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2015.05.19

駅名をなぜハングルで表示するのだろうか

 新宿を歩いていてふと「西武新宿駅」という表記に目が止まった。我知らずという感じである。この時の意識が自分でも不思議なのだが、なぜその表記を見ているのか、理解していない。自分がなぜ?と改めて思ってから我に返る。そこにあるハングル表示が気になっていたことに気がつく。「세이부신주쿠역」
 それが「西武新宿駅」の表記であることはわかる。口を突いて読んでみる。「セイブシンジュクヨ」。たしかに。最後の「역」は韓国語の「駅」を意味する言葉で、音の響きからわかるように、元は漢字の「駅」である。
 というところで、はぁ?と変な気持ちになった。その時の意識もよく思い出せないが、口をついて今度は中国語で読んでいた。「シーウーシンスーイー(Xīwǔ xīnsù yì)」最後の「駅」は、日本語では「站」だから、「シーウーシンスーチャン(xīwǔ xīnsù zhàn)」のほうがいいだろうか。
 中国語はいい。漢字を読めばいい。ときおり読みの異なる漢字もある。もっとも「西武新宿」は中国語ではたぶん意味をなしていない。

cover
三省堂五十音引き
漢和辞典 第二版
 そしてそこで、あれ?と思った。意味が不明でも漢字の表記だから、韓国語でも漢字に対応したハングルで読むべきなのではないか。そもそもハングルは漢字の転写のための仕組みである。とすると……と考え込んでしまった。どうなるのだろうか。すぐにはわからない。というか当然わからない。あとで調べてみるかなと思った。三省堂の『五十音引き漢和辞典』を使うとわかるからである。
 調べてみると、「서무신숙역」になるはずだ。これをハングルで読むと「ソムシンスッキョ」となる。その時は字引がなくて正確にはわからなかったが、かなり違うだろうなとは思っていた。
 次に思ったのは、日本語の地名をハングルで書くのなら、元の漢字を大切にして、ハングルに対応して書いたほうがよいのではないか、ということだった。現行の「세이부신주쿠역」ではなく「서무신숙역」のほうがよいのではないか。
 いや、と即座に思った。それだと韓国人に「西武新宿駅」という駅名がわかったことにならないかもしれない。現代の韓国人の大半は、ハングルからその本字とも言える漢字は想起できないだろう。
 ちなみに、「서무신숙역」という表記を見たとき、現代の韓国人は何を連想するのだろう。「서무」は「庶務」の意味があるので、「庶務新宿駅」のような連想をするのだろうか?
 さて、自分は何を考えているんだろうか。しばし呆然としてから、ようするに、日本の駅名のハングル表記は基本的には、日本語の音をハングルで仮名書きしているだけなのだろうという考えに至る。
 なるほど漢字を失ってしまえば、朴正煕(ぼくせいき)、金日成(きんにっせい)、李承晩(りしょうばん)が消えてしまうのは、しかたない。朴槿恵についても「ぼくきんけい」と読める日本人は少ない。
 朴槿恵はハングルだと「박근혜」なので、「パクネー」になる。と、今、気がつく。よく見かける「パク・クネ」ではないな、音価は。
 韓国式ローマ字表記にすると「bag geunhye」になる。「パクネー」である。しかし姓ということで「パク」で切らざるをえないから、「クネ」の「ク」がまた出てくるのだろう。だが、それを言うなら、朝鮮人名も中国人名のように漢字ごとに切るのだから、「パク・クンヘ」がよいだろう。ああ、そういう表記もあったなあ。あれ、いつから「クンヘ」から「クネ」になったのだろうか。
 ちょっとまて。朴正煕は日本では「ぼくせいき」から「パク・チョンヒ」になったはずだが、「박정희」(bag jeonghui)だと「パクチョンイ」ではないのか。このあたりどうなっているんだろう。そういえば、金賢姫は「김현희」(gim hyeonhui)で「キム・ヒョンヒ」だった。「パク・クネ」なら「キム・ヨンイ」ではないのか。しかし、李恩恵は「리은혜」(li eunhye)だが、「パク・クネ」風に「リ・ウネ」になっている。どういう規則なのだろうか。ちなみに李承晩が「이승만」で姓が「리」ではないのは、李恩恵は北朝鮮の人という含みなのだろう。
 要するになんだかんだ言っても音価主義ということではあるのだろう。その上で何らかの表記指針が存在しないと混乱する。日本での韓国語表記はどうも混乱しているようにしか見えない。
 韓国側ではさすがに指針があるだろうと、探すと、すぐに見つる。ウィキペディアにまとまっているのが簡易にわかりやすい。「日本語のハングル表記」(参照)である。
 これを眺めると、「西武新宿」が日本語の「セイブシンジュク」で、それにハングルを対応させて「세이부신주쿠」となっていることがわかる。
 この日本語のハングル表記法なのだが、一見簡単そうで、日本人にはわかりにくい。たとえば、「カキ」だが、「カ」は「가」、「キ」は「기」だが、 二字目の「キ」は母音に挟まるので「키」になる。つまり「カキ」は「가키」になる。この表に説明はないが、「가(カ)」と「기(キ)」だからといって「가기」と書くと、発音は「カギ」になる。韓国語には有声軟口蓋破裂音が子音組織としてはないが音環境で音として現れる。それをさけるために、無声有気音が初声の「키」を使う。
 そこで最初の沈黙にまた戻る。なんでハングルで「세이부신주쿠역」と書いているのだろうか? ローマ字で事足りるということはないのだろうか。ハングル表記が音価の転写でしかないなら、ローマ字でいいはずである。
 考える。合理的な結論は、この条件だけに絞ればだが、韓国人はローマ字が読めないからだろう。少なくとも、日本を訪問する韓国人の多数はローマ字が読めないと考えてよさそうだ。しかし、そんなことがあるのだろうか?
 ざっとネットを眺めてみる。同じような疑問を持つ人はいるに違いないだろうから。そして、「そんなことはない」「韓国人は普通にローマ字が読める」といった情報を得る。
 だが、と。思う。私は大学生のころ知ったのだが、普通の米人はローマ字が読めないのである。いや単純なことだ。「竹」を「take」と書いても、「タケ」とは読まない。「物の哀れ」に至っては、「Monono Aware」になる、米人は、「モノウノゥ、アウェア」とか言う。
 似たような現象が韓国人に起こるのではないか。おそらく大変の韓国人は英語を学習しているからローマ字母は読めるはずだし、子音と母音も理解しているだろう。だが、「Seibu-Shinjuku Station」という字面を見たとき、それをどう理解するか? おそらく、ハングルに転写して意識するだろう。すると、「Seibu」は普通なら二文字のハングルと意識されるだろうから、「※부」となるだろうが、ハングルの中声には「ei」が存在しない。自然に、「Se・i・bu」と三文字のハングルに分解されるだろうか。そのあたりで、おそらく日本風ローマ字はハングルとしては読みづらいだろうことが予想される。ハングル表示があったほうが韓国人にはわかりやすそうだ。
 とはいえ、そもそもハングルには日本語の音引きはない。「東京」は「도쿄」(dokyo)になる。音価は「ドキャオ」に近い。「大阪」は「오사카」で、音価は「オッサカ」に近い。しかし、それを言えば、「西武新宿駅」も実際の日本語の音価は「セーブシンジュクエキ」である。なので「세부신주쿠역」でもよさそうだが、それだと「세부」がフィリピンの「セブ」や、「세부데이터집합」のような「詳細」の意味に重なる。
 おそらく、日本語の固有名詞をハングルに音転写するときには、できるだけ同義語を避けるという隠されたルールはありそうに思える。
 
 

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コメント

太平洋戦争中、日本の巡洋艦「利根」がアメリカで「Tone」と表記され、米海軍兵士解ってはいるけど「音?どんな船だろう?」と気になって仕方がなかったと聞いたことがあります。

投稿: てんてけ | 2015.05.24 20:34

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