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2014.06.21

塩村文夏都議会議員へのヤジ・セクハラ問題、雑感

 6月18日の東京都議会本会議で、みんなの党会派・塩村文夏議員がヤジでセクハラを受けたことは、NHKでもニュースになっていた。そうした話題の背景の一つかもしれないが、昨日のツイッターなどで話題になっていた。私としては、当のヤジにはそれほど関心を持たなかった。関心をもったのはどちらかというと、ツイッターなどで見られたこの件の受け止めかただった。
 こうしたことは時が過ぎると事実部分が忘れられてしまうものなので、まず、ざっと事実関係に関する報道をNHKのニュースでまとめておこう。
 19日「都議会で女性議員にセクハラやじ」(参照)より。


 18日行われた東京都議会の一般質問で、みんなの党の女性議員が子育て支援策について質問を行った際、ほかの議員から「早く結婚したほうがいいんじゃないか」などとやじが飛び、女性議員は「人格を否定するものだ」と反発しています。
 18日行われた都議会の一般質問で、みんなの党の塩村文夏議員(35)が妊娠や出産などに関する子育て支援策について都の取り組みをただした際、ほかの議員から「自分が早く結婚したほうがいいんじゃないか」、「産めないのか」などとやじを受けました。
 塩村議員は18日夜、ツイッターで「政策に対してのやじは受けるが、悩んでいる女性に言っていいことではない」などと反発し、「リツイート」と呼ばれる引用が19日正午までに1万件を超えるなど波紋が広がっています。
19日午後、報道各社の取材に応じた塩村議員は、やじに同調する議員が複数いたことが残念だとしたうえで、「人格を否定するようなやじや政策と全く関係のないやじはするべきではなく、ひぼう中傷になる。質問に立つ議員を尊重してほしい」と述べました。
 複数の会派によりますとやじは、自民党の議席周辺から聞こえたということです。
 これに対して都議会自民党の吉原修幹事長は「どういう状況だったのかよく分からないが、誰が言ったのか特定することは難しい。それぞれの会派が品格のない発言は慎むようにすべきだ」としています。
 この問題を受けて、19日夕方、会派の枠を超えて都議会の女性議員たちが「品位を汚すやじは控えるべきだ」として議長に対し再発防止に取り組むよう要請したということです。

 これがNHKの、この件の初報道だったかについては詳しく点検はしてないが、この時点のニュースを改めて読み直して思うのは、この件の特徴は、当のセクハラ・ヤジよりも、ツイッターによる炎上現象かなと思えることだ。「塩村議員は18日夜、ツイッターで「政策に対してのやじは受けるが、悩んでいる女性に言っていいことではない」などと反発し、「リツイート」と呼ばれる引用が19日正午までに1万件を超えるなど波紋が広がっています」というわけである。私がその側面に関心をもったもの、それほど外しているものでもないのかもしれない。
 流れをこの視点から見ていくと気はなることがある。
 この時点で、「自民党の議席周辺から聞こえた」ヤジについて、当の都議会自民党の吉原修幹事長は、「それぞれの会派が品格のない発言は慎むようにすべきだ」という一般論的に流し、また、都議会の女性議員たちも「議長に対し再発防止に取り組むよう要請」とある。当事者たちは、「品位を欠くのはいけないねえ、今後はこういうことがないようにしましょう」、といった認識で留まっていたのが興味深い。その安閑とした受け止め方は、常時のヤジ(一例)を知っている私にもそれほど理解できないものない。
 が、流れはそうならなかった。
 ヤジをした議員を特定して処分せよという流れになった。この流れは、私がツイッターなどで見た感想でいうと、そういう空気に押されている印象があった。
 流れをニュースから追ってみよう。
 20日「都議会やじ問題 処分要求書を提出」(参照)より。

 18日行われた東京都議会の一般質問で子育て支援策について質問した女性議員に「早く結婚したほうがいいんじゃないか」などとやじが飛んだ問題で、20日、女性議員が、発言した議員の処分を求める要求書を議長宛てに提出しました。
 この問題は、18日行われた都議会の一般質問で、みんなの党の塩村文夏議員(35)が妊娠や出産などに関する子育て支援策について都の取り組みをただした際、一部の議員から「自分が早く結婚したほうがいいんじゃないか」などとやじを受けたものです。
 塩村議員は20日、地方自治法に基づいて、発言した議員の処分を求める議長宛ての要求書を都議会に提出しました。
 この中で、塩村議員は、やじの内容は名誉を害し侮辱に及ぶものだったとして、議会として調査を行い発言した議員を明らかにするとともに、再発防止のための措置を取るよう求めています。
 要求書を提出したあと、塩村議員は取材に応じ、発言した議員が名乗り出ないことに対し、「犯人捜しをして判明するよりも名乗り出ていただいたほうがすっきりすると思うし、私自身も少し心の傷が癒える」と述べました。
 また、都議会に都民の抗議が多数寄せられていることについて、「私1人に浴びせられたやじというよりも、妊娠・結婚にまつわる悩みを抱えた方たちの気持ちが数字に現れていると思う」と述べ、議長に早急な対応をとるよう求めました。

都議会に批判の声相次ぐ
 18日に行われた東京都議会の一般質問で女性議員が質問を行った際、一部の議員から「早く結婚したほうがいいんじゃないか」などとやじが飛んだ問題で、東京都議会には都民から抗議や批判の声が相次いで寄せられています。
 この問題で、東京都議会には19日の午後4時までに都民から電話やメールでおよそ1000件の意見が寄せられました。
 内容は、▽女性に対して失礼な発言だ、とか▽やじだとしても言い過ぎではないか、などといった抗議や批判が大半だということです。
こうした声は20日になっても相次いでいるということですが、都の議会局では「議会が開会中で通常の業務が多いなか、抗議が相次ぎ、集計する余裕がない」としています。


 この件についての私の率直な印象を言えば、ヤジ議員は堂々と名乗り出るべきだと思う。名乗り出て、あのヤジは悪かったと土下座すればよいと思う。土下座というのはこういうときにするのがよいと思う。
 で、名乗り出ないなら、仲間の議員が、名乗り出るように勇気づければいいと思う。でも、それもできないのは、仲間の議員もまた、セクハラ意識がないか、勇気がないからだろう。いや、そうでもないか(参照)。それとまあ、勇気を持って代理で土下座するような人も世の中にはいるから、名乗り出た議員が本人かはよく吟味する必要もあるかもしれないが。
 それでももっというと、都議会自民党議員を支持している人は、ヤジ議員に勇気をもって名乗り出るように声を上げるべきだと思う。私は、都議会自民党議員を支持してないが、「おーい、勇気出して名乗りでろや」と言っておく。
 で、そういう意見は、私が見た範囲ではツイッターにはなかった。
 そのことに、奇妙な違和感を覚えた。逆に、ツイッターでは、「ヤジのやつを探しだし、とっちめ、土下座させたるぅ」みたいなものが多いように思えたことだ。私がそれをどう思ったか。うへぇ。
 この当たりで、私はもう一つ気になることがあった。このヤジの意味とその文脈である。
 ヤジは報道からは、「自分が早く結婚したほうがいいんじゃないか」、「産めないのか」とのこと。文脈から切り離されている。
 もちろん、これだけでべたにセクハラである。これを言われた女性は侮辱されたと怒ってもいいし、法的手段をとってよいし、できればとるべきだと思う。私が、法で争えることは法で争うほうがいいという考えの持ち主であることは自著にも書いたとおり。
 ただ、違和感もあった。
 私は、こう思ったのである。塩村文夏議員が、このヤジについて「女性一般への侮辱として許せない、それは正義だから、ヤジ者を処罰する」というのに異論はないが、その前に、そのヤジをその文脈のなかで、議員としての自分の問題として、受け止めてほしかった。
 このあたりの私の感性はまたしても世間を逸脱しているかもしれないので、補足しよう。
 この件についてまず、ためらうことが私にはある。私は塩村文夏議員のことをよく知らないのだ。関心ないと言ってよい。美人議員全般に関心もないんだけどそれはさておき。
 なので、私の誤解かもしれないが、彼女には不倫ゴシップがあった。当然、ゴシップなんで事実とは関係ないし、ゴシップに興味を持つのは時間の無駄だとは思うが、とりあえず、私の耳には入っていた。そこで思ったのは、ヤジ者はそうした文脈でのヤジではなかったかという疑問だった。
 ちょっとこの件で、ネットをあたると、二番煎じゴシップネタでPVを稼いでいるJ-castに格好の記事があった。「「セクハラヤジ」飛ばした都議はだれ? 塩村文夏議員「『結婚しろ』と言った議員ほぼ分かる」(参照)。これ読むと、不倫ゴシップの文脈を思った人はいるのだなとは思う。
 その文脈だと、こういう意味なのではないか。

 「早く結婚したほうがいいんじゃないか」→不倫だから結婚できないんだろう?
 「産めないのか」→不倫だから産めないんじゃないか。

 塩村議員はこのヤジのとき「「はー」と言いながらも下を向いて少し笑」ったというが、だとすれば少し、自分のこととしてヤジを受け止める瞬間はあったのではないかと思う。まあ、ボケた保守議員が言いそうなことなんで、普通笑うだろう。笑ったこと自体を責めるのはどうなんだろうか(参照)。
 私は、ここで塩村議員はこう言ってもよかったのではないかと思う。あるいは議事の妨げにならないように後で言ってもよい。

 「ヤジをした議員さんは、不倫ゴシップを真に受けているのかもしれませんが、そんなことは議員活動には関係ありません。また仮に、私が不倫してたとしても、子どもを生む産まないには関係のないことです。また不倫で生まれるたくさんの子どものためにも、よい都政を作りたいと思っています」と。

 もう少し踏み込んで言うと、規模の大きな公議会の議員は、ヤジを受けたほうがよいと思っている。ヤジに耐えろという意味ではない。
 これがある職場で「自分が早く結婚したほうがいいんじゃないか」「産めないのか」ということで激怒した女性が訴訟のためにカンパを求めるというなら、私がその職場の一員なら喜んで少額カンパする(少額なのがとても残念だが)。彼女は弱い立場にいる弱い人だからだ。しかし、塩村議員は強い立場にいる強い人だし、そこは弱い人の代表で強くあってほしい。弱い人が受けるセクハラを身をもって前線で受けてほしいと思う。そうすることで、セクハラの風潮に代表者=代議士として戦ってほしいと思う。今回のヤジ議員を処罰する行動もそうした戦いの一環だと理解できないこともないが、一般化に拙速すぎるように思う。自分が自分のこととして受け止めることができる以上の「正義」を語るときは、少しためらったほうがいいと思う(この場合では個人的な侮辱から女性全般への侮辱)。
 まあ、私のこの件の受け止め方はそういうことなんで、その後、これを、女性の一般問題として、正義の立場から、ヤジ議員を処罰していこうという空気には違和感があった。ネットでの炎上とか見ているといまだ日本人は自分が正義だと思うと日比谷焼打事件みたいな空気を醸し出すことがあるので、そういうのは、やだなあと思っている。
 処分を求めることから、この問題は、ちょっと、私から見ると別の方向、懸念していたいやな方向に向かっている印象もあった。報道を追ってみる。
 NHK20日「やじ問題 女性議員が処分求めるも不受理」(参照)より。

 東京都議会で、質問をした女性議員に「早く結婚したほうがいいんじゃないか」などとやじが飛んだ問題で20日、この女性議員が発言した議員の処分を求める要求書を議長宛てに提出しましたが、議員の名前が特定されておらず、要件を満たしていないとして受理されなかったことが分かりました。
 この問題は18日、都議会の一般質問で、みんなの党の塩村文夏議員(35)が妊娠や出産などに関する子育て支援策について都の取り組みをただした際、一部の議員から「自分が早く結婚したほうがいいんじゃないか」などとやじを受けたものです。
 塩村議員は20日、地方自治法に基づいて発言した議員の処分を求める要求書を議長宛てに提出しました。
 この中で、塩村議員は議会として調査を行い、発言した議員を明らかにすることなどを求めていました。
 これについて、20日夕方、みんなの党の両角穣幹事長が報道各社の取材に応じ、議長から処分を求める議員の名前が特定されておらず、要件を満たしていないとして補正を求められ、要求書が受理されなかったことを明らかにしました。
 このため、議員の名前を特定して再度、要求書を提出することはできないと判断したということで、今後、塩村議員と相談して対応を検討していく考えを示しました。

 この展開部分についてのツイッターなど印象だと、受理しない議長は許せないという空気を感じた。私はこれは単に手続きの問題と思う。
 つまり、ヤジ者を特定して再提出すればよいのではないか。
 ただ、ここでの問題は、「議会として調査を行い、発言した議員を明らかにする」かどうかということだろう。
 これについては、塩村議員が求めるように、「議会として調査を行い、発言した議員を明らかにする」といいと思う。議員全員が雁首さろえてごめんなさいというよりも、きちんと議会の手段として機能したほうがいい。
 しかし、その追求の要求が受理されないのはどうかというなら、まず、「議会として調査を行い、発言した議員を明らかにする」要望を議会にきちんと上げて、「3日以内に訴える規定」をいったん凍結すればいいと思う。一切を、変な正義の空気を醸し出さず、議会の手順として進めていけばいいと思う。
 最後に一番前提となる疑問をここで蒸し返すのもなんだが、今回の問題では、「ヤジ」なのか「セクハラ」なのかというのが曖昧だった。ヤジには通常民主主義の議会では罰則は持たないし、都議会でも同じ。つまり、これは通常のヤジではなかった。ヤジに乗じたセクハラだった。
 今回は、ヤジに乗じたセクハラを「議会で侮辱を受けた議員は議会に処分を求めることができる」という規定で処罰しようとしている。それに特段の異論はないが、この機会に、一般的な侮辱ではなく、セクハラやヤジに乗じたセクハラを妥当に処罰する規定を都議会が率先して持つようにすればよいと思う。
 罰することは適切に処罰されなければならない(過剰な罰を与えてはらない)が、今回の件は罰を優先するより、将来の都議会のあり方を示すことで、世の中でセクハラを受ける弱者の支援にしてほしいと思う。
 
 

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2014.06.20

困ったちゃんの壁

 昨日のエントリーを書いた後、ぼんやりと、図書館に来る困った人のことを思っていた。
 これから暑くなる日々、図書館に行くと、涼を求める行儀の悪い老人をたくさん見るようになるので、いつからかそういうところには近づかなくなった。(もちろん、老人の熱中症対策として図書館が利用されることには賛成ですよ。)
 「行儀が悪い」というのは主観かもしれないけど、ソファー席を二つぶんどって裸足で半あぐらかいている中高年男性というのとか、ちょっと見るに耐えないというか、見るとこちらの精神にダメージが大きい。
 図書館のテーブルのあるところにバーっと新聞広げて見ている老人もよくいる。目が悪いのかもしれないなとは思う。が、その横にカバンのようなものをどかんと置いている人もいる。あれはさすがに人迷惑だと主観的に思うが、私はもう特に何も言わない。
 目の前で、図書館所蔵の本をびりびりと破いている人がいても、もう特に何も言わないかもしれない。
 そういえば、公共の席にカバンとか置いて、席取りしている人がいるのを見ても、いつからか何もしなくなった。
 いや、カバンとかだと泥棒に誤解されるのは嫌だから、以前も何もしなかったなと思い出す。
 でも以前は、ハンカチとか置いてあると、さりげなくどけて座ったりしたものだった。特に、どう考えてるわけでもない。
 すると、少なからぬ確率で、「そこ私が席取っていたんです」と苦情を言われる。怒られることもある。「はあ」と言って、私は、どく。請坐。Asseyez-vous. いやいや、そのころは中国語もフランス語も話せなかったな。
 それ以前は、「そういう権利はあなたにはないと思いますが」と言って相手を激怒させたこともあった。たびたび。
 いつからかそういうことはしない。
 こういうとなんだが、世の中の困ったちゃんには十分に関わる気がしない。
 だが……、もう一つ思うのだ、困ったちゃんは、たぶん、そういう私なんだろうな。m9(^Д^)プギャー
 きちんと考えると、公共的な席にハンカチ置いて、そこが権利の主張になるわけないのだが、それを暗黙の社会ルールだと思っている人にとっては、私はとても困った人なのだろう。
 ぎゅうぎゅうの満員電車ではほとんどないが、それなりに席がうまっている電車のなかでも、ぽつんと開いている席がある。ハンカチ発見。そこにハンカチとか置いてあると、誰も座らない。奇妙な暗黙の社会ルールだなあと思う。
 でも、私もそれがどうやらルールなんだから、守ってもいいかと思ようになった。あまり困った人に見られたくないとも思う。
 もうちょっと自分の思いを見つめてみると、でも、ちょっと違う。
 そういえば、ツイッターで言われたことがあるだが、私は日本社会に順応しすぎている、と。そうかもしれない。
 ちょっと違うかなとはも思っていたが、そういう違いは、言っても通じないので黙っていた。
 でも、どう違うのかというのをこの機に言ってみると、私を困ったちゃんと思っている人たちに、私はできるだけ関わりたくないなという心理かもしれない。
 悪く言うと、おバカな社会ルールに従っている人がいても、自分に特段に利害に関わるわけでもないなら、あまり関わりたくない、と。図書館のソファー席であぐら組んでるおっさんの裸の足は見たくないな、と。
 それでいいのだろうか、自分?
 言論とかいう以外でも、こういう公共性について、その場で何か市民として言うべきではないのか?
 よくわからない。
 ネットだとたまに、電車の中のベビーカーをどうする論争が起きる。迷惑だと思う人と、そういうふうに迷惑だという人が問題だという人で、それぞれ相手を困った人だと思っている。
 これ、お金があると解決できるのですよね。タクシー乗るとか。
 図書館の不作法な老人というのも、図書館に行かなければ見ないわけだし、本が読みたければ借りるんじゃなくて買えばいいわけだし。もっとも、図書館は無料貸本屋ではないんだけど。
 各種の公共の問題、経済学で「共有地の悲劇」というのは、プレミアムマネーで解決する。ということは、公共の問題ではなく、自分の問題として考えると、プレミアムマネーの換算ということなんだよな。

cover
バカの壁
(新潮新書)
 ブログなんかでも、無料で書いていると、わけのわからない罵倒を貰うことが多いんだが、これも一種の「共有地の悲劇」みたいなもんで、読んでもらいたい人のためには、ちょこっと有料化するというもありなんだろう。あるいはコメントを有料にしてよいコメントだったら、逆にお金を払うというのがよいんだろうな。
 話がなんか逸れてきたので、おしまい。
 
 

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2014.06.19

アンネの日記破損事件は終了か?

 杉並区など東京郊外市図書館を中心に『アンネの日記』の関連本が多数破られるという不可解な「事件」があった。これが国際的な話題ともなり、2月21日には官房長官も記者会見で言及した。2月24日には、警視庁捜査一課が器物損壊事件として杉並署に捜査本部を設置した。
 実に不可解な事件だったが、3月7日、ジュンク堂書店池袋本店で「アシスタントとゴーストライターは違います」という手書きのビラを貼りつける男を逮捕したところ、この男がアンネ関連の書籍を破ったことを自供した。が、この男は心神喪失ではないかということで、その後の報道はひとまず沈静化していた。
 そして今日、この男が不起訴処分になると報道された。精神鑑定が実施され、心神喪失の状態だったと判断されためである。一例として、NHKニュースはこう伝えていた。「アンネの日記 破損で逮捕の男は心神喪失 不起訴へ(6月19日 11時51分)」(参照


 この事件は、東京都内の図書館や大型書店で「アンネの日記」などの本300冊余りが破られているのが見つかったもので、東京・小平市の36歳の無職の男が、杉並区の2つの図書館で合わせて40冊余りを破ったなどとして、器物損壊などの疑いで警視庁に逮捕されました。
 これまでの調べに対し男は、一連の事件への関与を認めていましたが、動機について意味の分からないことを話したことなどから、東京地方検察庁はことし4月から2か月間にわたって専門家による精神鑑定を行い刑事責任を問えるかどうか調べていました。
関係者によりますと、鑑定の結果、男は事件当時、心神喪失の状態だったと判断されたということです。
 これを受けて東京地検は、男の刑事責任は問えないとして近く不起訴にするものとみられます。

 ひとまず、この「事件」は終了したと言ってよいだろうとも思われるが、多少腑に落ちないところがあるので、「事件」の経緯を振り返って少し言及しておきたい。
 まず、この「事件」はいつ発生したのだろうか?
 どの報道社が初報道したのかという切り口で見ていく。残念ながら、ネット側からははっきりとはわからないが、時刻を比較するととりあえず共同通信であるようには想像される。いずれにせよ、初報道に近い報道形態はそこから読み取れるだろう。「アンネの日記、相次ぎ破られる 都内31館で265冊(2014/2/21 13:19)」(参照)より。

 東京都内の公立図書館が所蔵する「アンネの日記」や関連書籍が、ページを破られるなどの破損被害に遭っていることが21日までに分かった。被害は、杉並区や中野区など少なくとも5つの区の31館で計265冊に上る。
 23区の区立図書館で構成する特別区図書館長会が1月以降に被害報告が相次いだことを受け、取りまとめた。
 誰が何の目的で行ったかは不明。中野区立中央図書館は警視庁中野署に被害届を提出し、同署は2月上旬に受理した。
 被害冊数が一番多いのは杉並区立の図書館で、計119冊。練馬区内の図書館では、児童書計20冊のほか、アンネの研究本、ホロコーストに関する本などが被害に遭った。豊島区では、開架書庫にあった本が、カッターのようなもので何ページも切り裂かれていた。
 23区以外では、東久留米市、西東京市で同様の被害が確認されている。
 「アンネの日記」は、ナチスの迫害から逃れ、ドイツ占領下のアムステルダムに家族と隠れ住んだユダヤ人少女アンネ・フランクがつづった日記。2009年、世界記憶遺産に登録されている。〔共同〕

 この共同通信報道からわかることとして、この「事件」がメディアに乗る形で報道されたのは、「21日までに分かった」ということから、2月21日と見てよいだろうということだ。
 共同報だけはなかったことは、毎日新聞でも同日報道があることからわかる。「アンネの日記:関連本破損、東京の3市5区で294冊被害(2014年02月21日20時57分)」(参照・リンク切れ)より。

 東京都内の公立図書館で世界的ベストセラー「アンネの日記」と関連図書が相次いで破られた問題で、21日現在の被害は都西部の3市5区で計294冊に上ることが分かった。各自治体は器物損壊容疑などの被害届を警視庁に提出した。

 同日の時間差からすると、共同報を受けて毎日新聞も動いたという形にも思われるが、いずれせよ、初報道の由来は、2月21日という日付以外にはわからない。
 なぜ、2月21日なのだろうか?
 その理由の推測は後で触れるとして、情報の原点となった杉並区図書館もこの日にアナウンスしていることに注目したい。同サイト「「アンネの日記」等の破損被害について(2月21日掲出、3月7日内容更新)」(参照)より。

 練馬区立図書館では、平成26年1月下旬に「アンネの日記」を借りようとした利用者から、本が破られているとのお届けがあったことから、区内12館の状況を確認したところ、現在までに9館で32タイトル44冊が破られていることがわかりました。被害状況等は下表および破損資料タイトル一覧(PDFファイル)のとおりです。
 図書館では、管轄の警察署に被害届を出すとともに、破損された図書の購入を進めています。

 練馬区図書館の2月21日のアナウンスからわかることは、(1)それが2月21日であること、(2)警察への被害届はこの時点ではまだであるかのように読めること、(3)発見されたのが1月下旬の利用者からの報告であったこと、である。
 個人的に気になるのは、私も公共図書館を利用するとき、破損ページや書き込みがあると係員にいちいち報告しているのだが、こうした組織的な対応はされたことがない。その点から、どのように練馬区図書館で組織的な点検に結びついたのかは興味がある。この興味には後で触れる関連もある。
 また、この杉並区のアナウンスでは、「32タイトル44冊が破られている」とのことだが、これが「アンネの日記」がキーワードであるかにはついては明示的に書かれてはいない。
 今回の「事件」が事件性を持つのは、他区への広がりが見られたことだ。広がりについての例として、杉並区でも2月25日時点でアナウンスがあった。「アンネ・フランク関連書籍の破損被害について」(参照)より。

 杉並区では平成26年2月3日に隣接する練馬区からの連絡をうけ、アンネ・フランク関連書籍を調べたところ、平成26年2月6日に中央図書館において当該書籍が切り裂かれているのを発見しました。その後さらに調査を進めたところ地域館を含め11館において、現在までに合計121冊の書籍に同様の被害が確認されました。図書館では管轄の警察署に被害届を提出するとともに、2月21日に調査結果について公表しました。なお、破損された図書については速やかに購入を行っていきます。

 ここからわかることは、練馬区は2月3日に杉並区から連絡を受けて調査があり、同様の発見があったということである。逆に言えば、この視点から調査のない時点ではわかっていなかったとも言える。
 また、練馬区も2月21日に結果を公表していることからすると、この日がやはり事実上メディアの初報道であることがわかる。この日に杉並区と練馬区で共通する行動があった。さらに文面からは練馬区での警察署への被害届は2月21日から2月25日であるとも思われるが、そこは後述するようにそうではないらしい。
 練馬区のアナウンスには言及されていないが、先の毎日新聞報道では、2月の「6日に「特別区図書館長会」から注意喚起があり」とあるので、この特別区図書館長会が事実上の、図書館界での共通意識の原点ではあるのだろう。なお、この「特別区図書館長会」という組織は、よくわからないが、23区の区立図書館の連絡会のようなものだろうか。
 2月21日という報道の起源だが、この「特別区図書館長会」のようだ。2月21日のスポニチ「都内の公立図書館「アンネの日記」265冊が切り裂きなど被害」(参照)ではこう言及されている。

 東京都内の公立図書館が所蔵する「アンネの日記」や関連書籍が、ページを破られるなどの破損被害に遭っていることが21日までに分かった。被害は、杉並区や中野区など少なくとも五つの区の31館で計265冊に上る。23区の区立図書館で構成する特別区図書館長会が取りまとめた。

 ようするに、「特別区図書館長会」が2月21日に情報発信をしたというだ。
 またこの時点ですでに、「アンネの日記」や関連書籍が焦点化されていた。なお、同記事に「ユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」は20日、「衝撃と深い懸念」を表明した。」とあるがこれは時差によるものだろう。
 スポニチ記事で興味深いのは、杉並区図書館による警察への被害届日が報道されていることだ。

 杉並区内では3日、他の図書館から情報が寄せられたときは被害が確認できなかったが、6日にあらためて調べると、大量の関連本が引き裂かれていたという。12日に警視庁杉並署に被害届を提出した。

 杉並区では12日の時点で杉並署に被害届を出し、中野区も「上旬」に被害届が出されている。この時点、2月の中旬までには、警察も事態を知ってはいたと思われる。が、杉並署や中野署というように分断されて共通の認識はなかったのかもしれない。
 時系列の整理から興味深いのは、今回不起訴となった男の行動である。逮捕の関連する初報道を振り返ってみよう。3月13日の毎日新聞「アンネの日記:30代男が破損関与供述 建造物侵入で逮捕」(参照・リンク切れ)より。

 東京都内の公立図書館などで「アンネの日記」や関連書籍が相次いで破られた事件に絡み、被害に遭った豊島区の大型書店に不法に侵入したとして、警視庁捜査1課が30代の無職の男を建造物侵入容疑で逮捕していたことが捜査関係者への取材で分かった。男は図書館でアンネ関連の書籍を破ったことについてもほのめかす供述をしているという。ただ、供述にはあいまいな点もあることから男の関与について刑事責任能力も含め慎重に調べている。
 捜査関係者によると、男は2月19日と22日、豊島区南池袋2の「ジュンク堂書店池袋本店」にビラを張る目的で立ち入った容疑で、今月7日逮捕された。同課の調べに容疑を認めているという。ビラには「アシスタントとゴーストライターは違います」などと意味不明の文言が手書きされ、思想的な背景はうかがえないという。
 同書店では2月21日、3階の売り場で「アンネの日記」2冊が破られているのを店員が発見したが、男は同日にも書店を訪れていたことが確認された。この店では1月にも関連本数冊が破られていた。
 都内では昨年2月以降、杉並区▽中野区▽武蔵野市--など計5区3市の公立図書館38カ所で計311冊の被害が確認された。うち最多の杉並区では11の図書館で121冊が破られた。大半の図書館は今年1月下旬~2月中旬に被害が発覚。手でちぎったように扇形に破られる場合が多いが、カッターナイフのような刃物で切り取られたものもあった。

 この男が逮捕されたのは3月7日だが、その理由は、2月19日と22日にジュンク堂書店池袋本店にビラを張る目的で立ち入ったことであり、また、21日にもこの男が来店したおりにも、「アンネの日記」2冊が破られているのが発見されている。さらに遡って、「1月にも関連本数冊が破られていた」とのことだ。同書店側も警戒してたのだろう。
 警察届出を2月中旬までに済ませた各図書館による「特別区図書館長会」が問題の発表をしたのは、2月21日である。
 するとこの時点で、警察は、同書店や同会の情報に合わせて、この男をマークしていただろうと推測するのは自然だろう。
 ここからすこし踏み込んだ推測になるのだが、この時点で、警察としてはこの男について注視する過程から、その心神喪失の状態の目星を付けていただろうと思われる。
 もちろん、そのことを断定することは手続き上到底できないし、その間、この話題が国際ニュースに伝搬することに追加する情報とはなりえなかっただろう。
 さて、こうした文脈からはこの男が「事件」と関連付けられているが、実際の「事件」がなんであったかは、実は依然よくわかっていない。
 ごく簡単に言えば、多数発覚された破損本がすべてのこの男の心神喪失の結果であると見なすことは難しいだろう。報道では横浜市西区の市中央図書館でも被害があったが、この男によるものだろうか。
 2月21日の毎日新聞報道では、関連して次のような言及があった。

 豊島区では昨年2月と5月に計7冊の破損を発見。今年1月下旬以降に、新たに5冊の破損が見つかった。西東京市では先月22日に図書館利用者からの指摘で破損が発覚した。

 今回不起訴処分となった男が昨年から地味に活動していたとも考えられるが、私などもよく毀損本をよく見かけることから考えると、一定数、公共図書館での本の毀損は継続していただろう。また、今回の不起訴処分の男がそうであったように毀損されやすい種類の書籍も存在するのだろう。
 現時点で振り返ってもっとも興味深いのは、2月23日時点で書かれたオタポロサイトの「“中二病”の犯行ではない!? 被害は30年以上前から…図書館関係者が口に出せない『アンネの日記』破損事件の背景」(参照)である。

 一挙に国際問題にまで加速しつつある、この事件。ところが、当の図書館関係者からは「過剰反応では?」と戸惑いの声が挙がっている。本サイトの取材に応じた、都内の図書館関係者は語る。
「『アンネの日記』が、破損される事件は今に始まったことではありません。私が図書館に就職した1980年代には、そういったことはよく起こると、関係者の間では話されていました」
 この関係者によれば『アンネの日記』とヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』は、図書館関係者の間では、昔から破られる被害の多い本だという。
「やはり、“ナチズム”や“ホロコースト”は特定の精神的構造を持った人を引きつける要素が強いんじゃないかと思います。私も過去に、図書館内でホロコースト関連の本を破っている人を見つけたことがありますが、その人物は刑事事件の責任能力がない人でした」
 詰まるところ、精神医学的に“コダワリ”の強い人の犯行なのではと、図書館関係者は経験則から指摘をする。だからこそ、この事件にはコメントし辛い。その結果、すわ国際問題かというような妙な状況になってしまっているのである。
 ちなみに、同様の図書館関係者しか知らない「あるある」はほかにもある。なぜか、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』は、毎年補充しなければならないほど、盗まれることの多い本なのだとか。

 結果的に、この考察がその時点でもっとも優れていたと言えるが、それでも、「都内の図書館関係者」のおそらく一名からの話なので、残念がら、弱い見解と見られてもしかたのない面があった。
 今回の「事件」が事件性を濃くした点については、容疑者逮捕後の3月23日であるが、京都大学大学院教育学研究科准教授・佐藤卓己氏が「画一的なアンネ本破損報道」(参照)としてこうも主張していた。

 2月に東京都内の図書館などで「アンネの日記」関連本が破られる被害が相次いでいることがわかったとき、たいていの人が同様の印象を持ったようだ。図書の破損はそれが何であれ厳しく追及されるべき犯罪だが「アンネの日記」は特別だ。ホロコースト犠牲者が残した記録を破損する行為はネオナチなど差別主義者の犯行にちがいない、と。
 実際、中国や韓国のメディアは「日本の右傾化が背景」と報じ、2月27日付産経「主張」もこう指摘した。「欧米ではとりわけ、今回の行為は反ユダヤ主義的なものではないかともみられ、日本のイメージを損ないかねない」
 被害にあった書店に不法侵入したとして建造物侵入容疑で30代の無職男が逮捕されたのは、今月7日である。つまり、犯人像も動機も不明な段階から、この事件は政治的に枠付けされていた。
 「言動に不安定な部分もみられることから捜査1課は刑事責任能力の有無を含めて慎重に捜査している」(産経13日付夕刊)というが、既に報道されたステレオタイプから全く自由に報じることは至難だろう。状況の定義が、状況そのものを確定するからである。

 今回の事件が国際的な大事件になってしまったのは、同氏の指摘するような文脈があったとしてよいだろうが、残された課題は、「既に報道されたステレオタイプから全く自由に報じることは至難だろう。状況の定義が、状況そのものを確定するからである」という点だろう。
 ジャーナリズムはどうあるべきだっただろうか?
 おそらくこの「事件」ついては、「発表」数日後のオタポロサイトの見解のような考察を、ジャーナリズムがより広域に行うべきだった。
 図書館関係者や公共図書館をよく利用する人の証言を集めれば、今回の事件の陰影はかなり異なったものになっていた可能性がある。
 ただし、大きな話題性のある「事件」を求める要求に答えた形で報道が形成されがちなのも、やはりしかたのないことかもしれない。
 ブログとしては、以前に触れた話題でもあるし(参照)、このままなんとなく立ち消えにするより、そのあたりのことを触れておきたいほうがよいだろうと思って、以上書いてみた。少なくとも今回の「事件」は、日本に反ユダヤ主義が存在する事例とは異なったものであることは、確認できるようにしておきたいとも思った。もちろんこのことは、日本に反ユダヤ主義が存在しないという意味ではまったくない。今後、発生するかもしれない。
 
 

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2014.06.15

そして女児殺害事件と遠隔操作事件の報道は途絶えた

 たぶんこんな疑問を持っている人は少ないと思うが、私は、栃木女児殺害事件とPC遠隔操作事件の報道がどのように推移していくか、この間、見つめていた。そして、どうやら、この二事件の報道は途絶えたかに見える。理由は難しくない。他の話題が生まれているし、この件では新しいネタが投下されないからだろう。私は違和感をもっている。
 私の読み落としかもしれないが、女児殺害事件について最新の主要な週刊誌で見かけることがなかったのも違和感を強くした。週刊誌の読者層がすでにこの話題に関心をもっていないという理由も当然あるだろうが、その統制されたような沈黙に奇妙な印象を受けている。少なくとも、この事件には、どうやら確たる証拠もなく、冤罪事件と同じ構図があるのにそのことへの言及すらない。
 ネットから見渡せる範囲が主になるが、その他の報道でも見かけなくなった。だが、その言わば消灯とも言える前、この事態の前に、逮捕後一週間目に当たる10日、東京新聞「「自信の逮捕」乏しい物証 今市女児殺害 容疑者逮捕1週間」(参照)に、ようやくと言えるが、この問題の構図への疑問が書かれていた。


 栃木県今市市(現日光市)の小学一年、吉田有希ちゃん=当時(7つ)=を殺害したとして、殺人の疑いで鹿沼市の無職勝又拓哉容疑者(32)が逮捕されてから十日で一週間。栃木、茨城両県警の合同捜査本部は「自信を持って逮捕するに至った」と強調したが、凶器など犯行を裏付ける直接的な物証には乏しい。殺害現場も特定できないなど、未解明な点も残る。

 捜査本部や捜査関係者によると、勝又容疑者は「一人で下校途中の子を、無理やり車に乗せて連れ去った」と供述。「自宅に連れていった後、別の場所で殺害した」などと説明したとされるが、肝心の殺害場所は曖昧なままだ。
 物証となる有希ちゃんのランドセルや衣服は「処分した」、凶器の刃物は「殺害後、遺棄現場までの途中の山中で捨てた」と話しているとされ、いずれも見つかっていない。
 勝又容疑者の自宅のパソコンには、有希ちゃんとみられる画像があったとされる。しかし、画像はインターネットで取り込むこともできる。
 事件をめぐっては、現場に残されたDNAが捜査幹部のものと判明したり、不審車両のイラストが発生二年後になって公表されるなど、捜査の不備が指摘された。
 自供に頼るだけでなく、客観的な裏付けのある証拠に基づき、犯行状況や動機を解明することが求められる。


 この記事は10日のものだが、その後、その疑問について私が見た範囲ではなんら進展はないようだ。
 茨城両県警の合同捜査本部は「自信を持って逮捕するに至った」と強調したというが、それを市民はどう受け止めてよいのか、宙ぶらりんの状態になり、そして報道も途絶えつつある。
 11日の読売新聞「勝又容疑者の供述あいまい…殺害場所特定できず」(参照)では、供述が二転三転している様子が描かれていた。

 勝又容疑者は逮捕直後、捜査本部の調べに対し、「茨城の山中で殺した」と供述。9日に勝又容疑者を立ち会わせ、同市の山林で現場検証を行ったが、殺害場所や時間の特定に至らなかった。ここ数日の取り調べで、勝又容疑者は供述の矛盾点を追及されると黙ったり、「言いたくない」と答えたりしているという。

 警察側にはおそらく焦りがあるのだろうが、報道がない現状、わからない。ただ、警察が現状、容疑者の自白に頼っていることの弱みは理解しているらしく、率先して可視化的に調べは進められているようだ。10日の時事「乏しい物証、動機解明急ぐ=取り調べ、全面録画も—逮捕から1週間・栃木女児殺害」(参照)では録画が強調されている。

◇全過程を録音録画
 捜査本部は取り調べの全過程を録音録画している。直接裏付ける物証が乏しく、供述が最大のカギを握るためだ。8年半前の記憶に基づく供述は曖昧な部分もあり、別の捜査幹部は「裁判で任意性の争いを避けられ、否認に転じても有力な証拠になる」と説明する。 

 推測なのだが、物的証拠が出てくる可能性はもうほぼ絶望的なのではないだろうか。そして、これまで報道されてきた逮捕にまつわる理由付けは、どうも根拠としては成立せず、報道側も誘導的な立場にあったことに今頃気まずい思いをしているのではないだろうか。
 事件報道の混乱した推移を追っていて私が思うのは、容疑者の記憶がすでに曖昧なのではないかということだ。嘘をついているというより、事件後の時関係から現実記憶が歪んでいるのではないだろうか。
 いずれにしても、このままこの冤罪と同構造の異常な状態のまま報道が立ち消えていくことに、ある恐怖のようなものを感じている。
 PC遠隔操作事件の報道も途絶えたようだ。
 この事件はすでに解決したから途絶えてもよさそうにも思うが、気になるのは、それまで被告を擁護して、被告の告白があってからも、今後も事実の解明を見つめて行きたいとした人たちからの声もほとんど途絶えたように見えることだ。
 非難にとらないで欲しいのだが、精力的にこの事件を追っていた岩上安身さんのサイトでは「【特集】PC遠隔操作事件」(参照)だが、被告の告白まで精力的にアーティクルが書かれ、また今後の展開も次のように約束されていた。

※この特集ページは、5月20日午前に片山祐輔被告が一連の事件への関与を認めるより前に取材したものをまとめたものです。IWJは、今後の展開についても引き続き取材を継続します。

 該当特集の枠外で「2014/05/30 片山被告、遠隔操作のトリックを暴露「まだ見つかってないサーバーが」 ~PC遠隔操作事件 第10回公判後の記者会見」(参照)などで記事が書かれているので、その後の継続取材は理解できるが、そろそろ1か月近くが経過したので、特集記事としても、その後の「展開についても引き続き取材」が読める時期ではないかと期待している。次回公判が20日なのでそれを待ってということかもしれない。それでもその際は、5月22日の第九回公判以降も含めて記事にしていただけたらと願っている。
 第九回公判については随分報道されたようだが、改めて見直すと、心にひっかかることがある。ニッカンスポーツ「片山祐輔被告、保釈取り消し後初公判」(参照)より。

被告人「今まで多くの人をだましてしました。まぁ...まず、脅迫の対象にした方、誤認逮捕の方々に対して謝罪したいです。あと、弁護士の先生や検察官や裁判長、支援してくれた方々、家族に対しても裏切りました。加えて、届いたメールにもひどいことを書いてしまいました。その中で支援してくれた女性ジャーナリスト、裁判長の名前をあげて脅迫したのは、まさか公判中に片山がそんなことを書くはずがないだろうと思わせるためでした。すべての人に申し訳ないと謝罪したいです」
と、述べると、弁護人が「どうも申し訳ありません」と付け加えて質問終了です。これで閉廷かと思ったら、
検察官「じゃあ、こちらもちょっとだけ」
と、検察官からも質問です。

検察官「全部やってない、ハメられたと主張してたのに、すべて認めようと思ったのは何故なんですか?」
被告人「前回の(真犯人を名乗る)メールが自作自演だとバレて、言い逃れることができないので...、あれが出て、3つの選択肢がありました。シラを切りとおすこと、すべて認めること、死ぬこと。1分で死ぬことを考えました」
検察官「シラを切ろうとは思わなかったんですか?」
被告人「河川敷にケータイ電話を埋めたとき、指紋が残っているかは確認してなかったんですけど、DNAとか証拠が出てくるだろうと思いました。まさか、(警察が)そこまでするとは考えてなかったので、シラを切るのは無理だと思いました」
ここで検察官が質問を終えて着席すると、弁護人が立ち上がって、
弁護人「追加で1点だけ。メールはともかく、本件全部を認めたのは何故なんですか?」
被告人「本文の内容で、onigoroshiのメールアドレスにアクセスしたと書いてあって、実際にログインしている表記がありまして、真犯人でないとパスワードを知りませんので...。そこさえなければ、有罪になるのが怖くてメールは送ったけど、本件はやってないと言ってたかもしれません」
と、述べて質問はすべて終了。

 こうなってくると、被告人の発言をどこまで本当のこととして扱うかも重要になってくるよなぁ。この日だけで傍聴席を11回も見回していつもの違って落ち着きもなかったし。


 被告の告白関連時の報道にさらに加えるべき新事実はないかのようだが、気になったのは、「追加で1点だけ」として弁護人が加えたのはなぜなのだろうか?ということだった。
 弁護人が追加しなければ、「まさか、(警察が)そこまでするとは考えてなかったので、シラを切るのは無理だ」ということで告白にいたることになったが、この追加によって、それが事実上否定されることになる。告白の理由は、「onigoroshiのメールアドレスにアクセスした」という自分のミスだとしており、つまり、その自分のミスがなければ、「本件はやってないと言ってたかもしれません」としている。
 弁護人の意図としては、この事件を、警察側の執拗な追求が実を結んだというより、被告の失敗が自業自得として告白にいたったという話にしたいように読める。それがどのように弁護になるのかが、この時点では私にはよくわからなかった。
 その後、直接的にはこの事件とは関係ないのだが、気になる情報をネットで見かけた。結論から先に言うと、ネットによるありがちなデマにすぎないだが、「片山祐輔「自殺未遂したのは嘘。本当はずっとホテルにいた」」という掲示板記事を見かけた。デマであることは明白である。公判日数と整合しないことや、リンク先アドレスがAFPであることから偽記事であることは明白で、ネットユーザーが釣られたわけだが、しかし、ふと考えてみると、「1分で死ぬことを考えました」という公判の被告の証言もなんら確証的なものではないことに気がつく。先の公判傍聴記に「こうなってくると、被告人の発言をどこまで本当のこととして扱うかも重要になってくるよなぁ。」というのは共感できる。
 何を言いたいかというと、被告は自分のそれまでの虚偽を告白したのだから、これから言うことが正しい、という保証は何もないのだということである。事件の核心についてすべて認めたのだから、今後は真人間に戻って正しいことを言う、という推定はまったく根拠がない。
 弁護側はこの点を織り込んでいるから、先のような追加質問になったのではないだろうか。つまり、被告の嘘が混じり込む可能性の多い推定はできるだけ避けるようにして、弁護のロジックが今後作られていくのだろう。たしかに、今後、この裁判で弁護側はどういう弁護のロジックを作っていくのだろうか?という点は興味深い。
 
 

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