるかもしれない。もしかするとモスル奪還は無理かもしれないという声がある。
ここで私は、ああ、何かが見えていない、と思う。モスルでの戦闘は報道を通して見えているような気がしている。そしてそこに戦闘が存在していることも知っている。だが、何かが決定的に見えていない。
でも何かが見え始める。もちろん、そのあたりで何かがイカレている。
何が見えるのだろう。
モスルが奪還されるということは、イラン民兵を含んだイラク政府の支配下にスンニ派の人々が置かれるこということであり、スンニ派の人々の構造的な危機が起こる可能性があるだろう。
もう1つはモスル・ダムである。この問題は昨年3月に報道されていた。AFP「イラク最大のダムに決壊の恐れ、米が最大150万人に避難勧告」(参照)より。
【3月1日 AFP】在イラク米大使館は、同国最大のダム「モスルダム(Mosul Dam)」に突発的決壊の恐れがあるとして、下流域の住民に避難勧告を出した。この勧告で、ダム決壊による洪水の危険にさらされている最大約150万人の命を救う可能性もあるという。モスルダム決壊の可能性をめぐっては、この数か月間で懸念が高まっていた。同ダム決壊によって発生すると考えられる洪水で、イラク第2の都市モスル(Mosul)は壊滅状態となるほか、首都バグダッド(Baghdad)の大半も水没することが想定される。
同国北部のモスルダムは、継続的に浸食を受ける不安定な地盤の上に建設されている。さらに、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が2014年に同ダムを一時的に制圧したことから必要な整備が実施されず、すでに欠陥を抱えた構造はさらに弱体化した。
米大使館は、2月28日夜にウェブサイトに掲載した声明で「決壊が起きる可能性のある時期などについては、具体的な情報は得られていない」と述べた。ただ、その一方で「決壊が起きた場合に影響が及ぶ、最も危険な地域に住むイラク国民数十万人の命を救うための最も有効な手段が、迅速な避難によってもたらされることを強調しておきたい」とも付け加えている。
米大使館によるダム決壊シナリオの概説によると、チグリス川(Tigris River)沿いで洪水波にさらされる危険が最も高い地域の住民50万~147万人は、避難しなければ生き残ることができない恐れがある。
また、モスルとティクリート(Tikrit)の住民が安全な場所に避難するためには、川岸から5~6キロ離れる必要があり、さらに下流のサマラ(Samarra)では、上流で起きた洪水によって、より小規模のダムが決壊し、あふれた水が周辺に広がる可能性があるため、住民らは川岸から最大16キロ離れたところまで避難する必要があるという。バグダッドでは、国際空港を含む大部分が浸水する見通しだ。
モスルダムは2014年一度ISに取られクルド自治区が取り戻した経緯もある。
さて、今はどうなっているのか。国内報道はない。海外報道を見ると懸念されている(参照)。
そもそもラッカ奪還とモスル奪還がどういう作戦で遂行されているのかもわからない。
見えない。でも、ある日、見える日がくる。何が見えるかについて、私はうすうすと知っている。
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