南海
やあ、久しぶり。さてこのメンツで話題はというと……。
洋学
英国のEU離脱問題かな。あるいは、米国務省外交官51人がオバマ大統領のシリア政策を批判する内部メモに署名した話なんかどうかな。
豪傑
そんな国際情勢に日本人が関心持つと思うかね、洋学君。ここはあれだよ、このところの世間の話題、舛添都知事辞任問題とかだろ。
南海
そうだな。豪傑君に賛成しておくか、というか、あの騒ぎについて、豪傑君と洋学君が、どう思ったか気になっていたんだ。僕はね、この騒ぎ、いくらテレビで視聴率が取れるからといってちょっとやり過ぎだったな、っていうか、内容は別としてだな、雰囲気としてだね、なんか集団ヒステリーみたいな感じがしたんだよね。「舛添悪代官、これでもシラを通す気か」みたいな時代劇ががかっているみたいにさ。
豪傑
まさに悪代官だろ、舛添は。2014年の就任から昨年末まで、あいつ、八回の海外出張をやっているんだが、その経費知ってるか? 2億1300万円だぞ。それから公用車の湯河原別荘通いがこの1年で49回。こんなやつを都知事にしておけるか? 政治資金の公私混同もひどいもんだ。れいの「竜宮城スパホテル三月」の宿泊37万円は「会議費用」だとよ。笑わせる。実態は家族旅行だろ。天ぷらやイタリア料理食いまくって、7万円、美術品や骨董を「資料代」として買って、580万円。なんの「資料」なんだか。それに奥さんにやらせている「舛添政治経済研究所」に、彼の政党支部や資金管理団体が「事務所経費」として流した金が6年間で3000万円ほど。これ、そもそも使用実態があったのかね? ひどい話だ。
南海
お? 洋学君、豪傑君の話を黙って聞いているね。でも顔に書いてあるぞ、「これだから愚民には困ったもんだ」、図星だろ。それもわからないではない。洋学君は腹に据えかねているか。じゃ、ここは僕が仕切っておくかな。
洋学
ほお、どう仕切ると? 衆愚の暴走みたいな話なんだぜ。
南海
まあまあ。まずはだな、豪傑君もわかっているとは思うんだが、舛添要一さんが参議院議員時代にやっていた話と、都知事になってからの話を、それなりに分けて考えるべきだろうな。
洋学
そんなところから仕切らないと話にならんというのは、いったいぜんたい、どういうことなんだ、と俺は思うがね。
南海
豪傑君だって知っているはずだと思うが、政治資金規正法自体がザル法なんだよ。この法律は、金の入り口については厳しい。当然だ。ワイロを政治家に渡して政治を左右されてはたまったもんじゃない。だが、出口には実質規制がないに等しい。さすがにそれを元手に株式や不動産で資産運用とかしないくらいには規制してあるが、使途についてはなんであれ記載があればよく、それが適切に使用されたかという判断規定はないんだ。総務省政治資金課に聞いてごらん、「収支報告書で公開している以上の実態を把握する立場にない」って答えるよ。
洋学
政治資金規正法の線で、政治家をバッシングして辞任に追い込んでいけば、生き残れる国会議員なんて何人いるのか疑問だな。やる気になれば政治テロに等しい粛清だってできる。いったいこの国はどこの国なんだ。
南海
ようするに舛添さんを都知事に送り込んだ時点で、参議院議員時代にやっていた政治家マネーゲームについては、そんなものでしょという、都民の暗黙の合意はあったと見るべきだろうな。舛添さんとしてはちゃぶ台返しくらった感じかもしれない。
豪傑
いや俺は知らなかったぞ。知っていたら、絶対に舛添になんかに投票しなかったはずだ。ああ、いや、俺は舛添になんか投票してなかったがな。
南海
と、いうのが庶民のありかただというふうな前提にマスコミは立って、みんなで正義の劇を演じていたわけだな。
豪傑
だから、そもそも舛添を都知事に選んだ時点で間違っているんだよ。
南海
豪傑君ね、それは「お前がそう思うんならそうなんだろう」以上ではないよ。まあ、今回の舛添さんの件で、こうした政治家のマネーゲームの一端が世間にもわかってよかったとも言える。マスコミでもいちおう専門筋では気にしていたんだが、れいの美術品な、あれが面白い。「新党改革」の政党交付金が解散時に返却されてないんだ。あの金で580万円分の美術品が購入されている。ようするにあれは、彼の以前の政党交付金が化けたものなんだ。ほいで、舛添さんが都知事に出たときは「無所属」が建前だから、あれ、どうなってんのというわけさ。あれだよ、田舎の金持ち爺さんが黄金の観音像とか仏壇に飾っていたりするが、信仰なんてありやしない。税法上の技術だ。
豪傑
舛添のことだから、美術品も着服したんだろ。
南海
詳細はめんどくさいが、概ね違法性はないようだ。僕は思うんだが、あのあたりで、マスコミは狙いを外して、しくじった感があったんじゃないか。だから、実はマスコミのほうが逆上して、なんとか舛添さんを追い詰めたくなったんじゃないかと。
豪傑
君らの話を聞いていると、舛添もそんな悪い政治家でもないような気がしてくるなあ。いかんいかん、そんなわけないだろ。都知事になってからも、大名行列の海外旅行とか、ひどいもんじゃないか。
南海
おっと、洋学君、必死に笑いを堪えるということろか。まあ、これは苦笑だなあ。今回、舛添さんを追い詰めた都議さんたちがだが、これからリオ五輪に向けて4回7日間の視察旅行をする。当初は20人で随行員合わせて6200万円。高すぎるんじゃないかと共産党や生活者ネットワークが辞退したらその穴が埋め合わせになって結局都議27人で1億円を超えそうだ。ははは愉快だね。
豪傑
愉快なものか。都議はどうなってんだ。
洋学
そうだよ、「都議はどうなってんだ」。いい命題だ。本質を突いている。まあ、豪傑君の疑問のレベルでいうなら、舛添都知事の豪遊だって東京都人事委員会が認可していたわけだ。特段に舛添知事だからひどいという話でもない。むしろ、舛添さんが都知事についたころは質素なもので、最初の5回の外遊も1000万円程度に収まっている。外遊インフレを興したのはソチ視察あたりからかもしれないし、それでこの流れができたとも言えるかもしれない。が、いずれにせよ、東京都官僚機構の伏魔殿の風情もないわけでもない。とはいえ、基本は都議の問題だろう。
南海
だなあ。僕も思うんだが、今回の舛添さん騒ぎが始まったころ、まさか辞任にまで追い込まれると思っていた与党議員はいなかっただろうな。特段に、異常な事態があったわけでもない。猪瀬さんのときの問題は、まさに、さっき言った「入り口」の資金の問題だし額もでかかったからゆゆしきことだったが、舛添さんときはまあ、実にせこい話だ。あれ、君が読んでるニューヨーク・タイムズでも「せこい」でまとめていたんだろ。
洋学
ニューヨーク・タイムズのあの記事は、昭和の言葉で言えば「ほまち」ってやつかな。いちおう舛添さんに違法性がないことは明記してあって、じゃあ、この事態はなんだというところで、記者が「せこい」という日本語に逃げ込んでいた。昔懐かし日本人異質論みたいなものさ。「せこい」からで、一国の大統領クラスの要人が辞任に追い込まれるわけないだろくらい考えもしてないんだよ、昨今のニューヨーク・タイムズは。ついでに言うと、ル・モンドの関連記事も読んだが、こちらも違法性がないことを明記したあと、あまりに不可解なんで、他の政治問題を隠すための騒ぎだろう、みたいな陰謀論臭い話に仕上げていた。どうせ、フランス語をしゃべる日本人知識人の酒席のネタを拾ったんだろうな。最近、この手が多い。
南海
いつも海外報道をあがめている洋学君にしてはずいぶんと手厳しいな。
豪傑
しかし、都議が問題だというのは、腑に落ちてきたな。今回の舛添辞任ついても、日経の飛ばし記事っぽい印象もあるが、安倍首相が詰め腹をしいたっぽいしな。このままじゃ参院選に悪影響ってやつか。安倍こそせこいな。それにしても、舛添は自分が正しいと思うなら、都議を解散するという手もあったわけだが、それを封じるあたり、自民党って漆黒だな。
洋学
ああ、僕も舛添さんは、こんな馬鹿な都議を解散すればいいと思ったな。河村たかし名古屋市長みたいにさ。小泉元総理もそうだったが。
南海
洋学君、ホントにそう思うか?
洋学
あはは。ま、半分くらい。河村さんみたいにはいかないだろう。都民がメディアの馬鹿騒ぎでヒステリー状態にあるからというのじゃなくて、そもそも、舛添さんという政治家がどういう政治ミッションをもっていたんだろうかと、けっこう考えこんでしまったんだよ。ミッションが選挙民に伝わってなければ、この手の勝負に勝てるわけない。
南海
そこだな。舛添さんは「このままでは死んでも死にきれない」とか言っていたが、じゃあ、舛添さんが何をしたかったのか、というと、わからなかった。東京オリンピックか。
豪傑
舛添なんかに、そもそも政治のミッションなんてない。あいつが都政に貢献してる面なんてこれっぽちもあるもんか。
洋学
だとさ。今度は南海君が笑いを堪える番だ。
南海
人は忘れっぽいものだと思うし、今回の舛添都知事辞任劇もすでに忘却に足を突っ込んでいるわけだが、彼はあれで就任1年目は都議会の共産党からも「及第点」との評価を得ていたものだったよ。その後の1年間もなかなかの政治手腕だった。さすが元東大教授、教養学部。
洋学
豪傑君、都知事というのは公職だが、これは企業の経営者と同じ側面もある。単純な話、無限にばらまく金があればどんな善政だってできる。でも、金には限りがある。じゃあ、そういう東京都の全体的な経営者として見た場合、舛添前都知事はどう評価されると思うかね。
豪傑
くだらん。都知事の経営なんて誰がやっても同じだろう。グラフの線を延長するくらいなものだろ。それこそ、都知事職なんか人工知能でやればいいんだ。
洋学
概ねそう言ってもいいんだが、都税が4兆円代だった青島都知事・石原都知事の時代と比べると、増加し、平成28年度では約5兆2千万円になっている(参照PDF)。これはアベノミクスの効果もあるだろうが。おかげで都債発行額も減っている。
南海
舛添カラーと言えるかどうかは異論はあるだろうが、全体としてもバランスのよい都政だったと言えるだろう(参照PDF)。その点で、知事を辞任にまで追い込む必要はあったかというとどうかな。ところで、新知事選の候補の名前が挙がっているが、君たちは誰に期待する?
豪傑
元厚労省事務次官の村木厚子さんがいいでしょう。南海君は?
南海
元日弁連会長の宇都宮健児でいいんじゃないか。村上春樹のノーベル賞待ちの気分だな。あと、村木さんは前回も名前が上がったが立候補はしないでしょう。洋学君はどうかね。
洋学
僕はもう決めてますよ。
南海
まだ正式な立候補者がない時点でか?
洋学
「舛添要一」