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2016.11.16

[コミック] orange (高野苺)

 ドラマとメディアの関係が現在どうなっているのか、ということが、昨年あたりから妙に気になりだし、そうした視点からもとても面白かったのが、「orange」だった。原作はコミックで、当初「別冊マーガレット」2012年4月号から12月号まで連載され休載。「月刊アクション」で再開し2014年2月号から2015年10月号に不定期連載された。
 映画は2015年12月公開。『のだめカンタービレ』のように、原作の最終を追いかけるように映画が公開された。その後、この夏アニメとして、1クールのアニメ版が出来た。
 原作はそれ自体面白い。作者、高野苺の絵も、少女漫画にありがちな作風と見る人もいるが、私などには独自のアート性が感じられて美しい。この点は、アニメにもよく生かされていた。
 物語は、ある意味、単純というか、一見、誰もが思いつきそうな話である。
 長野県松本市の女子高校2年生の高宮菜穂こと「なお」は、2年生になった始業式の日、どこからともなく、10年後26歳になっている未来自分から手紙を受け取る。そこには、高校2年生の時代に起きる悲劇への後悔が綴られ、その悲劇を回避してほしいというメッセージが書かれている。
 悲劇というのは、その日東京から転校してくる成瀬翔こと「かける」の自殺である。物語は翔の自殺を防ぐために、彼女の友だちである村坂あずさ、茅野貴子、須和弘人(すわ)、萩田朔が関わっていく。悲劇は避けられるのか。
 一見すると、よくあるタイムパラドックス物で、そうした点からも読まれるのはしかたない。だが、その視点からは残念ながら欠点しか浮かび上がらない。しいてその点での解決は「パラレルワールド」ということになる。だが重要なのは、誰もが26歳には必ず抱くだろう青春の後悔であり、生きられなかった人生というの意味である。
 以下、ネタバレを含む。
 この物語で、生きられなかった人生は、表面的には、成瀬翔の自殺の有無に分かれるように見える。だが、作品の本質として分かれているのは、後悔の果てに須和弘人の妻となり子どもを産んだ高宮菜穂か、あるいはそうではないかもしれない高宮菜穂か、である。菜穂は成瀬翔と結婚するかもしれない。
 そこは、原作者の意図として継続作の『orange -未来-』で気になる。個人的には、菜穂は須和と結婚するだろうと思う。
 この物語で、人生の分岐での選択をしているのは、実は菜穂でも翔でもない。須和である。物語の隠された主人公は須和であり、物語のクライマックスは翔の自殺にあるのではなく、須和が未来の自分から受け取る妻と子どもの写真を眺めるシーンである。ここをコミックではさらっと描いていたが、アニメではカットを増やして重視していた。脚本家のすぐれた洞察力を感じた。
 ひどい言い方に聞こえるかもしれないが、これは、近代日本文学の宿痾ともいえるホモソーシャルの心性である。夏目漱石の『こころ』、高橋留美子の『めぞん一刻』、これらは、みな、男が女を性的に交換しあうことで同性の絆を深めていく。
 ただ、この作品もまたそうしたホモソーシャルな作品のいちヴァリエーションなのかというのが、作品後深く心に残る問題だった。
 須和としては、菜穂を愛するがゆえに自分の身を引いたという『紅の豚』的なダンディズムもあるが、そこにはさらにもう一段、無意識にひっかかるものがある。そのひっかかりは、菜穂が産む子どもが「翔」であることだろう。菜穂は「翔」の母になることで、過去の翔を生かす使命を受け取っている。
 奇妙な読解になるし、私の読解はまさに奇妙なものでしかないだろうが、メインの物語して描かれている高校生のドラマは、パラレルワールドというより、ただの無だろう。菜穂が「翔」を産んだことの意味が、パラレルワールド的に表現された幻影だろう。蛇足だが、コミックの5巻の裏表紙のカバーの下の絵が切ない。
 私たちの多くは、よほど鈍感か、あるいは文学的な感性のない人でなければ、青春とは深い悔恨であり、それによって刻み込まれた個性によってその後の人生を生きてゆくものである。若い日の悔恨に解消などはないが、なお生きるのであれば、そこから生きる課題を受け取るしかない。
 映画とアニメの話に移る。
 悪い映画ではなかったと思う。原作との改変は尺の都合でしかたがない面はあるだろう。むしろ私にとって残念だったのは、撮影の時間が限定されているせいか、松本という街の四季の美しさがごまかされてしまっていたことだった。この作品を映画化するなら、彼らをもっと松本の四季の風景のなかに融け込ませるべきだっただろう。
 アニメのほうは、自分のツボすぎてこれはまいったなあと思ったのは、菜穂の声の花澤香菜だった。声質の役作りは、映画の土屋太鳳の影響もあるようには思えたが……。
 アニメの作り込みはすばらしいものだった。1クールなので、映画の2倍の尺が取れることもあるだろう。それでも最終回前の回の仕掛けは見事だった。
 このあたり、他の作品にも言えることだが、映画というメディアがどうしても尺の限定を強く受けすぎている。

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