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2015.06.12

大学中退は今や栄誉になったってホント?

 このところネットで「学歴フィルター」という言葉を見かける。それを最初見かけたとき私が思ったのは、「学歴をフィルターアウトするんだろうなあ」「使えない学歴もっている人をフィルターアウト(選り分ける)というのはいいんじゃないか」ということだった。
 日本だと、なぜかわからないけど、いやまだ後進国時代の歴史・慣例を引きずっているからなのか、大学の学歴なるものをありがたがる風潮が社会にあるけど、別段、そんな学歴なんて世の中に出て使えないでしょ? というか、学歴は博士とかでないと意味ないじゃんとか思っていた。
 が、逆だった。違うらしい。低いランクの学歴だと、就職の応募で足切りされるということらしい……と書いて「足切り」って、現代では使っていけない用語だったっけ、あるいはイスラム原理主義の用語だったっけと、ちょっと字引を見たが、とくに指摘はなかった。
 高卒と大学の差なのか。高卒と大学とではそれほど差があるかなあ、と思っていたが、どうやらまだ勘違いしていた。この「学歴」というのは、大学ランクの差のことらしい。ほえぇ? 日本の大学に差なんてそんなにないよと思った……、いやよくわからないが、あるように思えないんだが……。
 それはさておき、米国では大学中退が今や栄誉になったという話をWSJで見かけた。へえと思って読んだ。といっても、すべての大学ではなく、技術系の大学のことだが。記事は「College Dropouts Thrive in Tech(大学中退者は技術分野で成功する)」(参照)である。
 リードには「会社を興すために学校を辞めるのはリスクが高いとみられていたが、今や栄誉である(Quitting school to start a company used to be seen as risky; now an honor)」とある。在学中にビジネスの芽があるとわかったら、大学なんかさっさと辞めてビジネスを始めたほうがいいというのだ。それが米国の最近のトレンドだというのだが……うーん、なんかひっかかるなあ、日本でもそういう人が以前いて話題だったよな、東大辞めて起業して成功たんだけどいろいろあって刑務所に入って痩せた人……いかん、忘れた。
 まあでも、そういう人はいつの時代にもいたものだった。私の知人にもそういう人がいて、なんでせっかっく東大入ったのに辞めちゃったの?と聞いたら、「せっかくって、別に努力してないですよ」とか平然と答えてくれたものだった。ああ、Daturaさんのことです、お元気ですか?
 そういう学生さん、いつの時代にもいるじゃん。大学なんかやってらんねーとしてビジネスを興す人。ビルゲイツなんかもそうだし。アップルとか、学部じゃないけどヤフーとかグーグルとかも。で、そういう以前からあるのと昨今の技術系大学中退者の成功というのと、何か違うのかな?と読んでいくと、少しへえと思ったのだった。
 こう切り出されている。アリ・ワインスタイン(Ari Weinstein)君はマサチューセッツ工科大学一年生のときに中退して10万ドルを受けた、と。日本だと、1200万円くらいかな。すごい額とも思えないが、大学辞めるのを援助するために、ほいと一千万円くらい出す人がいるということらしい。誰よ?

cover
ゼロ・トゥ・ワン
君はゼロから
何を生み出せるか
 ピーター・ティール(Peter Thiel)である。PayPalマフィア(参照)のひとり。PayPalをeBayに売って儲けてファンドを作り、フェイスブックへの投資でもがっぽりかせいだおかた。今年の二月には来日して学生にいろいろ有り難いお話もたれていた(参照)。まあ、有り難さの点でいったら、日本の、たぶん日本の、イケダハヤト師も劣らないだろうと思うが……。
 というわけで、なーんだ、ピーター・ティールのお遊びかあとも思ったが、考えて見れば、どっかんとベンチャー資金を提供するというよりも、大学でうだうだしている時間がもったいないから、大学休学のために二年分の奨学金を出すよ、くらいのノリだろう。米国だと大学を一度辞めても復学しやすいだろうと思うし。
 「若いよなあ」ということの表現に「Before they’re old enough to drink」という表現があって笑った。「お酒が飲める歳になる前に」と。そういう意気込みを社会が支援してもいいだろうなと思う。日本だと、若者が支援されるのは、せいぜい政治的なイデオロギーみたいな糞な話ばっかだもんな。
 ところで、そういうスピンアウトは昔もあったじゃんと私も思ったのだが、記事を読むと、昔はそれでもマレだったというのだ。ケーキ職人じゃないよ。現在の中退ビジネス組がどう違うのかというと、スマホ時代で技術がとても身近になったというのだが、さて、そうかあ? 他に違う点は、フェイスブックやツイッターとかSNSで仲間が見つかるという話もある。
 なんかこの記事、ネタだなあと思ったが、読んでいくと、なんとく部活の延長のノリはあるなと思った。仲間でちょっと秘密の隠れ家みたいのを作って、部活みたいにビジネスを始める感じだ(それをいうならマイクロソフトもそうだったが)。
 技術系大学の中退組について客観的な数値はないらしいが、そうしたトレンドはあるらしい。そして、単にピーター・ティールの道楽というより、企業側でもそうした起業家精神をもった技術者を好む傾向があり、率先して「学歴フィルター」をぶちやぶった人を高く買うらしい。というか、そうした米国企業だと、日本の高卒くらいの年齢からすでにインターンシップを持っている。というか、昔は日本の会社も高卒は事実上のインターンシップがあったなあ。
 WSJ記事の話は概ね、アプリ開発くらいなもので、それほどビジネスと言えるものかなあという印象はもったが、そういえば、ハーバード・ビジネス・スクールでも、学内でビジネスを教えるというだけではなく、学校が3000ドルほど資金提供して実際にインドや南米など新興国でグローバルビジネスの実習をさせるようになった。あれ、FIELD(Field Immersion Experiences for Leadership Development)だね。
 そうじて思うのは、アプリ開発にお熱をあげて大学中退するよりも、大学生活を迂回しても新興国というか若いうちに異文化生活を体験してこれからの世界のビジネスを考えるという若者に未来があるようには思えたな。
 
 

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2015.06.10

韓国のMERS感染で韓国人は誰でも知っているけど日本ではあまり報道されないこと

 嫌韓として誤解されるのもなんだから、韓国のMERS感染が終息してから書こうかと思った思ったが、そうナーバスになる話でもないかなと思い、簡単に書いておきたい。繰り返すことになるが、嫌韓とかいう文脈ではないので誤解なきよう。話は、韓国のMERS感染で韓国人は誰でも知っているけど日本ではあまり報道されないことである。こういう言い方は、ちょっとブログっぽい提起のしかたなので厳密さには欠ける。が、関連の話題を日本版ニューズウィークで見かけたので、ああこの話、日本にも出て来たなあ、じゃあ、いいか、とも思ったのである。
 原点となる問いは、「なぜ韓国でMERS感染が急速に拡大したのか?」である。ちなみに、この問いでべたに検索したみたら、レコードチャイナ「韓国だけで急速に拡大するMERS感染、その理由はなぜ?―韓国メディア」(参照)という記事が引っかかった。議論の参考にはなる。実際に引っかかったのはヤフーの再掲なので、元から引用してみたい。どう考えられているか、という一例である。


2015年6月8日、中国メディアの新浪は韓国・聯合ニュースの報道を引用し、韓国社会を騒然とさせている中東呼吸器症候群(MERS)の感染拡大について、「どうして韓国だけで感染が急速に広がったのか」と題する記事を掲載した。

韓国当局の発表によると、国内のMERS感染者は7日時点で64人に上った。患者の数はサウジアラビア(1019人)、アラブ首長国連邦(76人)に次ぐ多さだが、韓国では感染者が急速な勢いで増加。このためMERSコロナウイルスが韓国国内で変異したのではないかとの指摘が上がったが、国立保健研究院はこれを否定している。

これまでMERSの研究に取り組んできた高麗大学のある教授は、感染が急速に拡大した原因として韓国の気候、病院の環境、患者の免疫力、政府の対応の不備を挙げている。乾燥して適度な気温の韓国はウイルスにとって適した環境と言え、韓国の病院は病室が狭いことから患者同士の接触が発生しやすいと指摘。また、患者の中には免疫力が比較的弱い高齢者が多く、最初の患者が症状を訴えてから隔離されるまでに10日間もかかるなど政府の対応に遅れや不備があったと説明している。(翻訳・編集/野谷)


 当の疑問は解けただろうか? いわく、ウイルスが凶悪なものに突然変異したというより、「韓国の気候、病院の環境、患者の免疫力、政府の対応の不備」といった複合原因だとしているのである。

  • 韓国の気候 韓国はウイルスにとって適した環境
  • 病院の環境 病室が狭いことから患者同士の接触が発生しやすい
  • 患者の免疫力 免疫力が比較的弱い高齢者が多い
  • 政府の対応の不備 最初の患者が症状を訴えてから隔離されるまでに10日間もかかるなど政府の対応に遅れや不備があった

 常識を逸脱していないので、まあ、そうかなと思うだろう。私は、ちょっと首をひねった。間違った答えともいえないのだが、列挙された要因が今回のMERS感染拡大の真相にどれだけ近いだろうかがわかりづらい。もちろん、医学的な正確な分析は感染が終息してからなされるだろうが、ざっとこの説明を見たとき、まず、この感染の特徴と対応していないなとは思えた。そこはちょっと語りづらいのかもしれないとも少し思ったのである。
 日本人にしてみると、列挙された4点は日本にも当て嵌まるだろうと推測されるし、実際に日本でならMERSは広まらない、とまでは言えないだろう。
 他に検索してひっかかったのを見たら、BLOGSで団藤保晴さんの記事があった。これも元から引用しよう。「韓国MERS危機は共同体の安全を考えぬ国民性から」(参照)より。


 韓国の中東呼吸器症候群(MERS)流行が病院内感染の枠を超え、地域拡散の様相すら見せ始めています。この危機を生んだのは無能な役人と医療関係者、そして共同体の安全を考えぬ手前勝手な国民性にあると見えます。

 団藤さんとしては、「無能な役人と医療関係」と「共同体の安全を考えぬ手前勝手な国民性」と手厳しい。二点中後者については、おお、けっこうきついこと言われるなあと私は思った。
 具体的に、それが何を意味しているかというと、こう続く。

者発生か滞在の病院公表を渋っていた政府が7日に初めて明かした24病院は「ソウル、京畿道、忠清南道、大田、全羅北道」で、17ある第一級行政区画の東部5区までに広がっており、離れた西南部の釜山で60代男性に陽性反応が出て2次最終判定にかけられています。《釜山で初のMERS感染者か…1次検査で陽性》は「陽性反応が出たこの男性は先月、京畿道富川市の斎場に行って来た後、MERS感染が疑われる症状を見せたという」と伝え、病院での患者との接触に限られていた感染経路ではなくなっており患者と確定すれば深刻な事態です。

 指摘された点やこれ以降の議論もたしかに頷けるので、団藤さんの論旨もわからないではない。ただ、こうした考察のときに、原因を「国民性」や政治的要因に持ちこみそうなら、「ちょっと待て、そうかな?」と考え直したほうがよいことが多いと私は思う。実は、その一例としてこのエントリーを今書いておくべきではないかとも私は考えたのである。なお、これも誤解無きよう付け加えると、私は古参ブロガーの仲間意識もあるが、そのブログのありかたについて団藤保晴さんには敬意を持っており、批判の意図で取り上げたものではない。
 団藤さんの記事では明確には触れていないか、彼に関心がなかったのか、事態の発端にはやや奇妙な点がある。この点は、WSJが取り上げていた。「韓国のMERS感染拡大、始まりは1人のせき」(参照)より。

【ソウル】ある韓国人男性(68)が先月、ソウルから80キロ南に位置する地方都市、牙山(アサン)の診療所を訪ねた。中東から帰国して1週間後のことだった。
 彼の妻(63)は地元テレビ局とのインタビューで、「風邪を引いたような症状だった」と話した。妻によると、夫は高熱とせきの発作に悩まされていた。医師は軽い病気だと思った。
 しかし、それから3週間後、韓国で広まった中東呼吸器症候群(MERS)感染は、2012年に初めてMERSコロナウイルスが発見されたサウジアラビアに次ぐ最大規模に拡大した。韓国保健福祉省は8日、新たに23人がMERSに感染し、6人目の死者が出たことを確認した。感染者の数は計87人に上った。
 保健当局者は、韓国での感染の全てのケースがこの68歳の男性に関連しているとしている。この男性がMERSと診断されたのは、男性が最初に診察を受けてから9日後だった。政府もまた、危機対応が遅いとして批判を浴びた。

 ここまでは、団藤さんの記事を裏付ける形になっているが、問題はこの先である。というか、なぜこういう事態となったか、というのに、政府(政治)対応がまずいと直接一般論にリンクする前に事態の特徴を考慮すべきだった。つまり、事態の対応より、この事態の様相は何かを考えるべきである。

 しかし、患者の妻のテレビインタビューによると、男性は5月11日から20日までの間、医師のもとを訪れ、医療機関を転々とした。症状が出る理由を聞こうとしたためで、どうやらその過程で少なくとも30人がMERSコロナウイルスに感染したらしい。感染先は医療関係者、病院の患者や訪問者などだった。
 保健福祉省の説明によると、男性は最初に牙山で診察を受けた翌日、熱がさらに上がったため、近くの総合病院(平沢市の聖母病院)を訪れた。同院の2人部屋に3日間入院したが、医師たちはまだ男性がMERSに感染しているとは認識していなかった。男性は3日後に退院してソウルに行き、個人の診療所を訪れた。男性はその日のうちに2件目の総合病院(サムスン医療院)の緊急診療室に行き、翌日入院したという。
 妻によれば、医師がレントゲン撮影後に夫が肺炎だとの診断を下していたが、それがいつだったかは覚えていないという。彼がMERSだと診断されたのは5月20日だった。

 これを読むと、たしかに医療機関の初動に問題があったのだが、患者の立場に立ってみると、多少奇妙なことが浮かび上がる。なぜ、「男性は5月11日から20日までの間、医師のもとを訪れ、医療機関を転々とした」のだろうか?
 患者の立場に立ってみると、「症状が出る理由を聞こうとしたため」である。患者にしてみると、医療機関に行っても「症状が出る理由」がわからないから、「医療機関を転々とした」わけである。
 「医療機関を転々と」するのは日本でもあるが、「5月11日から20日までの間」、つまり、9日間に「医療機関を転々と」するというのは日本では、たぶんないだろう。これはどういう背景があるのだろうか?
 まず、想定されることは、短期間に「医療機関を転々と」することが可能だということ。次に一つの医療機関で「症状が出る理由」が充分説明されないことである。おそらくこの二点は同じ事態の二側面で、基本的に韓国のある層では、「症状が出る理由」を知るべく短期間に「医療機関を転々と」が慣例化していると推測してよいだろう。この推測がどの程度一般的かについては、ごく印象的なものしかないが、いずれにせよ、事態の背景にそうした慣例を想定してもそう間違いではないだろう。
 つまり、韓国人の国民性というより、韓国社会の慣例・慣習がどの程度、MERS拡大に関係しているかという視点である。実は、この視点に私がすぐに関心をもったのには理由があるのであとで触れる。
 その前に、WSJの報道でもう一つ重要な指摘がある。

 韓国疾病予防管理センターは、男性のMERS検査を当初行わなかった理由として、男性が医療関係者に対し、中東で訪れたのはMERSが発生していないバーレーンだけだと伝えていたことを挙げた。男性はまた、ウイルスの感染源となることが多い病人やラクダとの接触もないと報告していた。しかし実際には、男性はアラブ首長国連邦(UAE)とサウジアラビアを訪問していた。UAEではMERS感染の報告があるほか、サウジでは1000人以上がMERSに感染している。男性の妻は、夫は高熱で頭が混乱していたため、渡航歴の説明に食い違いが出たと述べた。

 「男性の妻」の言い分が間違っているとも断定できないが、渡航歴は記載されているはずであり、問われた時、裏付けが記載参照になることを考えれば、概ね、弁護のための虚偽発言と評価してよいだろう。とすれば、この男性は、MERS感染地域に仕事を持ち、おそらくMERS感染の可能性を知っていたのだる。そう考えると、「医療機関を転々とした」行動も整合的である。
 ただ、ここでこの男性を責めるというより、こうした中東ビジネスが韓国で盛んなのだということが背景にあると見てよい。日本社会は忘れているかもしれないが、韓国人会社員がイラクで殺害された事件などでもわかるように、中近東ビジネスに関わる韓国人は多い。ただ、これも日本人と比べて多いとまで言えるかについては議論は残る。該当発言が虚偽であれば、あまり公にできないビジネスに関わっているケースも多いのではないかとは推測されるが、今回の事例に限れば、バーレーンで農機具販売であった。
 前口上が長くて申し訳ないが、核心に入るまえに、ロイター報道「アングル:韓国MERS感染はなぜ拡大したか」(参照)について触れておきたい。ロイターは世界水準の報道社でもあるからだという理由ではない。読めばわかるが、理由の具体的な推測はほとんどない。気になるのは以下である。

今回のMERS感染者の半数以上は、首都ソウルから南西65キロにある平沢市の病院が感染ルートであることが分かっている。男性はこの病院の大部屋に入院していた。


平沢市の病院では、男性と相部屋だった別の患者がMERSに感染。見舞いに訪れた同患者の息子は隔離対象であったにもかかわらず、香港と中国本土に渡航し、中国でMERSと診断されて現地で入院している。

 注目点は、院内感染と親族の感染である。まず、院内感染だが、今回の韓国MERS感染でもっとも特徴的なことは、この院内感染である。NHK「韓国MERS 死者9人に 大統領は訪米延期」(参照)より。

保健福祉省は、これまで院内での感染が確認された9つの病院を公表していますが、新たに感染が確認された13人もすべてこれらの病院内で感染したということです。


チェ・ギョンファン副首相は、10日午前、緊急の記者会見を開き、感染はすべて病院内で起きていることを改めて強調したうえで、「院内での感染が確認された病院を確認し、その病院を利用した後に発熱などの症状が出た人は、必ず政府や自治体に連絡してほしい」と述べ、国民に協力を求めました。さらに、「空気感染することはないので過度に不安を持たず、落ち着いて日常生活を送ってほしい」と呼びかけました。韓国政府は、今週が感染拡大を防ぐための山場だと分析していて、対策に全力を挙げています。

 ごく簡単にいうと、今回の韓国MERS感染の本質は、MERSの問題そのものより、院内感染にある。そして、ゆえに、なぜそんなに院内感染が発生したのか?ということがこの問題のもっとも本質的な問いであり、これに対応する理由が考えられなくてならない。もちろん、ここでも医療対応の問題と広義には言える。
 常識的に考えて、不思議に思えるのは、「空気感染することはない」のに、なぜ見舞いの親族に感染したのだろうか? もちろん、なんらかの接触感染があったからには違いないのだが、なぜ見舞客に接触感染のリスクが高いのだろうか?
 これは「看病人」が関与しているのではないだろうか?
 看病人について、立命館産業社会論集「韓国における在宅介護サービスの現状と療養保護士養成の課題」(参照)で主に介護の文脈ではあるが、こう触れている。

 私的部門における介護人材の状況においては,まず韓国特有の介護状況を理解する必要がある。昔から家庭内の介護の大半は家族が担ってきたが,家族介護力の弱化により,今日では病院や家庭での一部の介護は,看病人によって行っている。韓国の介護人材の中で,もっとも大きな割合をみせているのが「看病人」である。しかし,このように病院や家庭などで看病人の活用が一般化されているにもかかわらず,看病人の役割や活動の内容は法律上の根拠がなく,身分の保障もない状態で活動しているのが現状である。

 簡素に書かれているが、韓国社会では「今日では病院や家庭での一部の介護は,看病人によって行っている」のであり、「家族介護力の弱化」とあるように、基本は家族介護なのである。
 この点、日本版ニューズウィーク「MERS感染の意外な「容疑者」」ではこう言及されていた。

 韓国の病院では看護師は点滴など医療行為しか行わないため、入院患者の身の回りの世話は家族が泊まり込みで行うという習慣がある。都合がつかない場合、看病人と呼ばれる業者を雇う。
 世界的にも珍しい習慣だが、患者が感染症だった場合、長時間接触する医療知識のない付き添い人が2、3次感染者となるリスクも指摘されていた。実際、感染者の中には付添人が含まれており、懸念が実現になった形だ。

 同記事では、この家族介護の慣習がMERS感染拡大の背後にあるのではないかと指摘している。実態の解明は今後に待たれるが、この要因は少なくないのではないかと私も思った。このことは、韓国のMERS感染で韓国人は誰でも知っているけど日本ではあまり報道されないことだろう。
 この関連で、もう一つ思ったことがある。これは「世界的にも珍しい習慣」なのだろうか?
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 柳美里の『命』(参照)で彼女の母が付き添う光景があり、それはいかにも韓国的だなと思いまた、「しかし」とも思ったものだった。
 しかし……それは日本でも同じではないのか? 入院患者の身の回りの世話を家族が泊まり込みで行うというのは日本でも同じではないか? いや、違う。それは日本では昔のことだ、と思う。私の父は十代を朝鮮で過ごした。同級生が戦地に送られるなか、父は大病をして病院生活をしたのだが、そのおりは祖母が寝泊まりで介護していた。おかげで父は戦死を免れて私が存在している。
 私の推測には私の家の伝承しか裏付けがないが、韓国の親族による病院寝泊まり付き添いの伝統は、日本が韓国に残した日本文化ではないだろうか? 

 ついでに余談だが、先に引いたNHKのニュースの主眼はタイトル通り、朴韓国大統領が訪米延期することだった。この話、日本ではあまり話題にならないが、朝鮮日報「【コラム】朴大統領訪米、安倍訪米と比較するな」(参照)がわかりやすい。安倍首相訪米・議会演説のカウンターと見られていた。


 朴大統領の今回の訪米は国賓訪問でもないし、実務訪問でもなく、ただの「訪問(visit)」だ。だが、形式よりも中身だ。米政府は、歴史問題について韓国の見解を十分に支持しながらも、日本というもう一つの同盟の枠組みのためあからさまには肩を持たなかった。それでも、ケリー国務長官が安倍首相の「人身売買」(human trafficking)発言について、旧日本軍が組織的に介入したことを明確にしたのは、それなりに気を使っている証拠だ。今回の朴大統領訪米時で、オバマ大統領も将来のために歴史問題に関する話をする可能性が高いと見られている。
 しかし、朴大統領には果敢に歴史問題を克服してほしい。日本と中国のはざまで生き残ろうと必死な韓国の姿を象徴するかのように、今回の訪米は中・日両国首脳の訪米の間に行われる。ワシントンD.C.で行われた韓米専門家の非公開討論で、出席者は口をそろえて韓米同盟の強化、一段階上のグローバルな協力、日本を飛び越えた域内リーダーシップ発揮などを成果と見なすべきだという点で一致したという。最近、米国国内では「韓国は中国と接近しすぎではないか」と言われていることから、「『関係』を疑うムードをなくすだけでも十分成果はある」という結論も出た。

 また、「朴大統領訪米:「血盟」強調で日本との違いをアピール」(参照)より。

 韓国政府の消息筋は9日「日本は敵として米国と戦ったが、韓国は6・25(朝鮮戦争)やベトナム戦争で米国と共に血を流して戦った仲。これを浮き彫りにするさまざまな行事を準備している」と語った。今年4月の安倍晋三首相訪米時の歓待と朴大統領の今回の訪米を比較する一部の見方と関連し、「血盟」をキーワードに、日本とは違うということを強調したいというわけだ。

 日本のような平和憲法持たない韓国は、朝鮮戦争やベトナム戦争で米国と共に血を流して戦った仲となった。深い絆である。変わることはない。訪問(visit)の機会なら、またあることだろう。
 
 
 

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2015.06.09

G7サミット(先進7か国首脳会議)でオバマ米大統領が開口一番、なんて言ったか知ってますか?

 G7サミット(先進7か国首脳会議)がドイツのバイエルン州エルマウ城で開催された。G7である。よって西側諸国の問題をどうしようか、という話しかしない。となると、ウクライナ問題やギリシア問題である。それに、日米としては中国の海洋侵出を混ぜたり、いやいや生臭い話から離れて現地でうるさい地球温暖化が話題になる。まあ、そういう文脈で日本でも報道されていた。
 そういう報道が悪いわけでもない。AFP報道でも概ねそういう方向だった。が、私はちょっと、もにょーんとしていた。オバマ大統領がこのサミットに望んだ思いの重点は、うまく報道されてないんじゃないかと思ったからだった。
 関連のNHKニュースはいかにも国際問題の視点ばかりだし、国内大手紙も概ねそんな印象なので、概要としてはそれでもややニュートラル感のあるAFPを引いておく。「G7サミット、ドイツで開幕 ウクライナ情勢でロシアに強硬姿勢」(参照)より。


【6月8日 AFP】先進7か国(G7)首脳会議(サミット)が7日、ドイツで開幕した。議長国ドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相は、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領をビアガーデンでもてなして関連日程を始めた。
 しかし、日中に笑顔を見せていた米独の両首脳は、オバマ大統領の言うウクライナへの「侵略」に関してロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に厳しい警告を発した。米ホワイトハウス(White House)の声明によると、「両首脳は…対ロシア制裁がいつまで続くかは、ロシアによるミンスク合意(ロシアとウクライナの停戦合意)の完全な実施とウクライナの主権尊重にはっきりとリンクさせるべきだという点で合意した」という。
 ウクライナ東部における政府軍と親ロシア派との戦闘が最近再び激化している中、日本の安倍晋三(Shinzo Abe)首相とカナダのスティーブン・ハーパー(Stephen Harper)首相は6日、G7出席のためドイツに向かう途中ウクライナの首都キエフ(Kiev)を訪問し、ウクライナ政府への支持を表明した。
 またオバマ米大統領は、財政危機に見舞われているギリシャに言及こそしなかったものの、今回のG7首脳会議の最優先の議題は「雇用と機会を創出するための世界経済」、「強力で繁栄した欧州連合(EU)を維持すること」だと述べた。
 ギリシャ問題はG7首脳会議の大きな議題となっているが、メルケル首相は気候変動、イスラム過激主義、女性の権利、公衆衛生、貧困問題など、他の地球規模の問題にも焦点を当てたい考えだ。
 メルケル首相は、山積する世界的な課題での合意形成を目指しつつ、バイエルン(Bavaria)州の絵本に出てくるような草地と素晴らしい山々を背景に欧州第一の経済大国ドイツの素朴な一面をアピールしたい意向だ。
 会場周辺には気候変動問題やエボラ出血熱などの深刻な病気への一層真剣な取り組みを求めて各国首脳に圧力をかけようという非政府組織も詰め掛けており、2万2000人以上の警察官がG7サミットの会場を取り囲んで警備している。(c)AFP/Richard CARTER/Frank ZELLER

 質の悪い報道ではないが、AFPが基本フランスの報道社なので、どうしてもフランスとしてドイツと米国の思惑という視点が抜けるのかもしれない。ロイター系もざっと見たが、やはり、ドイツと米国の思惑で読める記事は見当たらなかった。
 私が何を言いたいかというと、実は、ドイツと米国は、最近、すげー険悪な関係だったということ。ドイツ国内も影響を受けていた。そういう文脈の報道がないなあと思ったのである。まったくないのかと、ドイツ側の報道を見ると、もちろん、そうでもなかったが。それでもドイツ系の国際報道はどうも国際報道のなかでのバランスにかけるところはあるなと思った。この点、ロシアやイランなどは西側へのカウンター報道があるけど、ドイツは微妙な立ち位置なのだろう。
 このところブログであまり国際関係の細かいところに触れなくなったので、突然言うのもなんなのでドイツと米国の険悪の説明をすると……ああ、これが便利か。ロシア系のスプートニック5月27日「オバマ大統領 G7サミットへの参加拒否へ?」(参照)より。

 米国家安全保障局の監視対象リストがドイツによって公開された場合、オバマ米大統領はバイエルンで開催されるG7サミットへの参加を拒否する可能性がある。ビルト紙が伝えた。
 ビルト紙の情報筋によると、リストが公表された場合、大きな政治的ダメージを招くという。
 特に米情報機関は、ドイツに対して、緊急なテロ脅威に関する情報提供を拒否する可能性があるという。
 一方で米政府は、G7サミットへの参加を拒否する可能性があるとの噂を否定した。
 米情報機関筋によると、「ドイツが掲載を控えている原因は、スノーデン氏の暴露よりも深刻なモチーフがあるからだ」という。
 G7は、バートアイブリングの元米通信傍受施設からわずか90キロのガルミッシュ・パルテンキルヒェン近郊のエルマウ城で6月7、8日両日に開催される。

 こういう背景でオバマさんもメルケルさんも、まず、G7サミットで友好の演出をしなければいけないというのが最初の課題だった。
 実際のG7でどうなったか。当然ながら、オバマ米大統領の開口一番のつかみにかかっている。こうだった。
 「Er hat "Grüss Gott" gesagt.(彼は「グリュス・ゴット」と言った)」(参照)。そして、「"Ich habe meine Lederhose vergessen"(僕は自分のレーダーホーゼンを忘れちゃった)」(参照)、と。これで友好と笑いを一気に掴んだ。オバマ米大統領、お見事というところ。その演出の場をきちんと設けたメルケル首相のほうがもっとお見事ということでもある。
 どういうことか、といううざったい解説がこのエントリーの話なのだが、その前に、エルマウ城について知っておくといい。プンタ「G7開催もうすぐ!本物のセレブのためのウェルネス〜エルマウ城」(参照)がわかりやすい。

ウェルネスホテルで休暇を過ごすのは「自分へのご褒美」。家族連れで訪れる客も少なくない。そんな庶民的なウェルネスとは一線を画した贅沢な隠れ家を見つけた。ドイツはバイエルン州にある5つ星ホテル、エルマウ城だ。実はメルケル首相もこのエルマウ城のファンだということで、6月にはG7(主要国首脳会議)が開催されることになった、現在注目の場所である。

ルートヴィッヒ2世が、ヴィスコンティ監督の映画『ルートヴィッヒ』にも登場する城を建てたお気に入りの場所なだけに、山並みの美しさと、その連なる山々にも微妙に遮られないで照り続ける日照時間の長さは、さすがの立地条件だ。山間の最寄り駅クライスにはホテルから送迎の車が出迎えてくれるので、人里離れていても安心できる。


 行ってみたいなあ。そういうところ。
 オバマ米大統領が開口一番言った「グリュス・ゴット(Grüss Gott)」はバイエルン地方の「こんにちは」である。沖縄サミットでクリントン米大統領が「ハイサイ!」というような感じだろうか。一般的なドイツ語からすると方言の表現になる。
 「こんにちは」の原型が「今日はいかがか?」みたいに考えると、この略の元は、「Grüße dich Gott」「Grüße euch Gott」で、「神の挨拶がありますように」らしい。信仰深いカトリックの伝統を背景にしたものらしい。
 他方「レーダーホーゼン」だが、同題の村上春樹の短編があるが(参照)、肩紐付きの皮製の半ズボンである。バイエルンの祭礼服でもある。実際にはここは英語で "I forgot to bring my lederhosen, but I'm going to see if I can buy some when I'm here."(僕は自分のレーダーホーゼンを忘れてしまったけど、ここでの滞在中に買えるでしょう)」(参照)と述べたらしい。オバマ米大統領の半ズボン姿を想像すれば笑えるというところで、それほど堅苦しい民族衣装という含みは現地ではなさそうだ。
 とはいえ、この話、そうすんなり笑えるものなのかなとちょっと疑問に思った。ようはバイエルンという地方の気風である。
 バイエルンというと、日本では「FCバイエルン」などが有名だが、地域としては、ドイツ最大の州で、正式名が「バイエルン自由州(Land Freistaat Bayern)」とあるように、自治性が強い。というのも、この地域は、神聖ローマ帝国によって10世紀できたバイエルン公国(Herzogtum Bayern)以降、バイエルン選帝侯領(urfürstentum Bayern)からバイエルン王国(Königreich Bayern)という独自の国家的な地域である。
 当然と言ってよいが、スコットランドのように地域の独立を狙うバイエルン民族党(Bayernpartei)がある。スコットランド独立の気運には加勢された(参照)が、現状は実質的な力はない。それでも、現地では今回のG7をどう受け取っているかは気がかりだった。が、特にその点で違和感のある話題はドイツの報道でも見掛けなかった。
 話はそれだけなのだが、ついでに。
 英語関連の報道を見ていると、「バイエルン」は"Bavaria"と表記される。「ババリア」である。「ババリア」というと、駄洒落のように「ババロア」を連想するが、これは駄洒落ではなく、「ババロア」はフランス語で"Le bavarois"である。
 実際には「ババロア」は、フルーツに日本のプリンのようなものを添えたものである。というか、日本のプリンに苺を並べたら立派にババロアになりそうだ。というか、日本のブリンがババロアだろ。じゃあ、あのフルーツムースは何か? だが、まあ、そういうのもある。ついでにいうと、日本のプリンは「カスタードプリン」とされているが、実際にプッチンプリンとかで売られているのは、ゼリーを含んだもので、あれそっくりな"Flan"というお菓子がフランスにある。お菓子の名前としては、"Flan aux oeufs"だろうが、だとすると、ゼリーは必須と言えない。まあ、このあたりのお菓子と名称の関係はよくわからない。

 では、ババロアはバイエルンのお菓子かというと、どうもそうでもないらしい。フランス人が考えたらしい。その経緯もよくわからない。
 そもそも、"Bayern"がなぜ"Bavaria"になってしまうかのも奇妙だが、"Bavaria"がラテン語起源らしい。ただ、中期ラテン語では"Baioarii"、後期ラテン語では"Bojuvarii"で、"Bayern"に近い。
 関連語の"Bavarii"はこの地域の民族名を指す。元来は"baio-warioz"であったらしい(参照)。つまり、この民族だが、ケルト人のボイイ族と見られている(参照)。ハルシュタット西文化圏である。
 ああ、これ、マスターキートンの世界だなと思ったが、あのマンガにはボイイ族の話は出てこなかったようには思った。どうだっただろうか。
 
 

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