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2015.05.24

英語をハングルで書けるか? その1

 英語をハングルで書けるか? と言われても、何を言っているかわからないだろうと思う。というのは、ハングル=韓国語(朝鮮語)というイメージが定着しているからだ。ハングルを使う韓国人も、英語についてはそう思っているかもしれないが、原理的には、ハングルは別段、韓国語(朝鮮語)を表記するための書記体系とは限らない。
 その前にハングルが世界でもっとも優れた文字であるという説があることを確認しておきたい。2012年の聯合ニュース「固有文字の優秀さ競う世界大会 ハングルが金メダル」(参照)より。


 第2回世界文字オリンピックが1~4日にタイのバンコクで開かれ、ハングルが金メダルを獲得した。
 世界文字学会が9日、明らかにした。2位はインドで用いられるテルグ文字、3位はアルファベットだった。
 自国で生み出された文字を使うか他国の文字を借用、改造して使っている国の学者が参加し、それぞれの文字の優秀さを競うという民間レベルの大会。文字の起源や構造・形、文字数、独立性などのほか、応用と開発の余地も重要な評価要素となる。
 今年はドイツやスペイン、ポルトガル、ギリシャなど27カ国から学者が参加し、自国の文字について発表した。
 2009年10月に16カ国から参加者があった第1回大会でもハングルが1位で、ギリシャ、イタリアの文字が続いた。
 今大会の執行委員長を務めたイ・ヤンハ元駐レバノン大使は「アルファベットで表現できる音は300前後だが、ハングルの24字は理論上1万1000、実際には8700程度の音を出せるという。短時間での情報伝達力は他の追随を許さない」と説明した。
 参加者は大会の最終日に「バンコク宣言文」を発表した。自国の大学に韓国語の専門学科や短期コースを設置するなど、ハングルの普及に努める方針を示した。

 第2回に日本語の文字が参加したかはわからないが、当時のキリスト教タイムズよると(参照)第1回では参加していた。残念ながら入賞もしなかったようだ。ここでもハングルが優れた理由も語られている。漢字を補ってみる。

특별(特別)히 한글(ハングル) 발제(発題)를 맡은 이현복(李炫馥) 박사(博士)(서울대학교 명예교수(ソウル大学名誉教授))는 한글(ハングル) 창제(創製)의 역사적의의(歴史的意義)를 중심(中心)으로 한글(ハングル)의 언어학적특징(言語学的特徴)을 설명(説明)해 나갔다. 또한 한글(ハングル)을 중심(中心)으로 만들어진 국제음성기호(国際音声記号)를 예(例)로 들음으로써, 누구나 쉽게 발음(発音)을 이해(理解)할 수 있는 한글(ハングル)의 장점(長点)을 설명(説明)했다. 이현복 박사(李炫馥博士)에 따르면, 한글(ハングル)이 가장 과학적(科学的)이며 편리(便利)한 언어(言語)가 될 수 있는 이유(理由)는 무엇보다도, 한글(ハングル)의 각낱말(各単語)들이 각각(各々)의 소리를 내는 음성학적특징(音声学的特徴)을 가시적으(可視的)로 보여준다는 데에 있다. 한글(ハングル)의 각형태(各形態)는 인간(人間)의 입, 혀의 위치(位置) 등을 고려(考慮)하여 만들어 졌기 때문에, 특정(特定)한 소리와 입 모양을 동시(同時)에 이해(理解)할 수 있는 장점(長点)을 가진다.

特別にハングル発題を受けた李炫馥博士(ソウル大学名誉教授)は、ハングル創製の歴史的意義を中心にハングルの言語学的特徴を説明した。また、ハングルを中心に作られた国際音声記号を例で聞くことで、誰でも簡単に発音を理解できるハングルの長所を説明した。炫馥博士によると、ハングルが最も科学的で便利な言語になることができる理由は、何よりハングルの各単語が各々の音を出す音声学的特徴を可視的に見せることであるある。ハングルの各形態は、人間の口、舌の位置などを考慮して作られたので、特定の音と口の形を同時に理解できる長所をもつ


 ハングルが世界でもっとも優れた言語であることの理由は、人間音声の正確な記述能力にあると言ってよさそうだ。このため、ハングルを世界に広めようと、まず文字を持たない言語への普及が推進されたことがある。最初の対象になったのは、インドネシアスラウェシ島沖にあるブトゥン島のネアチア語である。2009年中央日報コラム「初めて輸出されたハングル、世界公用文字になるか」(参照)より。

ハングルが初めて海外の少数民族の公式文字に採択された(本紙8月7日付記事参照)。インドネシア・スラウェシ州バウバウ市に住むチアチア族は、独自の言語を持っているがこれを表記する文字がなく、言語が消滅する危機にさらされていた。訓民正音学会の努力でチアチア族の生徒らはハングルで書かれた教科書を通じて民族語を学び、彼らの文化と伝統をつなげていけるようになった。
最初のハングル輸出後、残る課題を問う記事もある。学びやすく科学的なハングルの優秀性は認めるが、本当に世界化を果たすためにはハングルでできた高級コンテンツの開発に力を入れるべきとの指摘だ。2つの記事を読んでハングルの世界化の意味について考えてみよう。

① ハングルは音と文字が1対1で対応する唯一の表記手段だ。英語もハングルのように音を記号として示す表音文字だが、ハングルと違い発音記号を別に使用している。
ハングルの正確な表音性は創製当時から強調された。集賢殿(チプヒョンジョン、朝鮮時代の宮中に置かれた学問研究機関)の学者だった鄭麟趾(チョン・インジ、1396~1478)は、「訓民正音解例」の序文を通じ、「ニワトリの鳴き声まで表記できる文字」と完璧な表音文字を作り出した自信を示した。少数民族の言語が持つ多様で独特な発音を混乱なく表記する最適の条件を持っているということだ。
チアチア語の教科書を作ったソウル大学言語学科のイ・ホヨン教授は、「伸張した国力と韓流の影響が大きかった」と語る。

② ハングル輸出の目的と意味は
7000余りに達する世界の言語のうち、半分は2100年までに消滅する危機に置かれているとワシントンポストが3月に報じている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は「ひとつの言語が消滅すれば、われわれは人間の思考と世界観について認識し理解する道具を永遠に失うことになる」と警告した。
世界の言語学界は消滅危機にある少数民族の言語を保存し、教育するのに力を入れている。ハングルが担当すべき役割がここにある。独自の文字がない少数民族の言語をハングルで記録することで、人類の文化の多様性を維持するのに寄与できるという意味だ。

③ ハングルの世界化に向けた課題は
小説「大地」の作家、パール・バック(1892~1973)はハングルについて、「24個の単純なアルファベットと数種類の組み合わせの規則だけで無限に近い音を表現できる驚くべき言語」だと称賛した。こうしたハングルの科学的で簡潔な体系のおかげで韓国の非識字率は1%にも満たない。ユネスコが世宗(セジョン)大王の誕生日である9月8日を「国際識字デー」にし、識字に寄与した個人と団体に授与する賞を「世宗大王文解賞」と定めた理由だ。
ハングルの優秀性が表記手段の側面にだけとどまってはいけない。チアチア族がハングルを受け入れるのには韓流の力が大きかったというように、ハングルで疎通できる質の高い文化コンテンツを開発していくことが重要だ。文字の科学性だけ強調する代わりに優秀なコンテンツで韓国と韓国文化に対する好感度を高めることがハングルの世界の礎石になるということだ。


 興味深い試みだったが、現状はうまく進展していないようだ。昨年、毎日新聞外信部副部長兼論説委員、澤田克己・前ソウル支局長も関心を持っていた。「韓国人のハングルへの思い入れ」(参照)より。

 2011年に2回目のソウル勤務を始めた私は、このニュースの「その後」が気になって取材してみた。新聞というのは「新鮮なニュース」が優先されるので、数年前の話題を追っても記事にできるとは限らない。この時は実際、記事にできなかったのだが、それでも取材してみたかった。そもそも、誰が、どんな考えで、こんな事業を始めたのだろうかと不思議に思っていたからだ。

 記事にはこの運動の背景について語られているが、進展しない理由には触れていない。主要な要因は資金不足だったようだ。2012年中央日報「突然支援を絶たれたチアチア族のハングル教育」(参照)より。

主な理由は財政問題だ。世宗学堂は文化体育観光部と韓国語世界化財団が世界各地に設立する韓国語教育機関だ。しかし運営機関である慶北大学が財政難を訴え撤収を決めた。慶北大学側は、「世宗学堂運営予算は文化体育観光部の支援金3400万ウォン(約239万円)と慶北大学の予算3600万ウォンの7000万ウォンだけだった」と話した。だが、実際には講師の人件費と教材費、機資材費などに最低1億ウォンが必要だった。このため最小授業時間だけをやっと満たして講義したという。世宗学堂運営を総括した慶北大学英語教育科のイ・イェシク教授は、「7月に直接文化体育観光部を訪ね財政的・行政的支援を要請したが何の返答もなかった」と話した。

 しかし、国家が本腰を入れればそれほど難しい問題でもないようにも思われるので、韓国政府側としてハングルの国際化には消極的だったと見てよいかもしれない。
 私はこの運動が頓挫した状態は残念なことではないかと思う。ハングルが世界でもっとも優れた文字であるという評価については、国際的に定まったものではないようにも思えるが、その音声学的な記述と習得のしやすさは原理的に内包している表記体系だろう。
 なにより、実際にこうした合理的と思われる表記系を任意の言語に適用するとどのような事態になるのかということは、言語学的にも興味深い。その適応の詳細は、東京外国語大学の趙義成氏が「チアチア語のハングル表記体系について」(参照PDF)でまとめていて、概要がわかりやすい。
 まず、対象のチアチア語だがざっと見る範囲では、母音構造は日本語に似た5母音で音節は開母音。なので、ハングルの文字種には問題ないだろう。子音については、日本語と同様に有声唇歯摩擦音(V)がないが、これは新規にㅸが当てられたようだ。気になるのは朝鮮語は日本語と同じでいわゆるLとRの区別がないが、この点については、Lに新規に「ᄙ」を当てたようだ。字母としては問題ないだろうと思ったが、ここまで理解した時点で私は、ちょっとやな予感がした。
 日本語のハングル転写規則でも、破裂音について語頭と母音に挟まれた環境で字母の書き分けを行うのだが、これがチアチア語にも適用されてしまうのではないかということである。日本語のハングル転写規則は基本的に、転写後を韓国人(朝鮮人)が理解するために音価主義が採られてよいのだが、チアチア語の正書法にそうした配慮を持ち込むと、それを使うはずのチアチア族にしてみると音韻体系の理解が混乱する。
 この点はどうかと見ていくとと、残念ながら悪い予想が当たっていた。先の趙義成氏の考察で触れられていた。言語学としてはごく初歩的な指摘とも言えるが、逆に今回のハングル普及運動では、そうした配慮なく朝鮮語の音価主義を持ち込んだことは、結果としては残念だった。
 加えて、思ったことがある。チアチア語のような比較的簡素な音韻構造をもつ言語であれば(音の構造が簡単であるとは限らないが)、ラテン字母でも問題ないだろうし、なにより、開母音構造をもった言語では日本語の仮名のほうが記法の効率を含めて合理的ではないか、ということだ。
 いずれにせよ、音価主義を採らなければ、ハングルを使って各国の言語の書記体系にすることは可能と思われる。そして、この機に英語の固有名詞のハングル転写を見てみた。そこで思ったのは、英語をハングルに収めようとするために、元の言語にパッチムの振り分けを行うように見える面白い現象だった。
 ということで、実は、その問題を「英語をハングルで書けるか?」として議論したかったのだが、前書きが長くなってしまったので別の機会としたい。
 だったら、表題を変えろよとも思うが、ブログだから、まあいいじゃないですか。ということで、とりあえず「その1」としておきます。
 
 

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コメント

チアチア語は韓国から現地への寄付がなくなって、ハングル化プロジェクトが頓挫したはずです。
アイヌ語への適用もやってましたね。
基本下の形なので時間的な音韻変化が表せません。BとかPとかが弱いわけです。

投稿: ええと | 2015.05.24 21:09

ドラマでは、漢字は官僚の特権であり秘密政治だから、ハングルをつくることで、国民がその秘密を読むことができて、より、王と一体になれるという設定だった。で、現代では、大統領と国民は一体になっているけど、実際の行政はうまくいかない、秘密にできないから、笑。

日本は、秘密が多すぎ、今でも。たとえば、はじめからネットの自由のために、放送してもらったといえばいいのに、なぜか、秘密が公開されて、その通りにならなかったことを、ヘイトしてるだけで、良くも悪くもない感じみたいな。で、実際にヘイトしている人たちの秘密になっているかというか、見えない部分が見えたら、まったく政治とは関係なくて、ただの縄張り争いの娯楽だったりするんだと思うよ。びっくりしたのは、政治家にはなりたくないって、市長と面会したときに、たしか発言して、のけぞった。市長は政治家になって活動しなっていったことに対して。

アメリカは、秘密をたくさん調べるのが猛烈に好きな国な割りに、バカなために、911みたいなことの連続。で、なぜ、イスラム国が有利になるかというと、たぶん、偽の秘密情報を大量にばらまいているんだと思う、笑。分析しきれない内にイスラム国側が作戦を成功させてしまう・・・。なんか、アメリカの記者が、汚いビールだとか言ったって騒ぎがあるみたいだけど、あれは、表現が下手なのと、ただのヤンキーみたいなもんで、俳句としてみれば、切れ字をふせつつ、つながってるようなところを面白がっているだけなのに、必死な日本人というのもおかしすぎる。もっと現実の映像を想像すればいいのに。それに、世界は、現実の映像、優先で否定したりしないとわかった方がいいんじゃないかな。

ついでに、日本語の「自由」とは、「縄張り」のことだよね。縄張りがないと自由になれないという、どうかしている思想だよな。とうぜん、自由民主党は、縄張り民主党って、そのままじゃね? 笑 大阪が失敗したのは、市民の縄張りを変えようとしたんだから、反対されて当然だよ、笑。あと、国内で、日本の自由である縄張り行為をいくらしても、ま、結局、解決できるけど、世界でやると、孤立することになったり、報復されたり、嫌われたりするだけだよね。ひどいのは、「平和」まで、縄張りという意味にしているみたいだし。平和の場所は、日本の縄張り、だから、自衛隊で死守する必要がある、笑。

韓国ドラマを見てると、日本のことがよく見える、笑。

投稿: | 2015.05.25 06:07

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