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2016.04.13

ドラマ『Empire 成功の代償』の感想

『Empire 成功の代償』は米国FOX系のドラマである。現代の、主に黒人カルチャーの大衆音楽シーンに、黒人社会特有の文化・社会問題をどろどろに混ぜた濃い物語。音楽業界の内幕ものということもあり挿入歌も素晴らしい。私は黒人音楽系にはほとんど関心ない人だが、それでも魅惑された。

物語は、米国最下層のスラム出身のストリート系ラッパー、ルシウス・ライオンが業界で約20年かけて成功し、身内の黒人中心に巨大な音楽中心企業エンパイア社を設立。さらなる発展に向けて株式公開を目指すのだが、彼自身が死病を患い、また彼の麻薬売人の過去の罪を背負った17年の刑務所入りから戻るかつての糟糠の妻クッキーと、再開を果たす三人の成長した子どもとの間に、愛憎と権力を交えたファミリーの物語が展開する。長子は双極性障害、次男は同性愛者、三男は年上の女にたらしこまれている生意気なラッパー。誰にこのエンパイア社(つまり「帝国」)を継がせるか。そしてルシウスも再婚に近くその人間関係もぐだぐだ。

これだけてんこ盛りなら大衆ドラマとしては面白いだろうけど、僕みたいに静謐で内面に罪を抱えた神学的なドロドロもんが好きなタイプだと途中で放り投げるだろうなと思っていた。が、すぐにその魅力に取り憑かれた。まず、歌がすばらしい。これはもうどうしようもないレベルにすごい。次に、特にクッキーを演じるタラジ・P・ヘンソンの演技というか存在感がすごすぎて惚れそうだ。

虚栄の音楽業界の内幕の背景には、米国貧困層の問題や黒人社会問題などもぎっしりつまっていてそうした面でも厚みのあるドラマになっていた。

物語は、ルキウス皇帝が帝国を誰に継がすのかという枠組みなので、皇帝ルキウス・ライオンとしての、ルシウスという存在に当然がらかなり焦点が当てられている。飽くなき権力欲と悪の塊のようにも見えるヒール役の彼だが、脚本や演出の良さからその彼にも視聴者は同情的に心惹かれていく。どれだけひどい人間に見えても、彼の心にだけ宿っている、音楽という神は嶄然と輝いている。こういうものを抱えた天才の人生は当然のように苦しいだろう。

かくして物語に魅了された私だが、さすがに濃すぎて一話一話ぐったりする。見たのはシーズン1だけだがその後半になると、親子相姦的なシーンも出てきて、自分の趣味からすると気持ち悪くて吐きそうになった。それでも見てしまう。

アジア的な世界やヨーロッパ的な世界というのは自分の好みもあるが、こうした濃い黒人社会的なドラマは自分には関係ないだろうと思っていた。が、案外そうでもなかった。身体を絞られるような悲しみと歓喜のようなものが経験できた。


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