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2015.05.17

お金の単位の話、日本、中国、韓国


 中国語でのお金単位「元」が、日本語の「円」と同じだというのは知っていたが、韓国語の「원(ウォン)」も同じだというのは、韓国語を勉強するまで、うかつにも知らなかった。なんか盲点だったなあ。「원」の発音を聞いていて、これ「円」に似ているな、もしかして同じ?と思って対応する漢字を見ていたら「圓」があった。ああ、そうか。
 日本語の「円」の旧字体は「圓」で、中国語でも繁体字は当然同じ。簡体字だと「圆」になるが、発音は「Yuán」で、同発音「Yuán」の「元」を当てるので、中国語の通貨単位は「元」。
 韓国語の場合、音価は、れいの訓民正音の時代に、「圓」に「원」を当てたのだろう。それが李朝では、中国古代音だとされたのだろう。
 これらの「圓」が、通貨単位の呼称としてどのように伝搬したかだが、おそらく、中国語の「圓」が、普通の言語の用例として先にあったのだろう。米国ドルは英語ではまんまで「美元」とするように、ドルですら、「元」になる。つまり、「圓」は「ドル」に当ててもよいくらいの一般的な名称である。
 こうした漢字の伝搬だが、中国語を勉強していて自分なりにわかったのだが、三系統ある。

 A 中国語でそのまま日本語。日本語では音変化。
 B それぞれに分離。
 C 近代になって日本語から外来語として中国語に入る。

 Aは、「東西南北」みたいな基本語だが、これは基本、漢字一文字が多い。ところが現代中国語は、そもそも漢字一文字の名詞を嫌う傾向があるので、そもそも少ない。
 Bは、例えば「駅」だが、これは大宝律令以降の駅伝制に由来する名前で、元の「驛」の字に「馬」があるように、馬を使った伝達制度だった。これを近代日本が天皇制の連想から律令制復古の気風で鉄道に再利用しだした。ちなみに、そもそも古代において律令制を実施したのは国家は日本以に外ない。余談が長くなったが、中国では「站」が当てられている。この漢字は「兵站」からわかるように拠点の意味がある。面白いのは、韓国語の「역(yeok)」で、漢音に近く、「驛」に由来するが、その意味当てが中国語にないので、実際には日本語の外来語であろう。
 Cだが、これが非常多い。70%近くある(参照)。事実上、近代中国語は日本語の外来語で成立したと言ってもいい。さらに語彙ならず「化」「式」「的」の造語も日本語の派生と見られる。
 さて、これに韓国語(朝鮮語)を加えると、「駅」でもそうだが複雑になる。

 A 中国語でそのまま朝鮮語。朝鮮語では音変化。
 B それぞれに分離。
 C 近代になって日本語から外来語として朝鮮語に入る。
  C1 日本語の音価を保持。
  C2 日本語の音価を消すために訓民正音的中国語音価を与える。
 D 近代になって日本語から中国語に入り、朝鮮語に外来語として入る。

 「駅」の場合は、「역」でパッチムがあり、漢音的な音価が連想され、日本語の音価は維持していないかのように思える。
 ここでふと思ったのだが、訓民正音というとき、「正音」は日本語では「平安時代の漢音」を指し、呉音の排除を狙っていた。同時代的に見ると、朝鮮語にも日本の呉音的な影響があったはずだが、そのあたりはどうだろうか。さらに連想がはたらくのだが、日本の漢字の由来は百済の王仁との伝説があるが、この伝説の核の『千字文』はその名称からもわかるように呉音的な響きを残している。伝説が正しければ、百済系は呉音的な音価を維持していたはずであるし、伝説を除いても百済が呉音的な音価を保持していたことは推測される。訓民正音の音価的な原形は吏読からも新羅の系統が推測されるのだが、新羅では漢音的な音価がどの程度普及していただろうか。また李朝において漢音的な音価の系統が正統視される際、それ以前の漢字語の音価はどうだったのだろうか。
 話が大幅にそれたが、「원(ウォン)」の由来はどうだろうか。
 まず日本統治下の外来語ではないことは確実と言える。李朝の造幤機関である典圜局は1883年(高宗20年・明治16年)である。多少気になるのは、「典圜局」からわかるように、「圓(원)」ではなく「圜(환)」となっていることだ。異字であろうか。大韓帝国成立(1897年)以降は「圓(원)」となっている。
 「圜(환)」以前の朝鮮はどうかというと、日本の江戸時代と同様に「文」が使われていたようだ。「文」は中国の南北朝以来使われているので、基本的には、通貨単位としての「文」は中国・朝鮮・日本で近代まで共通だった。基本的に貨幣金属の重さの単位が維持されていたのだろう。なお、いくつか資料に当たってみたが指摘がないのだが、気になることがある。「文」は中国語では「wén」である。そこで案外「원」の由来は「文」ということはないのだろうか。
 関連する日本の「円」の由来だが、これがよくわからない。とりあえず確かなこととして言えるのは明治4年(1871年)の新貨条例だが、その以前から「円」の用例はありそうだ。いずれにせよ、年代から見ると、この明治時代初期に「円」が確立していたのことは、時期的には李朝の「典圜局」に影響を与えていた可能性はありそうだ。
 面白いのは、この新貨条例だが、条例策定に関わった大隈重信が「各国通用ノ制ニ則リ、百銭ヲ以テ一元ト定メ」(明治財政史(第11巻)通貨)として「元」を示していたことだ。日本円に先行して、中国圏での「元」の活動がうかがわれる。
 ざっとした考察で言えば、中国圏での「元」の利用があり、それが日本や朝鮮に影響して、「円」や「圓」が形成されたと見てよさそうだ。
 
 

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