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2016.07.06

中東民族衣装を国家はどう扱うか、というか、もうちょっと微妙な問題

米国を中心とした海外圏ではけっこう話題になっていたが、これって日本国内では話題になるだろうか、とググってみたときはなかったように思ったが、今このブログを書く前に再度ググったら、AFPが拾っていた。間違った記事ではないのだが、これ、なかなかに含蓄深い。ようは、中東民族衣装の男が米国でISに間違われて暴力的に拘束された、という話題である。すぐに誤解が解けたものの、ちょっと冗談のような話である。が、このニュースの論点は、米国の警察っておバカなことするな的な問題でもない。

まず、AFPで拾っておこう。「民族衣装で過激派と勘違い? 米でUAE市民拘束、政府が抗議」(参照)より。


【7月4日 AFP】アラブ首長国連邦(UAE)政府は3日、同国市民のビジネスマンが(41)が滞在先の米国でイスラム過激派と疑われて拘束され「虐待的な扱い」を受けたとして、米大使館の高官を呼び抗議した。男性はUAEの民族衣装を着ていたといい、政府は国民に対して外国ではその着用を避けるよう助言も行った。

男性は治療目的で訪れた米国のオハイオ(Ohio)州クリーブランド(Cleveland)のホテルで6月29日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓ったと疑った従業員によって通報され、警察に身柄を拘束された。男性は当時、民族衣装である白いローブとアラブの頭飾りを着用していた。


中東民族衣装を着ていただけで、イスラム過激派と間違えるというのもマヌケな話ではあるが、結論を先にいうと、「政府は国民に対して外国ではその着用を避けるよう助言も行った」が重要である。

この表面的にはヘンテコなニュースが話題になったのは、YouTubeの影響もある。事態が公開されているのである。


UAE外務省は米国のイーサン・ゴールドリッチ(Ethan Goldrich)駐UAE首席公使に対し、「UAE市民に対するオハイオ警察の虐待的な扱いに不満」を表明すると伝達。さらに拘束の様子を映した動画が公開されたことについても「UAE市民に対する中傷」だとして抗議した。

2分くらいのところから、どたばたが始まる。ドラマみたいに銃を向けられ手錠嵌められる。

間違いは比較的早期に明かされ、州も公式に謝罪をした。

で、先に触れたが、この件でUAEの外務省はツイッターの声明で「旅行中、特に公共の場では、自分の安全確保のため民族衣装を着用しないこと」と勧告しているとAFP報道にあったが、UAEではより公式のアナウンスもしている(参照)。そこでは、旅行先の国によっては、女性のブルカ(ヴェイル)も避けるように促されている。

He also recommended to the citizens to abide by the ban of burqa (the veil) applied in some European countries and cities, which prohibit the wearing of the veil (burqa) in public institutions and places, to avoid legal repercussions or fines arising from the violation of this law.

The UAE official noted that European states that ban the wearing of veil are France, Belgium and the Netherlands, as well as some European cities such as Barcelona in Spain, which banned the wearing of any clothing covering the face since 2010, and the Hesse State in Germany and a number of Italian cities. The Danish courts also banned the veil.

どういうことか。アラブ首長国連邦(UAE)の国民の女性は、フランスなど主に欧州の国に旅行するときは、安全のためにブルカ(ヴェイル)をしないように、というのである。

ちなみにUAEの国教はイスラム教で、85%がスンニ、15%シーア。他、キリスト教徒が9%くらいいて、国家としての宗教規制は少ないようだ。

それにしても、イスラム教徒の女性にスカーフブルカの着用を勧めない、というイスラム教国家というのも興味深いものだなと思った。注記:当初、後段落の流れの連想でブルカをスカーフと誤記した。

そういえば、ブログに書かなかったが、エール・フランスはこの4月、イラン便を再開するにあたり、フランス人の女性客室乗務員にスカーフ着用を指示したことで一悶着が起きた。それはそうだろう。フランス国内なら、むしろこの宗教的な指示は違法に当たるはずだ。

さて、このニュースも日本での報道があったかなと見直すと、またしてもAFPにあった(参照)。記事ではその後の経緯には触れていないが、たしか、スカーフ着用は気にしません、という女性客室乗務員でとりあえず問題は切り抜けたようである。

それにしても、イランのシーア派的な考え方だと、イスラム教徒でなくても女性はイランではスカーフの着用を義務づけられるのである。それがUAEではほとんど逆になっているかに見える。

こうした問題を、中東全体、あるいはイスラム圏でどう考えているのかというと、多分、特にまとまった考えもないのではないのではないだろうか。私としては、この不安定な動向は気になっているが。

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2016.07.04

[書評] 脳梗塞日誌 病棟から発信! 涙と笑いとリハビリの100日間(日垣隆)

 ライターの日垣隆さん、と私などは呼びたいようにも思うが、彼は主に、一時期ではあるが「作家」と称していたようにも思う。『「松代大本営」の真実 隠された巨大地下壕』(参照)や『そして殺人者は野に放たれる』(参照)などの著作歴からすればジャーナリストと呼ぶのが適切かもしれない。私と同年代(彼が1年ほど年下)ということや、三人の子育てを真摯にされていたこともあり、初期作品からもその著作にはずいぶん馴染んでいたし、初期の彼のメルマガ読者でもあった。
 が、2010年頃から彼は、いわゆる作家業よりもビジネス、特に英語学校経営などに取り組まれていたようだ。そしてその頃から私もあまり彼の作品は読まなくなくなっていた。噂ではあったが、糟糠の妻というものでもないのだろうが、子離れを契機に離婚され若い女性と再婚されまた新しくお子さんをもうけられたように聞いた。実はそのあたりこと、その後の生活のことも知りたくて本書を手にしたこともある。
 いずれにせよ、この数年はビジネスも成功され、人生も充実し、身体もすこぶる健康、腹筋・背筋・懸垂を各100回、ジョギング5キロ、だったか、これからの高齢者になる私たちの世代のお手本のような人であった。その彼が、2015年11月25日、脳梗塞に倒れた。本書『脳梗塞日誌 病棟から発信! 涙と笑いとリハビリの100日間(日垣隆)』(参照)はその実況録でもある。
 彼の悠々自適の日々。グアムで5日のゴルフ三昧の朝、朝食後倒れれ意識を失った。生死を彷徨うほどであり、脳左半球をやられた。彼は右利きなのでいわば言語中枢をやられたことになり、実際、本書のリハビリの初期の様子をみると、かなり重篤な言語障害を起こしていることがわかる。
 なのに彼は、この本を書き上げている。率直に言って、これは奇跡の物語と言ってもよいだろう。ここまで重篤な脳梗塞で言語表出が可能になるのだろうか。加えて、かなりの身体機能も回復したようすである。
 話が前後するが、これほどの貴重なリハビリ記録なので、できれば、彼自身の文章に加え、付き添いのメモや、医師の所見、リハビリ師の手記なども詳細に交えてくれれば、今後脳梗塞に会った人の大きな手助けになるのではないかと思えた。もちろん、本書巻末には理学療法士の文章が付されているし、だからこそそこがさらに気になった。
 それにしてもなぜ、そんなスーパーマンのような彼が脳梗塞になったのだろうか? この問いは本書でいくどか繰り返されているが、答えはない。そしてその問いは彼によれば封印されたともある。そういうものでもあるのだろう。余談だが、栗本慎一郎氏がやはりこの頃の年代(58歳)で重篤な脳梗塞を起こしたが、彼の場合はスポーツマンではあっても、血液には問題があったようだった。
 本書の文体は往年の彼のユーモアに溢れているが、実態は普通の人であれば、絶望してしまうほどひどいものだ。脳梗塞と限らず、人は身体も動かず、言語表出もできない、しかも回復の見込みもない、というくらいの絶望に置かれてしまうことがある。世の中にはいろいろな形の絶望がある。脳をやられるというのは、存外に多くの人を襲いうる。つまり、その絶望は私やあなたを待っている。そのとき、そこでどれだけ快活に生きていられるだろうか。私には日垣さんほどの強い意志はない。その意味では本書は、どのような絶望下でも人として生き抜くという強いヒューマニズムを結果的に語っていて、生きる励みになる。

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