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2015.08.28

2020年東京オリンピックが抱えているタバコ問題

 「保険医療2035」のシンポジウムのなかで、ある意味印象深かったのだが、ぽつぽつという印象もあったものの、2020年東京オリンピックが抱えているタバコ問題がいくどか語られていたことだった。まとまった話題とはなっていない。なのに、関係者が口惜しくて言及せざるを得ないという印象があった。 2020年東京オリンピックに向けて、受動喫煙防止条例を実施したいという熱意が背後に感じられた。
 2020年東京オリンピックと受動喫煙防止条例の話題は、私もまったく聞いたことがないというわけでもない。だが、シンポジウムのときに、「そういえばこの問題はどういう経路を辿り、現状どうなっているのか」と気になった。その思いには、いつの間にかこの問題を失念していたことに気がついたからだ。2020年東京オリンピックについては、開催決定に至る話題、決定の歓びの報道、そして昨今のエンブレムや会場建設問題などがニュースの話題として取り上げられるが、受動喫煙防止条例の話題はどこに行ったのだろうか。

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受動喫煙防止条例
日本初、神奈川発の挑戦
松沢成文
 振り返ってみると、この話題に熱心だったのは、松沢成文・参議院議員だった。なぜ彼がこの問題に取り組んでいるかは、わかりやすい。彼は2003年に民主党を離党し、同年4月の神奈川県知事選挙で当選。2007年も当選し、2009年に神奈川県の条例として受動喫煙防止条例を全国に先駆けて制定したからだ。
 2020年東京オリンピックでの受動喫煙防止条例制定に向けた松沢議員の活動は彼のホームページにも残っているが(参照)、change.org「2020年東京オリンピック・パラリンピック大会までに受動喫煙防止法をつくろう」(参照)のほうが主張がわかりやすいかもしれない。

 IOC(国際オリンピック委員会)は、健康の祭典であるオリンピックにはタバコはふさわしくないとの考えのもと、1988年、オリンピック大会での禁煙方針を採択しました。また、2010年には、WHO(世界保健機関)との間で、オリンピックを「タバコフリー」、つまり、たばこの煙のない環境で実施する合意文書に調印しています。
 そのため、近年の歴代開催都市はすべてオリンピックまでに罰則付きの受動喫煙防止法または条例を制定しているのです。
 タバコの消費量が圧倒的世界第一位で、多くの人がタバコに寛容とのイメージを抱いている中国ですら、北京オリンピックの成功のために、WHOの協力のもと、北京市に受動喫煙防止条例を制定しました。
 また、感動が記憶に新しいソチオリンピックでも、消費量世界第二位のタバコ大国ロシアは、オリンピックに合わせて「包括的禁煙法」を制定しました。それだけではありません。ソチ市は「スモークフリーシティー」をうたい、様々な受動喫煙防止のための活動に取り組んでいます。
 2016年の夏季五輪開催予定国・リオデジャネイロ、そして2018年の冬季五輪開催予定国・平昌(ピョンチャン)も既に法律を整備しました。

 国際オリンピック委員会(IOC)以外に世界保健機関(WHO)も同様である。

 もちろん、受動喫煙防止法を制定しているのはオリンピック開催国だけではありません。世界には「WHOたばこ規制枠組条約」という条約があり、世界178カ国が加盟しています。そしてほとんどの加盟国がこの条約を遵守して罰則付の受動喫煙防止法を制定済みなのです。
 ところが、我が国は、「WHOたばこ規制枠組条約」の加盟国であり、オリンピック開催国であるにもかかわらず、未だに受動喫煙防止法を制定していません。世界で受動禁煙防止法のない国は、アフリカやアジアなどの一部発展途上国を除くと、日本だけです。

 このキャンペーンはすでに1年前に終了している。15000人の賛同者を求めていたが、終了時の賛同者は12,910人であった。しかし、キャンペーンとしては概ね成功の部類だろう。
 さて、それから1年、現状はどうなっているのだろうか? つまり、受動喫煙防止への法的な取り組みはどうなっているのだろうか? 実は私は知らなかったのである。調べてみた。
 比較的最近の状況としては、朝日新聞5月の「「禁煙五輪」、東京が断つ? 都の検討会が条例化先送り」(参照)がある。

 2020年東京五輪に向けて、飲食店などの屋内施設での禁煙や分煙を罰則付きで義務づける条例の是非を議論してきた東京都の検討会は29日、条例化を事実上、先送りする最終提言をまとめた。喫煙者を顧客とする業界に配慮した。04年以降、定着していた「禁煙五輪」の流れを断ち切りかねない動きだ。
 提言は、都に受動喫煙防止への取り組みを工程表で示すよう求めながらも、条例制定の必要性には踏み込まず、18年までの検討を求めるにとどめた。一方、東京以外でも競技が予定され、諸外国の多くが法律で規制している点を挙げ、法律で全国一律に規制するのが望ましいとし、国への働きかけを都に求めた。
 罰則付きの条例化は、舛添要一知事が昨夏、テレビ番組で「議会で通せばできる。ぜひやりたい」と発言。昨年10月に法学者や医師ら委員12人の検討会を設置。医師らが条例化を強く求める一方、法学者らは条例で不利益を被る飲食店などによる訴訟リスクを挙げ、賛否両派が対立。今年3月末に予定した結論を持ち越して調整していた。

 東京都としては「条例化を事実上、先送りする最終提言をまとめた」ということだ。
 産経には関連して8月19日の記事「東京五輪「喫煙環境」でも波乱 「禁煙」「分煙」都条例化めぐり紛糾」(参照)があった。

 受動喫煙防止をめぐっては、舛添要一都知事が昨年から前向きな姿勢を示していたことから、検討会が設置されたのが経緯という指摘はある。だが、都議会最大派閥の自民党が「条例ではなく、自主的な取り組み」を求め、舛添知事も「ただちに条例化は困難」との考えを示した。だが、こうした政治的な判断にもかかわらず、一部の検討委員が条例化へと突き進んだ格好になった。


 そもそも検討会の委員12人のうち、医療・医学関係者が8人を占めたことが、年度またぎの継続審議といった波乱を招いた原因との指摘もある。五輪・パラリンピックはスポーツの祭典である一方、世界から多くの観光客が来日する。委員は医療・医学の専門家に偏るのではなく、観光や飲食など多様な民間事業者も集めるべきだったとの声も出ている。


 国益、中小事業者の経営、さらに外国人観光客へのホスピタリティーなど、5年後の五輪に向け「喫煙環境」はどうあるべきか、多方面からトータルな議論が必要。決して、一部の勢力だけの要望が決め手とはならないはずだ。特に、顧客となる訪日外国人の視点に立って考えることが大切だ。
 そうした中、東京都は増加が予想される外国人観光客が快適に宿泊・飲食施設を利用できるよう、分煙環境整備を行う事業者を対象とした補助金事業を開始する。都内の宿泊施設や飲食店を対象に7月下旬から募集を始めており、1施設300万円まで、喫煙室や分煙設備工事費の5分の4を補助する。喫煙率の高いアジアや欧州の国々からの観光客に「喫煙マナー」や「分煙」といった日本ならではのおもてなしは、東京五輪の一つの特徴になるとの期待もある。
 拙速に動いたため、白紙撤回を余儀なくされるのは、新競技場の建設計画だけで十分、との声も関係者から漏れている。

 基本的に産経報道からは、検討会が医師会に偏向して独走してしまったという印象を与える。
 医師会側の詳細は、東京都医師会タバコ対策委員会の「受動喫煙防止条例制定に向けた医療関係団体の取り組み及び都民への啓発について(答申)」(参照PDF)で理解を深めることができる。これはかなり包括的な答申書なので、この問題に関心のある人は一読しておくとよいだろう。
 さて、こうした問題をどう考えるか?
 喫煙規制への反対の議論を見ると、案外問題が整理されやすいように思える。その一例として、PHP「2020東京オリンピックと「過剰なたばこ規制」」(参照)の議論を見てみよう。溝呂木雄浩(弁護士)の意見として語られている。

 2020年のオリンピックでは、世界中から東京に来場者が集まります。日本政府はオリンピックを追い風に、訪日外国人旅行者2000万人をめざす方針です。しかし、そのなかには当然、たばこを吸う人も吸わない人もいる。路上喫煙に慣れ親しんだ外国人旅行者は当然、自国=世界の常識で判断し、路上で立ち止まってたばこを吸おうとするでしょう。
 そこで、たとえば千代田区だったら監視員がやって来て、外国人に向かって「罰金の支払い」を強制するつもりでしょうか。もしそんなことをすれば、「日本はいつから人権無視の全体主義国家になったのか」と外国人の反発を浴び、国際問題に発展しかねません。


 IOCとWHOが受動喫煙防止に関して同じ考えをもって連携していたとしても、国際機関のWHOとそうでないIOCでは、規制の意味合いがまったく異なります。日本人のなかにはオリンピックを主催するIOCを国際機関の一つと思っている人がいるかもしれませんが、まったく違います。公的な性格をもつとはいえ、実際は法人格をもたない国際的な任意団体で、いわば親睦会やクラブとそう変わらない。だからこそ莫大な放映権料やスポンサー収入の使途が不明瞭でも、IOC委員が招致活動の一環で過剰な接待を受けて批判されても、内部調査だけにとどまり、外部の監査を受けずに済んでいるのです。


 しかし、飲食店の店主には憲法22条が保障する営業の自由があり、自分の店を全面禁煙、あるいは分煙するかしないかを自由に決めることができます。この営業の自由は憲法が保障する経済的自由で、経済的自由は基本的人権に含まれます。基本的人権が不当に侵害されないよう経済的自由の規制がどこまで許されるかどうかについては、判例上も学説上でも明確な判断基準が確立しているのです。

 つまり、路上喫煙を人権と考える外国人もいるし、受動喫煙防止条例は憲法22条が保障する営業の自由の侵害だと言うのである。
 面白い議論だなとは私は思う。ただ、そうであればこれまでのIOCの「禁煙五輪」の意味は、2020年東京オリンピックで消えることになるだろう。つまり、その意味合いが何かが問われているのである。
 さて私はどう考えるか。私は、前提となるオリンピックについての考え方が、こうした反対派とは違う。2020年オリンピックを国家行事として華々しく成功させたり、その経済効果を狙うというのは、オリンピックの副次的な効果にすぎないと私は考える。
 こうした問題は常に原点に立ち返る必要がある。ここではオリンピック憲章の原文、その冒頭を読んでみよう。

オリンピズムの根本原則
1 オリンピズムは肉体と意志と精神のすべての資質を高め、 バランスよく結合させる生き方の哲学である。オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである。その生き方は努力する喜び、良い模範であることの教育的価値、社会的な責任、さらに普遍的で根本的な倫理規範の尊重を基盤とする。

 つまり、オリンピックというのは、生き方の哲学であり、「文化、 教育と融合させ、生き方の創造を探求」である。そして、「良い模範であることの教育的価値、 社会的な責任、さらに普遍的で根本的な倫理規範の尊重を基盤」である。そのなかに、禁煙が含まれているということである。
 オリンピックとは禁煙を世界に広めていく、教育的な活動でもある、ということだ。であれば、それにどう対応すべきかは、自明に思われる。
 
 

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