ポーランドの現状の、「立法」と「法の支配」について
日本で報道がないわけではないが、あまり話題になっていない印象があるのが、ポーランドの現状である。私のごく主観に過ぎないかもしれないが、逆に私が気になっている部分をブログで書いておきたい。
ポーランドでは去年11月、右派政党である「法と正義」党による政権が発足し、国家の進行方向に変化を見せ始めている。先月には、憲法裁判所決定に必要な判事同意を従来の過半数から3分の2に引き上げた。これによって立法の違憲判断する条件が厳しくなる。つまり、違憲の疑念の強い立法が可能になる。
そして現在ポーランドでは、公共放送局を統制する法案の成立を進めている。公共放送による批判を抑えこむためである。簡単に言えば、報道の規制である。「法と正義」党は、前与党「市民プラットフォーム」党が任命した幹部が公共放送を支配していると見ている。
こうしたことに世界のリベラル派は懸念の声を大きく上げている。EUも批判の声を上げた。13日、EUの執行機関に当たる欧州委員会がこの問題を協議する会合を開き、加盟国に義務づける「法の支配」の原則にポーランドが違反するおそれがあるとして本格的な調査に乗り出した。
ここで私は単純な疑問を持った。主権国家であるポーランドが、正当な立法手順を経て成立した法で国内を統制することに対して、EUが「法の支配」を元に規制できるのだろうか? もちろん、そのことが加盟国義務であるからできるのだとは言える。だが、愚問に近い疑問は、「EU加盟義務」が問われているのではなく、「法の支配」が問われている点である。主権国家の上位に「法の支配」を置くことができるのだろうか、ということである。
EUの言い分は正確にはこうである(参照)。
ジャン=クロード・ユンカー委員長率いる欧州委員会の委員たちは本日、ポーランドの最近の動きと法の支配について、初めての討議を行った。法の支配は、欧州連 合(EU)が礎とする基本的価値の一つである。欧州委員会は、EU法の遵守を確保するという役割のほか、欧州議会、EU加盟国およびEU理事会と共に、 EUの基本的価値を保証する責任がある。特に憲法裁判所の構成員をめぐる政治的・法的論争など、ポーランドにおける最近の動きは、法の支配の遵守に関する 懸念を引き起こした。このため、欧州委員会は、憲法裁判所および公的放送機関に関する法の改正について、情報を求めた。フランス・ティーマーマンス第一副 委員長(法の支配担当)、ギュンター・エッティンガー委員(メディア政策担当)およびヴェラ・ヨウロヴァー委員(法務担当)による状況説明に続き、委員ら は、法の支配の枠組みの下でポーランドの現状を評価すべく、初めての討議を行った。本日の討議を受け、欧州委員会はティーマーマンス第一副委員長に対し、 法の支配の枠組みに基づく体系的な対話を開始するためにポーランド政府に書簡を送る権限を与えた。欧州委員会は、欧州評議会の「法による民主主義のための 欧州委員会」(ヴェニス委員会)と緊密に協力しつつ、3月中旬までに再度この問題を取り上げることに合意した。
仮訳らしいが、ここで主張されていることは、「法の支配」は、EUの「基本的価値」であると読める。
つまり、今回のポーランドの事態は、「法の支配」そのものが問われているということであり、これは、主権国家の限界に接している。
こうした議論でややこしいのは、よく言われていることだが、「法の支配」が「法治主義」と異なる点だろう。「世界大百科事典 第2版」では強調していた。
法の支配は法治主義とは異なる。法治主義という言葉も人によって若干用法を異にしているが,基本的には,統治が議会の制定した法律によって行われなければならないとする原理であるといってよい。これに対して,法の支配は,統治される者だけでなく統治する者も〈法〉に従うべきであるということを意味する。そこでの〈法〉には,議会が制定した〈法律〉を超えた,自然法的な響きがこめられることになる。そのような〈法〉が,統治の各面を支配すべきだというのが,法の支配の精神の真髄なのである。
この説明だと、一国の議会が制定した法を、自然法である「法の支配」が凌駕するということになる。また、日本国憲法のような成文法とも限らないことになる。
ところで、EUがポーランドを規制しようとしても、実際的にはEUの投票権停止くらいの罰則しかできない。結局のところ、「法の支配」を担保するものは、何になるのだろうか?
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