アベノミクスでミートソース缶が減量したのか?
先日、面白いツイートがあった。該当ツイートにある写真を見ればわかるように、キューピーのソース缶が最近、減量したかに見える。
右が一月ほど前に買ったもの、左が今日買ったもの。お値段は同じ。こっ、これがアベノミクスのチカラなのかッ! pic.twitter.com/sHVLF3C7tH
— 早川タダノリ (@hayakawa2600) 2015, 4月 5
このツイートを見たおり、そういえば、このミートソース缶は私の好みなので買い置きがあったかもしれないと食材棚を見たら一つ残っていたので、この旧缶の内容とキューピーのサイトにある新缶の内容と比較してみた。結果、総量は減っているが内容がそれで減量されたとは言えないと思い、そうツイートした。単純な話、食品の内容量の大半は水分なので水分を減らせば、全体量は減るからである。
だがこの際、ちょっと勘違いしていた。結論からいうと、全体で減量されていると言ってよい。
すると、減量による実質的な値上げはアベノミクスのせいか……という話はひとまず置くとしても、製品の事実上の値上げにあたるのではないかという議論にもなりそうだ。
だが、旧缶と新缶では内容構成が変わっているので、単純に総量減による「隠された値上げ」とも言いがたい。
じゃあ、どうなんだ、というので、もう少し踏み込んで調べてみた。その結論を先にいうと、まあ、値上げとも言い切れない、だろう、ということにはなった。
記載ミスがあるかもしれないが、こうした話は数値で見たほうがてっとり早いので、表にしてみた。
上2行は100g当たりで見た内容量である。これは単純な話、缶を開けてみてちょっと嘗めてみたときの味の印象を意味すると言ってもいい。
そこで簡単に見て取れるのは、低カロリー化である。そのために、脂質と炭水化物をできるだけ減らし、変わりに味の濃さを出すためにタンパク質を少し上げ、塩分(ナトリウム)を上げている。これは総量を減らした分の補いと見てよい部分はあるだろう。
下3行は缶あたりの総量で見たものだ。話題の発端となったツイートでは暗黙の内に旧缶と新缶の内容構成は同一と仮定されているが、具体的に見ると、全体量の減量86.44%化は他の内容量に比例はしていない。
ここでも、当然低カロリー化であり、脂質と炭水化物の比率が全体の低下率より低い。他方、原価に一番影響しそうなタンパク質の比率は全体比率より高い。興味深いのは塩分の増加である。
総じて減量化されているのだが、話題の発端となったツイートでは同一価格とされているが、参考小売価格で見ると、89.13%安価になっている。
とはいえ、参考小売価格の低減率は総量の低減率より多少高いので、若干の値上げと言っていいし、消費物価の向上に現時点でほとんど影響のない、という、まさに現状に対応しているので、アイロニカルに「なるほどアベノミクスでミートソース缶が減量した」と言ってもよいだろうが、このアイロニーはあまり多くの人には理解されないだろう。
まとめると、この旧缶から新缶への変更で、事実上の値上げがあって庶民の生活を圧迫された、とは言えないだろう。
キユーピー ミートソース フォン・ド・ヴォー仕立て 295g×12個 |
なお関連のツイートはTogetterにもまとめられている(参照)。
話は以上。と言ってよいのだが、そもそもこんな誤解をされがちなことをなぜキューピーはしたのか?という疑問は残る。
これはキューピーが説明している。「キユーピー 缶入りパスタソース 新たに2品を加え、ラインアップを拡充 同時にミートソース3品を改良し、容量を2人前へ」(参照)。
発売から55年、キユーピー「ミートソース」の歩み
キユーピーは1959年に国内で初めてミートソースの製造・販売を開始しました。以来、半世紀以上にわたり缶入りのミートソースを作り続けています。パスタの食経験が少なかった頃には、ごはんやうどんにかけて食べるメニューを提案するなど、需要のすそ野を広げてきました。高度成長期に入り、外食文化が浸透しはじめる1965年には7号缶(295g)へ容器を変更し、休日に家族でパスタを食べる提案を進めました。時代が変化し、世帯人員が減少傾向にあることを見据え、このたび、容量を295gから255gに変更します。大人2人が食べ切るのにちょうど良いサイズの提案です。また、缶入りミートソースの最大の特徴である、レトルト加熱によるソースの煮込み感を引き出す製法はそのままに、肉の風味がさらに感じられるよう、炒めた玉ねぎを使い、調味料とスパイスの配合を見直す改良を加えました。
つまり、キューピー側の説明としては、「時代が変化し、世帯人員が減少傾向にあることを見据え」ということだ。重要なのはこの見出しにあるように「容量を2人前へ」ということで、旧缶では「2~3人前が目安です」として、3人で1缶食べるという意味合いがあった。これは、1965年の世界でもあった。改めて言うまでもないが、この年は東京オリンピックの翌年である。
その意味では、高度成長期後の縮小する日本に対応する変革がようやく、ミートソース缶に及んだと言ってもいい。
さて、パスタソースとしての総量の絡み具合という点で、減量が図られ、それにほぼ対応して価格が下げられた(比較としては微妙に価格は上がった)が、問題は再び、内容構成である。
特徴的なのは、カロリー低減に加えて、ナトリウム、つまり、塩分の増量である。新缶では総量で増えていて、食塩換算すると新缶で4.83グラムに相当する。
これを二人で食べるなら、2.41g。一食分の塩分でみると、これを仮に三食食べても7.2g。これをどう評価するかだが、厚生労働省発表「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の18歳以上の「男性は1日当たり8.0グラム未満、18歳以上の女性は1日当たり7.0グラム未満」にだいたい納まっている。
まあ、塩分面から言って悪い食べ物とも言えない。
逆に言えば、そこのあたりの天井値で塩分を上げて、濃い感じの味を出してみた新製品というのが主眼だったのではないだろうか。なお、参考までに、世界保健機関(WHO)の食塩摂取目標は1日5gである。
キユーピー ミートソース フォン・ド・ヴォー仕立て 255g×4個 |
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コメント
相変わらず面白すぎます!
小中の頃は優等生だったので、数字の事は理解しているつもりです。
読み手の勝手な願望ですが、まず他国語になる前の日記(読めない^^;)みたいに、もっと日本語であちこち斬って貰えると個人的には楽しいです。あと、そのうちにで良いのですが、極東の方でブログを書きたくなってしまいたくなる、その境界は何処にあるのかを教えて貰えないかなと思っています。
投稿: | 2015.04.09 23:15
理屈を捏ねくり回しても容量減ったと変わらんわ
投稿: | 2015.04.12 14:22