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2016.01.14

「ニーベルングの指環」入門というか

昨年の目標の一つは、ヴァーグナーの「ニーベルングの指環」を通して見ることだった。最終的な目標とまで行かなくても、本来ならオペラハウスできちんと見ることだが、さすがにこの超大作となると事前の勉強なしで見ることは、事実上無理ではないか。作品は4作のシリーズで合計で15時間くらいになる。本来ならこれを4日で上演するらしいが、現実のところかなり難しく、毎年1作で4年がかりということも多い。日本でも現在4年がかりの2年目が終わったところ。私などはとりあえず、DVDで見るくらいである。

しかし、そもそも、そこまでして見るべき大作なのかというと、人にもよるだろう。好きな人は好きだろう。が、事前のお勉強を超えてまで見るほどの価値があるかというと、なんたらかんたら、ということで私などこの歳まで先送りしてきた。ヴァーグナーについては、先送りする理屈なども何かとつけやすい。しかし、とりあえず、見終えてみると、圧倒的にすごい作品だった。現代の人類の一員なら見ておいていいんじゃないかくらいすごい。

もっとも、「スター・ウォーズ」よりすごいかというと、時代の差みたいのを平滑化すると意外と同じかもしれない。これの6作までだと通し時間で15時間くらいではないだろうか。つまり「ニーベルングの指環」と「スター・ウォーズ」は上演時間では似ている。実際、テーマや情感も似ていたりする。それだけで評論も書けるだろう。

だから、「ニーベルングの指環」入門というか、この作品に取り組もうと思う人それ自体、この作品の魅力に縁のある人だろう。そして、そういう縁のある人にとって、この作品はあまりに圧倒的だと言ってもいいだろう。

そこでどこから、事前のお勉強を始めるか。よく言われているのが、漫画である。オペラは基本的に筋書きが単純だし、文学的な言葉の深みというのは純粋な文学ほどないので、とりあえず、ストーリー展開や登場人物関係を知るには漫画向いている。そして、「ニーベルングの指環」も神話が題材なので漫画にそもそも向いている。

そこまではいいし、日本では二作ほど、「ニーベルングの指環」の漫画本がある。あずみ椋のと里中満智子のである。他にもあるかもしれない。


詳しくはわからないが、あずみ椋のこの漫画は絶版のようだ。さらにそれ以前の版も絶版になっている。中古本ならまだ手に入るだろう。

で、どうか。少女漫画タッチの絵に抵抗がなければ、漫画としての作品を意識した構成になっているので、その点では読みやすい。原作との対応で見ても丁寧な作品になっている。これをきちんと読んで理解すれば、概ね、「ニーベルングの指環」の筋書きや登場人物などは理解できる。

ただ、それが裏目になっている面もある。特に、ローゲの扱いが漫画ではストーリーの紹介役も兼ねているが、原作ではなそうではない。漫画の欠点ともいえないが、そうした点は注意したほうがよい。あと、この漫画の本には冒頭で音楽についてかなりうんちくの解説文がついているだが、それがかえって原作に触れる敷居を高めてしまっている面もあるかもしれない。「ニーベルングの指環」は基本は大衆作品だと理解してよいので、最初からそう構える必要はないと思う。

もうひとつの漫画は里中満智子のものである。



こちらは、普通に「ニーベルングの指環」という作品を漫画で紹介したという感じの作品で、里中満智子らしいユーモアは含まれてはいるものの、ごく普通の学習漫画である。その分、物足りなさはあるが、割りきってしまうなら、十分役立つ。

さてこの漫画を――あずみでも里中でも――読んで、ストーリーと登場人物の関係を頭に入れれば、「ニーベルングの指環」を見ることができるかというと、できる。あとは、字幕(Subtitle)は日本語のほうがよいだろう、くらいである。

ただし、「入門」ということであれば、それを真正面から取り組んだ、山本一太「はじめての『指環』―ワーグナー『ニーベルングの指環』聴破への早道」が手元にあるとよいだろう。実にわかりやすく書かれているうえ、音楽を聴きこんだあとでも役立つように書かれている。




ただし音楽の部分解説は、文字だけで書かれているので、わかりにくいといえばわかりにくい。思うのだが、この文章を元に、「ニーベルングの指環」の学習ビデオ教材があるとよいのではないだろうか。

あとひとつ、余計なお世話かもしれないが、こうした比較的容易い入門書は、基本なので当然なのだが、原作に忠実に書かれている。ところが、実際に近年の「ニーベルングの指環」の演出は、その大半が、現代演出になっているので、そこの心構えというか、事前知識みたいのがないと戸惑うのではないかと思う。

オペラの現代演出というはどういうことなのかというのは、cakesのほうに「死の都」を題材に「20世紀最高の傑作オペラ、その無限の可能性——『死の都』という文学」(参照・有料)で論じたので関心のある人は読んでいただきたい。結論だけいうと、オペラというのは現代演出が面白いのである。

DVDや音楽の構成については、また別途書こうかと思う。とりあえず、漫画本は入門になるという話で今回はお終い。

 
 

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