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2015.09.02

改憲反対デモで治安部隊の2人以上が死亡・130人超が負傷のウクライナ

 ニューヨークタイムズによると(参照)、8月31日、ウクライナで改憲に反対するデモのさなか、治安部隊の2人が死亡し、デモ参加者の130人超が負傷した。ウクライナの治安の悪化というと、東部が連想されやすいが、この激しいデモが生じたのは、ウクライナ首都キエフ(Kiev)である。

 改憲の要点は、親ロシア派が実効支配する東部のドネツク州とルガンスク州に自治権を付与するためのもの。修辞を除けば2州の事実上の独立承認と理解してもよいだろう。
 この憲法改正案審理で第1回の採決を行ったところ、法案の審理継続に必要な226票超える265議員が賛成したが、これに反発した改憲案反対派が国会前で抗議デモを展開し、治安部隊と衝突して惨事となった。この件で、ウクライナ内務省は反対派のなかでも、民族主義・極右政党「自由(Svoboda)」(チャフニボク党首)を非難している。憲法改正には、第2回投票で300票を得る必要がある。
 なぜこうなったのか。報道では、2月成立の停戦合意に基づき、同国東部を実効支配する親露派武装集団の自治拡大を含む憲法改正案をポロシェンコ大統領が提出されたするものが多い。間違いではないが、実際に改憲に乗り出したのは、7月のことである。
 なぜこの時期なのか。実は、イラン核問題合意の際の米ロのバーター案件であったと見られる。この点については、NHKの石川解説委員が推測であるが7月23日に述べていた(参照)。


 先週歴史的とも言われるイランの核開発を制限する合意がイランとアメリカなど6カ国との間で結ばれました。
 ロシアはウクライナ危機で欧米と鋭く対立していますが、アメリカのオバマ大統領はニューヨークタイムスのインタビューで「プーチン大統領とはウクライナ問題では深く意見が対立している。しかしイランの核問題でプーチン大統領とロシアはとても助けてくれた。正直にいえばこんなに貢献してくれるとは予想しなかった」と述べています。
 
なぜロシアは協力したのか、プーチン大統領の思惑に迫ります。スタジオには石川解説委員です。

Q オバマ大統領がプーチン大統領に感謝の言葉を述べるとは、今の両国関係を考えると信じられないのですが、何故ロシアは協力したのですか。

A 3つの点があります。
1.核兵器拡散の阻止という安全保障上の理由です。
2.アメリカとの対話の維持と取引です。
3.地域大国イランとの関係強化と地政学的、経済的な理由です。


 重要なのは、2点目の「取引」である。

Q ウクライナ問題で鋭く対立し、新たな冷戦かとも言われる中で、核の拡散防止が、核保有国として米ロが一致する分野であるのは分かります。ただ取引というのは何でしょうか。

A イランの核交渉がまとまった直後、ウクライナでは親ロシア派が支配する地域に自治権を与えるための憲法改正案が議会に提案され、承認されました。アメリカのウクライナ担当のヌーランド国務次官補がウクライナを訪れ、憲法改正案が承認されるようさまざまな政治勢力に働きかけたと言われています。五月のケリー国務長官のロシア訪問、その後の米ロの外交当局者の交渉では常にウクライナとイランが交渉の主要なテーマとなっていました。取引があったかどうか確証はありませんが、しかし米ロがウクライナとイランを同じテーブルに乗せて、交渉を進めているのは事実です。


 確証はないとしているが、この時点の流れを見れば、それ以外の解釈は難しいだろう。
 つまり、今回の改憲は、ロシアのプーチン大統領の意向を酌んで、米国のオバマ大統領が推進したものであると見てよいだろう。
 オバマ大統領の背景としては、なんとかノーベル平和賞に値するような核拡散に寄与したという政治的な業績を作りたかったということだろう。
 実際のところ、イラン核合意はその程度の基盤しかなく、IAEAの天野氏なども詳しく述べられないとしているが、今後の問題が予想される。
 ウクライナの文脈に戻れば、もともと東部二州の自治権はすでにこのブログでも昨年9月20日「ウクライナ情勢は今どうなっているか」(参照)で述べたように予定されていた落とし所であった。

ロシア側からの落とし所は東部二州に特別な地位を与えることであり、いずれそこに落ち着く以外の道も見えないなか、米国のウクライナの軍事支援はどういう考えなのだろうか。
 しかし米側の支援は、金額も少なく構造的な軍事支援でもないことから考えると、その意味はむしろ逆説的に、ウクライナ政府に対して、ロシア側の落とし所を飲めという意志であるかもしれない。

 この先はさらに推測だが、米国のこの取引にはおそらく日本も関わっていて、ウクライナ対外債務削減で合意もその流れにあるだろう。「ウクライナ 対外債務削減で合意」(参照)。

 ウクライナ政府は、欧米の民間の債権者が持つ日本円で2兆円を超える債権について、元本を20%削減してもらうことなどで合意が得られたと発表し、債務不履行に陥る懸念はひとまず後退しました。
 ウクライナのヤツェニューク首相は27日の閣議で、多額の対外債務のうち、アメリカの投資会社など民間の債権者が持つおよそ193億ドル(日本円で2兆3000億円余り)について、元本の20%を削減することで合意が得られたと明らかにしました。また、ことしから始まることになっていた元本の返済も、2019年からに繰り延べされたということです。
 ウクライナは、IMF=国際通貨基金から、ことし3月、汚職対策を進めることや民間の債権者から債務削減の合意を得ることなどを条件に段階的に支援を受けることになりました。今回、支援継続のための条件が一つ整ったことで、ウクライナが債務不履行に陥る懸念はひとまず後退しました。
 しかし、ウクライナ東部では政府軍と親ロシア派の戦闘が散発的に続いていて、軍事費の負担が増大する本格的な戦闘の再開も懸念されていることから、財政再建に向けた道は険しく、債務問題は当面、くすぶり続けることになりそうです。

 この点について補足すれば、報道中に「ウクライナが債務不履行に陥る懸念はひとまず後退しました」とあるが、逆に言えば、このままウクライナのナショナリズムが突っ走っていたらウクライナが債務不履行に陥ることだった。
 これで八方まとまるかというと、そもそもこのウクライナ危機の発端は、ウクライナ右派の暴動から発していたと見てよいので、また同じ道に進む可能性がないわけではない。また、オバマ大統領がやや無理筋で押したイランの核合意もまだもめそうな気配がある。
 
 

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