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2016.01.25

[書評] ジョセフィーヌ! アラサーフレンチガールのさえない毎日(ペネロープ・バジュー)

フランスの現代漫画(正確にはBD)の『ジョゼフィーヌ! (アラサーフレンチガールのさえない毎日) 』が面白かったので、その続きが読みたいものだなと、フランス語の原書の二巻目を注文しておいて忘れていたのが、昨日届いた。失敗といえば失敗。続きの本ではなかった。日本で発売されているのは、原書の3巻を合本にしたもので、私が購入したのはその第2巻目であった。しかし、開いてみると、これはこれでよかったなと思った。つまり買って良かった。その話はあとで。

『ジョゼフィーヌ! (アラサーフレンチガールのさえない毎日) 』は邦題のサブタイトルでわかるように、パリジェンヌのジョセフィーヌのさえない毎日が描かれていて、笑える。作者のペネロープ・バジューが1982年生まれだから、今年は34歳になるのかな。女性の年を数えるのも失礼だが、世代の感覚というのを知りたいと思った。もとは彼女のブログらしい。最初の巻が出版されたのは、2010年だから28歳のこと。日本語では「アラサー」として30代を想定しているが、実際に描かれているのは比較的現代の、20代後半のパリジェンヌの生活実態ということだろう。

2009年らしい統計だが、フランス女性の初婚年齢を見ると、29.8歳。厳密に調べたわけではないが、だいたいそのあたりだろうし、日本とさほど変わりない。実際、この漫画(BD)を読んで思うのは、日本のその年代の女性と似た感覚なんだろうなと思えることは多い。もっとも、そうでもないなあと思えるところも多く、私などはそのほうが興味深い。

という話をしたのは、平均的な婚礼年齢の意識というのがこの物語の背景にどうあるのかということだった。ざっと見た印象の一つでいえば、この物語は、恋愛に不遇な二十代後半の女性がそれほど冴えないけどやっていけそうな男性と暮らして、妊娠したというあたりまでの話になっている。というわけで、子供が生まれたあとはどうなのか、気になって続巻を求めたつもりだったわけである。が、つまり、そこまでの、妊婦になるというまでが、『ジョセフィーヌ』のテーマとも言えるし、なんというのか、子供を持ちたいという内的な感覚が、とても上手に表現されている。

ネットを眺めたら、著者のペネロープ・バジューさんは、2014年、在日フランス大使館とアンスティチュ・フランセ日本が主催の文学とBDのフェスティバル『読書の秋2014』に来日していて、そのインタビュー記事もあった(参照)。インタビューがまずいとも思わないが、パジューさんの思いと少し違っているかなと思われるのは、BD(バンド・デシネ)の感覚だろう。

ペネロープ いいえ、そうした目的で作品を描いているのではないのでまったく考えていませんでした。私がやりたかったのは、自分の作品を作ることなんです。ただ、ひとつ困惑したことがあります。2008年に出版したブログ本『あたしの人生、なんて魅力的なのかしら』がすぐに売れて、マスコミに数多く取り上げられました。そのうちにさまざまな社会的事象について、マスコミからコメントを取り上げられる機会が増えました。私自身や作品には関係のないことも、です。そういうことは決して得意ではないし、好きではありません。  マスコミに自分が露出することは好きではないんです。私の目的は、作品を世に出すことですから。ただ、これはひとつのチャンスだと考えて、最近では今の立場を利用して意見を発表するようにしています。そうした露出の管理はできるようになったな、と思っています。
ペネロープ 日本のマンガと違って、バンドデシネは制作にとても時間がかかるので、あと10作品描けたらいいなと思っています。すでに頭の中にあるアイデアを作品にしたいというのが、正直な思いです。私はそんなに描くのが早くないので。

この思いは作品を手にするとよくわかる。この手の自虐ギャグは日本にも多いが、この作品で特徴的なことは、まずカラーセンスだろう。基本的に1ページで終わるネタが多いが、それには基本のカラーが選択されていて美しい。それと、風景というものへの感性がとても精神的な遠隔性を表現しているのも美しい。

そして、原書を手にしてわかったのだが、セリフはすべて手書きだった。そして、この手書きが、筆記体だったのである。この筆記体の手書き文字というものの、人間らしいカリグラフィックな感触が全体のアート性ととてもきれいに調和している。1ページをそのまま切り出して、額に入れて壁に飾ってもいいくらいだ。

このところフランス語の文字、とくに筆記体のことをブログにも書いているが、お手本としているのは、筆記体のフォントやいかにもきちんとデザインされたお手本ばかりで、実際にフランス人がある程度美的なセンスを意識した普通の筆記体のフランス語の文字という意味でのお手本がない。この本は、その部分でとてもいい「教科書」になった。ああ、そこで続け字を切るのかとか。またところどころ、活字体風の手書きを効果的になっているのも面白い。

原書が手に入ったので、翻訳の状態はどうかなと付きあわせてみた。誤訳の有無については私などにはわからないが、購入した2巻の最初のページでも、あれ?と思った。

パリだろうカフェの道側の一人席でジョセフィーヌがサングラスして雑誌を読んでいる。ポジティブ心理学というものらしい。まあ、日本の雑誌やネットなどにもよくあるあれだ。

「理想の恋をしてますか?」
«Étes-vous sûre de mener la vie amoureuse dont vous rêvez depuis toujours ? ...
(ずっと夢見てきた愛の生活を確実に送っていますか?)

「もっと前向きに」
...Et, si vous osiez enfin dire oui au bonheur ?
(で、つまり幸福にイエスと断言するか?)

そして、幸せもまた鍛錬すべきだという話のあと、細身のイケメン男性が店内から瓶とグラスを下げにくるところで彼女はこう読む。

「自ら働け!」
...Prenez des initiatives !
(いろいろ主導しろ!)

で彼女は、サングラスを外し、どきまぎ汗して(これは日本漫画様式かな)、上目でで彼にオフになったらどうするの、ときく。そのときの彼の答えが、

「彼氏とご飯かな!」
Mmh... À priori, je dûre avec mon amoureux !
(当然、恋人(男性形)と過ごすよ。)

そのあと、ジョセフィーヌには空笑いしてから、ブチ切れる、というオチだが、フランス語だと、la vie amoureuse と mon amoureuxの対比がとても面白いし、主導権を取ろうとしてコケるあたりも面白い。

きちんと読むと、フランス語のお勉強にもなってしまいそう。そういえば、ヴァカンス先で、机にしまった「お寿司」を思い出すというシーンがあり、原文ではどうかなと調べたら、寿司だった。

ところで原書の帯に映画化されたとある。あった。これ見たいなあ。


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