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2015.01.21

シャルリー・エブド誌襲撃事件雑感

 ブログをなんとなくお休みしている間に、「シャルリー・エブド」襲撃事件が起きた。この件について、とくにそのスローガンについては当初メディアに解説もなかったみたいなので、それではブログで記事を書こうかなとも思ったが、その後、同種の話題も出て来たので、書くまでもないかと思って、時は過ぎた。
 事件に自体については、日本を含めていろいろと議論があった。特に欧州と米国での対応が異なっていたように、米国などでは、イスラム教徒をあからさまに侮辱するように受け取られる表現はいかがなものか、ということで、大手メディアは基本的にエブド誌漫画の引用を控えた。余談だが、自分の見ていた範囲では事件後の同誌の報道はフランス国内よりベルギーが早かった。
 この事件だが、「表現の自由」というふうに欧州風に論点が焦点化されると、これは実際のところは議論の余地はない。つまり、テロに屈することなく社会を守るしかないということだ。
 ただし、こうした下品な雑誌の存在を市民が軽蔑するということはあってもよく、これも現実のフランスの内情で見ると、そうした心情はひろく行き渡っていた。
 この事件は実に、焦点化によって様相が異なる性質がある。フランスの直後の大規模デモは「表現の自由」と「テロに屈するな」として文脈されたが、現実のフランス社会での衝撃は、同時に発生したユダヤ人殺害も同等に強く注目されていた。人命救助に当たったラサナ・バシリー(Lassana Bathily)さんへの称賛などにもその意識は反映されている。
 この点については、「国民戦線」のル・ペン(Le Pen)親子の動向も興味深かった。日本ではあまり話題にされなかったが、フランスのメディアを見るとそれなりに注目されていた。父親のジャン=マリー・ル・ペン(Jean-Marie Le Pen)は早々にデモへの違和感を表明していたのが印象的だった。AFP"Jean-Marie Le Pen : "Moi, je suis désolé, je ne suis pas Charlie"(参照)より。


"Et aujourd'hui, c'est : "Nous sommes tous Charlie, je suis Charlie." Eh bien moi, je suis désolé, je ne suis pas Charlie. Et, autant, je me sens touché par la mort de douze compatriotes français dont je ne veux même pas savoir l'identité politique, encore que je la connaisse bien, qu'elle soit celle d'ennemis du FN qui en demandaient la dissolution par pétition il n'y a pas tellement longtemps. Je ne me sens pas du tout l'esprit de Charlie. Je ne vais pas, moi, me battre pour défendre l'esprit de Charlie qui est un esprit anarcho-trotskyste parfaitement dissolvant de la moralité politique", a poursuivi le fondateur du parti d'extrême droite.

「そして今日では、『我々はみなシャルリー』『私はシャルリー(従う)』という。私は、すまないが、シャルリーではない。これまでのところ、私は12人の同胞の死に心痛む。たとえ、彼らの政治的なアイデンティティについて知りたいとも思わないし、より理解もできないとしても。また、それでも国民戦線を早々に解体したがる敵が誰であっても。私はシャルリーの精神なんて持ち合わせない。私はシャルリーの精神を守ろうと戦う気はない。あれは、政治的な道徳性というものを完全に解体する時代遅れてのトロッキイズムである。」そう極右政党の創設者はうったえた。


 まあ、苦笑が漏れるといったところではあるが、これがじわじわくるのは、シャルリー・エブド誌が政治的な道徳性を破壊するからよろしくないという考えかたからすると、日本などでも同様の意見が見られることだった。特に日本のリベラル的な人々の一部がフランスの極右政党の考えに近かったもの苦笑するところだった。
 ル・ペンおやじの戯言に耳を傾けるのもどうかとは思うが、他にも少し気になることも述べていた。

"La manière dont tout cela est orchestré me rappelle des manifestations du même type qui furent organisées avec la complicité des médias, y compris des médias de droite, lors par exemple de l'affaire de Carpentras où le Front national fut accusé d'avoir violé une sépulture dans un cimetière juif alors qu'il était parfaitement innocent. (...) Et puis il y a eu 2002, ce fut exactement le même phénomène : rassemblement orchestré par toute la presse", a déclaré M. Le Pen dans son journal de bord vidéo publié sur son site internet.

「今回の組織活動は同じようにメディアが、右派メディアまで巻き込んで結託した類似事件を想起させる。例えばカルパントラの事件だ。国民戦線はユダヤ人墓地で暴行したとされたが、完全に無罪だった。2002年もまったく同じだ。報道が組織化したのだ。」ル・ペン氏は自身のサイトのビデオ日記で語った。


 ル・ペンからはそう見えるというだけの話で苦笑して終わらせてもよいのだが、いくばくか肯ける点もあるだろう。今回の大規模デモは、フランスでは台頭しつつある国民戦線的な右派を政治的に抑制しておきたいというオランド政権側とメディア側の意思のようなものはあるかもしれないからだ。
 ル・ペンおやじと国民戦線に関連して言うと、おやじと現党首の娘とでは、基本線では同じく今回のデモへの忌避感は表明していたが、若干意見の相違もあった。娘のほうは別の場所で別の意図と称してデモはしていた。
 苦笑的な話題を抜きにすると、今回の事件は、日本では対イスラムの構図で見られるが、広義には右傾化する欧州の排外主義の全体の流れがあり、むしろ、その特徴的な部分としてのエブド誌と、またその弱い点としてユダヤ人が狙われたことのほうが重要だろう。
 現実のところ、フランス社会を維持する点では、エブド誌に象徴される「表現の自由」やライシテ(非宗教化)というより、多民族国家の維持が重要であり、そこでは現実にはスペイン系ユダヤ人の問題が問われている。
 AFP「相次ぐ反ユダヤ主義の暴力、国外移住も視野に フランス」(参照)より。

 フランス史上最悪のこの一連の襲撃事件は、同国の50万~60万人のユダヤ人コミュニティーを大きな混乱に陥れた。
 2012年3月に仏・トゥールーズ(Toulouse)のユダヤ人学校でイスラム過激主義のモハメド・メラ(Mohamed Merah)容疑者が生徒3人、教師1人を射殺した事件をユダヤ人らに思い出させたためだ。
 氏名を公表しないことを条件に取材に応じたパリ北部の食料品店で店長を務める女性は、2013~14年にかけて反ユダヤ主義者による襲撃や脅迫の件数が倍増しており、日々びくびくしながら暮らしていると語った。
 こうした中、同国を離れることを選択するユダヤ人も大勢いる。フランスを離れイスラエルに移住したユダヤ人の数は、2014年に約7000人に上り、前年の2倍となった。
 9日の襲撃事件を受けて、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相は、より多くの人々に移住を呼び掛けている。
 不安の鎮静化を目指す仏政府首脳部は、イスラエルと米国に続く世界第3位のユダヤ人コミュニティーを安心させるためにあらゆる努力を行っている。

 今回の大規模デモにイスラエルのネタニヤフ首相が参じたのもこうした背景の要因がある。昨年のL'expressの"Les juifs de France affluent en Israël"(参照)が関連して興味深い。

L'an dernier, plus de 3000 Français ont fait leur "alya" dans l'état hébreu. Le gouvernement israélien prépare un plan pour encourager cette vague d'immigration.

昨年は、3,000人以上のフランス人が、ユダヤ人国家内に「アリャ」(移住)した。イスラエル政府は、この移住を奨励する計画を準備している。

Tel Aviv. 3120 juifs de France ont choisi, en 2013 d'émigrer en Israël. Un chiffre en hausse de 63% par rapport à l'année précédente.

テルアビブでは、2013年にフランスから3,120人のユダヤ人がイスラエルへの移住を選択した。数字は前年比で63パーセントアップである。


 この数年間にフランスのユダヤ人(主にスペイン系)がイスラエルに移住する事例が増えている。そして、おそらく今回の事件もそのような意味合いをもつ。つまり、フランスにおけるユダヤ人コミュニティーが解体すれば、共和国理念も自然解体してしまう。
 この問題だが、欧州が排外主義的になっていることに加えて、もう一面の要因がある。

Les experts s'accordent sur les causes de cette vague d'arrivées: d'un côté, il y a le malaise qui grandit dans l'Hexagone face à une série d'actes antisémites, dont la tuerie de Toulouse en mars 2012 a été le point d'orgue. De l'autre, la morosité économique d'une France où le chômage atteint des sommets. En face, Israël joue à plein sur sa réputation de "nation start up", jeune et innovante.

専門家らはこうした動向の理由で一致している。一方では、フランスで増長する不安が、反ユダヤ主義の一連の行為に直面していることで、2012年3月トゥールーズで起きた事件が最たるものだ。他方は、フランス経済の停滞で、失業率が急騰している。対するに、イスラエルは、若く革新のある「起動する国家」の名声を得ている。


 簡単にいうと、フランスの若者にとって希望はなく、イスラエルには希望があるというのだ。
 別の言い方をすれば、フランスでは、ユダヤ人を排撃した勢力も、当のユダヤ人のイスラエル移住も、フランスの雇用の悪化からフランスの社会への忌避感が根になっていた。
 こうした問題を政治や思想として焦点化することはそれほど難しいことではないが、雇用を中心に経済の問題を見据えるとそうした議論の限界は明らかになるだろう。

 
 

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