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2016.04.15

トランプ米大統領候補とオバマ大統領との差は中東観ではあまりないかもしれない

米国大統領は米国民が決めればいいことなので、日本人としては基本的に国際情勢をどう読むかという知的関心以上には、それほど米国大統領選挙は興味がない。そのうえ、まあ、メディアがいくら騒いでもさすがにトランプ候補はないでしょと思う。それよりひどいクルーズ候補は論外。そもそも共和党の目はなし。するとヒラリー・クリントン候補か、にわか民主党サンダース候補か、だけど、同様にサンダースはないでしょう。なので、終了、と言いたいところだが、なぜか最後の詰めで確信が持てない。ヒラリー・クリントンもないよなあ、という思いが拭えない。

そうした文脈でしみじみトランプはないよなあと思いつつ、ふと、奇妙なことを思っていた。たとえば、この発言である。

中近東の人々と違って、東南アジアやアフリカの人々は、どうやってアメリカ人を殺そうかと考え続けてはいない。

つまり、「中近東の人々はアメリカ人を日夜どう殺害するかと考えている」と言う発言である。

トランプ候補なら言いそうだなと思う。で、誰の発言かというと、オバマ大統領の発言なのである。

正確には、その通りの発言ではないけど、文脈と代名詞を普通に補うと、こうなる。誇張じゃないのは、この言葉をオバマ大統領からインタビューで引き出したジェフリー・ゴールドバーグ自身がそうツイートしているのである。これ。

なんなんだろうなあ、これ、と思った。

失言? まあ、一部では失言として認識されてはいるけど、失言騒ぎとしてニュースになったり、この件でオバマ大統領が謝罪や撤回したということはなかった。日本だとあまり知られていないかもしれない。

いや、ツイートだけじゃわからない、というなら、ジェフリー・ゴールドバーグによる『アトランティック誌』のインタビュー記事の全文(参照)で確かめてみるといい。同じ。

He went on, “Contrast that with Southeast Asia, which still has huge problems—enormous poverty, corruption—but is filled with striving, ambitious, energetic people who are every single day scratching and clawing to build businesses and get education and find jobs and build infrastructure. The contrast is pretty stark.”

In Asia, as well as in Latin America and Africa, Obama says, he sees young people yearning for self-improvement, modernity, education, and material wealth.

“They are not thinking about how to kill Americans,” he says. “What they’re thinking about is How do I get a better education? How do I create something of value?”

この文脈だけだと、東南アジアやアフリカの若者は自らの向上心が高い、とオバマさんが言いたいために、ちょいと比較で口を滑らしたという感じもしないではない。だから、ことさらに失言部分を取り上げるようにも見えるかもしれない。

でもなあ、と思う、このインタビュー記事の全文を読むと、そうでもない。むしろ中東に焦点を置いている。

“Right now, I don’t think that anybody can be feeling good about the situation in the Middle East,” he said. “You have countries that are failing to provide prosperity and opportunity for their people. You’ve got a violent, extremist ideology, or ideologies, that are turbocharged through social media. You’ve got countries that have very few civic traditions, so that as autocratic regimes start fraying, the only organizing principles are sectarian.”

He went on, “Contrast that with Southeast Asia, which still has huge problems—enormous poverty, corruption—but is filled with striving, ambitious, energetic people who are every single day scratching and clawing to build businesses and get education and find jobs and build infrastructure. The contrast is pretty stark.”

「もうわかっているが、市民の伝統がほとんどない国(中東)では、独裁体制が緩みだすと、唯一の構成原理は宗派主義になる」というのが、オバマさんの中近東観。

オバマさんも、そこで留めておけばよかったのだけど、つい先ほどのように口を滑らしたとも言えないでもない。でも、これは政治的には失言ではあるだろう。

このインタビューをもう一段階上のレベルで見ると、オバマ大統領は、リビア体制を崩壊させたことは失敗だったとしている、という文脈だった。その点では、日本版のCNNでも関連報道が流れた。「オバマ米大統領 「在任中最大の間違いはリビア」」(参照)である。このインタビューは、先のジェフリー・ゴールドバーグのインタビューを受けたものである。

(CNN) オバマ米大統領は10日に放送された米フォックス・ニュースとのインタビューでこれまでの在任期間を振り返り、最大の間違いはリビアでカダフィ政権崩壊後の混乱に計画的な対処ができなかったことだと述べた。

大統領はインタビューで、2011年のリビア軍事介入自体は「正しい行動だった」とする一方、その後の無計画ぶりは失敗だったとの見方を示した。

オバマ大統領としては、国務大臣時代のヒラリー・クリントンの大失態である「ベンガジ大使館襲撃事件」をフォローしようとしたものなのは明白である。ちなみに、この事件だが、WSJ社説「ベンガジ事件の闇、大統領目指すヒラリー氏に傷―オバマ政権の判断ミス隠蔽に加担?」(参照)に詳しい。

多くのマスコミは2012年にリビア東部のベンガジで何が起きたのか、報じようとしない。この問題をめぐる米共和党の調査もお粗末だ。しかし、次の大統領選挙に向けオバマ政権とヒラリー・クリントン前国務長官がどんな努力を尽くそうとも、この話はどこまでもついて回る。  

 2012年9月11日にベンガジの米領事館と中央情報局(CIA)の活動拠点がテロリストに襲撃された数日後にホワイトハウスが送信した電子メールで、新たな事実が発覚した。これらのメールは昨年、事件への対応と事後処理に関するすべての文書だとオバマ政権が主張した資料には含まれていなかった。保守系の監視団体ジュディシャル・ウォッチによる情報公開請求を受けて4月29日に公表されたこのメールを見ると、オバマ政権がなぜメールを隠そうとしたのかが分かる。


 実際には、この事件はアルカイダと関係のあるイスラム組織が綿密に計画したもので、クリストファー・スティーブンス大使と米国人職員3人が殺害された。その数時間後、トリポリの米国大使館の国務省・CIA職員、リビアの大統領、ビデオ映像によって事件が公になった。だが、オバマ政権はそれをごまかすことを決め、1週間以上にわたりしらを切り続けた。 

 こうしたすべてのことは、次の大統領として有力候補とみられているクリントン氏の適格性に直接影響を与えるものだ。国務省はベンガジで拡大する過激派の脅威に対する度重なる警告を無視し、セキュリティー改善の要求を拒否した。また、あるCIA職員の父親は、自分の息子の死と動画には何の関係もないにもかかわらず、クリントン氏はユーチューブの動画作成者を「起訴・逮捕する」と約束して彼を慰めようとしたと報道陣に語った。

率直に言えば、ヒラリー・クリントンの、米大統領候補としての適格性は大きな疑問符がつく。そこでオバマ大統領が自分が間違っていたと泥をかぶって彼女の擁護論に出たわけだ。

しかし、と私は思うのである。こうした政局的な視点よりも、一見口を滑らしただけかに見えるオバマ大統領の見解は、リビアの失態よりも、シリアの「成功」が陰惨な結果を招いてきたことに呆然とする。

オバマ大統領は「市民の伝統がほとんどない国(中東)では、独裁体制が緩みだすと、唯一の構成原理は宗派主義になる」という考えかたを実際にはシリアにも適応していた。ロシア大統領プーチンと同じように、実際には、シリアのアサド大統領を支持していた、ということだ。


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