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2015.05.30

インドネシアが5月20日、中国不法漁船を爆破した意味

 海外報道をから国内報道を見て、ふと心に引っかかったことが他になんかあったなと思い、インドネシアが5月20日、中国不法漁船を爆破したことを思い出した。あれ日本でも報道があったかとざっと見て回って、ちょっと違和感を覚えたので書いて起きたい。
 概要がどう国内報道されたか、まず共同で拾っておこう。22日「違法操業の外国船爆破処理 インドネシア、中国が反発」(参照)より。同記事にはロイターの爆破の写真もある。


 【ジャカルタ共同】インドネシア海軍などは20日、同国近海で違法操業により拿捕された中国などの外国漁船41隻を爆破処理した。政府当局者が21日、明らかにした。違法漁業を厳しく取り締まる姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。
 中国外務省の洪磊副報道局長は21日の記者会見で「深刻な懸念」を表明、インドネシア側に説明を求めたことを明らかにした。一方、インドネシアのスシ海洋・水産相は「法律に基づいた措置だ」と主張した。
 洪氏は「インドネシアが両国の建設的な漁業協力を推進することを望んでいる」と述べ、中国企業の「正当な権益」を守るよう求めた。

 報道として事実部分に間違いはない。むしろ共同としては事態から1日寝かして、21日に中国外務省の反応が出てから記事としたことで、これが中国の反発という点でニュース化したことがわかる。つまり、それがニュースバリューだと理解したわけである。そこから逆に、中国が何に反発したかを、共同がどう理解したかという共同の思いを探ると「違法漁業を厳しく取り締まる姿勢」としていることがわかる。これも間違いとは言えないが、まあ、以下にこの事態について記したあとで、この共同の姿勢を顧みると、私がもにょんとした印象を持ったことは理解されるかもしれない。

 共同以外で国内報道をしたのは産経だった。読めばわかるが、いかにも産経ネタの彩りに満ちている。別の言い方をすれば、他の大手メディアでの報道は見当たらなかった。産経は中国の反応を待たず21日報道している。「中国不法漁船を爆破 インドネシアが「弱腰」から「見せしめ」に」(参照)である。


【シンガポール=吉村英輝】インドネシアは20日、領海内で不法操業をしていたとして拿捕(だほ)した中国漁船を海上で爆破した。地元メディアが21日、一斉に報じた。「海洋国家」を目指すジョコ政権はその一環として、不法操業船の取り締まりを強化、「見せしめ」として外国籍の違法漁船を爆破してきたが、中国漁船への対応には慎重だった。
 スシ海洋・水産相は20日、植民地時代のインドネシアで最初の民族団体が結成された日にちなんだ「民族覚醒(かくせい)の日」の演説で、「大統領の命令で、法に基づく措置を執行する」と述べ、違反が確定した外国漁船41隻の爆破を発表した。
 爆破は船から乗組員を下ろした後で海軍などが行った。報道によると、うち1隻は中国漁船(300トン)で、カリマンタン島西沖で少量の爆発物で沈めた。
 インドネシア近海は豊富な漁業資源に恵まれ、外国漁船の違法操業が野放し状態になっていた。ジョコ大統領は取り締まりを指示、今年3月までに外国漁船計18隻を爆破した。だが、20隻以上摘発した中国籍の船は爆破せず、議会などから「弱腰」との批判が出ていた。中国漁船の爆破は今回が初めてとみられる。
 今回、他に爆破した漁船は、ベトナム5隻、タイ2隻、フィリピン11隻など。
 ジョコ氏は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部加盟国が中国と領有権を争う南シナ海問題で「法に基づく解決」を主張。インドネシア自身は中国と領有権問題はないとしているが、中国が領海域と主張する「九段線」がナトゥナ諸島を含めている可能性が強く、警戒を強めている。
 中国外務省の洪磊報道官は21日の定例記者会見で、中国漁船爆破について、「建設的に漁業協力を推進し、中国企業の合法で正当な権益を保証するよう望んできた」と不満を示し、インドネシア側に説明を求めたことを明かした。

 引用を長くしたのは全体にいろいろ要点が散らばっているからである。
 まず、爆破の当日がインドネシアの「民族覚醒の日」であったことは重要である。「違法漁業を厳しく取り締まる」ということもだが、極めてナショナリズムの強い意味合いがあったことは明白である。
 だだし、この中国に向けられたインドネシアのナショナリズムの意味合いには留保的なトーンが見られる。従来も外国漁船を爆破していたが、中国船は除かれていた。しかも中国船は一隻だったという点である。つまり、今回の中国不法漁船を爆破はインドネシア政府から中国政府に向けた極めて政治的なメッセージ性があったと言える。なお、中国不法漁船はインドネシアには他も多数ある(参照)。
 ではそのメッセージ性は何かだが、産経は「インドネシア自身は中国と領有権問題はないとしているが」という留保を挙げながら、「中国が領海域と主張する「九段線」がナトゥナ諸島を含めている可能性が強く、警戒を強めている」と読んでいるがおそらくこれは正しいだろう。
 というのは産経は報道していないが、この一隻には重要な意味があった。ジャカルタポストによれば(参照)、同船「Gui Xei Yu 12661」は、2009年に6月20日、現在中国とASEAN諸国が領土問題でもめている南シナ海("a flashpoint of territorial conflict between China and several ASEAN nations")であったことだ。EEZの違反というよりは、領土問題についてのインドネシア政府側のメッセージがありそうだ。
 この事態について国内報道を見ているついでに、掲示板などで産経の記事の煽りを真に受けて、日本も中国に対して弱腰でなくやれといった意見をいくつか見かけた。だが、今回のインドネシアの対応の要点は、弱腰とかではなく、上手なメッセージ性にあったと見たほうがよいだろう。インドネシアとしては中国との友好は維持しつつも南シナ海への海洋侵出に反感を持っていることを暗黙に伝えたと読める。
 
 

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