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2016.08.23

「Sアミーユ川崎幸町」事件、雑感

 昨日言及した神奈川県「津久井やまゆり園」事件を特徴付けるのは、大量殺人であろう。そしてその背景として現在の日本社会では、ヘイト・優生思想の問題が焦点化されて話題になった。その最大の理由は、容疑者自身が明白にヘイト・優生思想と理解される思想を文書などで開陳していたからである。しかし仮に、こうした、容疑者による思想が自身の文書によって開陳されず、社会的な弱者への殺害という現象面だけで見るならば、この事件に似て、かつ現在性という点で接近する事件は、「Sアミーユ川崎幸町」事件だろう。
 「Sアミーユ川崎幸町」事件という呼称は定着していない。朝日新聞ではこの事件を「川崎の老人ホーム転落死事件」としているようだ(参照)。だが、冬の深夜、120cmの高さのある手すりを超えて認知症高齢者が「転落死」した、というよりは、「殺害」されたと見るほうが正確だろう。ウィキペディアなどは「川崎老人ホーム連続殺人事件」としている。
 該当の事件だが、同施設で同状況で「転落死」者三名が出てから半年近くも経て、過去に遡って事件として認識された。まず2014年11月87歳男性が4階ベランダから、次に同年12月に86歳女性が4階ベランダから、そして96歳女性が6階ベランダから「転落死」した。この時点では、検死もなく事件性はないと見られていた。結論から言えば、またまた神奈川県警の失態であった(参照)。
 事件が発覚したきっかけは報道からは明白ではないが、関連する事項として、2015年5月、同容疑者は入居者の現金を盗んだ窃盗容疑で逮捕され、同施設を懲戒解雇されていた。この時点で「転落死」について神奈川県警が動いていたのかはわからない。動いていなかったように思える。
 次のエポックとなるのは、同年9月に同施設における入居者虐待の存在を入所者家族が映像で暴露したことだった。この時点で過去三件の転落死の不自然さにも注目が集まり、神奈川県警もようやく関心を公開した(参照)。事件の全容が報道されたのは、2016年に入った2月、神奈川県警が元職員である容疑者に事情聴取を行い自白を得たことによる。おそらく現状でも自白以上の物証はないのではないだろうか。
 この事件の影響だが、神奈川県警の失態史を更新することに加え、世間的には、虐待や低賃金で荷重な労働環境にある介護の問題の帰結、として議論されることが多く、他方、弱者をいかに保護するかという制度面での視点での議論はあまり少なかったように思える。社会の空気としては、介護労働環境を良好にすればこうした問題は起こらないかのようになり、現状、この事件への関心は薄れた。この容疑者への関心も薄れてきた。
 「津久井やまゆり園」事件が起きたとき、私が「Sアミーユ川崎幸町」事件を連想したのは、あまり報道では浮き上がってなかったように思える、この容疑者のあり方だった。気になるのは、この転落死二件について容疑者は第一発見者装っており、さらにもう一件でも救命活動をしていたことだ(参照)。また、ジャーナリスト中村淳彦氏も扱っていたが、さらにもう一件、同容疑者は不自然な多臓器不全される死者の第一発見者でもあった(参照)。
 現時点では事件の真相はわからないが、一見すると、社会的な弱者に対する快楽殺人に近いようにも思われる。またそうして見るなら、「津久井やまゆり園」事件もむしろそれに近い。だが、快楽殺人だろうか? 
 弱者介護の過酷な業務のなかで生じる虐待可能な日常は、スタンフォード監獄実験(参照)のような状況を引き起こしやすい。むしろ、「津久井やまゆり園」事件の容疑者も、「Sアミーユ川崎幸町」事件の容疑者も、快楽殺人を起こすサイコパス的な人格というより、むしろその逆に、人格の根幹はさほど特徴のない凡庸な人間であり、その自身の凡庸性への憎悪の内向がこのような環境下で外化されたものに思える。そしてこの構図は、ネットで生じる憎悪や魔女狩りにも通じるものでもあるだろう。
 

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