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2016.02.09

予言というわけでもないがサウジ・アラビアが不安定化するかもしれない

ガス・スタンドで100円を割る数字を見るようになった。数年前を思うと、想像しがたいほどの原油安である。なぜこうなったかというと、とりあえずは世界規模の需要不足ということで、その先鋒が中国だが、さてそれでこの原油安に十分に説明がつくのかというと、よくわからない。それに加える要因としては、当初はシェール革命の影響とそれに対応するサウジの思惑なども言われていた。またここに来て、イランが国際社会に復帰することで原油価格がさらに下がることも予想されている。

そうした関連の話題で、最近見かけた金融商品化説は興味深かった。NHK「原油安 拡大するその影響」(参照)に話題がある。

今回の原油安の大きな原因は、原油が『金融商品』になってしまったというところがあると思っています。 具体的に、原油の値段につきましては、先物が原油の実体の値段を決めていまして、原油の先物は、実は2000年代の半ばから、株式、それから債権に次ぐ『第3の金融商品』ということで、先ほどのWTIの先物市場ですが、取引高がNYダウの半分まで拡大しているといわれております。 ですから、実体の原油に比べて、金融で取り引きされるその量が多いものですから、実際は金融の要素で価格が決まってしまっています。 ですから、先ほど言ったように、たかだか生産量の1%の需給ギャップで、原油価格は3分の1まで落ちてしまうという状況になっています。
(略)リーマンショックの後に、32ドルまで実は原油価格が下がりました。 この時に、アメリカのFRB(=連邦準備制度)が量的緩和を始めますと、グングンと原油の価格が上がりまして、2011~14年まで100ドル超えでした。 この水準というのは、なぜ起きたかといいますと、量的緩和で、要は投資マネーにものすごくお金が入って参りまして、その受け皿として原油の先物市場が使われてしまったということです。 それが、実際に量的緩和をやめ始めるとFRBがアナウンスすると同時に、原油価格が下がってしまいました。 さらには、昨年末にFRBが利上げすることによって、さらに、原油先物の金融商品としての魅力がなくなってしまって、それで一気に原油価格が30ドル割れしてしまったということになるわけです。

非常に説得力のある説明で納得しやすい。少なくとも、生産量の需給ギャップで見れば1%程度というのも事実だろう。そうすると、世界的な需要不足というのが原油安についての最も強い要因とは言えないだろう。

とはいえ、需給ギャップが大きくなければ、金融商品的な様相がある程度沈静化しても、基本的には原油安の構造は変わらないということになる。むしろ、原油安がこれらの中期的なトレンドとして世界に影響を与えると見たほうがよい。するとどうなるのか?

同記事には、➀米国発金融危機、➁サウジアラビアに「アラブの春」を挙げている。前者については、シェール革命を支えてたジャンク債が焦げつく連鎖を見ている。私の印象では連鎖を起こすかどうかは別としてもシェール革命の効果は原油高に支えられたものなので、早晩クラッシュはするだろうとは思う。後者のサウジに「アラブの春」だが、同記事ではその背景にサウジアラビアの財政悪化を見ている。端的に言えば、サウジアラビアの国家体制の安定はオイルマネーに依存しているのでそこがクラッシュすれば社会が不安定化するというものだ。いわゆる民主化という意味での「アラブの春」ではない。

どうなるかだが、同記事では触れていないが、サウジ王家は現状、大きな問題を抱えている。即位一周年になるサルマン国王だが80歳という高齢であり、実は健康状態に問題があると見られている。当然、近い将来に正式に次の権力者が立つことになり、それだけで不安定化を招きやすい。余談だが、来日するパレスチナのアッバス議長も80歳でパレスチナを抑えきれるか不安定な状態にある。

サウジの現状だが、30歳のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子が若い世代の支持を背景にかなり権力を握っているし、実際数年前からそうした動向があり、今回のシリア派兵などもそうした動向の延長だろう。これは伝統主義的なサウジの観点からすると、56歳のムハンマド・ビン・ナエフ皇太子を出し抜くことになる。これらに関連した話題は多い。が、実際のところサウジアラビアの内情の詳細については各種の推測がありはっきりとしてことはわからない。ただ、強い不安定化要因があることは確かだ。

サウジアラビアにレジームの危機が起きると連鎖的にいろいろな事態になる。シナリオ的にはかなりとんでもない事態にもなりかねない。

日本として気になるのは日本のエネルギーとしての原油をどうするかで、先の記事でもそこに話のオチを持ってきている。しかし、原油はコモディティ化しているので、サウジアラビアからの供給がなくなれば、不安定な時期を経過してもどこか所定の価格で安定化するだろう。というか、それがシェール革命と釣り合うくらいだと、米国も安心できる。

というあたりで、さも陰謀論的なシナリオが想像できないでもないが、まあ、そういう展開にならないとよいのだがとは願う。


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2016.02.08

北朝鮮の長距離ミサイル実験で、韓国世論から核武装論が出てくる理由

韓国世論全体の動向が、というほど大きな潮流でもないと思われるが、核武装論が出てきた。近いところでは朝鮮日報「【コラム】中・日に見下される韓国、今こそ核武装を議論せよ」(参照)より。

 全国民・政界・社会指導層が安全保障の共通分母を導き出す作業は、すぐには期待できない。だからといって放棄もできない。まずは実権を握る政権だけでも、韓国の安全保障の力を補強する、もしくは韓国の意志を示す特段の措置を取る果断さを示すべきだ。いっちょやってみよう、ということだ。核武装に関する議論から始めよう。

このての議論は今回が初めてというわけではない。このコラム以前に朝鮮日報では先月の社説でも議論はあった。「【社説】米中に頼れない韓国、今こそ独自の核武装を」(参照・リンク切れ)。

北朝鮮の核問題解決の責任を中国に押し付けてきた米国や、北朝鮮による相次ぐ核実験を黙認してきた中国を信じるべき時はもう終わった。今や韓国は自衛策として最低限の核兵器を保有するため、国民的な議論を行わざるを得ない状況に直面している。それによって国民が核兵器保有を進めることで一致すれば、韓国政府はすでに紙くずとなった1991年の韓半島(朝鮮半島)非核化共同宣言をまずは破棄しなければならない。さらにウラン濃縮や核燃料の再処理など、最低限の核主権確保に向け米国との交渉もあらためて推進しなければならない。

 一方で核武装を無理に進めた場合、韓米同盟にヒビが入るのはもちろん、国際社会からの制裁も避けられないだろう。これは貿易で国の経済を維持する韓国にとっては大きな試練になるはずだ。またたとえ独自の技術を確保したとしても、強大国による厳しい監視をくぐり抜けて原料を確保し、核兵器を作れるのかという懐疑論もある。しかし現状は6カ国協議や数々の制裁措置に何の効果もなく、また米中両国も互いに責任を押し付け合っているだけで効果的な手段は何も打ち出せていない。これでは韓国としても、着実に核武装を進める北朝鮮の動きをただ眺めているわけにはいかないだろう。

しかし韓国の核武装論は特段に驚くべきことではないが、注意したいのは、「中国を信じるべき時はもう終わった」という指摘で、現下の韓国の核武装論は、対中国の文脈に置かれていることだ。

日本では今回の北朝鮮による長距離ミサイルについてなぜか国家安全保障に関連したかのようなニュースの話題になっているが、安全保障という点では、300発保有とも見られる北朝鮮ノドンの射程内に日本はすでに置かれているので、特段に状況の変化はない。これについては韓国と同じ状況である。

むしろ従来との違いは、先週の中国による韓国への防空識別圏(ADIZ)を事前通報なしに侵犯したことが重要だろう。面白いのだが日本の通信社・共同通信を引いたかたちで朝鮮日報が報じていた。「中国軍機が事前通報なしに大韓海峡縦断、韓日の防空識別圏を侵犯」」(参照)より。

 中国軍機2機が、史上初めて大韓海峡(対馬海峡)を縦断し東海(日本海)まで往復飛行を行った。共同通信が31日に報じた。この過程で、中国軍機は韓国および日本の防空識別圏(ADIZ)を事前通報なく侵犯・通過したという。アジアの覇権をめぐる米中日の軍事力競争の影響が、韓半島(朝鮮半島)にまで及んだ格好だ。なお、日本の防衛省は「中国軍機が領空を侵犯することはなかった」とコメントした。

この中国のメッセージは何かだが、朝鮮日報では終末段階・高高度防空ミサイル(THAAD)システムの関連に置いている。「【社説】中国機の防空識別圏侵犯、韓国政府は十分な備えを」(参照)より。

 先月31日、2機の中国軍機が韓国と日本の防空識別圏(ADIZ)を侵犯し、大韓海峡(対馬海峡)を経由して東海(日本海)まで往復飛行を行った。これまでも、中国軍機が一時的に西海(黄海)・南海(東シナ海)付近の韓国のADIZに入り込むことはあったが、東海まで進出したのは今回が初めて。

 中国による今回の韓国ADIZ侵犯は、北朝鮮の核実験への対応として終末段階・高高度防空ミサイル(THAAD)システムを在韓米軍に配備する問題が本格的に取り上げられ始めた時期と重なっている。また、米軍の艦船が先月30日、南シナ海にある西沙諸島(パラセル諸島)の12カイリ以内を航行したが、中国軍機の飛行はその翌日に行われた。米中はこれまで、北朝鮮制裁をめぐっても意見を対立させてきた。こうしたことから、韓国のTHAAD配備の動きや米軍艦船の航行などに対する不満の表明、もしくは報復措置として、中国が韓日のADIZをあえて侵犯したと考えるほかない。

とはいえ、続く文脈で、「今回の事件で「中国が韓国を敵対視し始めた」と拡大解釈する必要はないだろう」と朝鮮日報も他面、冷静に見てはいるが、それでも中国が韓国のTHAAD配備に警告を出している構図があると見てもよいだろう。実際、中国でもそうした論調は見られる」(参照)。

単純な話にすると、韓国としては今回の長距離ミサイルで話で進展するTHAADに関連して、中国と対立する構図が浮かび上がり、これに韓国ナショナリズムとして反米と反日の構図を組み入れると、韓国世論から核武装論が出てきても不思議ではない。普通に考えるなら、そこまでして反米・反日を標榜するものかなという感想もあるが。

現実論として考えると、韓国が核武装化することはありえない。また、THAADも避けがたい。となるとどのあたりで妥協点を作るかだが、基本米中関係での手打ちということになるだろう。THAADは中国を狙ったものではないという修辞を中国が受け入れれば問題はなくなる。韓国としてももとの、安寧の幻想にも戻れる。

しかし、もう一歩考えてみると、こうした米中日韓の思惑の相違を突いた形で核実験やミサイル実験をする北朝鮮としては、それなりに核を梃子にした「統一」の夢を韓国に投げかけたかったということでもあるだろう。

現実問題としては、これまでのTHAADについての米側の態度を見るとわかるように比較的忍耐強く待ちの姿勢だったわけで、中国がどう折れるかにかかっている。中国は国内事情があって折れないだろうなとは思うが、このところの海洋進出も国際世論で痛い目にあっているので、少し戦略を変えるかもしれない。


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