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2016.02.01

『アフェア 情事の行方』はすごいドラマだった

当初、あまり期待なく見始めたテレビドラマ『アフェア 情事の行方』はすごかった。表面的な題材から簡単に言えば、不倫物である。四人の子供もある冴えない作家志望の高校教師の男・ノアと、田舎の観光地で観光ビジネスで食いつないでいるその地方の家の若い嫁・アリソンが、ヴァカンスシーズンに偶然恋に落ちるという代物で、そんなふうに説明されたらまともな人間なら見るわけないだろ、というような代物である。本質は、全然そうではない。

不倫もとりあえず不倫ではあるのだけど、ただ恋に落ちるというものではなく、ひりつくような孤独と苦悩を抱えた中年の男と女が、どうしようもなくそこに落ちていく。その落ち方は、普通にある程度知性というものを抱えた男女なら理解できるだろうというくらい丁寧に描かれている。

その先にはいちおう謎の殺人事件があり、形式上は推理小説のようにもなっている。通常の推理小説ならそのお作法の謎解きくらいの面白さで終始するのだが、この作品ではどちらかというと殺人事件も二人の罪の深さを暗示するような仕立てになっている。表題の”The Affair"は不倫と事件の二重の意味があるだろう。

初回面食らったのは、最初にノアがアリソンに出会うまでの話が30分ほどノアの視点から、ノア・パートとして描かれ、そのあと30分ほど基本的には同じ話がアリソンの視点からアリソン・パートとして描かれていて、同じ風景や話展開のはずだが、ディテールが微妙に違う。いや、ディテールの差ではないけっこう大きな部分で違っている。不倫にいたるプロセスが男の目からと女の目からはこんなにも違って見えているというのがわかる。そういう違いは恋の本質でもありながら、スレ違いでもある。見ながら私などは、すっかりノアが見る世界に共感し、アリソンの見る世界で、「女ってこういうふうに世界を見ているのか」と考えさせられる。当然ながら、二人の感受する世界の差異は、殺人事件の鍵にもなっている。

ドラマなのでどこが好きかというのは、好みが違っていて当然だろう。ノア役のドミニク・ウェストは美男子とは言いがたいし日本人の女性があまり好むタイプではないだろうが、あれはけっこうセクシーな中年男だと思う。アリソンは一見するとかなり癖のある美人だが、その癖のなかに孤独や知性や狂気がうまく溶け込んで魅惑される。吹き替えの声で聞くと高めの声だが、女優のルース・ウィルソンの声は低く、それだけで独自のセクシーさがある。

ノアの妻ヘレンもアリソンの旦那コールもなかなかうまい設定になっている。不倫で裏切られる側の姿もよく描いている。シーズン2ではそのあたりもまた表に出てくるらしい。ノアの家庭の子どもたちの演技もうまい。

特に金をかけたはでな映像には見えないが、ヴァカンス地モントークの光景やノアの住居ブルックリンの街も丁寧に美しく描かれている。現代のアメリカの俗悪的な風景やそれゆえにそこから孤立してしまうようすも美しく、その結果的なアイロニーはかなり笑えるものになっている。私たち現代先進国の人間の俗悪さを鏡で見るような苦しい笑いがある。このあたりもシーズン2に繋がるだろう。

日本のメディアでこういう特殊な恋の、深みのある物語ができるだろうか。できないわけでもないが、あまり思いつかない。しかし要するに作品が良ければどの国の作品でも同じだ。すでに米国ではシーズン2が終わり、3が予定されているらしい。話を引っ張るにはそれに見合う地獄が必要になるだろう。なんでこんな暗い物語に魅了されてしまうのかと思うが、その暗さが人間というものだろう。結果的には宗教的な作品なのかもしれない。

あと、出てくる人物の肌の色合いや名前などに、いろいろ深い意味がありそうにも思える。ノア・ソロウェイはユダヤ人の暗示はあるのだろうか。ヘレン・ソロウェイの褐色の肌の意味は、などと思うが私などにはわからない。英語は現代米語ってこうなのかという勉強にもなる。不倫は”fling"だし、"score"なんて普通に言うのかあと驚いた。

音楽もなかなかに美しかった。

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