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2016.06.08

「残響のテロル」と凡庸性の詩情

「PSYCHO-PASS サイコパス」を見終えて関連の情報を当たっているとき、「残響のテロル」がお勧めされたので見てみた。ノイタミナで同じころの作品ということだけの関連かもしれない。あっという間に見終えた。11話完結で面白かった。アニメの場合、1クールで映画2本分という感じだろうか。以下、ネタバレは含まれるのでご注意。

作品に違和感はないわけではない。というか、その世界観、2014年日本という設定、などに微妙な違和感があった。核が国家幻想に接する部分の物語は必然的にある種の陰謀論的な妄想を生み出す。この物語もその一つの典型的な派生に過ぎないとも思えたし、既存の世界、あるは日本に対する若者特有な破壊的な欲望も喚起する、「日本死ね」といったような類型性については必然的に退屈にも感じられた。また、登場人物が少なく、映像的な広がりの割に密室劇的な要素が強い。これは上演劇向けの作品かなと思ったら、すでにそういうのもあるらしい。

それでも面白かった。なにが面白かったのか。映像が美しかった。現代の日本の、都会の夏の風景がこの上もなく美しく描かれていた。これに菅野よう子の音楽がとても美しく調和していた。率直にいうと、それだけで見る価値のあるアニメだという印象がある。

ストーリー展開や表層的な主張性、キャラクターについては、あまり心動かされるところはなかったが、主要登場のひとり、三島リサという少女がとてもよかった。アニメなので美しく描かれているし、それに見合うように、いじめや家庭環境の問題など、心がずたずたの少女という設定も了解しやすいのだが、彼女の物語での立ち回りが、いたってなんの物語性がないというところが、皮肉な意味ではなく素晴らしい。もっとも、その反動面としてハイヴという女の子がいかにもこの物語のいかにも物語らしい側を担わされてしまってはいる。

物語は、ある意味、超人的な少年、九重新と久見冬二の物語であり、表面的にはテロの形で世界・国家の本質を暴こうとして共同幻想に関わり、共同幻想の神話的な物語を紡いでいく。それと現実の物語の接点に、柴崎健次郎という中年刑事がいる、というのも、まあ、どちらかというと定番の設定である。気になるのは、柴崎の年齢で、全共闘世代を臭わせているわりには若すぎるとは思ったが。

こうしたいかにも物語らしい物語のなかで、三島リサは受動的に物語りのコマのように組み込まれながらも、なんの特性もなく、主体的な物語への関わりもない。それでいて、この作品が本当の意味で独特な質感を作り出すのは、凡庸な三島リサと超人的な少年の関わりである。そしてその夏の風景は、村上春樹の初期作品のような叙情的な質感が上手に包んでいる。が、村上作品ほどホモソーシャルな情感はないものの、共同幻想がもたらす独特の対幻想への禁忌性は感じ取れる。

ハイヴの物語は描き足りないように思うが、脚本として大きな瑕疵もなく、他のストーリーの骨格や共同幻想的なレベルでのメッセージ性も明確になっているが、それだけなら、凡庸な政治性を可読にする、ありがちな主張に過ぎない。この政治的な通俗性とでもいうものがすべて、ある既視感なかで三島リサの中で終わるところは、ある陶酔感をもたらす。その意味で、この物語は、すべて三島リサという少女の一夏の幻想だったと言ってもいい。視聴している人間もみな、彼女のような凡庸姓のなかで、夏の詩情を持つようになる。そしてこの日本の夏の詩情は、無意識的に広島・長崎原爆への追悼の無意識に接続される。

私が仮にこうしたタイプの物語を紡ぐなら、もっとエロス的なシーンを多くしただろうし、そのことで共同幻想的な物語の欺瞞の情感を描くだろう。だがそのことによってこの作品のような独特の詩情は失われてしまう。エロス性の欠落は作品の情感の本質に触れている。

この、すべてが終わっているという既視感的な情感、あるいは最後に九重新と久見冬二という友情の墓が残されるという情景は、本質的なところで夏目漱石の「こころ」の枠組みと同じように思えた。この作品の死と愛の文脈の作り方は漱石的な質感も持っている。劇的なものが、凡庸な情感を介して回収される、こうしたある追悼的な詩情への希求は、おそらく、テロル的な心情と同型なのだろう。広義に鎮魂ということかもしれない。


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