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2014.02.15

オーストラリア近海にまで出て来た中国海軍

 日本に関連する国際報道を見ていて、たまに日本でさして話題にならないニュースに出くわす。海外の関心と日本の関心にズレがあっても不思議ではないが、多少気になるときは、ブログに記すようにしている。今回のそれは、先月末から今月にかけて実施された中国海軍の演習である。
 国内でニュースにならなかったわけではなかった。たとえば、2月7日共同「中国海軍が実弾訓練、西太平洋で」(参照)はこう伝えていた。


 中国国営、新華社通信によると、中国海軍南海艦隊の艦艇が西太平洋の海域で7日、実弾射撃訓練を実施した。遠洋での武器運用能力を確認することなどが目的という。
 同通信は「中国海軍が公海上に設けられた臨時の軍事訓練海域で訓練することは国際法に合致している」と主張し、海軍艦艇は今後も西太平洋で訓練を続けると強調した。
 訓練には揚陸艦やミサイル駆逐艦など3隻が参加した。3隻は1月26日、南シナ海の南端にある「曽母暗礁」(英語名・ジェームズ礁)で「主権宣誓活動」を行っている。(共同)

 共同の報道はごらんのとおり新華社通信の孫引きであるが、この記事をまとめた記者が問題の重要性を理解していないわけではないのは、1月26日のジェームズ礁の「主権宣誓活動」に言及していることからわかる。
 このニュースの重要性が日本人にうまく伝わっているのだろうか。そう懸念するのは、西太平洋やジェームズ礁の意味合いが日本人に伝わらないのではないようにも思えるからだ。
 1月26日のジェームズ礁での話題は、別のニュースもあった。同じく共同「南シナ海南端で示威行動 中国艦隊、領有権を明確化」(参照)より。これもまた、新華社の孫引きではあるが。

中国国営新華社通信は26日、中国海軍南海艦隊の上陸作戦用の艦艇などが同日、南シナ海の南端にあるジェームズ礁(中国名・曽母暗礁)で「主権宣誓活動」を行った、と伝えた。
 同礁周辺は石油や天然ガスの埋蔵量が豊富とされ、マレーシアなどが領有権を主張している。今回の活動は中国の領有権主張を明確に示すための示威行動とみられる。
 艦隊は上陸作戦用の艦艇やミサイル駆逐艦など3隻で編成。自ら参加した蒋偉烈司令官はセレモニーで演説し「戦いに備えて戦いに勝ち、実戦能力を不断に高め、海洋権益を守らなくてはならない」と訴えた。
 新華社電によると、戦略的要衝である同礁海域で、中国海軍は定期的にパトロールを行っている。
 同礁はマレーシアから約80キロの距離にあり、中国大陸からは約1100キロの距離。(共同)

 地図を見ると、その重要性が簡単に見て取れる。
 地図のピンの位置である。ここで中国は主権を主張したのである。

 さすがに国際社会が仰天した。
 米国でも反応を示さざるを得なかった。経緯は、「ジェームズ礁」の参照はないが、ワシントン白戸圭一氏の毎日新聞記事「米国務次官補:領有権巡り対中批判…「地域の緊張高めた」」(参照)が日本語で読める記事では比較的詳しい。


【ワシントン白戸圭一】ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は5日の米下院外交委員会公聴会で、中国による東シナ海、南シナ海での海洋進出や防空識別圏の設定が「地域の緊張を高めている」と述べ、西太平洋の空と海で勢力拡大を図る中国を批判した。南シナ海での領有権拡大に関する中国政府の主張についても「国際法に矛盾している」と明言した。
 領有権争いで一方に肩入れすることを避けてきたオバマ政権が、中国の領有権に関する主張を否定するのは異例。ラッセル氏は4日の記者会見でも中国の対外政策を強く批判する一方、アジアの安全保障に果たす日本の役割を評価した。4月のオバマ大統領の訪日に向け、米国の「同盟重視」と「対中けん制」が鮮明になった。

 2月7日の共同より先に、日経は2月1日に同じ話題を扱ってはいた。「中国海軍、東インド洋で演習」(参照)より。

 【北京=島田学】中国海軍は1日までに、大型揚陸艦「長白山」などの艦隊を東インド洋に派遣し、敵との交戦を想定した軍事演習を実施した。近く潜水艦などと連携して「敵からの海上封鎖を突破する」ための演習も実施する。中国にとってインド洋から南シナ海に抜けるルートは、中東から原油を輸入するシーレーン(海上交通路)に当たる。今回の演習はシーレーン確保が念頭にあるとみられる。
 中国の国営新華社によると、同艦隊は1月20日に海南省三亜を出港。南シナ海を越えてインドネシアのスンダ海峡を抜け、同月29日に東インド洋に入った。
 これまで中国海軍の演習は中国近海や南シナ海、西太平洋が中心で、東インド洋での単独演習を公表するのは異例だ。

 記事は間違いではないが、日本の視点の文脈が抜けているので重要性がわかりにくい。
 この話題を日本のジャーナリズムがどう扱うのか気になって見ていくと、意外にも朝鮮日報が比較的詳細な記事を出していたのに気がついた。「「第1列島線」を突破した中国海軍に米日緊張」(参照)より。

 中国海軍が、米軍の「独壇場」だった太平洋で新たな航路を開拓し、勢力範囲を広げている。フィナンシャルタイムズ紙(電子版)が13日に報じた。習近平政権の発足後、中国は1980年代に自ら設定した海上防衛ライン「第1列島線(沖縄・台湾・フィリピンを結ぶ線)」を難なく突破し、米国・日本などを緊張させている。

 「第1列島線」の文脈はフィナンシャルタイムズ「Chinese navy makes more waves in the Pacific」(参照)にある。
 全体像の理解としては、朝鮮日報記事に掲載されている地図がわかりやすい。

 日本国内では、日中間の海域の問題は、尖閣諸島問題に矮小化されがちだが、基本はこの第1列島線の突破にある。別の言い方をすれば、尖閣諸島問題といった領土問題として扱っても問題の本質はつかめない。
 朝鮮日報の記事には、この問題がオーストラリアに与えた影響への言及はない。この地図からは同国も省略されている。しかし当然ながら、今回の、事前通知なしに実施された(参照)中国海軍の軍事演習はオーストラリアの近海でもあり("this was the first time the Chinese have carried out military exercises so close to Australia’s northern maritime border."・参照)、同国にも衝撃を与えた。オーストラリア・ネットワーク・ニューズによる同国外相の見解を一例としてあげておく。話題は11分あたりから。

 抑制して語られているが、これを機にオーストラリアの対中政策への変更が感じられる。オーストラリアのジャーナリズムも、これに関心を向けている。例えば、ブリスベンタイムズ記事"China's military might is Australia's new defence reality"(参照)など。


Asked about the significance of the Chinese navy exercises on Friday, Foreign Minister Julie Bishop told the ABC that China's growing power in the region and around the globe needed to be acknowledged.

中国の海軍演習の意義を問われ、ジュリー・ビショップ外相はABCに、この地域と世界に中国の台頭する軍事力は認めざるをえないと金曜日に語った。

''The United States has long been the single greatest power in the Pacific, in Asia, in fact globally,'' she said. ''But we recognise that there are other countries that are emerging as stronger economies, other countries are building up their militaries. Japan is also redefining its defence stance.

「米国は太平洋、アジア域、そして事実上地球全体で、最大の軍事力を単独で長く保持してきた。しかし、強力な経済力として出現しつつある他の諸国のことも私たちは認識している。こうした諸国は自国の軍隊を形成しつつある。日本もまた、自衛のあり方を見直している」と彼女は語った。

''So we are in a very different world. It's a changing landscape and our foreign policy must be flexible enough and nimble enough to recognise that changing landscape.''

「つまり、私たちはとても異なる世界にいるのです。状況は変わっていますし、私たちの対外戦略も、状況の変化を認識するために、十分に柔軟にかつ迅速である必要があります。」'


 こうしたところから、オーストラリア政府の変化やそれに対応する同国のジャーナリズムの動きが垣間見られる。対して日本はどうだろうか。
 安倍政権の右傾化については、日本国内のジャーナリズムでは頻繁に取り上げられているが、国際的には中国の軍拡への防衛の一面もあり、関係する他国との関連のなかでも捉えていく必要がある。
 ただ、今回の話題を見ていても、そういう面が日本のジャーナリズムには弱いようには思えた。
 

追記(2/16)
 ブコメや関連ツイートをざっと見たら、オーストラリアの地理に詳しくない人を見かけた。非難の意味はないが一例を挙げておく。なお、「マレーシア」とあるのはインドネシアの誤解か、実際には記事を読まれていないのかもしれないので、オーストラリアの地理理解の問題とは異なるかもしれない。

 欧米人でも尖閣諸島を見て「それ、日本近海じゃなくて中国でしょ!」といった反応を持つ人もいるくらいなので、しかたがない面もないかもしれないし、ゆえに高等教育での地理の学習が重要なのかもしれない。
 参考までにオーストラリアの経済水域に関連した同国海軍の地図を挙げておく。詳細は地図のリンク先を参照されたい。

Operation RESOLUTE is the ADF’s contribution to the whole-of-government effort to protect Australia’s borders and offshore maritime interests.
 

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2014.02.10

2014年東京都知事選、雑感

 都知事選が終わった。ツイッターのほうでは早々に書いていたが、開票の8時とともに舛添さんの当確となるだろうと思っていた。その通りにはなった、という意味では、予想は当たった。が、その他、予想していた部分からは見えなかったことが数点あった。
 今回の都知事選で一番興味深いことは、津田大介さんがメインに運営しているポリタスの運営だった。マスメディアからは見えづらい、各層の意見が可視になっていた。かく言う私も寄稿の依頼があり、寄稿した。「現実的な投票か、示威的な投票か ポリタス 「東京都知事選2014」を考える」(参照)である。
 率直に言って、寄稿依頼があったときは驚いた。私の意見は、世間に水を差すことが多い。メディアからは嫌われる。またそういう水を差すキャラとしてネットで人気を得たいわけでもない。基本ブログの転載はお断りしてきた。が、今回は私の「水を差す」意見も並べておくとよいのではないかと思ったのだった。
 寄稿したこともあり、他の論者の意見も比較的よく読んだ。基本的に「識者」が多いこともあり、メディアによく出てくる、率直に言えば、つまらない議論が多いようにも思えたが、それなりのバリエーションに各層の思いが連なっている様子は興味深いものだった。
 私のポリタス寄稿を執筆したのは、1月26日である。1月29日に公開になっている。その3日間に特有な大きな動きや自分なりの考えの変化はなかったが、寄稿で「ネット選挙だというけどネットから公約がわかりづらい」という部分で、ポリタスにも公約リンク集がないじゃないですか、という指摘をしたら、29日前にそれが公開されていたので、まあ、自分の思いが届いて良かったか。
 寄稿の趣旨は、ブログのスタイルとは別に表題でわかるようにしておいた。「現実的な投票か、示威的な投票か」である。しかし、「示威的な投票」という考えに馴染んでない人もいた。そもそも「現実的な投票」という考えを持たない人もいる。なので、あれでも、わかりづらいと思う人がいるようだった。
 寄稿で書いたように、この時点で私は、細川陣営が舛添陣営に迫るような選挙戦となるのではないかと予想していた。反原発運動、反安倍政権の気運、小泉旋風などの動きが、加速してくるだろうと思っていたのである。
 だがその間、ちょうと28日、日本外国特派員協会で細川さんが会見されたのだが、ここから私などは異様な印象な受けていた。
 

 


 人口学者によりますと、これから日本の人口はどんどん減り続けて、今1億3000万人の人口が50年後には9000万人、100年後には4000万人。4000万人というのは江戸時代に近い人口です。
 そういう中で今までと同じように大量生産大量消費の経済成長至上主義でやっていけるのか? 私は無理だと思います。
 今回の選挙はそういう意味で日本の文明のあり方を問う選挙であり、選択の機会であり、あるいは、まあ私たち日本人の価値観を問う選挙になるというふうに私は考えております。
 昔、道元禅師というまあ、日本の偉い禅宗のお坊さんですが、そのお坊さんがノーベル賞で平和賞を受賞したとき、あ、文学賞を受賞したときにこういう事を申しました。「春は花、夏ほととぎす、秋は月、冬雪さえて冷しかりけり」。
(通訳者吹き出す。)
 「春は花、夏ほととぎす、秋は月、冬雪さえて冷しかりけり」、はい。
(通訳ツッコミ)
 ああ、いや違います。あの川端さんが……

 
 誰にも言い間違いはあるものだし、ツッコミがあってすぐ訂正はしているのだが、やはり76歳の細川さんに年齢相応に見られる記憶・思考力の低下が見られた。それはしかたがないなと思う反面、「日本人の価値観を問う選挙」というあたりの話も、実は、年齢相応に見られる記憶・思考力の低下か、あるいは、日本新党のころの「腰だめ」の細川さんが今も変わらないのか、いずれにせよ、これはかなりまずいのではないかと私は思ったのだった。でもまあ、私は、毒舌ブロガーではないので慎んでいた。
 そして、でも、さらにデモクラTVスタジオで生放送の細川さんのインタビューである。1月22日のものらしいが、私が知ったのは29日のことだった。衝撃的だった。
 

 

 今日出た、数日前に私は見たんですけども、ロシアの国防軍がですね、出したっていう資料が、あー、極秘資料っていうものが出てきてね。それを見たんですが、(「なんの資料ですか」)福島で、福島の、えー、こないだ暮れに12月31日だったかな、あの爆発があったという小さな記事が出ましたね。 その数日前から実は水蒸気が上がっていて、何かおかしいという話があったのを私も確かに覚えているんですけども。あれはようするに完全にメルトダウンを起こしているということを、いろいろ分析をしていてですね、(「ロシアが?」)ええ、それでアメリカはですねヨウ素を1万5000袋だっかな、既にそのお2月の始めに配るという手筈を始めたということとかですね、それから、いま北極海とかいろんなところでシロクマ、アザラシ、その他の生物が生き物が大量死が続出していると、これはまさにその福島の影響であるということとかですね。いろんなものが出てきているわけです。これはまあ凄い話だと思いましたね。

 
 いやはや、これはまあ凄い話だと思いましたね、私も。
 これは、細川さん、終わっていると思った。
 もちろん、このインタビューが原因で終わったというのではなく、どのような意見を述べてもこの発想が基軸になっていたら、多数の人に心に都知事選の思いが届くわけないし、そもそもこういうインタビューが公開されてしまっている点で、選挙運営側に大きな問題があることは明白になっていた。
 ああ、細川さん、終わってた、と2月に入って私は思い直したので、ポリタスに寄稿した現実的な投票の意味はこの時点で消えてしまった。
 率直に言って、東京・自民党、東京・連合、公明党ががっつりスクラム組んだ舛添さんの圧勝はもうこの時点で確定的と見てよい。
 私が現実的な意味で選挙に行く意味なんかもうほぼゼロに等しい。でも結果、私は選挙に行った。その理由はあとで記す。
 ポリタスの寄稿ではこうも書いた。

失礼な言い方になるが、いわゆる泡沫候補や、毎回お馴染みの万年落選候補を除けば、宇都宮健児氏、田母神俊雄氏、家入一真氏の三氏が、示威的な投票の対象となるのだろう。三氏とも幅広い層からの支持が得られているようには見受けられない。それは同時に示威的な投票の対象だからだとも言える。

三氏への加勢の示威が意味するところは何か。ざっとした印象にすぎないが、宇都宮健児氏は反核および急進的な左派の代表、田母神俊雄氏は国家主義的な右派の代表、家入一真氏はネット世論や一部の若者世代の代表、ということではないだろうか。彼らについては、当確よりも、選挙後にその票数から都民の意識を読み取る材料になるだろう


 細川さんが2月に入るや沈没した点を除けば、1月26日に書いた、「宇都宮健児氏、田母神俊雄氏、家入一真氏の三氏が、示威的な投票の対象となるのだろう」は大きく外したわけではない。が、蓋を開けてみると、正確とも言えない結果だった。そこの反省を加味して、予定していた都民の意識を読んでみたい。
 細川氏が示威的投票の対象に堕ちてしまったという点を除けば、あるいはそれに関連するのだが、宇都宮氏の得票の延びは私が想定していた以上だった。宇都宮氏は982,594票で、細川氏の956,063票を、わずかと言ってよい差であると思うが、抜いた。私は、共産党と社民党が推している宇都宮氏は、同党の支持者とそのシンパを加えても40万票も行かないだろうと思っていたので、驚いた。
 理由はおそらく3点だろう。一つは細川票が流れたことと、二点目は反原発への共感、さらに三点目に福祉優先が望ましいが舛添氏は嫌いだ・自民党は嫌だというアンチ票だろう。二点目と三点目は同じようだが違う面もあり、意外と三点目が大きかったのかもしれない。
 この結果をもって共産党と社民党が蘇生していると見るかだが、印象ではそれほどでもないだろう。今回の特例でもあり、あるいは前回からも見られた宇都宮氏の人徳的な効果でもあるだろう。
 細川氏の票が宇都宮氏に流れたのではないかという点に関連するが、両者の票を合算しても、舛添氏の得票には及ばない。その意味では、急進的な反原発の動きは、政治的にはこの選挙でピリオドを打ったと見てもよい。もちろん、舛添氏も大筋では反原発にあるが、これは現実を捉えてということであり、その信頼が舛添氏の票につながったのだろう。
 蓋が開いて驚いたことの二点目は、田母神氏の得票である。610,865票もあった。私は20万票くらいではないかと思っていたので、かなり驚いた。一般的には右派の票がここに固まった、あるいは、石原元都知事の影響があったと見る向きが多い。それ自体は間違いではないだろう。
 この点について蓋が開いてからしみじみ考えさせられたのは、ポリタスに寄稿された古谷経衡氏の「田母神陣営の戦いから見る「ネット保守」のゆくえ」(参照)である。

田母神氏を支持する保守層が、共産・社民が推薦する宇都宮氏と拮抗する勢力を持ちえているのであれば、その得票は同等かそれ以上になるはずだ。一方、保守層が未発展であれば、宇都宮候補に大きく敗北する、という結果が予想される。

田母神氏の得票数がそのまま、日本の「ネット保守(≒否定的な文脈での“ネット右翼””ネトウヨ”)」やゼロ年代以降、新潮流として登場して来た保守勢力の「趨勢」をそのまま反映させる国勢調査的な意味合いを含んでいる、という事実からも、田母神陣営の戦いとその票数に注目したい。



この数字をわかりやすく「3.5倍」として計算するとして、仮に田母神氏の得票を50万票とすると、約175万人。100万票だとすると約350万人の「新保守」が日本に存在することになる。この推定が正しければ、「新保守」は共産・社民に匹敵する一大勢力であると言うことができる。巷間いわれる「ネトウヨが〜(このところ増えている)(一部に過ぎない)」などという、顔の見えなかった漠然としたイメージが、ハッキリとした数字となって現れてくるのである。

 解りやすく古屋氏は「得票を50万票とすると」としているが、すでに述べたように私はそれほどはいかないだろうと見ていた。他方、論者によっては40万票を一つの目安と見ていたので、50万票はちょっと「もった」数値であろうとも見ていた。古屋氏もその想定はしていた。

一部のネット上や保守界隈での圧倒的な盛り上がりをよそに、各種調査では田母神氏の得票予測はやや伸び悩んでいる。この予測通り田母神氏が40万票で宇都宮氏の次点敗北となれば、「ゼロ年代以降のネット保守を筆頭とした新しい保守の潮流は思ったほど伸びていない」という現状が浮き彫りになる。この状況を投票日までに打破できるかどうかが、田母神陣営の腕の見せ所であろう。

 だが、結果は約60万票である。
 古屋氏の見方からすると、ざっと、日本に200万人ほど「新保守」がいることになる。
cover
ネット右翼の逆襲
「嫌韓」思想と新保守論
 おそらくこの推定は正しいだろうと思う。というか、この数値に私はけっこう衝撃を受けている。衝撃を受けているのは、古屋氏の理路が正しいと思うからだ。実は、どうしようか迷ってこのブログに書評は書かなかったが、氏の「ネット右翼の逆襲--「嫌韓」思想と新保守論」(参照)は既読であり、かなり興味深い論考だと思っていた。出版社からのコメントがよく内容を著しているので引用しておく。

「ネトウヨ=ネット右翼」を批判する本は出ておりますが、全面的に肯定しているのは本書が最初です。
まず、ネトウヨのイメージは肥大化した虚像と社会問題としての実像があり、その組み合わせによって、かつてないほどの強烈なレッテルができあがりました。
 本書の前半部ではその虚像を1枚1枚はぎ取り(1、2章)、アンケート調査をもとに取材することにより、実態に迫り(3章)、韓国の対日感情への激変とかたくなに日韓友好を演出しようとする国内メディアの偏向報道がネトウヨと呼ばれる人たちを生んだ背景を描きます(4、5章)。
 いまや多くの日本人が抱くようになってしまった「嫌韓」を「差別」と一蹴しても問題解決にはならないことを指摘し、在特会を利用して保守全体を攻撃しようとするサヨクだけでなく、在特会を切り捨てようとする保守陣営に対しても、その点はきちんと批判しております。在特会問題の本質は日本人全体に広がった「嫌韓」とリンクしており、極めて歴史的な問題でもあります。ネトウヨとレッテルを貼り付けて解決できる問題ではなく、しかもこれからの問題であることが本書を読むとよく分かると思います。

 ブログで取り上げなかった理由は、私はこの分野の議論が好きではないことがまずある。そうでなくても、私は右翼呼ばわりされて、左翼から嫌がらせを受けてきているのでうんざりしている。また、「ネット右翼」というのはただの無教養人だと思っていたこともある。ただし、同書によってこの点、蒙を啓かれることになった。実際、推定200万人の新保守という存在を今回まざまざと実感し、本書の意義を再認識にすることになった。
 ひどく雑駁に言えば、私は「ネット左翼」というのも、ただの無教養人だと思っているので、基本、どちらの側も、きちんと物を考えていけば、私のように無気力で合理的で現実的なリベラルに堕落するのがオチだと思っていたふうがある。それでいて私は吉本隆明なみに、啓蒙というのが大嫌いなので、あまりこういうことに拘わりたくもない。しかし、そうもいかないわけだ、ここに至って。
 古屋氏の結語は、今となっては重たい。

確実なことは、選挙後、今後の「ネット保守」を巡る言説は必ず変更を迫られることになる、ということだ。

 今回の都知事選で、田母神氏支持が若い層に多いことも注目された。もっとも若い世代そものが昔から選挙に関心の薄い層でもあり帳票率も低いので総数としては大きくはない。それでも、若い世代にきちんと「新保守」が根付いているのは留意しておくべきことだろう。余談になるが、昨今の中韓の反日も彼らなりの「新保守」主義なのである。
 もう一点、今回の選挙で注目したのは、ネット選挙を打ち出した家入候補の得票率である。まあ、泡沫であろうと思っていたが、結果は88,936 票で、往年の泡沫、ドクター・中松の64,774票、マック赤坂の15,070票を越えた。これをもって善戦したと見てよいかだが、どっちかと言えば、よいと言ってもよいだろう。一つの見逃せないマイクロトレンド(参照)ではある。例えば、この層が動けば、ちょろいベストセラーくらは出せるという意味だ。ただ、総じて、家入氏の活動は忘れ去られるだろうと思う。
 さて話を戻して、昨日、雪積もる歩道を押して、私は投票所に向かった。一番の理由は、率直に言うと、私は模範的な市民として振る舞うからである。もう少し言うと、前々回石原知事の選挙に例外的に棄権したのは、さすがに嫌になったからだ。例外中の例外だった。私を石原擁護と見るコメントをいろいろ貰うが私は石原慎太郎が大嫌いなのである。ただし、その理路はこのブログに書いても通じないので、cakesに書いた(参照)。
 もう一つ、投票する気になったのは、脳裏にZazの歌「On ira(行こう)」が響いていたからだった。


 


On ira écouter Harlem au coin de Manhattan
On ira rougir le thé dans les souks à Amman
On ira nager dans le lit du fleuve Senegal
Et on verra brûler Bombay sous un feu de Bengale

マンハッタンの一角のハーレムの声を聞きに行こう
アンマンの市場で茶を赤く染めに行こう
セネガル川の川底を泳ぎに行こう
そしてベンガルの炎でボンベイが燃え上がるのを見に行こう

On ira gratter le ciel en dessous de Kyoto
On ira sentir Rio battre au cœur de Janeiro
On lèvera nos yeux sur le plafond de la chapelle Sixtine
Et on lèvera nos verres dans le café Pouchkine

京都の下に大空をひっかきに行こう
リオ・ジャネイロの中心で鼓動を感じに行こう
システィーナ礼拝堂の天井を見に行こう
そしてプーシキンカフェで乾杯しに行こう

Oh qu'elle est belle notre chance
Aux mille couleurs de l'être humain
Mélangées de nos différences
A la croisée des destins

私たちには素晴らしいチャンスがある
色々な色をした人間が存在する
私たちはそれぞれの違いを混ぜ合わせる
運命の岐路で


 
 On ira gratter le ciel en dessous de Tokyo!
 
cover
ZAZ 私のうた

(初回生産限定盤DVD付)
 ということだった。
 
 

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