オバマの戦争ことアフガニスタン戦争が現状どうなっているかというと……
オバマの戦争ことアフガニスタン戦争は現状どうなっているのか? 報道がないわけではないが、あまり大きく取り上げられることはないように見える。なぜか。アフガニスタンでのタリバンとの戦いが収束したからだろうか。もしかしてそう思っている人がいるかもしれないので、ブログを書いてみよう。
前ブッシュ政権時にイラク戦争の泥沼がその失態としてしこたま語られたものだった。そしてオバマ米大統領はこれを終結させると公約して登場した。が、2011年に米軍がイラクを撤退してからの惨状はついにIS(イスラム国)の登場を招いた。これにはイラクの政権に問題があったとかいう責任押しつけ論や、そもそも前ブッシュ大統領が開戦したことが原因だというそもそも論といった修辞で覆われているが、普通に考えたら、オバマ大統領の失態だろう。対処の責任者として登場したわけだし。
そしてオバマの戦争ことアフガニスタン戦争は現状どうなっているのか。
まず、注目すべきことはオバマ米大統領が約束した米軍の撤退がどうなったかである。転けているのである。
関連経緯を確認しておこう。まず昨年12月初旬。12月7日WSJ「アフガン駐留米軍の撤退は中断=ヘーゲル国防長官」(参照)
【カブール】ヘーゲル米国防長官は6日、国際治安支援部隊の一時的な兵員不足を補うために、追加で最大1000人の米軍兵が向こう数カ月間にわたってアフガニスタンに留まると発表した。
ホワイトハウスは現地の米兵を今月末までに9800人に縮小すると発表していたが、アフガニスタンとの安全保障協定の承認が遅れたため、欧州の同盟国は独自に約束していた派兵水準の承認を慌てて取り付けることになった。
アフガニスタンを訪問中のヘーゲル国防長官は、同盟国の派兵の遅れにより米国は駐留米軍が1万0800人になった段階で撤退を中断することになったと述べた。現在は1万2000人に満たない米兵がアフガニスタンに駐留しているが、オバマ大統領は現地駐留米軍の最高司令官であるキャンベル陸軍副参謀総長にいかなる「一時的兵員不足」にも柔軟に対処する権限を与えているとヘーゲル国務長官は語った。
オバマ米政権の修辞では「中断」。見通しはどうか。
ヘーゲル国防長官はまた、アフガニスタン駐留米軍の任務がより限定的になり、向こう2年間の長期的な撤退スケジュールに変わりはないとも述べた。国防総省の高官は、駐留米軍が2015年末には5500人に縮小され、それが翌年の末までにはカブールの小さな構成部隊に統合されると述べた。
修辞上は「長期的な撤退スケジュールに変わりはない」。実態はどうか。
年が明けて今年の2月。2月22日CNN「米国防長官がアフガン訪問、米軍撤退の期限延長を示唆」(参照)より。
アフガン駐留米軍は昨年末に戦闘任務を終え、残留した約1万1000人の部隊が訓練、支援任務に当たっている。現在の計画ではこの部隊を1年間で半減させ、来年末までには完全撤退させることになっている。
これに対してガニ大統領は先月、米CBSとのインタビューで、オバマ大統領に撤退計画の見直しを呼び掛けていた。
3月にはアフガニスタンのガニ大統領が懇願に出た。ぶっちゃけ演出である。3月21日時事「米軍撤退見直し協議へ=アフガン大統領、22日訪米」(参照)より。
【ニューデリー時事】アフガニスタンのガニ大統領が22日、米国を初めて公式訪問する。24日にはオバマ大統領と会談し、駐留米軍の撤退計画見直しや反政府勢力タリバンとの和平交渉などについて協議する。
米軍を中心とする駐アフガン国際治安支援部隊(ISAF)は昨年末に戦闘任務を完了。オバマ大統領は現在約1万人の駐留部隊を今年末までに半減させ、2016年末に完全撤退する計画を打ち出した。
だが、13年にわたる対テロ戦争を経てもタリバンの脅威は残り、和平の見通しも立っていない。アフガン側は撤退期限の延期を要請し、米国内でも、アフガンが米軍撤退後に過激派組織「イスラム国」の台頭を許したイラクの二の舞いになるとの懸念が広がりつつある。
会談結果で、現状維持でオバマ大統領の修辞もそのままになった。簡単に言えば、撤退構想は破綻しつつあるが修辞は維持されている。
戦闘の実態はどうなっているのか? 春の年中行事、タリバンの春の攻勢は滞りなく宣言された。まだ目立つほど陰惨な事態ではない。というか、そうなったら修辞が完全崩壊しかねない。
近況だが、実際のところ、オバマの戦争ことアフガニスタン戦争では米国は敗戦しているのでその交渉に入っているはずだった。というか、実際の敗戦交渉という点は修辞で覆っているが、やることは交渉でしかない。今日の共同「アフガン政府側とタリバンが会談 停戦で継続協議へ」(参照)より。
ロイター通信によると、中東のカタールで2、3の両日、アフガニスタン政府当局者と反政府武装勢力タリバンの代表者らが会談し、停戦の可能性を協議した。米軍をはじめとする外国部隊の駐留をめぐり意見が対立、合意には至らなかった。
来月にも再び会談することでは一致し、今後の議論次第では和平協議実現への道が開かれる可能性もある。
会合はカタール政府が主催し、非公開で行われた。アフガン政府の和平交渉窓口となる「高等和平評議会」の幹部や、タリバンの政治評議会のメンバーらが出席したとみられる。
タリバンの参加者によると、政府側は停戦を受け入れるよう求めたが、タリバン側は同国に駐留する外国部隊が完全撤退するまで戦闘はやめないと主張、平行線のまま議論は終了したという。関係者によると、会談には米国、中国、パキスタンの代表も同席した。(共同)
一種の敗戦処理ではあるのだが、どうも微妙な線が見え隠れする。そのあたりで、実はブログを書いてみようと思ったのだった。
この共同のニュースだがロイターの孫引きで、元のロイター通信のニュースはざっと見たところ翻訳はない。英文ではこれだろう。"Taliban, Afghan figures talk ceasefire but fail to agree"(参照)。英文報道を見ると、共同の孫引きとは印象が異なり、主眼は現政府にあるようにも読める。
単純な話、米軍がアフガニスタンを撤退すれば、現ガニ大統領の元のアフガニスタンは維持が難しい。最悪、タリバン政府ができあがる。と、言ったものの事実上、敗戦処理であり、その「最悪」を受け入れて、どう修辞でごまかすかというのが米国オバマ政権の課題となっている。
このあたりが修辞として非常に面白い。
そもそも米国がタリバンと交渉しているあたりで、「あれ? 米国はテロリストとは交渉しないのではなかったか」と疑問に思う人もいるだろう。ちなみにウィキペディアを見ると「2010年にアメリカはTTPを国際テロ組織に指定、2011年にはイギリスもテロリスト集団としてその活動を禁じた」(参照)ともある。ところが……
1月のWSJ「「テロリスト」に譲歩せぬ米政府、「反政府勢力」なら構わず」(参照)より。
米政府がイスラム教過激派組織「イスラム国」と、アフガニスタンのイスラム原理主義組織「タリバン」との違いを強調している。タリバンは「武装した反政府勢力」で、「テロリスト」のイスラム国とは違うというのがその論理だ。
だが、米国はアフガニスタンで拘束された米国軍の人質を解放するため、タリバンの求める囚人との交換に応じている。09年にタリバンに拘束されたバーグダル陸軍軍曹を救い出すため、14年にキューバのグアンタナモ基地で拘束していたタリバンメンバー5人を釈放した。
この件について米政府は、イスラム国はシリアとイラクで猛威を振るうテロ組織だが、タリバンはそうではないというのがオバマ政権の考えだ、と説明した。
シュルツ氏は「タリバンは武装した反政府勢力であり、イスラム国はテロ組織だ。米国はテロ組織には譲歩しない」と述べた。
タリバンは「武装した反政府勢力」だが、「テロ組織」ではないのである、まあ、オバマ政権の修辞では。笑える。
いつからそうだったのか。最初からそうだったのか? この修辞の経緯はよくわからないが、現状、いつのまにか、タリバンはテロ組織ではないことになっている。というあたりで、この修辞が、IS(イスラム国)との関連にあることもわかる。
この先は、各種関連論説をざっと見た範囲では見えてこないので、私の見方になる。オバマ政権はIS(イスラム国)の対抗勢力としてタリバンを維持したいのではないだろうか? すでにブログで言及したが(参照)、ISはタリバンを支配下に置きたいという欲望を持っている。
このことはタリバン側からしても、ISが脅威になっているとも言える。
そのあたりで、推測に過ぎないのだが、現在の米国とタリバンの交渉はすでに敗戦交渉としてアフガン政府との事後処理というより、もう少し積極的に、ISに対する構図で、タリバンと米国との事実上の軍事同盟なのではないだろうか?
この構図でもう一つやっかいなのは、パキスタンとイランの関わりである。
オサマ・ビンラディンを事実上パキスタン政府が擁護していたように、パキスタンとしては、タリバンは対インド戦略の駒でもあった。これにさらに、対ISとしての駒の価値が高まることになる。
こうした構図で見ると、アフガン政府という修辞を維持しつつ、アフガニスタンにタリバン政権が樹立されることが、米国とパキスタンには有益ということになる。さらに言えば、対インドの構造もあってパキスタンと中国も連携しやすい。
修辞さえ維持できれば、タリバンを軸にISの牽制ができて、米中にとってもいい構図にも思える。だがそういい構図だけでもない。ISを影で支えているのは、対イランとしてのサウジアラビアとイスラエルだからである。構図は非常に奇妙なものになる。さらに構図が奇妙になるのは、イランと米国の関係も米国側では反核の修辞で覆っておきたいというのもある。
いずれにせよ、二つのことが露出しつつある。一つは国際情勢において修辞と現実がかなり乖離しはじめていること、もう一つはタリバンとイランを軸に巡って新しい構図が生まれつつあること。これらがどこに帰着するかは現段階ではよくわからない。あえて言えば、オバマ政権の修辞は破綻するだろう。
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コメント
アメリカを直接攻撃するものは絶対ゆるさないというのが基本でしょ。で、今のタリバンは、アメリカが攻撃してきてることに対して、その攻撃がうまくできないように、せっせと地雷を、移動する情報を得て、その移動先に埋めて、また、それを踏んでしまうのがアメリカ軍で、アフガニスタンの人々は一切踏まないという感じで。で、アメリカ側は、攻撃をするのはやめて、睨み合いだけを続けて、もし、軍事行動をタリバンが起こしたら、防戦するってことなんじゃないかな。それに、現在進行しているのは、アメリカと同盟主要国を直接攻撃しているのは、イスラム国なんだし。でも、そっちも、結局、ジワジワ、ゆっくりやることがいいってなるんじゃないかな。それに、アメリカの国内問題の方が大きくなるでしょ。貧富の差で、国民同士がぶつかりあうだろうしね。
で、オバマは、退任したあとのことの活動に一生懸命でしょ。政治活動には興味なさそうだし、だからといってビジネスの方も。で、親日を仕事にするんじゃないかなぁ。とはいっても、オバマ一人が親日なっても、とくだん、日本にとって大きな利益にはならいわけなんだけど、日本人は大喜びするよね。とくに、政治家の先生たちは。それに、日本は、アジアからも、期待されていないかもね。金は貸すけど、元本保証をもとめて、先に利息分は、日本の企業をつかえってまわってるわけで。そんなキツイ金貸しから借りたら、損するのは借りたほうだしね。
投稿: | 2015.05.04 16:35