フランス語の筆記体を学ぶこと
年が変わるころ、さて来年は何かをするかなと思う。新年の決意である。英語で "New year's resolution" 。そういう歌もある。なにかを決意する。私はというと、さすがにそれなりに長く生きてきた、できもしないことの廃墟のようなものなので、たいそうな決意はしない。些細なことを決意する。2015年はなんだっかというと、「ニーベルングの指環」をDVDで見ることだった。ちなみにそれは達成した。思っていた以上に自分の満足があったが、思っていた以上に難しいことでもあった。それはまた別の話。
今年はどうかか。いくつかある。一つはフランス語の筆記体を学ぶこと。フランス人の書く筆記体は英米のそれと字体が違うし、なんとなく見た目もかわいい。それにどうもフランス人は筆記体を使う人が多いようだ。真似してみたい。また、この歳こいて、小学生みたいにノートで鉛筆書きで書き取り練習というのもよいんじゃないか。いかにも老人くさくて(とか書くと洒落の通じない人もいるが)。
始めるにあたって、戸惑う。簡単なことだが、どうしたらよいのか。フランス語筆記体の手本はネットを探してもあるし、調べたらiPad用に専用の学習アプリもあった。しかし、鉛筆で手書きがしたい。
じゃあまずノート。ということで文具屋に行く。意外でもないが、いまだに英語の筆記体練習用のノートが販売されていた。あれである。五線紙みたいなやつだ。今でもこんなの使って子どもたちは英語の筆記体を学んでいるのだろうか。身近な経験だとなさげだったが。
とりあえずペンパンシップというのか筆記体練習のノートを買うが、さて、何を書くか。そこで行き詰まる。もちろん、何を書いてもいいが、そのなあ、そう言われても。かくしているうちに、ノートを紛失した。そんなものだな。
元旦はそんなわけで、フランス語の筆記体を今年は学ぶぞと思っても、なんにもしなかった。これがおそらく364日続くと思われたが、たまたま「毎日1文 筆記体でフランス語」という本を見かけた。これ、いいんじゃない。とりえず買った。
どういう本かというと、こうある。ラジオ講座やってた先生ではないかな。
楽しみながら、正しく美しく書くための練習帳
最近は欧文を筆記体で綴る機会が少なくなりました。しかし手で書くという行為は、言語を覚えるためにもたいへん有益です。
この本は、フランス語の筆記体を毎日少しずつ、楽しみながら綴るための練習帳です。小説や詩の一節、戯曲の台詞、シャンソンの歌詞、芸術家の言葉、ことわざなど、365日分を用意しました。いずれも短い文章ですので、暗誦することもできます。さっそく、今日のページを開いて、綴ってみませんか。
始めた。最初の日は少し戸惑うが、数日して慣れると、日課はせいぜい5分くらい。つまり一日5分維持できるかということだ。三日坊主になるだろうか。否! 今朝も日課を終えた。13日。三日坊主はクリアである。ちなみに、それいいんじゃねという人は今から初めても、日課を二倍にすれば月末前には追いつく。
意外と楽しい。古典からの引用やことわざみたいのが多く、知らない語句もあるし文法もわからないところがあるが、概ねわかるのもいい。ちなみに今日の日課はこれ。
La prose n'est pas une dance. Elle marche.
コクトーの「La difficulté d'être.」から。いわく、「文章はダンスではない。それは歩く。」 自分なりに咀嚼すれば、文章というのは感情を動かすようにリズミカルに続けるものではなく、理性を持って一定のテンポで周りの気配を見ながら淡々と進めるものだ、だろうか。当たり前のことのようだが、文章がそれなりに上手い人や、上手になった人には、それなりのリズムがあって、しかもそこになにかメリットを見てしまいそうになるものだ。それじゃ、だめ、ということなのだが。
この本、書き込みができるようになっているのでそこに鉛筆で書けばいい。綴じ方が普通の本なので、書き込みにくいがしかたないだろう。ノートに書けばいいのかもしれないが。で、この本の手書きのお手本は、筆記体風の活字。率直にいうと、そこは安直すぎてあまりよい本ではないなと思う。きちんとしたハンドライティングをお手本にすべきだろう。「千字文」の書道の本のように。
巻末には現代フランス人の手書きがいくつか掲載されている。ヴァリエーションを見せるためもあるが、概ね、美しくない。ただ、見ていて思うのは、現実のフランス人の筆記体は、私たちの世代が英語の筆記体として学んだものとあまり違ってはいない。
実際のところどう書くべきかだが、これの参考になる本はすでに買ってある。「フランス語筆記体レッスン」である。絶版だが、たまたま本屋で見かけて買っておいた。
そこで話が戻る。これで解決かというとそうもいかない。どうも、この筆記体は不合理なのだ。これで続けて書けるわけないんじゃないかと思う。現実、フランス人でもできていない。どういうことなのか。
これ、筆記体としているけど、一つの書体なのではないか。文字をくっつけるように書いているけど、たとえば、"a"の一文字でも3ストロークで書く。つまり実質ブロック体なのだろう。そうわりきると、それなりに進む。あと、見た目フランス語らしのは、冒頭の一文字の大文字だけで、つまり、これは飾り文字なのだろう。
この手の本で、ギリシア語やアラビア語もあるとよいと思うなあ。
ἀνερρίφθω κύβος.
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