映画『脳内ポイズンベリー』
笑える映画だろうなと軽い気持ちで見ていた『脳内ポイズンベリー』なのだが、いや確かにお腹がよじれるくらいにいろいろと笑ったのだが、どうも微妙に深い。間の取り方とか絶妙過ぎて、後半これどうすんだ? マジ展開して名作になるんかと思ったら、名作でしたよ。泣けた。なんだこれ、すげー名作じゃん。うかつでした。
話はちょうど30歳になるフリーター女子・櫻井いちこが飲み会で、美大卒のイケメン売れない造形アーティストの23歳男・早乙女 亮一に一目惚れして告って関係持つというふうに始まるのだが、いちこの脳内では彼女の行動を決めるための5人の会議が展開されている。いかにも漫画風だなと思って、後からググッてみたら、漫画が原作でした。知らなかった。とはいえ、ちなみに脳内会議というのは、交流分析とかではふつうに扱う。
30歳女と23歳男でうまくいくかというと、まあ、世の中いろいろ、ではあるが、普通年上女は気遣いと負い目を持つし、年下男は膨れた自尊心に合わない引け目の感覚を持ちがちで、そのあたりのお約束はこの作品でも型にはなっている。
物語では、いちこがやがてケータイ小説を足がかりに作家になり、その過程で、映画では40歳くらいの設定だろうか、編集者の越智公彦と付き合う。映画では一度のキスだけの関係。
そうした設定の恋愛フレームワークで女がどう揺れるかというのは、宇治十帖などからの古典的な枠組みでもあり、いくつかの派生パターンに収束するんだろうな、ふむふむそうだよね、どれかな、と見ていたが、ちょっと意外な結末だった。一見すると女の自立ようには見える。
でもこれは、いわゆる自立した女というのは、ちょっと違う何かで、その微妙な違いがうまく表現されていた。というか、演じる真木よう子がうまかった。彼女でないとそこは表現できなかったんじゃないだろうか。ちょっと話がそれるが、彼女のニット帽はよかった。漫画の原作ほうにはないみたいだった。
こういうとなんだが、女は30歳でも若い心があって、結局惚れた男を選んじゃうものだし、そこで悲劇が起きても、しゃーないでしょ、みたいになりがちだだろう、と思う。だが、それでええのか的な課題はあり、この作品はけっこう真正面からこの難問にぶつかっていた。おい、答えの出ない問いに答えを出すかよ、とか思わず突っ込みを入れたくなるような感じだったが、納得の答えが出されて圧倒された。
エンディングでは➀女の旅立ちと➁新しい出会いというオチが2つ実質的にはパラレルに、視聴者の好み合わせて用意されていたようだし、文脈的には、越智との再開が暗示されていた(靴でわかる)。まあ、それはどっちでもよいでしょう。漫画のほうのオチはまた別らしい。
オチにも関連するが、映画で、このシーンはいいなあ、と思えたのは、陳腐だが、早乙女と越智が殴りあいだった。ちょっと見には、これってダメ男じゃねという印象も強い早乙女が、越智とも関連のあったデザイナーの山崎未歩子について、実は若い男の感性で真摯に向き合っていたことが明かされることだった。つまり、これは、早乙女は本当にいちこを愛していた、というわけだ。
ほかにも、恋愛の苦しさのなかで経験する微妙なシーンや、恋愛後に気づく人間の真実みたいなものも、さり気なくあちこちに上手に露出していたので、見る人の恋愛の経験でいろいろと楽しめる仕上がりになっていた。
というわけで、久々に、よい恋愛映画を見たなあと感動しましたね。
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