日中韓首脳会議を開催へ
報道されたときはそれなりに意味のあるニュースであっても、時が経ってみると自然に忘れられ、思い出すと、あれはなんだったのだろうか、というものがある。これもそうなるかもしれないな、という印象を少し持ったのが、この秋、10月末に開かれるとされる「日中韓首脳会議」の話題である。
該当のニュースを、やや熱が入っているふうもあるが、NHKから拾っておこう。「日中韓首脳会議を開催へ 中韓が一致」(参照)
中国の習近平国家主席と韓国のパク・クネ(朴槿恵)大統領との首脳会談が2日、北京で行われ、韓国大統領府は、双方が日本、中国、韓国3か国の首脳会議を来月末から11月初めまでをめどに韓国で開くことで一致したと発表しました。
韓国のパク・クネ大統領は、中国政府が実施する「抗日戦争勝利70年」の記念行事に出席するため、2日、北京を訪問して人民大会堂で中国の習近平国家主席と会食も含めておよそ1時間40分にわたって首脳会談を行いました。
韓国大統領府は、両首脳が北東アジアの平和と安定のために日本、中国、韓国3か国の協力を発展させなければならないことを確認し、3か国の首脳会議を来月末から11月初めまでをめどに韓国で開くことで一致したと発表しました。
また、中国国営の新華社通信によりますと、会談の冒頭、習主席は「中韓両国の人民は日本の植民地侵略に抵抗し、民族の解放を勝ち取る闘いの中で団結した」と述べ、歴史認識を巡って日本をけん制するうえで韓国と連携したいという思惑をにじませました。
韓国大統領府によりますと、これに対し、パク大統領は、最近、北朝鮮による軍事挑発をきっかけに緊張が高まったことに触れ、「この地域の平和には、韓国と中国両国の戦略的な協力と、朝鮮半島統一の実現がいかに重要かを示した」と述べました。そのうえで、北朝鮮に挑発を繰り返させないよう、中韓両国が連携を深めて北朝鮮に働きかけていくことを呼びかけると、習主席は「緊張をもたらすいかなる行動にも反対する」と応じたということです。日本政府関係者「前向きなメッセージ」
政府関係者はNHKの取材に対し、「日本側にも、中韓首脳会談で一致した内容について、事前の通知はあったが、日本として、日中韓首脳会議についての具体的な時期の詳細について合意したわけではない。ただ、年内の早期開催を目指してきたということは一貫していたので、前向きなメッセージと受け止めている」と述べました。
このニュースを聞いたときの私の印象は、なんと言っていいのか、奇妙なものだった。その奇妙な感じをほぐしてみたい。
ニュースの出所は、れいの謎の中国軍事バレードでの中韓会談である。読み進めると、少し驚かされる。「日本側にも、中韓首脳会談で一致した内容について、事前の通知はあったが、日本として、日中韓首脳会議についての具体的な時期の詳細について合意したわけではない」と言うのだ。修辞に覆われているが、ようするに日本にとっては「寝耳に水」の類であった。そこで、「寝耳に水」的な対応がその後迫られた。NHK「官房長官 日中韓首脳会議の日程調整急ぐ」(参照)にその一端が見える。
そのうえで、菅官房長官は「引き続き、中韓両国と一層の意思疎通を重ね、具体的な時期、場所を詳細に調整していきたい」と述べました。
この「寝耳に水」対応だが、外交上前向きな修辞に覆われているが、時期も場所も日本側からはわからない、という状態である。
もっとも「事前の通知」については6月末に動きはあった。産経「9月にも日韓首脳会談の見通し 外務審議官が指摘」(参照)より。
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外務省の杉山晋輔外務審議官は29日、東京都内で講演し、安倍晋三首相と韓国の朴槿恵大統領との日韓首脳会談について、早ければ9月にも実現する可能性があるとの見通しを明らかにした。実現すれば、日韓首脳会談は2013年の朴政権発足以来、初めてとなる。
その関連で、日中韓首脳会談の話もあるにはあった。
日韓両政府は今月21日の外相会談で、日中韓首脳会談をできる限り早期に開催することで一致した。また韓国の尹炳世外相は、聯合ニュースが25日に報じたインタビューで、「韓日中3カ国の首脳が会談すれば(日韓)双方の接触は自然に行われる」と述べていた。
とはいえ、今回の韓国側の提案は「寝耳に水」であることには変わりない。韓国が独走をした理由はなんだろうか。もちろん表向きは「北東アジアの平和と安定のために日本、中国、韓国3か国の協力を発展させなければならない」だが、特段今に始まったことでもない。
この時期というなら、中国軍事パレードが関連している。このパレードの意味は、どう見ても、韓国は中国共産党政権の軍門に降りました、ということだが、それでも韓国としてはゴネてみたいかもしれない。今回の「寝耳に水」会談構想は、そのゴネのダシに日本が引き合いに出されたような印象がある。
そう見える背景には、中国軍事パレードよりも、高高度ミサイル防衛(THAAD:Theater High Altitude Area Defense)配備問題がある。日本ではあまり報道されていないようなので、このブログで3月に触れたが(参照)、韓国でのTHAAD配備は中国を巻き込んで大きな問題となっている。補足すると、THAADはミサイル防衛(MD)システムの一部で、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)に続く迎撃である。そのためには、ミサイル発射を早期探知する高性能レーダーを韓国に配備する必要がある。と同時にこれによって、中国国内のミサイル基地の動向が丸裸になり、実質、中国の固定式ミサイルは無効になる。中国はこれを嫌っている。
ここの関連は、レコードチャイナが9月3日の韓国のテレビ局JTBCを引いてこう伝えている(参照)。
そして3つ目は、中国が発射したミサイルの動きをリアルタイムで把握できる高高度防衛ミサイル、いわゆる、米国が計画している「THAAD」の朝鮮半島配備問題のため。「中国は自分たちの要求を言うため、事前にお客さまをもてなした。外交には、式典が豪華なら懐事情を考えなければならないという言葉がある」との指摘も出ている。
韓国メディアは、「THAAD配置問題に敏感な反応を示している中国が、盛大な式典の後にどんな要求をしてくるのか考えずにはいられない。中国の歓待が韓国に負担になる」と懸念している。
THAAD問題が背景ある。とすると、その背景を動かしている他端の米国はどうか。5月時点のZakZakソースなのでネタっぽいが、概ねこうである(参照)。
「北朝鮮の挑発に備えねばならない。THAADなどについてわれわれが話す理由だ」
ケリー米国務長官は18日、ソウルの在韓米軍基地で突然こう語った。直前に行われた尹炳世(ユン・ビョンセ)外相との米韓外相会談では、THAADについては取り上げられなかったため、韓国外務省はパニック状態になったという。
続いて、米国務省のローズ次官補が19日、ワシントンで開催された討論会で、「米国は、韓半島にTHAADの永久配備を考えている」と発言した。米統合参謀本部のウィニフェルド次長も同日、ワシントンでのセミナーで、「米国は、北朝鮮の脅威のため、韓国と在韓米軍の防衛力増強に向けてTHAADを使う可能性に関心を持っている」と語ったのだ。いずれも、東亜日報(日本語版)が21日報じた。
韓国メディアは当初、朴氏の訪米について「日韓の歴史問題での米国の協力」「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の参加問題」などを焦点としてたが、「THAAD配備問題」が重要課題に急浮上しそうなのだ。
こうした問題を考えるときには要人の動向が注視される。尹炳世外相の動きが重要になる。この感の尹外相ついては、8月31日、米アラスカ州アンカレジで米国のケリー国務長官と会談したことが注目される。朝鮮日報記事より(参照)。
ケリー長官との会談はおよそ30分ほどと短いものだったが、その場で実際に話し合われたのはやはり中国における戦勝節に朴大統領が参加する問題だった。二人は会談後「韓半島(朝鮮半島)の平和と安定のためには、中国の建設的役割が非常に重要との点で一致した」とコメントした。ケリー長官は朴大統領訪中の理由について説明を聞いた後、尹長官に「十分に理解する」と語ったという。
この報道では、尹炳世外相の尽力でケリー米国務長官から理解を得たといった内容になっているが、実際のトーンは違う。韓国・国民日報を引いたレコードチャイナ(参照)はこう伝えている。
その上でケリー長官は「理解はしているが支持はしていない」と表明。今回の韓国の決定を望んでいたわけではないが、周辺状況を考慮して「理解する」と表明したという。
以上の全体をできるだけ合理的な推測を含めて整理したい。
中国軍事パレード以前の報道からすると、朴韓国大統領は中国の式典には参加するものの軍事パレードに出てくるかは未定だった(参照)。
それが8月27日に、独走的にパレード参加を決めた。おそらく中国からの圧力を抑えきれなかったのだろう。他方、これが米国の逆鱗となってケリー長官に呼び出されたか、あるいは事後の言い訳として尹炳世外相が出向いた。重要なのは、二人の事実上の外交トップがきちんとメンツを会わせる必要があったことだ。
そこまでした理由は、尹炳世外相が米国に対してただ韓国の立場を説明するだけではなく、なんらかの密約を必要としたからだろう。それは何か?
米国に対して、朴韓国大統領の中国軍事パレード出席を理解させる決め球は何だろうか? 当然、THAADの認可だろう。
だが、そうだとすると、突然「日中韓首脳会議」を韓国が言い出した理由は、判然としたなくなる。合理的に考えると、韓国がTHAADの認可を飲む条件に「日中韓首脳会議」がなんらかの理由で関わっていそうに見えることだ。
どのように関わりが考えられるだろうか。大筋ではおそらく二つある。推進か否定か。韓国のTHAADについて、日本に泥を被せて推進するということか、あるいは平和主義国日本を中国向けの盾に使って、THAAD韓国配備の必要性はないと米国を断念させることだろう。後者はケリー長官が飲むとは思えない。
この問題をどう解くかだが、中国の動向も読まないといけない。だが、ここがもっともわからないところだ。9月3日時点のハンギョレ報道「韓中日首脳会議開催で韓国は同意、中国は言及なし」(参照)ではこう中国側を伝えている。
中国国営メディアは2日、朴槿恵(パク・クネ)大統領と習近平・中国国家主席の首脳会談のニュースを大きく報道し、両国の友好関係を浮き彫りにした。しかし、中国外交部の首脳会談関連の発表文には、韓国側が明らかにした韓中日首脳会談の開催に対する合意や北東アジア平和協力構想などは言及されなかった。両国の立場の違いが露わになったものと見られる。
大統領府は、「両国首脳が10月末〜11月初旬を含む相互に便利な時期」に、韓国で3カ国首脳会議を開催することで意見の一致を見た」と発表したが、中国外交部のホームページに公開された両首脳間の主要な会話内容には、韓中日首脳会談に関する言及が全くない。また、大統領府は「北東アジア平和構想に対する中国の支持の立場を再確認した」と発表したが、これも中国外交部のホームページに掲載された両国首脳会談の主要な対話内容では見当たらない。
中国としても日中韓首脳会議は韓国から押し切られた印象があり、中国側からの情報はほとんど見当たらない。
その後だが、3か国で日程調整に入ったと毎日新聞は伝えている(参照)。
どうなるだろうか。会談が実現するとしても、その前には、中国の習主席は9月、韓国朴大統領は10月にそれぞれ訪米してオバマ大統領と会談することになっている。
日本としては、米中・米韓首脳会談の流れにつづいて、10月末に日中韓首脳会議が実現するという日程だろう。まずは、THAADを念頭に置き、米中・米韓首脳会談をよく見ておく必要がある。
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