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2016.11.11

この間気になっていた5つの議会のこと

 政治の話題はどうしても政局的になりがちだが、この間、5つの議会のことが気になっていた。本来なら一つ一つブログの記事にすべきだったが、機会も逸しつつあり、メモ書き的程度になるがまとめておきたい。

ワロン地域議会
 ベルギーの南半分で、主にフランス語圏のワロン地域議会が10月14日、欧州連合(EU)とカナダの包括的経済貿易協定(CETA)締結に反対した。ワロン地域の思惑としては、カナダの酪農製品が脅威だった。これ、なんというのか、SF的だが民進党が近畿地方分権地域議会をもっていてTPPに反対したといったようなものだった。
 これがベルギーとEUの仕組みによって、傍から見ると奇妙な連鎖を起こした。ベルギーでは連邦政府が対外協定を承認するには、7つの地域議会の協調が必要になる。ここが転けたのでベルギー連邦政府はEUに対して、CETAは無理ぃ、という報告をした。すると、CETA調印にはEU加盟28か国すべての承認を得る必要があるため、CETA自体がEU全体を巻き込んで頓挫した。5年にわたる協議が吹っ飛んだ。約350万人の地域の議会の意思が7億人に影響をもたらすことになった。
 なんとも現代世界を象徴する事態だなあ、どうにかならないのか、これ、と傍観していたが、10月27日、ベルギー連邦政府がワロン地域議会を説得した。というか、ワロン地域議会が自身の決定の影響にビビった感はあった。
 地方分権と国家間の協定がどうあるべきなのか、実に考えこまされる事例だった。

英国EU離脱には議会承認が必要
 英国高等法院は、11月3日、英国欧州連合(EU)離脱について、離脱手続きを開始するためには議会承認が必要だと判断した。え? なんだそれ?
 これは訴状を受けたもので、首席裁判官トマス卿によると「欧州連合離脱を通告するための、国王大権(閣僚が代行する権限)にもとづく権限は、政府にはない」らしい(BBC報道)。審理した判事3人は、EU関連法に関する国王大権行使の憲法上の前例がないとした。この問題だが、近く最高裁判決が出るらしい。仮に議会承認が必要となると、何が起こるのだろう? よくわからない。
 この議論で興味深かったのは、議会のあり方が再び問われるということと、「憲法上の」という意味合いが難しいことだった。日本の場合は、日本国憲法が、だーんと、「これが憲法だぁ」と現れるが、英国の場合、憲法は成文法ではなく、報道を見ても、constitutionというより、constitutionalで議論していて、「憲法だぁ」というより、「英国とはこのような国家である」という法的な了解となっていることだった。
 ちょっと思ったのだが、日本の場合も、現行憲法は「1946年憲法」として残し、成文法自体を廃棄しても特段に問題はないのかもしれない。というか、実質そうなっているよなあ。

香港議会の騒動
 香港では9月の議会選挙で独立派・本土派の梁頌恒と游蕙禎が当選し、10月12日に議員就任宣誓式が行われた、この際、両人とも"Hongkong is not China"という横断幕を持ち込んで眼前に広げ、さらにChinaをChee-Naと発音して、中国政府の逆鱗に触れた。2人は全人代常務委員会によって失職となった。ひどいものだと思えるが、もともと中国政府を怒らせるパフォーマンスだったので成功だった。今後だが、裁判に持ち込まれる。司法が問われることになる。
 これで一連の騒ぎが終わるかと思っていたら、10日、さらに8人の議員資格を審査に及ぶことになった。彼らも失職させられれば、70議席中10議席空席、20議席が中国批判勢力となる。
 もうほとんど民主主義的な議会ではなくなる。
 香港世論としては、ただ、今回の事態について、微妙な感じでいるようだ。

米国議会
 大統領選挙に関心が向くのは自然だが、米国では議会選挙もあった。上院は民主党47・共和党52・待ち4、下院は民主党193・共和党238・待ち1、ということで両院とも共和党となった。
 今回の大統領選挙でトランプ候補が勝つと見たメディアはなかったが、下院の共和党勝利は予測されていた。この点からすると、仮にクリントンが勝っても米国の行政は行き詰まることが予想され、上院の状況にかかっていたが、こちらも共和党ということで、あとは、トランプ大統領と議会が協調すれば、米国政は無駄なく進む。
 また12州で州知事改選があり、現状、民主党15、共和党33。
 クリントンかトランプかという点に目が向きやすかったが、重要点は共和党の行政・議会の優位にあった。

日本の議会
 日本の議会について、TPPからみで少し書こうと思ったのだが、気力がなくなってきた。ので簡単に。
 本来の論点は、輸入米に関連した国内の米価格の実態にあり、米の卸業者が調整金をもらって国内に安価に流通させている実態があれば、TPP試算にも影響するかということで、総量としては少ないので、どうでもいいかという問題でもある。
 それが、なんかよくわからない失言問題とか、トランプ次期米国大統領はTPP反対だから急がなくていいとかいう議論とかになって、もうなにがなんだか。とかいうと、それが大問題だとかいう議論になるのだろう。

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2016.11.10

トランプ候補はなぜ大統領選に勝ったのか

 トランプ候補はなぜ大統領選に勝ったのか。後から理由を考えるというのもむなしいともいえるし、そもそも予想が外れた反省というものはそういうものだともいえる。いずれにせよ、自分なりに気になることをこの機に書いておきたい。たぶん、この基調傾向は日本にも影響してくる。すでに先日の都知事選挙でもその影響があったようにも思える。
 まず、メディアに左右されず米国社会を素直に見ていたらトランプ勝利がわかったはずという意見が当然のごとく出る。だが、これは単純に誤りだろう。特定の個人が生活空間から知りうることは限定されているし、米国の場合、州や階層でかなり分断されているので、どこに自分が置かれているかしかわからないものだ。
 次に前提なのだが、メディアからは今回の米国大統領選挙の本当の動向はわからなかった。メディアの予測は恥ずかしいほどに外れた。むしろそのことがここでのテーマであって、トランプ大統領がどうということは少し脇に置いておきたい。
 3つ確実にいえることがある。
 一点目は繰り返しなるが、メディアの予想は大きく外した。なぜメディアは外したのだろうか。その点が2つにわかれる。まず、従来の選挙予測が有効ではなくなったこと、もう1つはメディアにバイアスがあったことだ。
 従来の選挙予測が有効ではなかったは、統計学的に見れば母集団が従来手法で拾えなくなったことだ。従来は個人の政治的な意思表明と行動はある程度単純な結合だったが、今回の大統領選挙ではいわゆる「隠れトランプ派」が多かった。表向きはポリティカル・コレクトネスを装いながら、きれい事しか言わない人が多くなった。口頭的な調査では、投票行為につながる意図は拾えなかった。逆に、そこを上手に拾う手法をトランプ陣営は持っていたはずだ。
 メディアのバイアスは、メディア自身がポリティカル・コレクトネスに酔っていた面もある。こうあるべきだ、当然こうだ、といった枠組みで見ることで、実態が把握できなかった。しかし、メディアのバイアスでもっとも大きかったのは、資金と組織だろう。資金と組織が大きく整っているほうが勝つ、あるいは、メディアはそうした組織とインタフェースがうまくいく。
 このことは、二点目にもつながる。クリントン陣営とトランプ陣営では、選挙資金に二倍以上の差が開いていた。クリントン陣営はクリントン財団を中核に、選挙の資金が流れ込む入念な仕組みを作り上げていたが、実際にはそこが強みではなく、今回は弱みになっていた。資金援助者はオバマ時代に築かれたイスタブリッシュメントであり、その意向にクリントン陣営は配慮しなければならない。金が絡む主張はあいまいとなり、言い方は悪いが直接金に関係しない話題が前に出てくる。
 このクリントン陣営の構造的な問題は、民主党内で早々にサンダース現象として現れていたが、十分に解消できず、むしろ、イスタブリッシュメント攻撃としてのサンダース現象はトランプ現象に吸収されてしまった。
 三点目は、接近州での選挙戦が、結果から見ると非常に巧妙だった。米国ドラマ『スキャンダル』ではないが、選挙参謀のフィクサーがこの面では決め手になる。では誰がトランプ陣営のフィクサーだったのかあたらめて調べ直したら、ジェイソン・ミラーだった。彼は共和党候補だったテッド・クルーズの元選対で、つまり、極右のテッド・クルーズの元選対の職がなくなったのを、トランプが拾った形になっていた。推測でしかないが、ミラーには右派の票の広がりがどのように地域・階層分布しているかを、クリントン陣営よりはるかに理解していたのだろう。
 この「理解」というのは、SNSとTV広告のバランスでもある。もともとトランプはTVでの知名度が高いし、今回は各種炎上演出をして広告効果を狙っていたので、クリントン陣営ほどのメディア出費は不要だった。その分、SNSなどデジタル・メディアに当てることができた。そもそもメディアの使い分けが上手だった(参照)。
 驚くのだが10月19日の時点で、トランプ陣営は広告費全1億2900万ドルのうちネットに当てたのは5700万ドル、対してクリントン陣営は1000万ドルほどだった。つまり、実質トランプ陣営は6倍のSNS支援を行い、これによって、クリントン陣営の支援組織力に対抗していたと見ることができる。そして10月に入るとトランプ陣営は残り資金の70%を接戦州のTV広告に投入した。この額だけ見れば、クリントン陣営に並んだ。
 金の使い方が投資のビジネスマンらしく上手だなと思うが、それも結果論であり、どのようにSNSとTVに資金投入を分けるかという技法はまだ判然としない。先の『スキャンダル』を鵜呑みするわけではないが、接戦州内のかなり細かい分析はされているだろう。
 全体として、選挙におけるTVの時代は終わり今後はSNSの時代だ、とまではいえない。上手な組み合わせが必要だとはいえるだが、どこが「上手」の要点かはわからない。
 ただ、こうした選挙運動全体が、どのようなメディアを使うのであれ、実際に投入されたメディアの跡を見なおすと、それらは政策や主義の情報やコミュニケーションではなく、感情をトリガーする操作が決め手になっていたとはいえる。

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2016.11.09

[書評] トランプ (ワシントン・ポスト取材班、マイケル・クラニッシュ、その他)

 興味深く、ある書籍を読んだ後、そのことをこのブログに書くことを、なんとなくではあるがためらう機会が増えてきてしまったようにも思う。そうだなあ。特に理由はない。そうした一冊として、ワシントン・ポスト取材班とマイケル・クラニッシュ、その他による『トランプ』(参照)がある。10月10日に出版されすぐに読み、読後、奇妙な感慨があった。ドナルド・トランプという人をこうして、自伝以外からきちんとジャーナリズムを通して眺めて見ると、なかなかに味わいの深い奇妙な人物である。本書はその陰影をまずこう述べている。

 ドナルド・トランプは称賛であれ批判であれ、注目されるのは良いことだと考えている。自分のイメージがそのままブランド・イメージになるため、自分そのものがブランドイメージだという信念で生きていきた。私たちは、トランプも他の人同様、噂やブランド通りではないという考えの下で取材にあたった。そしてその通りだったと確信した。次期大統領になるかもしれないトランプは、口にする単純明快な言葉より、はるかに複雑な男だった。

 この時点で、ドナルド・トランプは「次期大統領になるかもしれない」人物ではあるにせよ、本当に米国大統領になると予想した人は、おそらくその支持者以外はいなかっただろう。なぜならその予想の理路というものが存在しないからだ。いや、そうでもない。ブラック・スワンのように見える出来事でも振り返ってみれば、そこに必然のような理路が見えてくる。本書もそうした理路から読み直せる。
 そしてこの必然ということは、この人物が世界で最大の権力を持つ人間になったということだ。その意味は、米国の深い影響下にある私たち日本人にとっても、彼をこれから深く理解しなければならないということであり、その理解とは、彼が「口にする単純明快な言葉より、はるかに複雑な男だった」という事実に向き合うことである。
 単純に言えば、本書は、日本人の必読書になったのである。今日、この日から。
 本書は、客観的な取材に基づくドナルド・トランプの評伝と言える。私のように1980年代から彼のことをメディアを通して知っていた人にしてみれば、さまざまにメディアを通して語られたネタ話の裏側が手に取るようで面白い。彼が日本の銀行との関連があったことの、いわば秘史に近い話も頷ける。有名な「お前は首だ」という決めセリフの割に、彼は自分の従業員を首にしたがらない性格だというのも面白い。
 いろいろな逸話もきれいにまとまっている。たとえば、トランプはビル・クリントンの後釜狙いで民主党と協調し、その頃はヒラリー・クリントンとも、懇意とは言えないまでも、支援金を仲立ちに親しい間柄だったことなど。
 だが評伝として見れば、彼という人格がどのように形成されてきたのかという核の部分が微妙に見えてこないもどかしさがある。そしてそのことに対する奇妙な執着が取材班と著者のマイケルに基調音のように意識されている。それが本書にある種文学的な陰影を与えている。例えば、トランプという人物の表面的な人生には母というものがなぜか不在である。そしてそれに関連するのか、美女との結婚を繰り返し、性的に優越であることを見せかけている。だが、その背後にもビジネスの思惑がある。
 そうして見るなら、彼はただ抑えることができない乾きのように生涯をビジネスに投入している人物である。仕事中毒である。読後、そのことが心に残る。もしかすると、これこそが「資本主義の精神」といったものではないかとも思える。
 他方ビジネスマンであると同時に彼はショーマンというのか、トーク芸人でもある。先日、ダナ・カーヴィのトークを見てそのなかのトランプの物まねもが面白かったが、そこにもしトランプ自身がいたら、カーヴィに劣らぬ面白さを展開しただろう。カーヴィはオバマ大統領もおちょくれる芸人ではあるが、基本は知性に依存している分だけに弱い。トランプはそこを見事に吹っ切っている強さがある。そう、トランプは、知性というものの弱さをよく知っている人間である。今回の大統領選でも、隠れトランプ派の息づかいを彼はきちんと知っていた。
 彼の根底にあるものは何だろうか? 本書から見えるのは、なんのイデオロギーもない人である。ただ注目を浴びたい人にも見える。だが、微妙に米国への素朴な愛国心も浮かび上がってくる。リンカーンのような大統領を素朴に尊敬し、彼なりに現在の米国は間違っていると思ってもいる。「アメリカを再び偉大な国にする」という彼の商標もショーマンのビジネス向けである。
 その他のことして本書読後、今回の選挙戦を通じてメラニア夫人に関心を持つようになった。彼女は、旧ユーゴスラビアの、平凡なコンクリート集合団地で育った。まさに社会主義そのものの鬱屈した子ども時代を過ごした。そこを出ることができたのはファッション・モデルとしての道が偶然開けたからだった。モデル業をしていたニューヨークでも質素に暮らし貯金をしていたという。トランプと結婚して子どもができてようやく米国市民権を得た。そうした背景から当然、英語も得意とは言えない。反面、母語のスロベニア語の他、セルビア語が話せる。モデル業の関連で、フランス語、ドイツ語も話せるらしい。モデル時代の社交経験も加え、実は彼女は、ファースト・レディとしてとても有能な人かもしれない。
 トランプ大統領はどのような米国大統領になるだろうか。たぶん、全世界の人々をがっかりさせるようになるだろうと思うが、そういう私は今日の日の彼を予想できなかった。
 マイク・ペンス副大統領候補の選択も予想外だった。彼はいわゆる正当派の共和党的な人物であり、こうした人をきちんと選び出したのは、本書によれば彼が信頼できる家族だったらしい。彼が大統領となっても信頼できる有能な側近がいたら、損得をビジネス的に見るとしても、それなりに国家運営ができるかもしれない。
 それでも、トランプ大統領という存在は私には気が重い。彼が直前にテレビに出したプロパガンダは多くの憎しみに満ちている。そこには民主党の大統領候補であったサンダースの呪いのようなものさえ感じられる。憎しみから生まれるものは、ろくなものがない。

 そしてこの映像メッセージは、率直に言えば、危険な陰謀論だと私は思う。

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