19日に沖縄県恩納村の雑木林で20歳女性会社員の遺体が発見された事件について、最新の関連ニュースを見ていると、NHK的には「沖縄のアメリカ軍関係者の男が20歳の女性の遺体を遺棄したとして逮捕された事件」とし、簡易な呼称は表題として「沖縄・米軍関係者事件」となっていた(参照)。それで定まった呼称となるのだろうか。ふと気になってざっと見たところWikipediaにはまだ項目がないようだった。
被害者に深く哀悼したい。事件について私には詳細はわからない。が、逮捕に際しては、基本的には自供以外には監視ビデオ映像など間接的な条件の他には、直接的な物的証拠はなさそうに見える。殺害理由もよくわからない。私としては現時点でこの事件に言及できることは少ない。とはいえ、殺害について別の真犯人がいるという心象はない。世論的には、米軍が引き起こしたという政治的な枠組みでの問題に移行しつつあるように見える。
現時点で私がこの事件で気になっていたのは、実に些細といえば些細なことで、容疑者の名称である。
先のNHKニュースにもあったように、24日の時点の報道でも「嘉手納基地で働く軍属のシンザト・ケネフ・フランクリン容疑者(32)」としている。朝日新聞でも同日記事で「死体遺棄容疑で逮捕された元米兵で米軍属シンザト・ケネフ・フランクリン容疑者(32)」としている(参照)。つまり、NHKも朝日新聞も「シンザト・ケネフ・フランクリン」としている。ざっと他の最新報道を見ると、読売、毎日、日経、時事もそろってその表記を採っていた。
共同(産経)は「シンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)」(参照)としている。東京新聞も同様。地元、沖縄タイムスと琉球新報もこの表記である。つまり、「ケネフ」ではなく「ケネス」である。
「ケネフ」と「ケネス」の表記の差違は何に拠っているのだろうか?
私の記憶では、逮捕報道時の名称で「ケネス」を採用していたと気づいたのは、たしかサンケイスポーツだった。正確な記憶ではないのでざっと当たってみると、初報道があった同紙の19日報道にはそうあった(参照)。ざっと見たところ、産経系は「ケネフ」を採っていたが、共同を掲載する同紙としては共同系のソースで表記で一貫性は失われているようだ。
琉球新報では19日に「シンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)」(参照)とあり、前後の記事を見た範囲では表記のブレはない。沖縄タイムスも同様である。
容疑者の名称で「ケネフ」と「ケネス」が報道によって分かれているのはなぜかという疑問がある。これに附随して、どこかの時点で、一つの報道社で変更が生じたと見られるものはない。おそらく、それがあれば、変更理由が記載されるはずだが、私の見た範囲ではなかった。呼称の採用はおそらく報道社の報道姿勢によっているのだろう。
名称差を考える上で、原点となる、本人の名前が知りたいところだ。容疑者は米国籍と見られるので、英語名が存在するはずだ。それはどのようになっているのか。欧文報道にあたるべきだが、ざっと見た範囲では「ケネフ」を連想させる英文報道はなかった。また、この種類の報道で関係の深い、スターズ・アンド・ストライプスを見ると、弁護士にもあたったとして、次の記載がある(参照)。
An American civilian working on the island is being held by police in connection with the woman’s death. A former Marine, Kenneth Franklin Gadson — who goes by his Japanese wife’s name of Shinzato — has admitted to police to killing her and dumping her body, his attorney told Stars and Stripes.
おそらく容疑者の本名というか正式名称は「Kenneth Franklin Gadson」であろう。この記事はワシントンポストも信頼しているようだ(参照)。ワシントンポスト記事は興味深い記載をしている。
Japanese media identified Gadson, who also goes by his Japanese wife’s family name of Shinzato, as a U.S. Marine veteran, and the U.S. military confirmed that on Friday morning. His mother told The Washington Post that her son was in the Marines from 2007 until 2014.
“They say he’s locked up in jail, killed somebody,” said Shirley Gadson, 63, over the telephone from her home in New York City early Friday. She said she learned that Kenneth Gadson had been arrested when Japanese police called her on Thursday.
そして、この名称の「Gadson」は当人のLinkedinの「Kenneth (gadson) shinzato」(参照)にも見られる。
当人が記載したと見られるLinkedinの情報からすると、容疑者自身は自称を「Kenneth shinzato」として、Gadsonを控えたかったと見てよいだろう。
ジャパンタイムスの英文共同記事には、その関連と見られる記載がある(参照)。
n New York on Friday, the suspect’s mother, 63-year-old Shirley Gadson, expressed disbelief over her son’s alleged involvement in the death. Speaking to reporters at her apartment, she said she cannot believe her son would commit such a crime.
According to Gadson and an acquaintance interviewed along with her, Shinzato was born in New York, and she raised him as a single mother. He was shy and started avoiding school when he was 11 after being bullied, they said. The acquaintance said Shinzato had never caused trouble to others or been known to be combative.
Calling him “Kenny,” Gadson said she loves her son and wants to go to Japan but cannot.
Separately, she told The Washington Post by telephone that her son served in the U.S. Marine Corps between 2007 and 2014, the newspaper reported on its website Friday.
容疑者への母親へのアクセスはワシントンポストが先行していたか、共同が先行していたか、よくわからないが、容疑者はシングルマザーの家庭に育ったらしい。印象としては、「Gadson」は母親の家系名であるように思われる。そう想像すると、容疑者の日本での自称は、あえて、「Gadson」を意識としては、捨てて、妻の姓「シンザト(新里)」を名乗っていたように思われる。おそらく、「シンザト」名には、法的な根拠はないのではないか。
さて、先の疑問である、「ケネス」と「ケネフ」だが、まず、私も当初疑問に思ったのは、ケロロ軍曹の「ダソヌマソ」のように、「ス」と「フ」の書き間違いがある可能性である。ただ、そのレベルのミスであれば、すでに訂正され、統一されているはずである。
また同時に思ったのは、African American Vernacular English(AAVE)である。日本では「黒人英語」と訳されているだろうか。AAVEでは、「th」の音が「ふ」のようになる。Wikipediaの同項目にも説明がある。「"Deep" AAVE」とされている。つまり、かなり標準的な英語から離れることになる。
Word-medially and word-finally, pronouncing /θ/ as [f] (so [mʌmf] for month and [mæɔf] for mouth), and /ð/ as [v] (so [smuːv] for smooth and [ɹævə(ɹ)] for rather.[68] This is called th-fronting. Word-initially, /ð/ is [d] (so those and doze sound nearly identical). In other words, the tongue fully touches the top teeth.
おそらく、「Kenneth」が「ケネス」ではなく「ケネフ」となっているのは、容疑者本人の自身の発音の音転記に由来するものだろう。自称としてもよいか、本人としては、「Kenneth」が「ケネフ」と発音されるものだと自然に理解されていたのだろう。あるいは、そのような自称が、日本人の妻を通して音転記されたのかもしれない。
以上から、想像の域を出ないのだが、「シンザト・ケネフ・フランクリン」の表記は、なんらの根拠をもって、沖縄県警から発表されたものだろう。それに依拠して、NHKや朝日新聞は「ケネフ」としているのではないだろうか。他方、共同や地元紙は、その発表をもとに、AAVEの「ケネフ」を、日本語カタカナ表記的な「ケネス」に修正したのだろう。
その傍証は、ニューヨーク・タイムズ記事にある(参照)。ここでは沖縄県警と「Kenneth Franklin Shinzato」を結びつけている。
The suspect was identified by the Okinawa police as Kenneth Franklin Shinzato, 32. He was arrested Thursday after he admitted strangling a 20-year-old woman, Rina Shimabukuro, and dumping her body in a weeded area near her home in the town of Uruma, according to news reports.
それでも気になるのは、この日本報道の原点と思われる「シンザト・ケネフ・フランクリン」に相当する英語での表記が存在しないことだ。ニューヨーク・タイムズ記事でも「Kenneth Franklin Shinzato」であって、日本語表記のような「Shinzato Kenneth Franklin」ではない。
「シンザト・ケネフ・フランクリン」が沖縄県警発表によるとして、それがどのような根拠を持っていたかはわからない。私の推測では、シビリアンの登録に関連する日本語文書ではないだろうか。つまり、沖縄県警がこの事件で直接、容疑者から聞いたのではないだろう。あるいは、なんらかの住民登録かも知れないが、その場合、「Shinzato」が含めることができるのか疑問である。
以上が、現状、私が考えたことではあるが、こうした交渉は些末のように思える人が多いだろうが、私としては、呼称だけで、いろいろ推察されることは多いものだなということと、日本の報道機関の癖のようなものはなんだろうかという、改めての疑問であった。