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2014.05.16

[書評]江戸の朱子学(土田健次郎)

 先日、加地伸行の『漢文法基礎』の書評をcakesに書いたおり(参照)、江戸時代における朱子学の歴史をできるさけ最新の知見で、かつ実証的に見直してみたいと思っていた。本書『江戸の朱子学(土田健次郎)』(参照)はそうした関心・視点から読んだ。そしてそこからすると、実に簡便に全体が見渡せる良書であり、また今後のこの関連の読書の手引きとなる情報を多く、レファレンス本としても有益だった。

cover
江戸の朱子学
(筑摩選書)
土田健次郎
 本書は、「あとがき」にも書かれているが、「専門家のみに書かれた書でないため」とあるように、一般的な読書人にとっても読みやすいレベルで書かれている。
 特に、この関連の分野では実質必読文献である丸山眞男の『日本政治思想史研究』(参照)、またその一般向けとも言える『日本の思想』(参照)では荻生徂徠に焦点がとなりゆえに同時代性パースペクティブが失われがちだが、本書ではこれに同じく国学の本居宣長なども含め、江戸時代における朱子学や関連した知識人の全体が空間的かつ経時的に俯瞰できる。このことは著者にもかなり意識されているので、そうした側面から本書を読まれてもよいだろう。筆致は抑制的で丸山批判となっているわけではない。
 特に本書は、表題どおり江戸時代の朱子学を基本としながらも、中国における朱子学の基本的な歴史・文脈、さらに朝鮮における朱子学も視野に収めれていて、この関連は非常に面白い。個人的には朝鮮朱子学に関心があるのでその側面と、中国近世における口語文献や清朝での考証学などの側面がもっと掘り下げて書かれていたらうれしく思えた。が、それだと本書の利点であるパースペクティブに問題が生じたかもしれない。
 読み方によっては丸山批判とも受け取れないこともないが、丸山が朱子学を旧体制の学問としてのとは逆に、本書は朱子学が江戸中期、後期から興隆し、さらに明治時代にまで影響している強い側面を実証的に描いている。当然のことながら、教育勅語における朱子学的な側面についても、抑制的ではあるが言及されており、従来紋切り型で語られてきた皇国史観的について修正を検討するのに役立つ。
 当たり前とはいえるが、それでも本書は学術的な文脈で書かれているため、この分野に関係し、おそらく現代日本においてもアクチュアルな思想課題となりうる小林秀雄『本居宣長』(参照)や山本七平『現人神の創作者たち』(参照)についてはまったく言及がない。意図的に無視しているというより、著者はおそらく悪い意味ではなくこれらを通俗書として読んでいないと思われる。このことは本書の「あとがき」で本書のような概説書を書くことを若い時代は恥じていたとする意図の言及からもうかがえる。
 小林の書籍はひとまず置くとして、山本の同書を読めば、本書の思想的な課題は本書と十分に重なるところがあり、逆に山本側の視点からすると、本書の論述に奇妙な欠落を感じるだろう。具体的には「皇統論」である。

 ただ現実の権力の頂点に立つ将軍こそが日本の正統なる支配者であるという見方の方が当初多かったのは当然のことである。朱子学者でのごく代表的な例のみあげれば、新井白石が朝鮮都の関係を対等にするために、将軍の称号を「日本国大君」から格上げして「日本国王」に改めようとしたのは有名であり、また闇斎学はの佐藤直方も皇室を正統とは認めていない。それでも次第に皇統を正統とする無言の了解のようなものが徐々に広がっていき、幕末となると尊王攘夷論が輿論のようになっていくのである。

 率直にいえば、本書のような視点から山本の視点を補うか批判することで、「次第に皇統を正統とする無言の了解のようなものが徐々に広がっていき」をより実証的に解明することが重要であるようには思われた。
 また冒頭、「加地伸行」に言及したが、彼の儒教論、たとえば『儒教とは何か』(参照)で論じられている祭祀としての儒教と、朱子学など儒学の関わりについては、印象としては極力否定的に描かれている。その描出に説得力もあるのだが、実際に日本人の葬式がどう見ても儒教である背景などとの繋がりは逆に見えてこない。
 ついでに現代思想的な関連でいうなら、三島由紀夫の思想との関連で問われることのある陽明学についても、本書ではその内側や社会実践的な側面についてはあまり言及されていない。逆に陽明学について学問的にかなりきれいに位置づけられていることは好ましく思えた。
 その他、本書の利点としては、室町時代からの医学と儒学の関連、神道、仏教との関連もわかりやすいパースペクティブで描かれていていてためになる。『神皇正統記』を著した北畠親房が真言宗の僧侶であるといった指摘も、『真言内証義』を著したことから当然ではあるが、朱子学との関連の視座で見るとはっとさせられるものがあった。同類の指摘では、戦国時代の「天道」観についても言える。なお、この面においては当時の切支丹思想の影響があるのだが、その実態はよくわかっていないようだ。
 
 

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2014.05.14

ストークス氏書籍は翻訳者に無断加筆されたか

 あまり気乗りする話題ではないが、気になってはいることなので、メモがてらに書いておこう。最初からややこしいのだが、「ストークス氏書籍は翻訳者に無断加筆されたか」とはいうものの、多少関心点が違う。
 では「何に」気になっているか。ということ自体が、あまり明確にはなりがたい。ところが、この話題は、やたらと明確にしたがるある通念のフレームワークのようなものがあり、しかもそれ自体が逆に混乱をもたらしてしまうかのように見え、さらにその連鎖がその「何か」に関連しているようにも思われる。
 とりあえず目立った形での事の発端は共同通信の次の記事だった(ここで発端がこれではない含意で書いているのは後で触れたいと思う)。
 5月8日付け「南京虐殺否定を無断加筆 ベストセラーの翻訳者」(参照)より。


 米ニューヨーク・タイムズ紙の元東京支局長が、ベストセラーの自著「英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄」(祥伝社新書)で、日本軍による「『南京大虐殺』はなかった」と主張した部分は、著者に無断で翻訳者が書き加えていたことが8日明らかになった。
 英国人の著者ヘンリー・ストークス氏は共同通信に「後から付け加えられた。修正する必要がある」と述べた。翻訳者の藤田裕行氏は加筆を認め「2人の間で解釈に違いがあると思う。誤解が生じたとすれば私に責任がある」と語った。
 同書はストークス氏が、第2次大戦はアジア諸国を欧米の植民地支配から解放する戦争だったと主張する内容。「歴史の事実として『南京大虐殺』は、なかった。それは、中華民国政府が捏造したプロパガンダだった」と記述している。
 だがストークス氏は「そうは言えない。(この文章は)私のものでない」と言明。「大虐殺」より「事件」という表現が的確とした上で「非常に恐ろしい事件が起きたかと問われればイエスだ」と述べた。
 藤田氏は「『南京大虐殺』とかぎ括弧付きで表記したのは、30万人が殺害され2万人がレイプされたという、いわゆる『大虐殺』はなかったという趣旨だ」と説明した。
 だが同書中にその説明はなく、ストークス氏は「わけの分からない釈明だ」と批判した。
 同書は昨年12月に発売、約10万部が売れた。ストークス氏単独の著書という体裁だが、大部分は同氏とのインタビューを基に藤田氏が日本語で書き下ろしたという。藤田氏は、日本の戦争責任を否定する立場。ストークス氏に同書の詳細な内容を説明しておらず、日本語を十分に読めないストークス氏は、取材を受けるまで問題の部分を承知していなかった。
 関係者によると、インタビューの録音テープを文書化したスタッフの1人は、南京大虐殺や従軍慰安婦に関するストークス氏の発言が「文脈と異なる形で引用され故意に無視された」として辞職した。(共同=ベン・ドゥーリー、木村一浩)

 詳細な相違点については、「相違点のポイント」(参照)としてまとめられている。
 まず2点を整理したい。
 (1) 元来著者主張ではないことを翻訳者が無断で、著者名で追記したのであれば、問題である。また「日本語を十分に読めないストークス氏は、取材を受けるまで問題の部分を承知していなかった」ということは、言論の倫理に逸脱し、翻訳者が著者を故意に騙したと受け取ってもよい。このことから問題は「加害」と「被害」の構図に見える。そこでは、第一の「被害者」は著者ということになる。「加害者」は翻訳者である。
 (2) その無断追記内容が「『南京大虐殺』はなかった」という主張であることから、翻訳者による歴史修正主義的な思想態度であることが問題にされた。
 次に、この「ニュース」の根拠性を整理したおきたい。
 整理のために、仮に「加害者」と「被害者」を明示しておきたい。だが、彼らが本当に加害者・被害者であるかについては、この時点では留保したい。
 「8日明らかになった」としているが、明らかにした主体は「共同通信」である。共同通信の積極的な関わりで、ニュースとなったと見てよい。具体的な文責はベン・ドゥーリー氏と木村一浩氏である。
 では、どのように共同通信が「ニュース」を明らかにしたか。「共同通信の取材に答える英国人の著者ヘンリー・ストークス氏=7日、東京都千代田区」とあるように、共同通信の、「被害者」である著者への直接取材である。
 また「藤田氏は「『南京大虐殺』とかぎ括弧付きで表記したのは、30万人が殺害され2万人がレイプされたという、いわゆる『大虐殺』はなかったという趣旨だ」と説明した。」とある。共同通信による翻訳者・藤田氏のインタビューがあったように受け取れる。
 以上でこの初報道と構図は整理はできたようだが、最終段落の「関係者によると、インタビューの録音テープを文書化したスタッフの1人は、南京大虐殺や従軍慰安婦に関するストークス氏の発言が「文脈と異なる形で引用され故意に無視された」として辞職した。」にはやや奇妙な印象が残るので後で触れたい。
 構図上、無断加筆をした「加害者」である藤田氏については、さらに翌日、共同通信の報道が続いた。「「ゆがめられた歴史正す」 無断加筆の藤田氏ら」(参照)。

 ヘンリー・ストークス氏の著書に無断で加筆した翻訳者の 藤田裕行 (ふじた・ひろゆき) 氏は、南京大虐殺や従軍慰安婦問題などの「ゆがめられた歴史を正す」ことを目的とする保守派団体「史実を世界に発信する会」の中心メンバーだ。
 藤田氏らは、南京大虐殺や従軍慰安婦問題は「特定アジア諸国による悪意ある反日宣伝」で、日本の国益が損なわれていると主張。英文のニュースレターをウェブ上などで発信している。藤田氏によると、同書には同会代表の 加瀬英明 (かせ・ひであき) 氏も深く関与した。
 藤田氏は、自分の著作でストークス氏の主張を紹介するのではなく、あえてストークス氏の著作という体裁をとった理由を「外国特派員がこういう内容について話をしたら面白いと思った」と説明。「私が書いたら『あれは右翼だ』と言われます」と語った。
 加瀬氏は、1993年に出版され日本の韓国植民地支配を正当化したベストセラー「醜い韓国人」(光文社)をめぐり95年、韓国人著者の原稿に大幅な加筆修正を加えたとして「真の著者は加瀬氏」と批判され「文章を手直しした程度だ」と反論した。
 加瀬氏は取材に対し「ストークス氏に『こういう本を書いたらどうだ』とは言ったが、それほど詳しくはタッチしていない」と述べた。(共同)

 この記事からは、藤田氏が捏造したことを自ら告白しているように受け取れる。また、この「事件」の背景に加瀬英明氏がいたことを暗示している。
 問題はまず、「被害者」の側から考慮されなければならない。被害者の認識が問題だからとも言えるからだ。
 その意味で、ストークス氏自身がこの問題ついて、「加害者」の藤田氏をどう捉えているかが気がかりなる。
 この点について、直接、「被害者」である「著者の見解」が、該当書の出版元を経由して明らかにされた。「『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』に関する各社報道について」(参照PDF)である。

『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』に関する各社報道について
平成25年5月9日

当該書の各社報道について、問い合わせをいただいておりますが、
あらためて著者の見解を確認したところ、以下のようなものでした。
著者からのメッセージをここに掲載します。
株式会社 祥伝社


著者の見解

1. 共同通信の取材に基づく一連の記事は、著者の意見を反映しておらず、誤りです。
2. 「(南京)虐殺否定を無断加筆 ベストセラー翻訳者」との見出しも事実ではありません。
3. 著者と翻訳者の藤田裕行氏との間で、本の内容をめぐって意思の疎通を欠いていたとの報道がありますが、事実と著しく異なります。
4. 共同通信は、1937年12月に南京で起きた事に関する第5章の最後の2行の日本語訳が著者の見解を反映していないと報じています。共同通信は、針小棒大にしています。
 著者の見解は「いわゆる『南京大虐殺』はなかった。大虐殺という言葉は、起きた事を正しく表現していない。元々、それは中華民国政府のプロパガンダだった」というものです。
5. 本書に記載されたことは、すべて著者の見解です。祥伝社と著者は、問題となっている2行の記述についても訂正する必要を認めません。
ヘンリー・スコット・ストークス


Regarding the news reports of various media, we inquired with the author and obtained the statements below.
Shodensha co.,ltd

The Note from the Author

1. Various reports based on Kyodo News are wrong and they do not reflect the author's opinion.
2. The cross-head of Kyodo News which says "Best-seller translater added lines to deny Nanking Massacre without author's consultation" is not true.
3. The reports which says the author and the transrater, Hiroyuki Fujita, lacked communication regarding book contents is wrong and far from the truth.
4. It was reported by Kyodo News that the last 2 lines of the Japanese translation of Chapter 5 regarding what happened in Nanking on December 1937 did not reflect the author's view. The Kyodo News made a big deal out of it.
The author's opinion is: The so-called "Nanking Massacre" never took place. The word "Massacre" is not right to indicate what happened. It was originally a propaganda tool of the KMT government.
5. The above statements are all based on my opinion.
The publisher, Shodensha, and the author agreed that we have no need to make any corrections for the 2 lines in question at this stage.

The author
Henry Scott Storks


 PDF文書にはストークス氏本人の署名があることから、この証言は真正であるとみなしてよいだろう。
 このことは、冒頭に整理した(1)の問題における「被害者」「加害者」の構造はこれで十全に解消されたと判断してよい。つまり、「被害者」「加害者」は存在しない。
 また、相違点としてあげられている点については、著者側からは、共同通信の誤解であると理解されていることがわかる。つまり、共同通信の誤解からニュースが作られた印象を受ける。
 なお、「祥伝社」による著者ノート訳文の5には「at this stage(現時点では)」という留保が抜けているが、条件によっては訂正もありうるという含みは感じられる。ついでに、「The above statements」が「本書に記載されたことは」と訳されているが、文脈から注視されている二行への限定があることは明瞭だろう。
 さて、では、共同通信の報道は誤報だったのだろうか?
 WebサイトGoHooもこの問題を「南京大虐殺否定「翻訳者が無断加筆」 著者ら否定」(参照)で取り上げていた。同サイトの主旨からすると、共同通信報道が誤報であったかのような印象を受ける。だが、同記事には、この記事を誤報だと見なしている文章は含まれていない。「誤解を与える可能性」に留めている。

著者はこれまでにも「『南京大虐殺』は中国のプロパガンダ」との主張をしたことがあるが、共同通信の報道は、著者と全く異なる見解を翻訳者が無断で加筆したかのような誤解を与える可能性がある。

 問題を一歩進めよう。当事者側からの応答に、共同通信はどう応答したか。
 この件については、9日に「南京虐殺加筆報道を著者「否定」 記事正確と共同通信」(参照)がすでに発表されている。

 米ニューヨーク・タイムズ紙元東京支局長が、日本軍による「『南京大虐殺』はなかった」と自著で主張した部分は翻訳者による無断加筆だったとして、修正を求めていると伝えた共同通信の報道について、出版元の祥伝社は9日、これを否定する「著者の見解」を発表した。
 著書は「英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄」(祥伝社新書)。元東京支局長は共同通信の取材に対し「(翻訳者に)後から付け加えられた。修正する必要がある」と明言していたが、「著者の見解」では「記事は著者の意見を反映しておらず誤り」と指摘している。
 共同通信社総務局は「翻訳者同席の上で元東京支局長に取材した結果を記事化したものです。録音もとっており、記事の正確さには自信を持っています」としている。(共同)

 共同通信側としては、「翻訳者同席の上で元東京支局長に取材した結果」であって誤報ではないとしている。録音を元に最終的に争える自信も示されている。
 共同通信側の理解としてはそれで矛盾はないのだろう。
 だが、2点、疑問点は残る。
 (1)初報道では著者が翻訳者の捏造の被害者であるかのような構図描かれているし、相違があったとする自社報道について著者側から疑問が呈されているのだから、再度、著者へのインタビューを試みて、その結果が報道されるべきではないだろうか? その結果、共同通信の取材に間違いがないとしても、共同通信が誤解していたことがあきらかになる可能性はあるだろう。
 (2)取材の経緯は正しかったのだろうか?
 この2点目の疑問については、ネットから見える資料からはほとんど明らかにならない。ただ、GoHooサイトの先の記事には興味深い言及がある。

 祥伝社は12日現在、共同通信社に記事の訂正や撤回の要請は行っていない。ただ、角田取締役は、8日共同通信記者に取材された際、「一日あれば出版社として公式コメントを用意するから配信を遅らせてほしい」と要望していたことを明かし、「報道機関として公平を期すのであれば、一日待って反論も載せてほしかった」と話している。共同通信は9日に配信した記事で「著者の見解」を伝えた。

 祥伝社・角田取締役への言及はどこから得たものか、この記事からはわからない。
 しかし、時系列を整理すると、「報道機関として公平を期すのであれば、一日待って反論も載せてほしかった」という彼の説明は理解しやすい。というのは、著者見解が、共同通信記事の翌日にすぐに出てくるのは多少不自然な印象を受けるからだ。
 祥伝社・角田取締役のこの言及が正しければ、共同通信はその一日をあえて待たないで記事を出したと見てよいだろう。その切迫性は何かというと、あくまで推測に過ぎないが、祥伝社発表より急がなければニュース性が減じられると見たことではないだろうか。
 その意味では、共同通信がもう少し双方公平に手順を踏んで一日待って報道していたら、初報道は随分変わったものになった可能性は高い。
 ところで、この件については、もう一点、気がかりなことがある。先に触れたが初報道の次の言及である。

 関係者によると、インタビューの録音テープを文書化したスタッフの1人は、南京大虐殺や従軍慰安婦に関するストークス氏の発言が「文脈と異なる形で引用され故意に無視された」として辞職した。

 このスタッフが誰であるかは、共同通信は報道していないが、アンジェラ・エリカ・クボ氏本人がすでに名乗り出て、この件に関連し、辞職にあたって藤田氏に送ったメール(5月2日)とストークス氏に送ったメール(5月4日)を公開している。Japan Subculture Recerch Centerサイト「In regards to “Questions surround reporter’s revisionist take on Japan’s history”」(参照)である。気になる部分を見てみよう。

(藤田氏宛)
It seems that words are being put into Henry’s mouth and that the interviews don’t reflect his real opinions or thoughts–and that there are many leading questions (誘導尋問).

言葉がヘンリー氏口に押し込まれ、インタビューは彼の真意や思考を反映せず、多くの誘導尋問があったように思えます。



(ストークス氏宛)
Henry, I have a lot of respect for you, and I pulled out of this job because of this respect. I will be at the press club tomorrow and would like to speak to you about this transcripts. Perhaps you should consider speaking to someone about this issue, because I find it very serious that your book is very different from what you say in the audio.

ヘンリーさん、私はあなたを大変尊敬しています。そして、その尊敬の念がが、私をこの仕事から引かせてくれました。私は明日、記者クラブに臨み、あなたとこの口述についてお話したいと思います。もしかすると、あなたは、この件について誰かと相談を検討することになるでしょう。なぜなら、あなたの書籍は、あなたの録音中の発言とは非常に異なっている事態を私は非常に深刻なことだとわかっているからです。


 メールからは、5日に記者クラブの会見と会談があったことが伺われる。
 実際にクボ氏とストークス氏の会談があったかについては、ネットの情報からはわからない。だが、藤田氏とストークス氏は事態を了解していただろうし、おそらく、この時点で共同通信が問題に関心を寄せただろうことは理解できる。
 クボ氏のメールで気になるのは、「I was asked to do the transcripts for an English version of the book. (私はこの書籍の英語版の書き起こしを頼まれていました)」という点である。
 クボ氏は共同通信が問題とした日本語の該当書を担当したのではなく、新たに作成しようとしている英語版のプロジェクトに参加したように見える。おそらくその過程で、該当書の資料として以前の録音を聞いたのではないだろうか。
 この件については、クボ氏とストークス氏の会談があったのなら、そこでクボ氏の誤解であったかについては議論されたことだろう。その結果、クボ氏が誤解と了解した可能性も否定できないが、9日時点でこのメールが公開されていることは、その可能性は低いだろうと推測される。あるいは、議論はなかったのかもしれない。
 この経緯にどの程度共同通信が関わっていたかについてはわからないが、共同通信がクボ氏の名前とその会談に言及していないのは、クボ氏と共同通信のなんらかの関係を暗示しているかもしれない。
 以上が今回の関連で思ったことだが、国際的にはストークス氏の見解が歪められて伝わったという問題でないだろうことは、TIME記事「Best-Selling Author Feels the Heat in Japan’s History Wars」(参照)からもうかがえる。
 共同通信のベン・ドゥーリー氏と木村一浩氏、翻訳の藤田裕行氏、著者のヘンリー・ストークス氏、およびアンジェラ・エリカ・クボ氏を交えた公開のパネル・セッションがあれば経緯はより明らかになるだろう。共同通信が提案してもよいのではないだろうか。
 
 

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