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2016.01.24

Y はギリシアの I

そういえば、イタリア語のキーボードはどうなっているのかと調べてみると、普通に、というのも変だが、QWERTY配列を使っていた。もともとラテン語を継ぐ言語なのだから、ラテン字母を並べたキー配列を使うだろうと思ったのだが、考えてみると少し奇妙である。もともとキーボードの元になるタイプライターは米国人の発明だから、イタリアには米国経由でそのまま入り、フランス語ではフランス語に合わせて変化したということだろうか。

気になってスペイン語やポルトガル語のキーボード配列を見たら、イタリア語同様、QWERTY配列が基本であったようだ。これらは、タイプライターのニーズの歴史にも関わっているのかもしれない。

ついでにイタリア語のアルファベットを見ていて気がついたのだが、英語と同様、またフランス語とも同様に、26文字を使うのだが、英仏語とは異なって、26文字がフラットに同様の文字として扱われているのではなく、KJWXYの5文字は外来語表記用として別途意識されている。なので実際のところは、イタリア語のアルファベットは21文字だけとしてよい。別の言い方をすれば外来語を廃するなら、イタリア語では21文字で足りるということになる。このあたりの文字セットの意識はイタリアの子供でも意識されてはいるのだろう。

イタリア語のネイティブではないその5文字の読みを見ると、Kが「カッパ」、Jが「イ・ルンガ」、Wが「ヴ・ドッピャ」、Xが「イクス」、Yが「イプスィロン」、Zが「ゼータ」となっている。Jに「ヨータ」の読みもあるところから、これらはW以外はギリシア語のアルファベットの読みに関連する意識を継いでいることがわかる。それはラテン語のアルファベットがそもそも、そういう意識、つまり、ギリシア語の外来語を表示するために作られたという意識を反映しているのだろう。

ラテン語のアルファベットについて言えば、母音Iの子音表現がJ、母音Uの子音表現がW、でもあるだろう。英語では、これがIがYに対応している。Cityの複数形がCitiesになるのは広義にはこのため。

また、イタリア語では、Jの「イ・ルンガ」は「長いI」、Wの「ヴ・ドッピャ」は「Vがふたつ」である。英語のWは「Uがふたつ」ではある。

ということをぼんやり考えていたら、ああ、なるほどと思うことがあった。フランス語のYが「イ・グレック」、つまり「ギリシアのI」なのは、同じ理屈からだろう。イタリア語でも、Yについてはいちおう「イ・グレーカ」の読みもあるにはあり、同様に「ギリシアのI」ではあるが、イタリア語の場合は、Y自体が外来語用の文字だが、フランス語の場合、Yは、外来語的ではあるが明確に母音体系として意識されている。つまり、そのことがフランス語における「イ・グレック」という呼称の、Iを強調する含みなのだろう。

そもそもラテン字母は、ラテン語がギリシア語の関わりで子音字母を拡張してまとめられたとも言えるし、これらの母音字がラテン語の母音5音でそのまま維持されたために、フランス語やドイツ語などの言語では母音字の拡張として音表記にアクサンやウムラウトなどができたのだろう。これがキーボードの困難さの起源とも言えるかもしれない。

この点、ロシア語の場合は、文字セットそのものを作り変えたとも言える。ただ、ふと思うのは、ロシア語の場合は、軟母音に独自の字母を当てなければ、ラテン語の5母音で足りたので、ラテン字母の表記もあっても不思議でもないように思える。

英語のアルファベットは、元来は、ドイツ語のようにラテン字母と音を意識して変遷するはずだったが、大母音推移が正書法改革を起こさないまま続いて、なんとも恣意的なものになってしまった。逆にいえば、ラテン字母のまま表記できる言語のまま維持された。母音の特性を母音字に反映するための規範という考え方が、国民国家として十分に発達しなかったことから、そもそもなかったのかもしれない。

こうした英語の奇妙な性質は、英語に閉じた外国語教育からは見えにくいだろうなとも思った。
 
 

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